いつもと変わらない――――いや、いつもより寒い朝、飛鳥は欠伸をしつつ、ストーブの電源を入れた。
パンを電子レンジの中に入れ、紅茶を淹れる。
「こう寒いと冬眠したくなるよな……できないけど」
「飛鳥坊ちゃん、今日はやけにのんびりですね」
「坊ちゃんはやめて……俺、そんな感じじゃないし。って、のんびり……?」
家政婦に言われて時計を見る。いつもより5分は早い。
「のんびりって、いつもより早いけど?」
「今日は早く行かないと、飛鳥坊ちゃんの場合は危ないでしょう? バレンタインデーですので」
「……忘れてた」
バレンタインデー。『フォース・コネクター』になってから、かなりの量のチョコを貰っていたりする。
しかし、飛鳥はチョコレートを好まない。いや、甘い物全般苦手なのだ。
だからこそ、今日と言う日は早めに登校し、なるべくチョコを受け取らないようにする必要がある。
「ヤベ……パン食べてる暇ないか」
紅茶を熱いまま飲み干す。そして、すぐに制服に着替えた。
時間を確認し、ヘルメットに手をかける。
「飛鳥坊ちゃん、学校はバイク通学禁止のはずですけども?」
「どこかに隠す! いつものように掃除とか頼みます!」
校則違反でも、今日だけはやるしかないと覚悟する飛鳥だった。
朝5時半。いつも以上に早起きをして、明日香は一人台所でそれを作っていた。
型に流し込む前に、味見をしてみる。少し苦味がする。これなら彼でも大丈夫だ。
「あとは冷やして固めるだけ……飛鳥君、ちゃんと受け取ってくれるかな?」
飛鳥が甘い物全般苦手だと言うのは、親戚として当然知っている。
その為、毎年この日はクッキーを作るようにしていたが、今年はチャレンジ精神があった。
型にチョコを流し込み、冷蔵庫に入れる。それを密かに全て見ていた母がにやついた顔をして寄ってくる。
「飛鳥ちゃんへのチョコレート? 飛鳥ちゃんって、甘い物苦手じゃなかったかしら〜?」
「ち、ちゃんと味は飛鳥君好みにしてるよ!」
「本当に飛鳥ちゃんが大好きね、明日香は。お母さん妬けちゃう!」
「お、お母さん!」
顔を真っ赤にする。母は可笑しそうに明日香の側を離れた。
「もうっ」と言いつつ、エプロンを取る。
「……でも、飛鳥君人気あるから、やっぱり他の女の子からチョコ貰うのかな……?」
そう思うと、なぜか怒りがこみ上がって来る感じがした。
「はぁ〜〜〜」
「深い溜め息だな」
教室。朝のHRが始まる前に、飛鳥は大きく肩を落としていた。
どうにか結構余裕で学校に到着し(もちろん、バイクは隠している)、どうにか逃げ切った。
しかし、下駄箱にチョコレートと思われる包み箱が三個ほどあった。
どうやら、遅かったらしい。一通り話すと、勇治は「大変だな」と返す。
「……って、お前も『フォース・コネクター』だから貰ってるだろ」
「……聞くな」
「……大変だよな、俺達」
流石に勇治の方もかなり人気があるようだ。なにせ、やや嫌なオーラがある。
お互い、『ソード&マグナム』、『フォース・コネクター』として大変な日だ、今日は。
朝のHRを告げるチャイムが鳴り、担任が教室に入ってくる。
「HR始めるぞー、ベランダに溜まってる奴らは席に着けー」
「……飛鳥、今日は別行動だ」
「……ったり前だろ、毎年の事なんだから」
互いに合図を送り、席に着く。
放課後。どうにか、チョコをあまり貰わずに逃げ延びた飛鳥は、ショップ内の喫茶店で本を読んでいた。
しかし、たまに女性が近くを歩くのを見かければ、すぐに本で顔を隠すと言う行動が見られる。
「何してるのかな〜、あすあす〜」
後ろからそう言われ、手で目隠しされる。「だーれだ?」と言う声に飛鳥は溜め息をついた。
ポンと本を閉じて答える。
「……優さん」
「あったり〜。珍しいねー、あすあすが本読んでるなんて」
「今はまってるのがあるんですよ。……って、人の本取らないでください」
「ふむふむ……『風とお前と私と』かぁ。これって、某他作品でも存在だけしていた映画の本でしょ?」
「……何ですか、某他作品って。有名で結構楽しめるんですよ、その小説」
映画にもなっているが、小説は作者の描写の書き方や、独特な表現の仕方があって十分楽しい。
「優さんも読んでみたらどうです?」
「うーん、やめとく。眠たそうな話だし」
「……眠そうなって……優さん、小説とか苦手な方――――」
「あー、『ソード・マスター』発見!」
「ヤベェ、見つかった!? 煤i ̄□ ̄;)」
「ん、どうしたの? ……あー、今日はバレンタインだっけ。ごめんね、あすあす、チョコ持って来てないや」
ガタッと席を立つ飛鳥、彼を見つけて騒ぎ出す女性達を見て、優が思い出す。
飛鳥は「いや、甘い物苦手だから別に良いですけどね」と言って、椅子に置いていたヘルメットを取る。
「んじゃ、逃げますんで失礼します!」
「ちょっと待った。せっかくファンがチョコを渡そうとしてるんだから、ちゃんと受け取りなさい」
「あんたは鬼か!?」
その言葉に、優が笑顔で飛鳥を捕まえる。その動き、わずか1秒。
「鬼? 誰が鬼かな、あすあす〜?」
(ヤベェ、言ったら駄目な事言ってしまった!?)
