Drive-Connect! - SPECIAL EPISODE -

  CONNECT02.『飛鳥の大変な一日』



「くそっ、結構良い感じだと思ったのに……!」
「一つ一つの攻撃が甘いんだよ。あと、弓音さんのサポートに頼り過ぎだ」
 バトル開始から約5分。勝負は飛鳥と明日香の勝利で終わった。
 悔しがる剣那を前に、飛鳥が説明する。
「SRのランクアップの時、絶対に負けるぜ、お前?」
「う、うるさい! 蓮杖、今度はシングルで勝負だ!」
「断る。俺とお前じゃ、勝負にすらならない」
「何だと!?」
「はいはい……怒らない、怒らない」
 剣那を弓音がなだめる。明日香が飛鳥の頭を軽く叩いた。
「飛鳥君も、あまり調子に乗ったらダメだよ?」
「いや、事実だし――――」
 ドライヴに着信が入る。飛鳥はすぐに反応した。
「もしもし?」
『あ、飛鳥? 私だけど』
「マリアか。どうかしたか?」
『ちょっとスポット参戦お願いして良い?』
「珍しいな。普段は勇治を無理やり参戦させるくせに」
 電話でマリアと話す。その横で明日香が首を傾げながら、電話から漏れてくる声を必死に拾おうとする。
『今回は相手が悪くてさ。勇治よりも飛鳥の方が都合良いのよ』
「まさかとは思うけど、『ゾディアック』じゃないよな?」
 その瞬間、マリアが黙り込む。飛鳥は深く肩を落とした。
 勇治がダメな理由。それは、接近戦に弱いから。
「お前な……しかも、その様子だと俺が桐生担当だろう、間違いなく」
『バレた?』
「当たり前だろ……つか、『レディエンス・ビューティーズ』なら『ゾディアック』くらいどうにかなるだろ」
 なにせ、毎年優勝を争っているチームなのだから。マリアが言う。
『そうなんだけどさ、セリホと美代子がそれぞれ用事があって来れないのよ。
 あの二人無しでゾディアック相手は流石にね』
「仕方ねぇな……場所と時間メールしてくれ。後でそっちに向かう。じゃあな」
 そう言って電話を切る。明日香が首を傾げながら、訊いて来る。
「マリアさんの所に行くの?」
「うん。バトルに出てくれだってさ。来る?」
「うん」
「と言うわけだ。また今度バトルしようぜ、剣那、弓音さん」
「うん。また学校でね、蓮杖君。星川さんもまた会おうね」



 30分後。マリア指定のショップへ到着した飛鳥は、早速マリアを発見した。
 しかし、肝心の『ゾディアック』の姿が無い。
「……マリア、バトルは?」
「あ、やっほー」
「やっほー、じゃなくて……『ゾディアック』の姿が無いんだけど」
「あぁ、ごめんごめん。もうバトル終わっちゃった
 マリアの言葉に、飛鳥が肩を落とす。
「終わったって、お前……」
「いやー、ちょうど良い助っ人がいてね。これがまた強いのなんの」
「助っ人?」
「そう、俺の事」
 そう言いながら、一人の男が飛鳥の肩を後ろから叩いて来る。
「久しぶりだな、飛鳥。1年ぶりってところか?」
「正確に言えば、1年と3カ月ぶり位だろ。なるほど、確かに強い助っ人だな」
 飛鳥が笑う。明日香が首を傾げる。
 そんな明日香に気づいた男が、おっ、と反応した。
「結構可愛い子じゃねぇか。飛鳥の彼女か?」
「ああ。星川明日香、俺の彼女。明日香、こいつは新垣蓮。中学の時の友達」
「えっと、前に飛鳥君が話してた友達? 初めまして、星川明日香です」
「おう、よろしく」
「新垣蓮? あれ、それって……」
 マリアが近くに置いてある雑誌を手に取って開く。
「……あった、あった。新垣蓮って、今年の最強のコネクターじゃない」
「ああ。なんとなく薦めてみたら優勝したんだったよな?
「おう。強い奴とバトル出来る場所って事で訊いたのが、あのトーナメントだったな」
「なんとなくで優勝って……」
 明日香が苦笑する。とんでもないコネクターがいたものだ、と。
 蓮がドライヴを手に、飛鳥に頭を下げる。
「ありがとな、飛鳥。お前のお蔭で、ここまで立ち直れた。感謝するぜ」
「別に。俺は、ただ友達にドライヴを薦めて、ドライヴを作ってやっただけだし」
「そうだけどな、俺にとってはデケェ出来事だったんだよ」
 そう言いながら、拳を握る。その拳は、僅かに震えていた。
「事故で握力が戻らなくなって、ボクサーを辞めた俺にドライヴを教えてくれた。それだけでも十分だ」
「ボクサー?」
「おう。俺はこれでも、元中学生ボクシングチャンピオンだ」
 ポーズを取る。その姿は、誰もがそう思わせてくれるかのように。
 飛鳥が話を進める。
「結構有名だったよな。それこそ、マスコミとかスカウトも来るくらい。
 事故が無かったら、絶対にドライヴする事なかったよな、蓮の場合」
「だな」
 蓮が笑う。それを見ながらマリアは思った。「飛鳥は色んな人間を巻き込んでいる」と。
「そう言えば、明日香ちゃんが一緒って事は……もしかしてデート中だった?」
「いや、今日は明日香とコンビバトルしてた」
「コンビ? もしかして、Aランクに上がった?」
「はい。この間、Aランクに」
 明日香が頷く。すると、マリアががっしりと明日香の肩を掴む。
 そして、飛鳥に向かって言った。
「明日香ちゃん、うちのチームに入れて良い?」
「駄目だ。今はコンビでも、そのうちチームにするんだから」
「だったら、飛鳥もうちに来れば良いじゃない。ね?」
「んな事するか。お前や晃鉄さん、勇治のチームとバトルするって決めてるんだから」



