この日の放課後、彼――――蓮杖飛鳥は沈んだ顔をして下校していた。
今日は授業参観日だった。しかし、父が来る訳がなかった。
幼い頃から、父は仕事で日本を離れている。会うのも1年に1、2回くらいだ。
そんな父が、参観日など来れるはずもない。
「……まだ16時か。家でゲームするにも、持ってる奴飽きちゃったし……」
友達と遊ぶ、と言う選択肢も上がったが、それはやめた。
いや、実際には友達は何かに熱中しており、それを知らない飛鳥は除け者扱いである。
まだ、飛鳥はその運命の出会いに気づく事はない。
「16時10分……バトルが始まっちゃう……!」
走りながら時計を見る。彼女は急いでいた。
今日行われるバトルは、人気がある為、早めに行かなければいけない。
けれど、学校が終わるのが遅かった。こんな時に限って。
「見れる場所ないだろうなぁ……どうしよう――――きゃっ!?」
「わ!?」
ショップが見えてきたところで、ぶつかる。そして互いに尻餅をついた。
「ご、ごめんなさい……」と言いつつ、相手が立ち上がる。まだ幼さが残る顔立ちをしている中学生だ。
「だ、大丈夫ですか……?」
「え? う、うん。こっちこそごめんね、急いでて……――――ああ!?」
ふと時計を見て驚く。そして、すぐに立ち上がった。
現在時刻16時12分。バトルが開始している。
「急がなきゃ……ほ、ほら君も!」
「え……急ぐって……!?」
「コネクト・バトル! 今日は、『ソード・マスター』戦をやるんだよ!」
少年は訳も分からないまま、手を引っ張られて行く。
ショップに着いた彼女は、すぐに設置されている電光板でバトルの状況を確認する。
バトル開始から3分。まだ、バトルは終わっていない。
「良かったぁ……まだバトル終わってなくて……」
「あ、あの……」
安堵の息をつく彼女に、少年が訊く。
「……バトルって、何ですか?」
「え!? も、もしかして、ドライヴって知らない……?」
「CMとかでしか見た事ないです」
それを聞いて、彼女が焦る。そして、すぐに「ごめんね!」と謝った。
「私と同じで、今日のバトル見る為に急いでたと思ってて……」
「い、いえ、べ、別に平気ですよ……帰っても暇だったし……」
「じゃあ、一緒にバトル見ようか♪」
意外と立ち直りが早い。彼女がポケットから携帯電話を取り出す。
最新式の折り畳み携帯。
「ドライヴって言うのはね、携帯電話に似た形のツールで、今目の前でやってるバトルをする為の物なの。
それで、今やってるのが『フォース・コネクター』戦って言う、最も有名なバトルなんだよ」
「ドライヴ……『フォース・コネクター』戦……」
「うん。これは普通の携帯電話だから違うんだけどね」
そしてバトルを見る。黄金のドライヴと両腕に巨大な剣を持ったドライヴが戦っている。
有利に見えたのは二本の巨大な剣を持ったドライヴ。
いや、違った。黄金のドライヴは巧みな剣捌きで、相手を追い込んでいる。
「凄い……」
少年が言葉を漏らす。そんな少年の姿を見て、彼女は思わず笑顔を浮かべた。
目の前で起きているバトルを真剣な瞳で見る少年の姿。
その姿は、どこか彼に似ていると彼女が思う。
黄金のドライヴが、相手ドライヴの胸を剣で突き刺す。それを見た少年が声を上げる。
巨大な剣を持つドライヴが、その剣を構えていた。
「危ない! 距離を取らないと……!」
つい口に出してしまう。その言葉が聞こえたのか、黄金のドライヴが突き刺した剣を放し、距離を取る。
刹那、黄金のドライヴがもう一本所持していた剣を手にし、相手を捻じ伏せた。
一瞬の攻撃。それを見た少年が両拳をぐっと握る。
「凄い……凄い! ドライヴって凄い……コネクト・バトルって凄い……!」
少年の瞳は輝いている。
