学校近くのショップで、近藤信彦が口を開く。
「ルールはシングル。分かるな、蓮杖?」
「もちろん。1対1のバトルだよね?」
訊き返す。
「そうだ。ハンデはどうする? Aランクだからハンデをつけても良いぜ?」
挑発される。飛鳥は少し黙っていた。
一緒について来た月野一美が飛鳥に言う。
「蓮杖君、初心者でしょ? だったら、ハンデは……」
「必要ないよ。ハンデなんていらない」
なぜか強気だった。
――――そのバトル、両者の合意と確認しましたっ!
突然、バトル・フィールドから声が聞こえ、中心からタキシードを纏った中年男性が現れる。
「ただ今より、このバトルは公式バトルと認められました。審判は私、リュウマチ小暮さんがやりますっ!」
「……し、審判?」
「んだよ、まともな奴じゃねぇのかよ」
近藤信彦が文句を言う。構わず、リュウマチ小暮がルールを説明する。
「ルールはシングルバトル! ハンデは希望によりなし!
先に相手ドライヴを行動不能にするか、降参させれば勝利となります!」
「すぐにぶっ倒してやるぜ、蓮杖」
「……負けない。僕は、あの場所に立つから……!」
「それでは、両者はコネクトを!」
二人がコクピットランサーに乗り込む。飛鳥はこよみの説明を思い出していた。
ドライヴのバトルは、コクピットランサーにドライヴを接続する事で可能となる。
「確か、輝凰さんは『ドライヴ・コネクト!』って言うって、こよみさんは言ってたっけ……」
特に意味はないが、気合が入るらしい。
「……ドライヴ・コネクト!」
ドライヴをコネクトする。
『ソード・マスター』である洸月輝凰は、自宅で嬉しそうな顔をしていた。
そんな表情を見て、こよみが後ろから抱きつく。
「何がそんなに嬉しいの、輝凰さん?」
「何だと思う?」
「どうせ、昨日会った飛鳥君の事でしょ? 昨日からずっとだもん。私の話も聞いてくれなかったし」
こよみが少しだけムッとする。輝凰は軽く苦笑した。
「悪い悪い。けど、凄く嬉しいんだ」
「やっぱり、飛鳥君が輝凰さんの探してた相手?」
「ああ。昨日見ただろ、あいつの瞳」
磨けば輝く、まさにダイヤの原石とも言える輝きを秘めた瞳。
そして、とても澄んでいる。今まで見た事もないほどの瞳をしていた。
「必ず、飛鳥は俺と同じ場所に立つ。あいつは、俺にそう思わせる奴だ」
「飛鳥君の事、凄く評価してるの? まだバトルも見てないのに?」
「あの瞳を見ただけで十分だ。それだけで、大体の事は分かる」
「瞳、ですか?」
こよみの言葉に、輝凰が「ああ」と反応する。
「飛鳥の瞳は、とても澄んでいた。輝いているように見えた。だから、俺には分かるんだ」
飛鳥は強くなる。そう遠くない未来に。輝凰はそう確信していた。
そんな輝凰の表情に、こよみが苦笑する。
「飛鳥君にヤキモチ妬いちゃいそうです。今の輝凰さん、やっぱり飛鳥君の事しか頭にないみたいですし」
「それだけ、楽しみなんだよ。そう言えば、ドライヴは名前は何にしたんだ?」
「あ、言うのを忘れてました。ドライヴの名前は、グロウファルコン。強くなる鷹です」
嬉しそうに言う。
なんの変哲もない、草原の広がるバトル・フィールド。そこに両者のドライヴが構築される。
迷彩塗装されているドライヴから、近藤信彦が飛鳥のドライヴを見て笑う。
『初期状態のままじゃないか、おい』
「…………」
流石に何も言えない。まだ、自分なりに作る事なんてできないのだから。
自分にできるのは装備の事だけ。それ以外は初心者である。
やっぱりバトルなんて言わなかった方が、と今更ながら後悔する。
「両者、準備はよろしいですね!?」
審判の言葉に、相手が頷く。飛鳥も小さく頷いた。
「それでは、コネクト・バトル……ファイトォォォッ!」
合図が出る。瞬間、相手ドライヴが動いた。
やや銃身の長いライフルを取り出し、そして撃つ。
「き、来た……!?」
飛鳥が目を見開く。無意識にドライヴ――――グロウファルコンを動かした。
大きく横に動いて攻撃を回避。その動作は、初心者らしいと言えば初心者らしい。
しかし、動作の”速さ”は初心者にしては速い。