「堪忍しなさい、あすあす♪」
「これだからバレンタインは嫌いだぁぁぁ!」
飛鳥の叫びが、喫茶店内に響くのだった。
「はぁ……どう見ても、200個以上あるよな、絶対……」
積まれたチョコの数を見て、大きく肩を落とす。「うわぁ、先代以上ねぇー」と優は言った。
「こりゃ、ゆうゆうも大変かな。ご愁傷様」
「勝手にそんな事言わないでください」
がっくりと落ち込む飛鳥の元に、勇治がやって来る。飛鳥は勇治の持っている紙袋に注目した。
中にはチョコが入っている。しかし、どう見ても少な過ぎる。
「……一つ聞いて良いか、勇治」
「何だ?」
「何で、そんなに少ないんだよ、テメェは!」
「上手く逃げる事ができたからだ。いるか?」
「いるわけねぇだろ! つーか、チョコの山を見て物を言え!」
「俺の知った事ではない」
「だったら『いるか?』なんて聞くんじゃねぇよ、馬鹿カイザァァァッ!」
「キシャー!」と吼える。今の飛鳥は、かなり壊れていた。
ただでさえ、いつも以上にツッコミを繰り出している事もあるのだが、今日と言う日が彼を壊す。
そんな飛鳥の姿を、優は思いっきり笑い、勇治は容赦なくチョコを積まれた場所に置く。
勇治のその行動を見て、飛鳥がドライヴを取り出す。
「……勇治、そろそろEランクに落ちるか?」
「そんな気はない」
「そうそう。勇治はまだ『マグナム・カイザー』でいてくれないと。私の為に♪」
「飛鳥、これ上げるー」と言って、さらにチョコが追加される。
現『ストーム・クラウン』を担うマリアは、勇治の頬を引っ張る。
飛鳥は追加されたチョコを見て、マリアに訊いた。
「……何で、あんなにチョコ持ってるんだよ、マリア……?」
「私だって大変なのよ〜。『マリア様、これ受け取ってください!』って、女の子達からね〜……」
「ほまえもひゃいひぇんだな」(訳:お前も大変だな)
「そう思うでしょ、勇治も。私は勇治の為にチョコを作って来ただけなのにね♪」
「いや、ほへはいひゃん」(訳:いや、それはいらん)
「……ちょっと、何で即答なわけ、勇治〜!?」
マリアが勇治の頬を強く引っ張る。
「ほまえのひょひょなんざ、ふってられるか」(訳:お前のチョコなんざ、食ってられるか)
「何ですってぇ〜!? もう一度言ってみなさいよ、このこの〜!」
「……マリア、一応勇治が可哀想だから、それくらいにしとけよ」
飛鳥が勇治の姿を見て言う。マリアは「だーめ♪」と言って、さらに勇治の頬を引っ張る。
そんな三人の『フォース・コネクター』の様子を、思いっきり人事のように優は笑ってた。
「……俺らでこの調子だから、ゴウさんも大変だろうな」
「ほへはない」(訳:それはない)
「何で?」
「ふふさいのひほり、ほうさんのほはりにいた」(訳:うるさいのが一人、ゴウさんの隣にいた)
それを聞いて、飛鳥はすぐに納得した。
ちなみに、その『ディフェンド・キング』ことゴウはと言うと。
「あ、ディフェンド・キング、このチョコ――――」
「む!?」
「……あ、いえ……何でもありませんっ!」
「……紅葉、そこまで怪訝にしなくても……」
「何を言いますか! 今日と言う日は、リーダーにとって一番の厄日なんです。それだけは必ず阻止します!」
彼の率いる最強チーム『ランドライザー・コマンド』サブリーダー・紅葉が阻まんでいた。
「やれやれ、うちのサブリーダーは相変わらずだな。リーダーも大変だ」
そう言いつつ、ゴウの代理として受け取ったチョコと、紅葉を見る。
メガネをくいっと上げ、「俺も一応大変だがな」と参謀である晃鉄は不敵に笑う。
再びショップの喫茶店。勇治とマリアの分が追加されたチョコの山を見て溜め息をつく。
これだけチョコをもらうと、もう二度とチョコと言う食べ物を見たくない。そう飛鳥は思った。
「……誰か譲り受けてくれないかなぁ、これ」
一体、これほどのチョコをどうしろと言うのだろうか。
いや、一番怖いのは明日香にこの現状を見られる事だったりする。
前に、マリアがワザと頬にキスとした時、明日香からは殺気とも言えるオーラを感じた事がある。
それを再び感じてしまうのは、正直、コネクター生命どころか、本当に命すら危うい。
「……俺が知ってる中でモテなさそうなのって、骸骨騎士団くらいだしなぁ」
「誰が骸骨騎士団だ! スカルナイツだ!」
