手を繋いで歩こう




 俺の名は秋森正義。ちなみに、『せいぎ』と読むな『まさよし』と読め。
 なぜこんな名前かと言うと、名付け親である父親曰く「格好良い名前だと思ったから」だそうだ。
 俺は正直思う、こんな人が本当に親で良いのか、と。

 父は本屋の店長、母は珠算の先生で、兄と弟が一人ずついる。つまり、俺は次男だ。
 しかし、父親は店長であるが、それほど人の上で仕事ができる人ではない。
 どちらかと言えば、母の方が人の上に立って様々な事をやって行ける人だったりする。
 俺は、そんな母親の血を受け継いでいるのか、そう言う役ばかり回ってくる。

 そう、俺は、誰もが嫌がる仕事を任せられてしまう運の悪い男なのだ。



「はぁ……、3学期こそは、何も起きませんように……」
 大晦日、まず俺が祈る事はそれだった。ちなみに、今は祖父の家に泊まりに行っている。
 小学生の頃から学級委員とか生徒会とか、なぜか厄介な事ばかりやっている。
 確かに、最初は好奇心もあったが、今ではやる気がない。
「2学期は辛かったな……喉痛めて声が出ないっつうのに、無理して声出したし……」
 一度風邪を引くと、俺の場合、喉が一番辛くなる。酷い時は小さな声しか出ない。
 そんな状態に一度なり、班員の奴に代わりに言ってもらおうと頼んだのだが、周りから却下された。
 人は声が出ないと言うのだが、無理やり声を出されて、喉を余計に痛めた。
 その為、医者に診せた結果は「当分、声は出さない方が良いね」と。
 俺、秋森正義、ただいま15歳の高校受験を控えている運の悪い中学3年生。
「ねぇ、正義君。正義君は、もうどこの高校受けるか決めたの?」
 自分の運の悪さに嘆いている時、俺は、はとこの女の子にそう訊かれた。
 自分と同じ年のはとこ。名前は詩織。しかも、かなり頭が良い。
「とりあえず、前に話した高校の推薦入試かな。高専は流石に、今の成績じゃ無理って言われた」
「推薦も?」
「当然。でも、無理して高専受けるより、自分に合った高校受ける方が楽だよ」
「そう、か。そうだね」
 なぜか俺は、両親に似ないで手先が器用だった。そして、進路も自分だけで決めた。
 両親は「お前が好きなように決めろ」と言っていたので、あまり問題ではない。
 それに、自分の特技を活かせる。
「詩織は、どこに行くか決めたの?」
「私は近くの高校だよ。だって、私、勉強苦手だから……」
「苦手か? 俺からすれば、詩織は成績良いと思うけど……」
 学校は違うが、詩織が通っている塾のテストを一度受けた事がある。
 結果は、どう頑張っても180点が最高で、詩織は260点と圧倒的だった。
 詩織が首を横に振る。
「そんな事ないよ。だって、正義君は勉強以外に色んな事できるじゃない」
「……説明書見ずにプラモデルを作り上げるとか?」
「そうじゃなくて! 正義君、どこまで進んだの?」
「ようやく、ラスト。来月には書き上げるから、その時に読ませてやるよ」
 手先が器用、何をやるにも理系。そして、学級委員など厄介な仕事をやる馬鹿。
 高校は工業系を選んだのだが、俺にはもう一つ、誰もが想像つかない事をやっている。
 そう、俺は小説を書いているのだ。それが、中学生になる頃、詩織に見つかった。
 その時から、たまに詩織と小説の事で色々と話をしている。
「最後はどう言う風にするの?」
「主人公の命と引き換えに、世界の平和を得るって設定にしてる」
「死んじゃうの!?」
「そうなるな」
 すると、詩織が頬を膨らませた。
「そんなの駄目! ハッピーエンドにしようよ! ね!?」
「そう言われてもなぁ……、もう決めたからなぁ」
「ハッピーエンドが良いよ! だって、死ぬのって、一番悲しい事だし……」
「そりゃそうだけどな……おっと、そろそろ0時になるじゃねぇか。そろそろ行くか」
 そう言って俺が話を終わらせる。詩織が時計を見て頷いた。
 初詣に行く約束。今年は受験生だから、二人で合格祈願をしに行こうと決めたのだ。
 俺は詩織と一緒に近くの神社まで行く事にした。



 近くの神社には、人混みがあまりなかった。
 やはり、有名な神社に行く人間の方が多いらしく、これはこれで嬉しい。
「ねぇ、正義君。……手、繋いでも良い?」
「手? 何で?」
「……手が冷たくなっちゃったから……」
「……お前、手袋忘れたのか?」
 詩織が頷く。俺は寒い方が好きだから手袋はしないのだが、やはり女の子にこの寒さは辛いと思う。
 仕方なく手を差し出す。詩織は嬉しそうに俺の手を握った。
 正直言う、かなり柔らかくて、温もりが少しだが伝わってくる。
「ね、やっぱり小説の最後はハッピーエンドにしよう? その方が、ずっと良い作品になるから!」
「……とりあえず考えておくよ。どうせ、一度読み返して、変なところ書き直す気だったし」
 こう言う時、俺は正直ではない。本当は詩織の言うとおりにしようと考えていた。
 その方が、詩織の笑顔を見る事ができるから。嬉しそうな顔が好きだから。
 俺の夢。それは、人に『楽しさ』を伝える事。
 人に言えば笑われる事かもしれない。しかし、俺は本気だ。
 詩織のような笑顔を伝えていきたい。『小説』と言う形で。
「頑張って合格しようね!」
「ああ。……あのさ、詩織」
「何?」
 詩織が俺の顔を覗く。俺は詩織の顔を見て、一瞬だけドキリとした。
「……俺達、こうしてると……付き合ってるみたいに見えるよな」
「うん。そうだね」
 やはり、俺は正直になれない。俺は詩織が好きだって言えない。
 もし、好きだと言う事を伝えれば、今の関係が気まずくなる。それだけは避けたい。
 詩織が握っている手を強める。
「……正義君の手、温かいね」
「俺って、心が冷たい奴だからな」
「違うよ。だって、正義君は優しくて、誰よりも夢を追いかけてる人なんだから」
「……そうか?」
「うん!」
 詩織にそう言われると、俺はかなり照れてしまう。
 今年は高校受験。しかし、俺は多分だが、合格は間違いなくするだろう。
 俺の今年の目標は、詩織と両想いになる事。そして、今書いている小説で詩織の笑顔を見る事。

 今握っている彼女の手の温もりが、初詣の夜、一番温かくて、とても嬉しかった。





 カンザキのあとがき=言い訳
 すみません、ノリと勢いだけで書いちゃいました(汗)。明らかにお正月SSじゃないです(滝汗)。
 秋森正義。彼は私が気分次第で書いちゃうSSの万能主人公です。
 その万能さは、どんな内容でも主役として輝けると言う素晴らしき素質!(何
 とりあえず、これがお正月SSだと言ってくださる方、そんなあなたは同志です!(ぇ

 あ、詩織への声援も受け付けますよ!(そんな事してどうする?



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