「……僕も、僕もいつか……あの場所に立ちたい……!」
そして、あの場所で黄金のドライヴとバトルがしたい。
少年のそんな姿を見て、こよみが微笑む。
すると、何かを思い出したのか、「あっ!」と声を上げる。
「そう言えば、自己紹介してなかったね。私は日下部(くさかべ)こよみ。君は?」
「あ……れ、蓮杖……蓮杖飛鳥(れんじょう あすか)、です……」
「あすか……飛ぶ鳥って書いて、飛鳥で良いのかな?」
「は、はい……」
「そっか、良い名前だね。ね、飛鳥君。『ソード・マスター』に会ってみない?」
その言葉に、少年――――飛鳥は大きく頷いた。
ドライヴとバトル・フィールドを繋げるコクピットランサーから降りて、彼は軽く息を吐いた。
今回のバトルは意外と時間が掛かった。やはり、接近戦用の武器の威力が低いのかもしれない。
「けれど、これが一番しっくり来るんだよな……ファルシオンや専用剣の次に」
他にも武器は色々とあるが、使いやすいのはこれだ。
「威力を上げれるか相談してみるか……」
「輝凰さーん!」
そんな時、声をかけられる。輝凰と呼ばれた彼は、軽く手を上げて「やぁ」と返した。
彼の名を呼んだ彼女――――こよみが抱きつく。
「おめでとう、輝凰さん! これでまた、『ソード・マスター』だね」
「ははは……どうにか防衛成功ってところかな」
「良く言います。『最強のコネクター』なのに」
「ま、今回は手加減し過ぎたって感じか。それで、彼は?」
そう言って、こよみについて来た飛鳥の方を見る。こよみは「あっ」と言って彼から離れた。
「飛鳥君。今日知り合ったばかりで、輝凰さんのバトルを一緒に見た子だよ」
「そうなんだ。俺の名は洸月輝凰(こうげつ きおう)。初めまして」
「れ、れ、蓮杖飛鳥、です……あの……は、初め……ましてっ……」
緊張する。飛鳥は内面、焦っていた。
目の前にいる人は、あの黄金のドライヴを動かしていた人。『ソード・マスター』と呼ばれる人だ。
緊張する飛鳥を見て、輝凰が微笑む。
「緊張しなくて良い。高校生?」
「あ、いえ、中学2年……です」
「中2か。俺のバトル、どうだった?」
「す、凄かったです! 見てて、凄く熱くなって……それで……!」
「あの場所に立ちたいと思った?」
「はい! ……で、でも、僕じゃ無理ですよね……」
「無理じゃないさ」
飛鳥の瞳を見る。澄み切った純粋さが分かる瞳。
「良い瞳だ」
「え……?」
「立ちたいと思ったなら、あの場所にきっと立つ事ができる。コネクターなら、上を目指せ」
「あ、えっと……その……」
「輝凰さん、飛鳥君はドライヴ持ってないよ」
「え?」
こよみの言葉に、輝凰は「コネクターじゃないの?」と訊いてきた。当然、飛鳥は頷く。
輝凰にとっては意外だった。てっきり、コネクターだろうと思った。
しかし、このままにしておくのも惜しい気がする。
「飛鳥、ドライヴを始めてみないか?」
「え……!?」
「ドライヴを手にして、コネクターになれば、お前は俺と同じ場所に立つ事ができる」
「あ……その……」
「ん?」
「……父さんに『ドライヴはするな』って言われてて……」
飛鳥が顔を俯かせる。それを聞いて、輝凰がふっと笑みを漏らす。
「自分の意思でやりたいなら、親に主張してみろ。お前なら、できるだろ?」
「で、でも……」
「あの場所に立つなら、それくらいの勇気を持て。それが、あの場所に立つ為の条件だ」
「…………」
勇気。輝凰の優しい言葉は、飛鳥の心を動かしていた。
コネクターになりたい。そして、この人とバトルしてみたい。
自分もあの場所に立ちたい。そんな想いで一杯になる。
輝凰が頷く。飛鳥もゆっくりと頷いた。
「……はい。僕、コネクターになりたいです。そして、あの場所に立ちたい……!」