 夕方。どうにか、マリアの誘いを断った飛鳥は自宅に辿り着いた。
「第一、マリアのチームは女性メンバーばかりだし、俺だけ男ってのはなぁ……」
 いや、下手をしたら女装させられそうな気がする。マリアならやりかねない。
 そんな事を思いながら家のドアを開ける。見慣れた革靴が玄関にあった。
「……父さん? 帰ってるんだ」
「おかえり、飛鳥」
「父さん……ただいま。帰って来るなら、帰って来るって連絡してくれれば良かったのに……」
「急な事だったからな。お前に話があったから帰って来ただけだ」
「それでも一言くらい……?」
 ふと、父の足元を見る。女の子が一人、父の後ろから顔を覗かせていた。
 とても幼い、人見知りが抜けない女の子。飛鳥が目をパチパチと開閉させる。
「……父さん、その子は……?」
「美緒だ。お前の妹だ」
「そっか、俺の妹か……って、妹!?」
 驚く。その様子を見ていた女の子――――美緒が父の後ろに隠れる。
「父さん、妹って……!? 再婚……なわけないよな。全然聞いてないし……」
「誰が再婚するものか。私にとって、春香は最愛の妻だ。春香以外を愛する気はない」
「だと思う。そうじゃなかったら、ドライヴも反対なんてしないだろうし。じゃあ、この子は一体……」
「話せば長くなるが、出張先で養子にした」
「養子にって……」
 父の説明が始まる。なんでも、美緒は父の部下の娘だと言う事だ。
 ずっとその出張先である国に住む事を決めたらしいのだが、不運な事に交通事故で美緒の本当の両親は亡くなった。
 その為、部下思いでもある父が引き取ったのだと言う。
「と言う事だ」
「って言われてもな……急な事だったみたいだけど、それでも相談して欲しい」
「すまん」
「第一、手続きはどうするんだよ? どうせ、すぐに仕事に戻るんだろ?」
「その事なら問題無い。ある程度の手続きは済ませてある。残りは、月子に頼んである」
「月子さんに? それじゃ……」
「ああ。今こっちに向かっている」