「よ、避けれた……?」
『チッ、避けやがった。初心者のくせによ……』
近藤信彦が舌打ちする。そして、続けて攻撃が繰り出される。
それをすぐに確認し、飛鳥が再び避ける。その動作は近藤信彦に苛立ちを抱かせた。
初心者が、二度もAランク・コネクターの攻撃を避けた。
「……攻撃は、確か……」
一通り教わった操作を思い出し、背中から砲身の長いランチャーを取り出す。
そして撃つ。ビームが放たれた。
近藤信彦が目を見開いて驚きつつも、ドライヴを操作して避ける。
グロウファルコンの構えたランチャーを見て、近藤信彦が言う。
『ゴッドランチャー……初心者が、何でそんな物持ってやがる……!?』
「外れた……けど、この威力……」
胸の鼓動が熱くなる。
彼は偶然、そのショップにいた。
『フォース・コネクター』として、違法コネクターに制裁を下す為に来たのだが、相手は逃げたようだ。
「……仕方ない。協会に任せるとしよう」
ドライヴを操作して、連絡を取る。その時、バトル・フィールドに目線が移った。
AランクとEランクのバトル。それにしては、Aランクの動きはあまり良くない。
内容を良く見ると、ハンデなしのシングル戦となっている。
「ハンデなしでバトル? Eランクのコネクターは自信があるのか、それとも……」
無理やりバトルさせられているのか。そう思った時には、バトルに魅入っていた。
Aランクの攻撃を次々と避けるEランク。動きこそ初心者だが、見事なものだ。
「初心者であの回避……資質、にしては何度も使えるとは思えない」
あれほどの回避を何度もやれば、間違いなく支障が出てくるはず。しかし、それは全く確認できない。
もしや、と思いつつ、バトルを見続ける。
近藤信彦の攻撃を避けながら、飛鳥は操作のコツを少しずつ掴んでいった。
「……少しずつ分かってきた。ちゃんと見れば、攻撃が見えるんだ……」
少なくとも、攻撃の軌道は分かる。それさえ分かれば、避ける事もできる。
勝てるかもしれない。いや、勝てると思った。
「問題は、攻撃をどう当てるか、だよね……!」
どれだけ攻撃しても、全く当たらない。当たらなければ意味が無かった。
「……遠くへ攻撃するのって……狙いを定めるのが難しい気がする……」
それに、昨日見た『ソード・マスター』の戦いは、遠くから攻撃するようなものではなかった。
反撃の可能性もある接近戦に、何の躊躇もなく挑む戦い。それが『ソード・マスター』の戦い。
「けど、このドライヴの武器じゃ……」
初期型と言われているだけあってか、グロウファルコンは強くない。
頼れるのは、輝凰からもらったゴッドランチャーのみ。
一発でも当てれば倒せるかもしれないが、命中率が低い。
「……輝凰さんなら、こんな時どうするんだろ……?」
考える。『ソード・マスター』だったら、どう戦うか。
間違いなく、ビームセイバーと言う初期型の接近戦用の武器で倒すだろう。それも技と言うものを使って。
しかし、自分には技はない。技など知るわけが無い。
「……違う。接近戦をやったとして、必ずその武器を使わなければいけないって事じゃない……!」
そんなルールなど、あるわけが無い。飛鳥の頭の中で、何かが閃いた。
「そうだ……そうだよ……!」
『何をゴチャゴチャ言ってんだよ!』
近藤信彦のドライヴがライフルを撃つ。飛鳥は瞬間的に動き出した。
初心者とは思えない動き。それは、間違いなく上級者の動きに似ていた。
ゴッドランチャーを構え、飛鳥のグロウファルコンが駆ける。
そして、敵ドライヴのすぐ近くにまで接近した。
「遠くからじゃ当たらないなら、近くから当てれば良いんだ……!」
そう、わざわざ遠くから攻撃する必要なんてない。当てるなら、近くから仕掛ければ良い。
飛鳥の行動に、近藤信彦が目を見開く。
『チッ……お前には負けるわけにはいかなぇんだよ!』
敵ドライヴの左腕から小型ナイフが射出され、装備される。
隠し武器。それを見て、飛鳥が驚く。
「しまった……避けれな――――!?」
瞬間、目の前に見える”世界”が変わる。
(……あれ? さっきと……違う……!?)