「じゃあ、コネクター登録しないとな。ドライヴは俺のドライヴをやる」
「え、あの黄金のドライヴですか……!?」
「いや、前使ってたドライヴを初期化した奴だ。ドライヴは買うと、結構高いからな」
そう言って、ドライヴを渡す。少し古いシルバーのドライヴだ。
けれど、傷は一つもない。大事に扱われていたんだと飛鳥は思った。
輝凰と飛鳥の姿を嬉しそうに見つつ、こよみが何かを思い出したかのように訊く。
「輝凰さん、コネクター登録って、保護者の承認がいるよね……?」
「いる。……そうか。そうなると、今日は登録できないか」
「あ、父さん……しばらく帰って来ないんです……」
飛鳥の言葉に、輝凰が「え?」と声を上げる。
「……父さん、仕事で日本にいなくて……会うのも年に1、2回くらいで……」
「別に父親じゃなくても、母親でも良いんだぞ?」
「母さんは……僕が生まれて早くに死んだって……」
「…………」
早くも問題発生。どうしたものかと輝凰が考え込む。
「……仕方ない、俺が代わりになるか。そこまで重要じゃないし」
「良いんですか……?」
「コネクター登録するだけだからな。電話の機能は使わないんだし」
意外と、輝凰と言う男はいい加減だった。
コネクター登録は、保護者の承認後、書類に必要事項を記入。
そして、コネクターとしての”完全な個人”の為に、声紋と指紋も入力する。
ショップの店員がドライヴに情報を入力し、ドライヴと小さいな手帳を飛鳥に渡した。
「これでコネクターの登録は完了です。ご協力頂き、ありがとうございました」
店員が礼をする。飛鳥はドライヴの液晶画面を見た。
一見、普通の携帯電話と似た画面。しかし、左下端に「Eランク」と言う文字がある。
「Eランク……?」
「それはコネクターとしてのランクだ。Eは――――」
途端、輝凰のドライヴから着信音が鳴り出す。輝凰はすぐに出た。
「もしもし? ……そうか、分かった。すぐに行く」
そして電話を切る。隣で聞いていたこよみが首を傾げた。
「召集?」
「いや、制裁。近くらしいから、俺に行ってくれだと」
頭を掻きつつ、ドライヴを操作して、ドライヴから何かを取り出す。
取り出した物を飛鳥に渡し、こよみに「後は頼む」と言って、そのまま走り出した。
輝凰の行動に、飛鳥が「?」を浮かべる。
「あの……」
「さっきの電話は、同じ『フォース・コネクター』の人からで、制裁を頼まれたの」
「制裁?」
「手帳みたいなの貰ったよね? それはコネクタールールの本。
それで、そのルールに書かれている事を破った人達を怒るのが、制裁なんだよ」
「それが制裁……」
「飛鳥君も気をつけてね? ルール破ると、輝凰さんに怒られるから」
こよみの言葉に、飛鳥が頷く。
「それで、これって……」
「これはSDカードだね。ドライヴに入れる場所があるよね?」
「えっと……ここ、ですよね?」
SDカードをドライヴに入れる。こよみの説明を受けながら、ドライヴを操作する。
液晶画面に今の自分のドライブの全体図が映し出され、そしてカードの中身が表示された。
長い砲身を持ったランチャー型の武器。その武器の名前をこよみが言う。
「ゴッドランチャーだね」
「ゴッドランチャー?」
「アクティブ・ウェポンって言う、ドライヴの武器だよ。ゴッドランチャーは高威力のビームを撃つ武器なの」
「どうやって装備するんですか?」
「えっとね、これは確かね……」
こよみの指示を受けながら、ドライヴにゴッドランチャーを装備させる。意外と早かった。
詳しい事は分からないが、装備くらいはドライヴ単体でできるらしい。
しかし、より難しい事をする時は、ちゃんとした機械が必要になるとこよみが説明する。
「多分、輝凰が今度教えてくれると思うよ。今は、ランクを上げる為にも、操作に慣れないとね」