 同時刻。明日香はタクシーから降りた。両手で鍋を持った状態で。
「お母さん、作り過ぎたからって言っていたけど……」
 多分、いや、間違いなくワザと作り過ぎたはずだ
「泊まっても良いからなんて言ってたけど、飛鳥君と二人きりって……」
 想像して顔を赤くする。この姿を母が見れば、ガッツポーズでもするだろう。
 そんな事を思いながら、飛鳥の家の前まで辿り着く。そこに、一人の女性が立っていた。
 見覚えのある、長い髪の女性。明日香に気づき、笑顔で近づいて来る。
「明日香ちゃん? 大きくなったわね。私の事、覚えてる?」
「え? えっと……」
 戸惑う。そんな明日香を見て、彼女は溜め息をついた。
「そうよね。もう、あれから十年以上経つのよね……」
「……もしかして、月子さん?」
「ええ。久しぶりね、明日香ちゃん」
「うん。お久しぶりですね、月子さん」
「……何か声がすると思えば、月子さん来てるし……つーか、何で明日香まで?」
 と、そこへ飛鳥も姿を見せる。女性――――月子は飛鳥を見て驚いた。
 昔の面影がほとんど残っていない顔立ち。それでも、月子には分かる。
 だからこそ、飛鳥を抱きしめる。
「つ、月子さん!?」
「大きくなったね、飛鳥君……私の事、ちゃんと覚えててくれたのね……」
「……忘れるわけないでしょう。5歳までだったけど、俺にとっては母さんみたいなものだったし」
「そっか、忘れるわけないわね。ごめんね、なかなか会いに行けなくて」
「良いよ。遠くてお金掛かるのも知ってたし……つーか、そろそろ離れてくれない? 結構恥ずかしいんだけど……」
 その言葉に、月子が却下する。
「十年も会っていないんだから、もう少し。私にとっては、大切な甥っ子だもの」
「いや、だからって……それに……」
 明日香を見る。両頬を思いっきり膨らませた明日香がいた。相手が親戚でも駄目らしい。
 高橋月子(たかはし つきこ)。飛鳥の父の妹であり、飛鳥の叔母。
 明日香の様子に気づいた月子が、「あらら」と飛鳥と明日香の両方を見る。
「もしかして、飛鳥君と明日香ちゃんは付き合っているの?」
「……はい。明日香は、俺の恋人です」
 顔を赤くしながら言う。それを聞いた月子が飛鳥から離れた。
 明日香が持っている鍋を取り、二人をくっつける。
「ごめんなさいね。それならそうと言ってくれれば良かったのに」
「いや、いきなり抱きしめてきたのは月子さんだし……つーか、明日香さん?」
「…………」
「……明日香? ――――!?」
 突然、明日香に抱きしめられる。それも、今までにないくらい、強く。
「……月子さんの匂いがする」
「そりゃ、さっきまで抱きしめられてたし……って、何で月子さんにヤキモチ妬いてるんだよ!?」
「だって……飛鳥君、月子さんに抱きしめられても平気そうだったから……」
「叔母さんなんだから当たり前だろ……。それに、月子さんは母さんみたいなものだし」
「さっきから思ったんだけど……それって、どう言う事?」
 明日香が首を傾げる。
「おじさんとかから聞いたりしてない?」
「ううん……知ってるのは、家政婦さんが見ていない所で、一人で泣いてたってくらいで……」
「……あったな、そんな事……」
「それよりも、いい加減入ったらどうだ? 見ているこっちが恥ずかしい」
 と、そこで父が言う。その姿に気づいた飛鳥は、誰よりも顔を真っ赤にしていた。



