今から5年前。俺は、一つの出来事に遭遇する運命に導かれていた事など、全く知らない――――





「はい、正義です」
『あ、正義君!? 私、詩織の母!』
「おばさん……? どうしたんですか?」
 高校1年生、8月10日。俺こと秋森正義(せいぎって読むな。まさよしと読め)はのんびりしていた。
 そして、その日の夜、はとこの詩織のお母さんから電話が掛かって来た。しかし、なんだか慌ただしい。
『正義君、詩織来てない!?』
「詩織? 来てる訳ないでしょう。だって、もう夜の11時ですよ?」
『そうよね……』
「……詩織、どこか出掛けたまま帰って来てないんですか?」
『どこかって、今日は正義君のところに行くって、あの子言ってたのよ!?』
「え……!? でも、俺、今日は詩織と会っていないですよ!?」
 この日は、驚く事に詩織の誕生日。俺は、彼女へのプレゼントを買いに行っていた。
 当日に買うのもどうかと思うが、夏休みのほとんどがそれどころじゃなかった。
「って、詩織の携帯は!? あと、今日は母さんが家にいたはずです」
『それが繋がらないのよ……。知恵さん(正義の母)は来たけど、すぐに帰ったみたいって……』
「すぐに帰った……?」
『もしかして誘拐かしら……!? 正義君、ど、どうしましょう!?』
「どうしましょうって……俺にそんな事訊いても……。とにかく、警察に連絡した方が……!」

 俺や警察が捜す事になったが、肝心の彼女は見つからなかった。
 俺のはとこの詩織は、8月10日――――自分の16歳の誕生日を境に、行方不明となってしまった。

 この時、俺はすでに一つの運命に導かれていた――――






第一節 それがはじまり





 詩織の行方不明から5年。俺は21歳――――社会人になった。
 両親の離婚の為、俺は今まで住んでいた家を引越し、色々な場所へ旅をしていた。
 高校卒業後、すぐに就職したわけだが、何が悪いのかやる気を失い、この歳で辞めたのだ。
 つまり、今はニート君である。
『だからよぉ、俺んとこに来いって! 一緒の大学に行こうぜぇ!』
「一緒の大学つっても、お前は今年と来年しかないじゃないか。少しは考えさせろ」
 仕事を辞める事にしてからは、色々な話が来ていた。
 父の知り合いの人、高校時代の友人、そして親戚。とにかく、次の仕事などを決めれると言えば決めれた。
 しかし、俺はどれも良い返事をしなかった。まだ、何かをすると言う気持ちになれなかった。
『じゃあよぉ、彼女作ろうぜぇ!? 今フリーなんだろ!?』
「作るにしても、出会いなんてないから無理。お前みたいに逆ナンもされないし」
『紹介するぜぇ。ピッチピチの女子高生たくさん紹介しちゃるよ!』
「……可愛くて優しい子を頼むな」
 とりあえず、そう返事しておく。しかし、今の時代にそんな子がいるとも思えないが。
 ふと、携帯電話の電話帳を見る。そこには、懐かしい名前があった。
「……そう言えば、詩織はまだ見つかってないんだっけ……」
 あれから5年。はとこの詩織はまだ見つからなかった。
 最近のニュースで見る誘拐事件でも、詩織の名前は載っていない。
 もし誘拐されているとすれば、もう5年も監禁されているわけだ。そう思うと怒りが込み上げて来る。
「くそっ、あの時プレゼント買いに行かなかったら……!」
 行かなかったら、プレゼントは即席でどうにかするしかないが、行方不明だけは避けれたかもしれない。
 そう言った悔やみだけ考えてしまう。
「……ったく、俺が告白する前に消えるなよ……!」
 はとこの詩織とは、小学4年生くらいから仲が良く、俺にとっては初恋の相手だった。
 そう意識し出したのは、中学2年生の頃。ふと見た彼女の顔に、思わず赤面してしまったのだ。
 流石に勘違いされて熱があると言われた事もある。それくらい、俺は彼女を好きになっていた。
 しかし、その時は告白しなかった。告白すると、お互いの関係がギクシャクすると思った。
「詩織……一体どこに、いるんだよ……」