敵ドライヴの腕の動きがハッキリと見える。避けれる。そう本気で思った。
迫り来る攻撃を寸前で避ける。
『避けやがった……!?』
「……!」
グロウファルコンがゴッドランチャーの砲身の先端を敵ドライヴに密着させる。
『な……蓮杖、こいつを狙って!?』
「いけぇぇぇぇぇぇっ!」
ゴッドランチャーを撃つ。敵ドライヴがビームに呑み込まれた。
攻撃したグロウファルコンが、その衝動で吹き飛ばされる。この時、決着がついた。
「バトル終了! 勝者、蓮杖飛鳥ぁぁぁ!」
バトルが終了してコクピットランサーを降りる。飛鳥はまだ勝利したと言う事に実感がなかった。
思いつきの行動での勝利。そして、最後の見えた感覚。
自分でも信じられない。しかし、ドライヴに表示されるランクが「D」である事が、それを証明している。
「……本当に……勝てたんだ……」
初めてのバトル。初めての勝利。胸の鼓動の熱さは、まだ冷めていない。
輝凰のバトルを見た時とは違った感触。見ている時とはまた違っていた。
そんな飛鳥に、月野一美が「凄い凄い!」と褒める。
「蓮杖君、凄いね! Aランク相手に勝っちゃうなんて!」
その言葉に対し、飛鳥が謙遜する。
「す、凄くないよ……たまたま、だし……」
「たまたまでも凄いよ! Aランクって言えば、上級者に分類されるから!」
「蓮杖、貴様ぁっ!」
突然、近藤信彦が突っかかってくる。
「お前、違法したろ!?」
「え……!?」
「Aランクの俺が、Eランクの初心者に負けるわけがねぇ! 違法でもしたんだろ!」
「し、してないよ……」
「嘘つくな! 違法でもしなけりゃ、初心者が俺に勝てるわけ……!」
「彼は違法なんてしていないよ」
突っかかる近藤信彦を止める大柄の男。近藤信彦は、それを見て目を見開いた。
同時に、月野一美も驚いている。しかし、二人がなぜ驚くのか、飛鳥には分からない。
「でぃ、ディフェンド・キング!?」
「違法すれば、その時点で強制的に機能停止する。それは、ルールにも書いてるあるはずだよ」
「それは分かる! けれど、初心者が……」
「負けを認めず相手を責めるのは、人として最低な事だ。素直に負けを負けを認めるんだ」
男が睨みつける。近藤信彦は歯を強く噛み締めたまま、その場を逃げるかのように去って行った。
月野一美が男に近づく。
「ほ、本当に『ディフェンド・キング』なんですか!?」
「……それは違う、と言いたいんだけれど、流石にもう隠せないかな……」
「ディフェンド・キング……?」
飛鳥が首を傾げる。『ソード・マスター』は知っていても、『ディフェンド・キング』は知らなかった。
男が飛鳥に近づく。
「さっきのバトルは見事だったよ。特に、零距離からのゴッドランチャーは良い応用だったね」
「そ、そうです、か……?」
「うん。僕はゴウボーグ=レンダリム。ゴウって呼んでくれて良い。君は?」
「あ、れ、蓮杖……蓮杖飛鳥です……」
その名を聞いて、ゴウが目を見開く。
「……蓮杖飛鳥? まさか、君が輝凰の言っていた……?」
「輝凰さんを知ってるんですか?」
「知っている何も、僕と輝凰は同じ『フォース・コネクター』だからね」
ゴウの言葉に、飛鳥が「あっ」とようやく気づいた。
『ディフェンド・キング』。耐久戦において最強を誇る『フォース・コネクター』。
今になって、飛鳥が慌てる。相手が凄い人間だと分かって。
「え、あの……その……ぼ、僕、全然知らなくて……」
「構わないよ。昨日登録したばかりなんだよね?」
「は、はい……」
「じゃあ、あれが君のデビュー戦かな?」
「そ、そうですけど……?」
それを聞いてゴウが驚く。飛鳥の強さが信じられなかった為に。
デビュー当初、初期型のドライヴで勝てる確率は、同じ初期型であれば50%。
チームを組んでいる場合は80%と言われているが、初心者で上級者に勝てる確率は1%にも満たない。
それは、天才と呼ばれるコネクターにも言える事だ。
しかし、飛鳥はその1%の確率で勝利した。それも、初心者とは思えぬ動きを見せて。
(天才の中の天才……いや、輝凰以上に優れているかもしれない、天性のバトルセンス……!)
彼――――『ソード・マスター』が見つけた少年は、ダイヤの原石以上の逸材とも言える。
間違いない。飛鳥こそ、輝凰が選んだコネクターだとゴウは確信した。
「……飛鳥君、僕のチームに来ないかい?」
「チーム?」
「うん。最強チーム『ランドライザー・コマンド』。僕は、君を主戦力としてチームに迎え入れたい」
それは、紛れもないスカウトだった。
次回予告
出会いは、少年に未知なる可能性への扉を叩かせる。
最強チームからの誘い。自分だけのアクティブ・ウェポン。自分だけのオリジナル。
少年が選ぶ道は? そして眠る才能は、どこまで開花し続けるのか?
次回、CONNECT03.『初めてのオリジナル』
少年の中で眠るもの、それは無限大の可能性――――
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