バレンタインのデート


 この日、俺、秋森正義は憂鬱だった。
 おっと、言っておくけど、『せいぎ』って読むなよ、『まさよし』と読みやがれ。
 今日はバレンタイン。実に何も無い日だ。
「……はぁ、暇だな」
「良く言うぜ。今は受験前だって言うのに……。良いよな、お前は推薦入試で」
「まーな」
 まだ合格と決まったわけではないが、推薦入試で俺は他の奴よりも早めに受験を終わらせた。
 すべり止めで私立高校も合格している。とりあえず、進路は決まっているのだ。
 推薦入試で合格すれば、あとは卒業を待つだけになる。
「……そう言えば、詩織も一般受験だったっけ……勉強頑張ってんかな……」
「誰だ、詩織ちゃんって!? お前、いつ彼女作ったんだ!?」
「違うよ。詩織は、俺のはとこだ。ちなみに、俺らより遥かに頭良いぞ」



「詩織は、どこの高校に受けるの?」
「近くの高校だよ。私、そこまで頭良くないし」
「またまたぁー、この間なんてクラスでトップだったじゃない」
 そう言われて、詩織は謙遜する。いつもの事だった。
 ただ、自分は大好きな人に並びたいだけだったのだが、いつの間にか追い抜いていた。
 それが現実だ。今では彼の方が私に並ぼうと頑張っている。
「そう言えば、今日はバレンタインだけど、学校で誰かに渡す予定ある?」
「え? そんな……」
「ないよね? だって、うちの学校の男子って情けないのばっかだし」
 それは言い過ぎだと思う詩織だったが、学校以外で渡す予定はあった。
 受験があって、あまり良いのは作れなかったチョコレート。
 渡そうと思っている人は、推薦入試が終わって、今何をしているのか気になっている。
「……正義君、推薦どうだったんだろう?」
「誰、彼氏?」
 友達がちゃんと聞いていた。詩織は首を横に振る。
「ち、違うよっ。正義君は、私のはとこだよっ」
「へぇ〜。はとこって結婚できるよね? 従兄弟同士で結婚できるし」
「ち、ちょっと!?」
「だって、好きなんでしょ?」
 それから、詩織は黙ったままだった。



 推薦入試を受けてから六日が経っている。正義は暇だった。
 周りは県立高校の受験票の下書きをやっている。
「……俺は書かなくて良いって言われてもなぁ」
 ぼやく。推薦入試の結果で、受験票を書くか書かないか決まるらしい。
 ただ、受験料はもう払わなくて良いのだが。
 とりあえず、正義は適当な参考書を手にする。
「良いよなぁ、秋森は。推薦入試で受かるしよ」
「まだ合格してないってば」
 結果が分かるのは来週。俺の中では落ちだろうと思う。
 なにせ、まともな事を一言も言っていないと思うからだ。当日の記憶はすでにない。



 詩織は下校し、自宅へ辿り着いた。
 リビングで暗くなっている弟の姿がある。なぜだろう、そう思って話し掛ける。
「どうしたの、織彦?」
「……姉ちゃん、今日は何の日!?」
「何の日って、バレンタインだよ。もしかして、誰にも貰えなくて拗ねてる?」
 そう言うと、弟の織彦は深く落ち込んだ。どうやら、当りらしい。
 少しだけ苦笑いを溢し、冷蔵庫に入れておいたチョコを渡す。
「はい、私から。余ったチョコで作ってるけど、これでも食べて元気出しなさい」
「……余ったって……俺は余りもん処理かよ……」
 どこまでも落ち込む弟だった。少しくらい感謝して欲しい。
 詩織は作ったチョコレートを持って二階に上がる。
「あ、織彦。私、着替えたらすぐ出掛けるから」
「どこに?」
「正義君が駅に来るから、お迎えに」
「兄貴さんが……? まさか、うちに泊まるの?」
「そんなわけないでしょう? だって、明日も学校なんだし」



 電車の中、正義は溜め息をついた。
 なぜ、祖父が買って来た合格祈願のお守りを取りに行かなければならないのだろう?
 そもそも、祖父の方から来れば良いのだが、母曰く「お守りくらいでこっちに来させないの」と。
「……ま、電車賃は出してくれたから、別に良いか」
 小遣いと言うものをもらわない為、電車も自分持ちだと辛い。
 駅までは自転車で行けば良いのだが、あれはあれで辛いものがある。
「……はぁ、本でも持ってくれば良かったな」
 眠そうな顔で外を見つつ、正義はぼやくのだった。



