誕生日は憂鬱な日?


 6月の中旬、俺、秋森正義(しつこいが、『まさよし』だ)は16歳の誕生日を迎えた。
 しかし、憂鬱である。なぜかと言うと、応援団の練習と言う理由で学校に行くからだ。
「……はぁ、今日は日曜だって言うのに。俺の誕生日だって言うのに」
 そう、この日は日曜日。普通なら休みだ。普通なら。
 しかし、団長の無計画で予定が追いつかないらしく、休み返上になった。
 そもそも、くじ引きでなってしまったと親達には言ったが、実は違う。
 たまたま応援団員になった奴が突然次の日から学校に来なくなり、俺が強制的になってしまったのが原因だ。
 正直、応援団員になったくらいで不登校は止めろ。俺が迷惑だから。
「……こう言う時、自分の経験を恨むよ」
 色々と経験しているせいか、今回の事では本気でそう思う。
 中学時代、兄貴が応援団長として人気があり、俺も無理やり応援団をさせられた。
 さらには、親友が生徒会長に立候補すると言う事で、なぜか生徒会副会長に立候補し、俺だけ当選した。
 昔の経験からして、俺は断言したい。こう言う事はやらない方が自分の為だ、マジで。
「ま、例年の如く誕生日忘れられてる事だし、今日一日落ち込んでおくか……」
 変な決心だったりするが、本気だった。



「え!? それじゃあ、正義君、今日は学校なんですか?」
「そうなのよ。あの子ったら、応援団員なんかになちゃってね」
 今日、私は正義君に会いに行った。
 なぜなら、今日は正義君の誕生日で、プレゼントしたいから。
 けれど、今日に限って、正義君は学校の体育祭の練習で学校らしい。
 応援団になった事は聞いていたけど、今日も学校だなんて聞いてなかった。
「ごめんなさいね、詩織ちゃん。あの子に会いに来たんでしょう?」
「は、はい。今日は正義君のお誕生日だから……」
「あの子も幸せね〜。詩織ちゃんのような可愛い子が娘だったら良かったな、私も」
「そ、そうですか?」
 相変わらず、正義君のお母さんは良い人だと思った。



 練習が終わって、時計はすでに午後7時を俺に教えていた。
「……はぁ。帰っても8時過ぎかよ……誕生日だって言うのに……」
 こんな日――――休日と重った誕生日くらいは、家でゲームでもしながら、のんびりしたい。
 改札機に定期券を通し、俺はとりあえず電車の乗り場まで歩く。
 いつも混んでいる乗り場は、今日は休みだからなのか、あまり人がいなかった。まぁ、当然か。
「来年は絶対やらないようにしないとな。まだ、部活も見学しに行ってないし」
 第一志望、しかも推薦で受けた高校に合格して、俺は一つの目標を見つける事が出来た。
 ロボット競技。高専の大会を見て憧れていた事が、高校でも出来る事が分かった。
 それだけで十分嬉しかった。そして、絶対に入部すると決めた。
 しかし、まだ見学に行った事がなかったりする。この応援の練習で。
「はぁ、早く見学しに行かなきゃな……。ここんとこ、小説ばっか書いてたから、腕鈍ってるぞ絶対……」
 俺は手先が器用なわけだが、それは、ある意味小さい頃の経験がものを言っていた。
 まだ4歳だった頃、叔父の買ってきたプラモデルを一人で作った事がある。
 そのせいか、父が簡単なキット(対象年齢10歳以上)等を買ってきては、よく作らされた記憶もある。
 つまり、10年以上も作っているのだ。小さい頃の経験と言うのは、とても重宝すると俺は思う。
「けど、この時期に入部できるのか不安だよな……。中学の頃も、5月頃には入部したし」
 それに、もう少しすれば期末試験がはじまる。部活どころじゃなくなるのだ。
 高校生になってから、色々と不運に巻き込まれているような気がする。
 そんな事を思っていたら、携帯電話に着信が入った。携帯電話の液晶画面が、「詩織」の名前を表示している。
「疲れてる時に詩織から電話かよ……って、詩織!?」
 普段、メールしかしないせいか、電話は意外だったので驚く。とりあえず電話に出てみた。
「もしもし?」
『あ、正義君? 詩織です』
「よう。一体どうしたんだよ? 電話なんて珍しいな」
『う、うん……。お誕生日おめでとう、正義君』
「ん? ああ……ありがとう」
 そう言えば、詩織だけは何があっても俺の誕生日を祝ってくれたっけ。電話で。
 そんな事を思い出しつつ、俺は詩織と電話で会話をしようと思った。
『応援団の練習大変そうだね……。今日、私、正義君に会いに行ったんだよ?』
「マジかよ……? 悪かったな、詩織」
『ううん。突然だったし、今日も練習って知らなかったから……。体育祭の日、見に行っても良い?』
「いや、駄目」
 即答しておく。無理やりとは言え、やるからには本気でやるが、そんな姿を家族や親戚には見せたくない。
 いや、本心は詩織の事で冷やかされたくないのだ。恥ずかしいから。
『そうそう、お誕生日のプレゼント、正義君の机の上に置いたからね?』
「プレゼント? そんなの別に良かったのに」
『良いの。だって、正義君が好きだから……』
「え?」
『ううん、何でもないよっ』
 最後の方は小さくて聞き取れなかった。とりあえず、眠たくなったので欠伸を漏らす。
「そろそろ切るな。電車の中でぐっすり寝る」
『う、うん。それじゃ、帰ったらメールしてね』
「おう」



 電話を切って、私は物思いに耽っていた。
 正義君と携帯電話で電話するのは初めてだった。
「……プレゼント、気に入ってくれるかな?」
 天井を見上げて思う。正義君にプレゼントをあげるのも初めてだった。
 今までは電話だけだったけれど、高校生になってからは、プレゼントとかしたい。
 あと、デートもしたい。
「夏休みは、一杯思い出作りたいなっ」



 家に帰って、俺はすぐに溜め息をついた。
 異様に母親の笑顔が不気味だ。どうやら、詩織と何か話し込んだみたいだが、あえて聞かないように逃げる。
 自分の部屋で制服を脱ぎ、とりあえず机の上に置かれた包み箱を手にする。
「……これか、詩織の言ってたプレゼントって」
 早速開けてみる。中には本が一冊入っていた。
 前に「読みたい」って俺が言ってた本だ。詩織の奴、覚えていたのか。
「……サンキュ、詩織。でもなぁ……」
 ふと、窓際に置いている本棚の方を見る。
「……俺、この間、同じ本買ったばかりなんだよな」

 当然、この事を詩織が知るのは、結構先の事だったりする。





あとがき
 なんとなく書いてみました。いつもの正義君&詩織ちゃんの恋物語(?)の三作目です。
 今回は、正義君の誕生日と言う事で書いてみました。彼、本当に苦労人なんですよ、意外と(笑)。

 何気に、卒業シーズンの時とかのSSはネタなかったんでご勘弁(何)

 苦労は絶えないのに、そんな苦労を周りに分かってもらえない正義君を、本当に応援してください。
 だんだん、最初の頃から変わってきているような気のする詩織ちゃんも応援も受け付けてます。(ぉ
 今後、この二人の進展はあるのかないのか……。(作者、ほとんど無心で書いてます)



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