「どっちも同じ意味だろが、ボケ。……つーか、タイミング良いなぁ、おい」
チョコの山を見つつ、タイミング良く来てくれた大勢に軽く挨拶する。
違法で有名な柏木影二とゆかいな手下達――――もとい、『スカルナイツ』だ。
「ちょーど良いや、このチョコ貰ってくれ。つーか、くれてやる」
「ふっ。この僕、柏木影二は、君の倍以上貰っているからいらない」
「その肝心のチョコは?」
そう言うと、影二は目をそらす。やはり1個も貰っていないと飛鳥は判断した。
彼の後ろにいる黒スーツの手下達は、漫画のような目幅一杯の涙を流している。
「じゃあ、お前ら全員とバトルして、俺が勝ったら、このチョコ持って帰れ」
「この僕、柏木影二に命令するな! 第一、僕が勝ったらどうする気だ!」
「ありえないけど、その時はレガリアでもくれてやる」
思いっきり爆弾発言を繰り出す飛鳥だった。
――――そのバトル、両者の合意と確認しましたっ!
バトル・フィールド中心に穴が開き、そこから審判――――リュウマチ小暮が出てくる。
「ただ今より、このバトルは公式バトルと認められました。審判は私、リュウマチ小暮さんがやりますっ!」
「……審判、今回はどちらかと言うと非公式バトルだから、引っ込んで」
「な、何ですと!? 煤i ̄□ ̄;)」
強制的にリュウマチ小暮がバトル・フィールドの中に戻されていく。
「さて、うるさいのがいなくなった事だし、始めるか」
「望むところだ! この僕、柏木影二に勝てると思うなよ!」
30分後。飛鳥は清々しい笑顔で思いっきり背伸びをした。
『スカルナイツ』はと言うと、圧倒的な強さで完全敗北をし、泣き泣きチョコを持って撤退した。
「それにしても、相変わらず弱いな、あいつらも。バトル開始後5分以内で総員50体全滅だもんな」
それをやったのは、間違いなく常戦無敗を誇る飛鳥であるが。
「とりあえず帰るか。このまま居続けたら、またチョコ貰いかねないし……」
「飛鳥君っ」
帰ろうと思い、ヘルメットを持ち出す飛鳥に、タイミング良く明日香が話しかける。
胸を撫で下ろし、「良かった、間に合ったね」と言いつつ、綺麗な包み箱を渡す。
「はい、私から……」
「あ、ああ。サンキュ……いつものクッキーだよな?」
「ううん、今年は頑張ってチョコレートにしてみたの」
それを聞いて、飛鳥の顔色が蒼白になる。チョコの山を見てしまったせいか、明日香からのは期待していた。
なにしろ、明日香は自分でも食べれる菓子を作ってくれるからだ。
がっくりと肩を落とす飛鳥。それを見て、明日香が「大丈夫だよ」と言う。
「ちゃんと飛鳥君でも食べれるように、甘くないように作ってきたから」
「……いや、それは分かってるんだけどね」
もうチョコと言う存在自体を見たくないと言うのが本音である。
「……ま、一個くらいなら良いか。ちょうど帰るけど、明日香も一緒に帰るか?」
「え? う、ううん、飛鳥君バイクなんでしょ? ヘルメット持ってるし」
「予備がバイクにあるから、それ被れば大丈夫だよ。それに……」
「それに?」
「……たまには、一緒に紅茶飲みたいし。父さんから送られてきた結構上手い奴があるからさ」
頬を赤くして言う。こう言う時、蓮杖飛鳥と言う男は思いっきり馬鹿である。
明日香は「うん」と言って、飛鳥の手を握った。
「じゃあ、その時にチョコレートの感想聞かせてね」
「……う、うん」
やはり照れまくりな馬鹿マスターである。
−余談−
「あー、お兄ちゃんのチョコ作るの忘れてた!? って、私の出番これだけですかぁ!?」
「……亜美、俺は今とても悲しいぞ」
バレンタインと言う日を忘れていた亜美と、深く落ち込む馬鹿カイザーこと勇治の姿があったとか。
あとがきでコネクト!
と言うわけで(謎)、全くバトル描写のなかった『Drive-Connect!』 in バレンタインでした。
いや、最初は書く予定だったんですけどね。ネタ忘れたんで却下(滝汗
とりあえず、『フォース・コネクター』がどれほど大変なのか理解して頂ければ良いかなと。
さぁ、バレンタインの次はホワイトデーの話ですね。
では、多分書くと思う(何)ホワイトデー・エピソードをご期待ください。
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