「え? 飛鳥君のお母さんが亡くなってから、ずっと月子さんが?」
「ええ。春香さんが亡くなって、飛鳥君が5歳の時までね」
 夜。食事を済ませ、片付けている時に明日香は月子から話を聞いた。
 飛鳥の母――――蓮杖春香が亡くなった後、父である常世は仕事の都合で海外に行かねばならなかった。
 飛鳥も一緒に連れて行く事も考えられたが、当時の常世は、自分ではまともに育てられないと判断し、
 妹である月子に飛鳥を託したのだ。
「あの時は本当に驚いた。一人暮らしを始めようとした時に、いきなり『飛鳥の面倒を見てくれ』って言うんだもの」
「でも、わざわざ月子さんにお願いしなくても……」
 飛鳥には祖父母がいる。その祖父母に預ければ良かったのでは、と明日香は思った。
「そう、お父さん達も同じ事を言ったのよ。でも、兄さんはそれをしなかった」
 社会人になってから、常世は両親に頼る事をしなかった。それが、親孝行だと考えたからだ。
 だからこそ、飛鳥を預ける事はしなかった。
「まぁ、他の子より人見知りする方だったからって言うのもあるんだろうけれど」
「飛鳥君って、赤ちゃんの頃ってどんな感じだったんですか?」
「大変だったわよ。人見知りが激しくて寂しがり屋だったから、すぐに泣いちゃうし、私の事を『ママ』って呼んだりして」
「それは別に良いんじゃ……」
「ちゃんと教えておかないと駄目なのよ。飛鳥君には素敵なお母さんなんだから」
 ふと、リビングでまだ慣れていない美緒を横目にパソコンを扱う飛鳥を見る。
 その姿は父・常世と同じだ。
「本当、親子よね。ああやってパソコンする姿は、本当に兄さんそっくり。ドライヴに打ち込む姿は春香さんそっくり」
「飛鳥君のお母さんって、どんな人だったんですか?」
「飛鳥君を誰よりも愛してた。飛鳥君がドライヴに触った時も嬉しそうにしていて。
 何をするにも飛鳥、飛鳥って……素敵な人だった」
「そんなに飛鳥君の事を……」
 初代『ソード・マスター』であり、飛鳥の母。誰よりも飛鳥に愛情を注いでいた女性。
 月子が飛鳥に近づき、不意にパソコンの電源を切る。
「あ!?」
「今日はこれで終わり。せっかく妹ができたんだから、遊んであげなさい」
「いや、遊べって……どう接して良いのか全然分からないのに……」
「そんな時は考えるのよ。ドライヴを作る時と同じでしょう?」
「それはそうだけど……」
 美緒を見る。まだ懐く様子は全くない。父の傍にずっといる。
「……とりあえず、喉が渇いた」
 冷蔵庫から作って冷やしていた紅茶を取り出し、コップに注ぐ。すると、美緒が近づいてきた。
 飛鳥の持つ紅茶をじっと見る。
「飲みたいの?」
 訊く。美緒は小さく頷いた。
「でも、これは甘くないけど……」
 それでも、美緒は手を伸ばす。飛鳥は頭を掻きつつ、紅茶を美緒に渡した。
 コップに口をつけ、紅茶を飲む美緒。しかし、すぐに泣きそうな顔をして、飛鳥に返す。
「やっぱり……待ってて、ジュースがあるから」
 冷蔵庫から買い溜めしていた缶ジュースを取り、蓋を開けて美緒に渡す。
 そんな様子を見ながら、明日香は微笑んでいた。
「私も妹欲しかったなぁ……」
「あら、明日香ちゃんにとっても妹でしょう?」
「え?」
「だって、将来的には飛鳥君と結婚するんだから」
「それは流石に飛躍し過ぎですっ」
 明日香が顔を真っ赤にしながら言う。月子は笑っていた。
 そんな二人の会話が聞き取れなかった飛鳥が首を傾げる。その時、ドライヴに着信が入った。
 すぐに電話に出る。電話の相手は、『ディフェンド・キング』だ。
「一体、どうしたんですか? こんな遅くに……分かりました。すぐ、そっちに向かいます」
 電話を切り、リビングの窓際に置いていたヘルメットを手に取る。明日香が首を傾げた。
「どこか行くの?」
「うん、ショップで事件が起きてるらしい。それを止めに行かないといけない」
「事件?」
「詳しい事は、行ってから説明するって言われた。明日香、月子さん、美緒の事頼みます」
「夜だから、バイクの運転には気をつけてなさいね」
「はい」
 美緒の頭を優しく撫で、すぐさま家を出る。

 この時、飛鳥にはまだ分からなかった。今起きている事件が、どれほど危険なのか――――



次回予告

 明日香「今回は美緒ちゃんと月子さん初登場だね」
 飛鳥 「だな。月子さんに至っては、ULTIMATE EPISODEで名前しか出て来ていないし」
 明日香「でも、事件って何だろう?」
 飛鳥 「それは、次回までのお楽しみ」

  次回、CONNECT03.『受け継がれた力と技』

 ???「見せてやろう。これが、俺の新たなドライヴであり、力だと言う事を」

 明日香「次回は、新型ドライヴ登場! って、誰の?」
 飛鳥 「今回の話からすれば、大体予想はついているんだけどね」
 明日香「飛鳥君はそうかもしれないけど、私には全然分からないんだけど……」



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