 不思議な感覚。自室にいたはずが、なぜか変な場所にいた。
 見るからに、どこか昔の城の牢獄みたいだ。
「何だ、ここ……?」
「誰だ、お前は!?」
 そう言って、目の前にいる衛兵と思う人間に槍を突きつけられる。って、目の前で気づかないのも変だろう。
 とりあえず、俺はそこから逃げた。当然、衛兵は追ってくるが、瞬時に俺はそこから姿を消した。
 俺自身、どうなってるのか分からない。しかし、逃げ切れたのは事実だ。
「どうなってんだか……って、今度はどこだ?」
 薄暗い。また牢獄らしい。俺はやや隠れながら牢獄の中を歩いた。
 奥の方に誰かいる。いや、奥の牢屋に誰か入っている。
 長い黒髪。見た事のある顔。しかし、なぜか思い出せない。
「いたぞ、あそこだ!」
「げっ、見つかるの早!?」
 途端、床が消える。って、俺落ちるわけ!?
「……あー、なんか漫画っぽい展開だなぁ……」
 そんな事をぼやきつつ、俺はそのまま落ちていった。



 って、落ちるんかい!?
「……夢か」
 少し頭がぼけーっとする。どうやら、寝てしまったようだ。
 携帯にメールが何通か届いている。迷惑メールに友人からのメール。とりあえず、全部消そう
 友人からのメールは、ほとんどくだらない内容だった。返信する気すら起きない。
「それにしても、なんだか眠いな……目を覚ますには、やっぱり本だろ」
 普通は逆な気もするが、暇潰しにもなるは、やっぱり本なのだ、俺の場合。
 本棚に並べてある本のタイトルをさらっと見て、何を読もうか。
「……ん? これは……」
 ふと、一冊の本が目に入った。本棚の一番下に入れてあった結構分厚い本。辞書だと最初思った。
 タイトルは英語で書いてあって、さっぱり分からん。しかし、この本が何なのか思い出した。
「そうだ、これって中学の時に本屋で見つけた……」
 本の内容をさらりと読んで、結構面白い話だったから買った本だ。
 懐かしいなと思い、しおりを挟んであるページを開く。……何も書いてなかった。
「って、んな馬鹿な。書いてないわけ……ほら、最初とかは書いてあるじゃないか」
 しかし、後ろのページが白紙と言うのは変だ。それに、しおりを挟んであったと言う事は、そこまで読んだはず。
「……一体どうなってんだ? 結構時間が経って、文字が消えた?」
 そんな馬鹿な。それだったら、最初のページとかも白紙になっている。
 パラパラと、どこまで本編が書いてあるかページを捲って行く。
 最後のページには絵が描かれていた。長い黒髪、見た事のある顔。誰かに似てるな……。
「そうか、詩織だ。って、詩織!?
 絵を目を凝らして見る。詩織にそっくりだった。
「まさかとは思うけど……」
 本の最初のページから、本編を読んでいく。前に読んだ時の記憶をどうにかして思い出す。


 天陽暦1133年。一人の魔術師は、その国の王を手中に収めた。
 世界征服を企む魔術師は国王を操り、各地から強い人材を集める。

 その振るいし剣は、大気を唸らせ、大気を切り裂く最強の騎士。

 その拳は、如何なるものも全て貫き、粉砕する最強の闘士。

 その唱えし術は、どんな攻撃よりも強大な最強の法術師。

 そして、その三人の配下につく最強の戦士達。

 魔術師は、力にて彼らを支配し、そして国を我が物とした。
 国の姫君は真意を知り、母国から姿を消した。。


「……あれ、こんな話だっけ? 確か、王子の話だった気が……」
 良く思い出せない。とりあえず、続きを読んでみよう。


 姫君は秘めた魔力を解き放ち、八の光を世界中へと散らす。
 その光に選ばれし者は、姫君より『守護者』の称号を得る。
 守護者。それは、世界に降り注がれん危機から、世界を守る者。