 駅に到着して、正義はとりあえず外に出た。
 目の前でこっちに手を振っている女の子が一人。詩織だった。
「正義くーん!」
「……詩織? 何であいつがここにいる訳?」
 疑問に思いつつ、とりあえず詩織に近寄る。
「待ってたよ、正義君」
「ってか、俺はこれからじいさん家行くんだけど……」
「おじいちゃん家? どうして?」
「どうしてって、合格祈願のお守り取りに」
「え……?」
 詩織がやや唖然とした顔になる。正義は首を捻った。
 母には確かにお守りをもらいに行って来いと言われたのだが。
「……正義君、一月におじいちゃんからもらったよ?」
 詩織が意外な一言を放つ。
「でも、俺持ってねぇぞ?」
「それは、私にプレゼントしてくれたじゃない。おみくじで小吉だったからって」
「そう言えば……。って事は、俺、母さんにはめられた!?」
「そうなるね」
 肩を落とす。ここまで来たのは一体何だったのか、母親を問い詰めたいほどだ。
 詩織がクスクス笑いながら、正義の手を引く。
 正義は一瞬だけドキリとした。確か、年明けに一度握った事はあるが、それでも焦る。
「ここにずっといると風邪引いちゃうから、どこか行こう。ね?」
「……そうだな。すぐ帰るのも、俺が納得しないし」
「じゃあ、どこ行きたい?」
「本屋」
 そこしか考えていない正義だった。



 本屋で本を探している間、詩織はずっと正義の手を握っていた。
 正義が色々な本を見て、読んだ事のある本を薦めたりする。
「これは面白いぞ。今度貸してやるから、お前も読んでみろよ」
「うん。でも、正義君もこんなの読むんだね」
「どう言う意味だ?」
「正義君の場合、小説書いてるけど、内容は戦いがあるから、恋愛だけとか読まないのかなって」
「酷ぇな、それ。俺だって、こう言うのも読むよ」
 苦笑する。しかし、その顔は楽しそうだった。
「そう言えば、小説はどこまで書いたの?」
「とりあえず完結。最後は詩織のリクエスト通り、ハッピーエンドで」
「本当? 最後はどうなるの?」
「教えない。話したら、最初の方とか読むとつまらなくなるだろ?」
 適当に気に入った本を手にする正義だった。



 時刻は夜の八時。結構遅くまでいたんだと実感する。
 駅まで一緒に歩き、正義が詩織の手を離す。
「あ……」
 もう少しだけ手を握っていたかった。詩織が黙って正義の方を見る。
 正義はなぜか持って来ていた鞄からノートを一冊取り出して、詩織に渡す。
「やる。今日の授業中、暇だった時があったから書いてみたんだ。ちなみに、お前だけにしか教えてない」
「良いの?」
「当たり前だろ? ちゃんと感想聞かせてくれよ?」
「うん! 正義君、これ……」
 詩織がチョコの入った包み箱を正義に差し出す。
「バレンタインのチョコレート……頑張って作ったから……」
「……あ、ああ。ありがとうな」
「う、うん……」
 お互いに黙る。まだ、恥ずかしかった。
 はとこ同士。従兄弟同士が結婚出来るのだから、はとこ同士でも結婚は出来る。
 しかし、お互いに気まずい関係になるのではないかと思っていた。
 だから、今だ告白できないままでいる。
「……あ、あのさ、詩織」
「な、何……?」
「受験、頑張れよ……? お互い、頑張って志望校受かろうぜ?」
「う、うんっ……」
「……詩織、俺はお前が……好きだからな……」
「え……!?」
「じ、じゃあ、今度は春休みな!」
 顔を真っ赤にして改札口の奥へ消えていく正義。詩織はノートを抱きしめた。
 確かに聞こえた。好きな人からの「好き」と言う言葉が。
「……私も大好きだよっ、正義君!」

 この二人が結ばれのは、そう遠くはない……のか?(をい





あとがき
 ……バレンタイン前と言う事で急いで書きました。
 再びどんな内容でも使える万能主人公とヒロインの正義君と詩織ちゃんです。
 とりあえず、二人の話は書きますよ。ある意味、シリーズ作れそうなほど(ぇ

 さぁ、次書くとすれば卒業シーズンか、夏か……。他の作品書いちゃうか(何

 やる気がなさそうで、実は色々と苦労の絶えない正義君を皆さん応援しちゃってください(笑)。
 ついでに、ヒロイン属性少ないですが、健気に頑張る詩織ちゃんの応援もお願いします。
 詩織ちゃんの弟である織彦は……無視しちゃってください(コラ




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