「そう言えば、ランクって何だったんですか?」
「ランクはね、コネクターの強さってところかな。E、D、C、B、A、Sって強さが分かれてるの。
輝凰さんはSより上のSR(ソーラレイカー)ランクにいるんだよ」
「どうやってランクって上がるんですか?」
「バトルで勝った時に、相手が同ランク以下なら5連勝。相手が上のランクだったら、すぐに上がるよ」
「輝凰さんと一緒のランクになるには、上のランクの人に勝つ方が早いんですね」
「うん。でも、SRだけは別なの。それはルールにも書いてあるから、読んでおくと良いよ。
頑張ってね。きっと、飛鳥君なら良いコネクターになれるよ」
「はい。輝凰さんと同じ場所に立つ為にも頑張ります!」
その翌日。放課後となった学校の教室で、飛鳥は鞄に入れていたドライヴを取り出した。
「まずは練習しないと……」
こよみからは「操作に慣れてからバトルした方が良い」と言われた。
そして、練習はショップに設置されているシュミレータでやれば良いとも言っていた。
「……やり方は店員さんに聞けば分かるかな……? とりあえず練習あるのみ……かな……」
「いい加減にしてよっ!」
途端、後ろから大声が聞こえた。振り返ると、クラスの女子と男子が何かケンカしている。
いや、どちらかと言うと女子が男子に言い寄られていた。
ショートカットの女子の名は、確か月野一美(つきの かずみ)。
そして、キャラに似合わないようなカッコつけ方をしてる男子は、近藤信彦(こんどう のぶひこ)だ。
「良いじゃないか。別に、誰とも付き合ってねぇんだろ?」
「だからって、あんたと付き合う気なんてないわよ!」
「おいおい、俺はこれでもAランクだぜ? 将来有望な奴と付き合うってのは良い事だと思うぜ?」
そう言って、近藤信彦が彼女にドライヴを見せる。飛鳥は月野一美の表情がどうなっているか見た。
明らかに嫌がっている。
(……助けた方が良いんだろうけど……)
躊躇う。自分はそこまで強い人間じゃない。
けれど、嫌がっている彼女を放ってはおけない。
――――あの場所に立つなら、それくらいの勇気を持て。
輝凰の言葉を思い出す。勇気、それが目指す場所に立つ条件。
息を呑み、立ち上がる。そして、「やめろよ」と近藤信彦に言った。
「月野さん、嫌がってるじゃないか」
「お前には関係ねぇだろ、蓮杖よぉ」
言い返される。しかし、飛鳥も負けじと反撃した。
「関係ないかもしれない。けど、月野さんは嫌がってるんだから、こんな事するなよ」
「俺に口答えするのか? Aランクの俺に……と思ったら、蓮杖はドライヴも知らないお坊ちゃまだっけ」
そう言われて、カチンと来る。飛鳥はドライヴを近藤信彦の前に出した。
「ドライヴならあるよ。君みたいな奴がAランクだなんて、僕には思わない」
「へっ、ドライヴ持ってるから何かと思えば、Eランクじゃねぇか。ザコは失せろ」
「ザコじゃない。少なくとも、僕は君には負けない」
「言ってくれんじゃねぇか。だったらバトルしようぜ、蓮杖」
睨まれる。飛鳥も負けてなかった。
後ろから、月野一美が「やめておいた方が良いよ」と話しかけて来る。
「性格はああだけど、近藤は強いよ。私は大丈夫だから、無理にバトルしない方が……」
「いや、バトルする。僕は、必ず勝ってみせる」
飛鳥の瞳は、相手を睨んでいた。
次回予告
はじまり。それは、少年にとっての運命。
初めてのコネクト・バトルで開花する、飛鳥の信じられない才能。
そして、飛鳥のバトルを見る一つの影。
次回、CONNECT02.『天性のバトルセンス』
その軌跡への扉は、まだ開かれたに過ぎない――――
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