 魔術師は守護者を恐れた。そして、さらなる力が必要だと考えた。
 しかし、最強の者達は手中にいる。それ以上の力を持つ者は、もはやこの世界にはいない。

 魔術師は、異界と呼ばれる地から、強い力を持つ者の召喚を企んだ。

 異界の扉を開き、強き力を持つ者をこの地に召喚する。
 さすれば、姫君の元に集結しようとする守護者などに恐れる事はない。

 しかし、召喚は失敗した。異界より召喚されたのは、強き力持ちし者ではなく、ただの少女――――


「……その少女の名は、”シオリ=アマノ”……!? シオリ……詩織なのか!?」
 絵に描かれた少女。間違いなく、詩織本人だった。
 なぜ、彼女が本の中に閉じ込められているのか、本の中に入れたのかなんて、分かるはずがない。
 しかし、詩織は本の中にいる。この絵が証拠だ。
「おいおいおいおい……どうやったら本の中に入るって言うんだよ……!?」
 しかし、もしこれが本当の事だとすれば、詩織が行方不明になっているのも頷ける。
 5年前の8月10日、詩織の誕生日に、詩織は俺の部屋にあったこの本に吸い込まれた。
 そして、俺は5年間も気づかなかった。いや、普通気づく方が変なのだが。
 だからと言って、この事を誰が信じるのだろう。
 それに、本当だとして、どうやって助ければ良いんだ?
「……こう言うオカルト、と言うかファンタジー的なのに色々と馬鹿な事言ってたのは……」
 急いで中学、高校の卒業アルバムを取り出し、生徒写真を見ていく。
 こんな時、こう言った事を信じて、何か知ってそうな奴と言えば……。
「……塚本。そう、塚本だ!」
 引越しなどやっていない事を信じて、俺は書いてある番号に電話するのだった。



「いやぁ、久しぶりだねぇ。6年振りかな?」
「まぁな。悪いな、いきなり電話してよ」
「良いって良いって。ちょうど暇だったんだ。ネットで設立した会社も上手く行ってないし」
 そう言って、パソコンの画面を見せる。会社を建てた? こいつが?
 塚本信行(つかもと のぶゆき)。中学時代、色んなゲームの説を話していた○タクの分類の友人。
 しかし、こいつの説は結構深く、なかなか面白い事があって、意外と印象は強かった。
「それで、用件は? 結構急いでいたみたいだけど」
「ああ。この本の絵と、この写真を見てくれ」
 そう言って、俺は塚本に詩織の写真(詩織の母親にもらった)と例の本の絵を見せる。
 塚本は「結構可愛い女の子だね」と言いつつ、絵と写真を交互に見た。
「似てるね、写真と絵。もしかして、秋森君が書いた本、これ?」
「んな訳あるか。俺に絵の才能がないのは知ってるだろ。中3の冬……受験前くらいに買った本だ」
「へぇ……偶然ってあるんだね。この女の子とそっくりの絵が書いてあるなんて」
「……素でボケてるか?」
「ボケてないよ、まだ21なんだし。でも、かなり似てるよね」
「似てるんじゃない。……その写真の子本人だって言ったら、お前は信じるか?」
 そう訊くと、塚本が「え?」と驚く。まぁ、これが普通だろう。
 そして、普通の人間であれば「お前、おかしな事言うなよ」と信じるわけがない。
 だからこそ、塚本に訊くのだ。塚本はしばらく考えて、「信じるよ」と答えてくれた。
「秋森君の言い方が本当っぽいからね。本当の出来事じゃないかなと思う」
「……ぽいわけだ」
「だって、そんなありえない話を聞いて、普通信じる人はいないだろ? 僕と君以外に
「俺をお前と一緒にするな」
「ごめんごめん。でも、どう言う事? 人が本の中になんて……」
「ああ。普通に考えたら、絶対にありえない。けど、事実なんだよ」
 俺は塚本に、5年前から詩織が行方不明になっている事を話し、この本について話した。
「つまり、5年前からこの子は行方不明で、それで久々にこの本を読んでみたらこうなっていたと?」
「そう言う事。本の話も変わってて、そして、なぜか本の中に閉じ込められている」
「うーん……そんな話、ゲームとか本でしかありえない内容だよねぇ……」
「けど、実際に起きてたんだよ。5年前から、本の中に閉じ込められていたんだよ……」
 俺は黙って塚本に正座する。
「どうやって助けられるか、分からないか!? いや、お前の持ってる知識を俺に教えてくれ!」
「そう言われても、僕が知ってる知識って、ネットとか本とかから学んだものだから、役に立たないよ」
 塚本が絵の書いてあるページをめくり、俺に渡る。
「けれど、この話はこの絵の次のページから何も書かれていない。つまり、この話は完結していないって事」
「……?」
「だから、この子は本に書かれてある内容からすれば、魔術師に捕まっているけど、そこで話は止まってる。
 僕が言いたいのは、この子を助けられる方法は、この話を完結させるる必要があるんじゃないかって事」
「……どうやって? 俺に話の続きを書けって言うのか?」
「そうだと思うんだけど、でも……」
 そう言って、塚本が白紙のページに話の続きを書こうとする。俺は黙ってみていた。
 塚本が「女の子は再び召喚され、元の世界に戻った」と書く。が、文字が一瞬にして消えた。
 これぞオカルト現象、と言わんばかりに、目の前で信じられない事が起きた。
「……マジ?」
「書こうとしても、この本が弾くみたいだね。ゲームでもあったよ、こんな事」
「……って事は、どうしようもないのか?」
「うーん、ゲームじゃそこで本が光って自分も本の中にって展開だけど、ないんだよね、そう言う事」
「あったらここにはいないだろ……」
 しかし、他に打つ手は思いつかなかった。
 早く詩織を助けたいのに、早く会いたい時に限って……!
「……こう言う時、ド○○もんがいたら、絵本入り込み靴を出して貰えるのに」
現実逃避はやめようね、秋森君。しかも、絵本入り込み靴は絵本に入る為の道具だし」
「お前の方が詳しいな、やっぱ。どのみち、打つ手なしか……」
「ねぇ、何でそんなにこの子を助けたいの? 兄妹?」
 塚本が興味津々な目で俺を見る。こいつ、人を興味本位で見てんじゃねぇよ……。
「……初恋の女の子、なんだよ。だから、助けたい」
「……へぇ。あれ? 中3の時、投石さんに告白してなかったっけ?
「あれは、一馬達にはめられたんだ! ほとんどの奴が誤解してるけど、投石さんにもちゃんと説明してる!」
「そう言えばそうだったね。そうだ、今って何やってんの?」
「唐突だな、おい……今は何もやってない。カッコ悪いが無職だ」
「じゃあ、うちの会社に入らない? 戦力に結構なりそうだし」
「遠慮する。もう少し、色々と考えたい」
 じゃ、と手を上げる。
「気が向いたら連絡してよ。即戦力として迎えるよ?」
「即戦力はやめてくれ」



 結局、詩織を助ける方法はなかった。俺は溜め息をついた。
「はぁ……何か方法はないのか……」
 パソコンを起動して、インターネットで調べる。当然、答えは返って来ない。当たり前だっつーの。
「詩織……くそっ、考えてもキリがないな……」
 パソコンの電源を切り、再び例の本を開く。
 ページにストーリーは追加されていない。一体どうやったら追加されるのか知りたい。
「……俺が本の中に入れれば良いんだろうけど……無理だよなぁ」
 本当に、こんな時こそドラ○○んがいてくれればなと思う。
 今思うと便利だ。未来が分かるし、色々な道具が使えるし。……って、何馬鹿な事を考えてるんだよ、俺。
「いい加減寝るか。明日になって考えよう……バイクで近くの図書館とか行ってみるか」
 ほとんど調べても意味がないように思えるが、行動あるのみだ。
 そして、俺は寝る事にした。



 夜、あまりにも寒くて目を覚ます。部屋じゃなかった。
 どこかの森のようだ。寝惚けているのだろう、部屋が森になってるわけがない。
「さ、もう一眠り……」

 ガサッ

 何かが聞こえた。変だな、車の走る音じゃない。
 もう一度起きてみる。今度は目を擦って、ちゃんと覚めてみよう。
 森だった。なるほど、これは夢だ。間違いない。
「って、自覚できる夢って凄いよな――――なぁ!?」
 その瞬間、何かが俺の頬をかすめた。妙に痛い。つーか、血が流れてる!?
 夢じゃない? そう思ったのも束の間、森の茂みの中から、巨大な熊が現れた。
 いや、熊にしては変だ。なぜか、右腕がゾンビのようなものになってる。
「……ゾンビ熊? って、冷静に物事言ってる場合じゃねぇよ、俺!?」
 途端、こける。こう言うのをオチって言うんだろうな……。
 熊が右腕を振り上げる。俺、どうやらここで死ぬみたいだ。うん、間違いない。
 さようなら、お父様、お母様。ここまで育ててくれてありがとう。
 あと、ごめん、詩織。助ける前に俺死ぬみたいだ。
「……あぁ、むっちゃくちゃ悔いが残るよなぁ……
 死を覚悟したその時、茂みからまた何かが飛び出して熊を射抜く。俺は目を見開いた。
 夜だから見難いが、四本足でランスのようなものを持っている奴がいる。
 ……四本足でランス? ランスじゃなくて弓だったら、ケンタウロスなのに……。
「大丈夫か?」
 と、訊かれた。良く見れば人間のようだ。
 四本足なのは、人間が馬に乗っているからであって、どうやら、俺は助かったらしい。
「無防備な格好でこんなところにいる人間なんて初めてだ。おい、立てるな?」
「え、ああ……」
「とりあえず、後ろに乗れ。ここにいたら、また奴らに襲われるからな」
 俺はその人の言うとおりに従って、馬に乗った。



 馬が走りついた場所は、その人の住んでいた小屋だった。
 俺はその人に怪我した頬を治療してもらい、話しを聞く事にした。
「まずは自己紹介だ。私はエスレイド。エルフだ」
「え、えるふぅ!?」
「何をそんなに驚く? エルフは珍しくないだろう?」
「いや、すっごい珍しいですってば!?」
 ……でも、この人の耳、ゲームとかで出てくるエルフみたいに尖がった耳してるよな……まさか、本物?
 エスレイドが俺を珍しそうな目で見る。
「その格好は何だ?」
「これ? ……そう言えば、何でパジャマ姿であんな所にいたんだ、俺?」
「パジャマ? 人間は変な服を着るのだな」
「……えっと、エスレイド、さん?」
「呼び捨てで構わない」
「じゃあ、エスレイド。ここはどこだ? つーか、地球か?」
「何を言っているんだ、お前は? この世界はロンズヘル。当然だろう」
 ……ロンズヘル? 何、地球じゃねぇのか!?
「もう一つ質問。今って何年?」
天陽暦1133年だ。それがどうかしたか?」
「……天陽暦1133年? それって、本に書いてあった年代……?」
「……何を一人で呟いているのだ? なんだか、変な人間だな」
「いや、実はこの世界の人間じゃないんだ」
 俺は推測も交えて、全てをエスレイドに話す事にした。
 5年前から行方不明の詩織の事、詩織が本に閉じ込められていた事。
 本に書かれていたストーリーの年代と、エスレイドから訊いた年代が同じと言う事。
 そして、俺は多分、寝ている時に何かによって、この世界に来たと言う事を。
「別世界の人間か……しかし、お前の言う本の世界だと言う証拠は?」
「エスレイドが教えてくれた年代。本には、天陽暦1133年って書いてあった。
 あと、姫様って言う人が守護者を集めていると言う事とか。色々と書いてあったんだ」
「姫……リスティアム国の姫君か」
「リスティアム国?」
「うむ。国王が急に変になったと言う話があってな。各地から強豪を集めていたのも確かだ」
 お、話と近いぞ。
「そして、リスティアム国の姫君は国から脱出し、今では行方不明だと聞く」
「今、その姫ってのはどこに!?」
「そこまでは分からぬ。しかし、お前の言う事が全て本当ならば、守護者とやらを集めているのだろう」
「……って事は、これで、詩織を……!」
 助ける事ができるかもしれない。いや、できる!
 どうやって本の中に入れたのかはともかく、今は詩織を助ける事だけを考えよう。
「何か決意した顔だな。先ほど話した少女を助けようと思っているのか?」
「……決まってる。詩織を助けたい。そして、一緒に元いる場所に帰る」
「……ふっ、その決意は揺るがないな」
 エスレイドがふっと笑みを浮かべる。俺は少しだけ照れた。
 詩織を助けたいと言う自分の言葉に、なぜか照れてしまった。馬鹿だろ、俺。
「そう言えば、まだ名を聞いてなかったな」
「俺は正義。秋森正義だ」
「正義、明日の朝、この森を抜けて近くの街へ向かう。そこで情報を掴むとしよう。私も手伝う」
「本当か!? それは助けるぜ。なにせ、何も分からないからさ」
「その代わり、お前の住む地球と言う世界の事を教えて欲しい」
 エスレイドの要求に、俺は了承した。それくらいなら容易い事だ。
 待ってろよ、詩織! すぐにでも、助けてやるから……必ず、この俺が!





 次回予告

 寝ている時に本の世界に行った俺。けれど、気づいたら自分の部屋に帰ってきてやがる!?
 なんか、この先不安だな。俺、大丈夫なのか……?

 そんな事を思いつつ、エスレイドと共にリスティアム国の姫君って人を探す事に!

 次回、『魔法と呼ばれるモノ』

 とにかくやるしかない! ガイ・バイ・ケルーマクト……って、この呪文どこかで聞いた事が……。




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