12月25日クリスマス。飛鳥は相変わらずだった。
前日のイヴの日を明日香、美緒と過ごし、寒いので電気毛布に包まって今日はどうしようかと悩む。
「クリスマス……美緒へのプレゼントは昨日、明日香と渡したし、サンタのプレゼントは隠しているし……」
あとは、夜中にこっそりと枕元にでも置いておけば良い。
朝から出掛けようと思ったりもするが、この寒さで外に出る気もしない。
「今日は一日中寝るかな……でも、こんな時って大体……」
そう言っている矢先、聞きたくもない着信音がドライヴから響いた。
新しく設定した、Welcome! DISCOけもけもけの着うた。これを聴いて爆笑したマリアの個別設定だ。
電話に出るまで止めないと分かっている為、仕方なく電話に出る。
「もしもし……」
『飛鳥? 私は一体誰でしょう!?』
「……マリアだろ。つか、テンション高いな、こんなに寒いのに……」
『冬だから寒いのは当たり前でしょう? 今日はクリスマスよ、クリスマス!』
「……で、本題は?」
『ノリ悪いわねーーー! これから、私の家でクリスマスパーティーを――――』
「断る」
そう言って、早々に電話を切る。そして、躊躇う事もなく着信拒否に設定した。
マリアの自宅でクリスマスパーティー。間違いなく、”あれ”が出されるはずだ。
予想できているのは、勇治は絶対に強制参加されているはず。なぜ、妹の亜美を呼ばないのかは謎だとして。
「でも、まだ嫌な予感がするんだよな……クリスマスなのに」
そう思っていると、今度はメールを受信する。『ドライヴ・マスター』からだった。
「……これか、嫌な予感は」
肩を落としながらメールを確認し、さらに肩を落とす。
メールに記載されたショップに到着する事10分。”それ”を見た飛鳥は深く肩を落とした。
バトル・フィールド内に見える巨大な物体。間違いない、クリスマス・ツリーを模した超巨大ドライヴだ。
「やっぱり……つーか、以前よりも巨大になってるし……」
また、これを破壊しろと言うのであれば、色々と考える必要がある。
――――レディース・エーンド・ジェントルメーンッ!
その時、クリスマス・ツリー型のドライヴから、サンタクロースの格好をした男が姿を見せる。
「メリー・クリスマース! 本日はクリスマス特別イベントに御集まり頂き、ありがとうございます!
私はクリスマス限定審判! その名も! メリー小暮さんですっ!」
「……リュウマチ小暮だろ」
なぜ、こんなにも審判のテンションが高いのか。そんな疑問が、つい頭に過ぎる。
「つーか、ほとんど集まってないんだけど、今回……」
「それは問題御座いません!」
リュウマチ小暮――――もとい、メリー小暮が説明する。
「今回は、『主人公だけでも全然オッケー?』と言う意見が御座いましたので……」
「誰からだよ……」
無論、その犯人について飛鳥は知っているが。
「そこで、今回のキング・ザ・クリスマスUは『ソード・マスター』のみ、お願い致します!
ちなみに、全国ネットで放送されると言う事ですので、醜いバトルだけは為さらぬ様にと」
「……何だそれ……」
「では、コネクトをお願いします! ちなみに、倒せなかった場合はEランク降格と罰ゲームが御座いますので」
「罰ゲーム?」
「はい! バトル初めが終了するまで正装してバトルとの事です!」
それを聞いた途端、飛鳥の顔が引きつる。
正装。『フォース・コネクター』のみが特別ステージでバトルする際に着なければならない服。
飛鳥の正装姿は、ファンである女性達にとって、まさしく王子様。その写真の価値はオークションで凄まじい事になる。
「……ドライヴ・コネクト。セルハーツ、セットアップ」
いつもとは全く違ったテンションで、飛鳥がコネクトする。
バトル・フィールドに構築された、セルハーツ・バージョンU。
改めて、クリスマス・ツリー型のドライヴであるキング・ザ・クリスマスUを見る。その巨大さは圧巻だった。
「……これを一人で倒せと……」
「なお、今回もキング・ザ・クリスマスUを守る為に……」
「サンタクロース型のサンタ駆呂宇須之助とトナカイ型の真っ赤な火の玉鼻のトナカイがいるんだろ……」
「いえ、それだけでは御座いません」
審判の言葉に、セルハーツの前に巨大なドライヴが数体立ちはだかる。
「……おい」
「今回は、新たにキング・ゾディアックを模造した、クリスマス・ビーストも配置されております」
「いや、無理だろ! こいつら倒すのがどれだけ大変か……!」
「それでは、バトル開始! アディオーーースッ!」
そう言って、メリー小暮が逃げる。敵ドライヴが一斉に襲い掛かって来た。
「……チッ、『鷹の閃眼』ッ!」
瞳を鋭くし、敵ドライヴ全ての動き、距離、位置等の様々な情報を瞬時に把握・見切る。
ファルシオンセイバーを構え、飛鳥はその封印を解いた。
「醜いバトルだけはするな。今回のルールはそれだけだからな……全て断ち斬ってやる!」
ファルシオンセイバーの刀身が二つに割れ、光の刀身が姿を現す。
最強にして、全てを断つ剣・バスターファルシオン。飛鳥が一気に振り切る。敵ドライヴが全て両断された。
「果てしなく伸びろ、そして全てを断て、バスターファルシオン!」
光の刀身が伸びる。遥か空の彼方まで。バトル・フィールドの限界まで。
「バスタークラッシュッ!」
キング・ザ・クリスマスUを両断する。全国ネットにとって優しくない早さで、飛鳥はそのバトルを終わらせた。
「……放送する側には悪いけど、今回は流石に頭にきた」
翌日以降、飛鳥の強さに対してのクレームが大量発生し、コネクト協会の人間の休みが無くなったのは秘密である。
−別談−
「さあ、勇治。クリスマスだから、クリスマス特製真っ赤なトナカイスペシャルよ♪」
マリア宅にて、勇治の目の前に出された真っ赤なたこ焼き。その赤さは、鮮やかではない。
熟れたリンゴよりも深く、そしてなぜか輝いている。たこ焼きなのに。
顔を引きつらせながら、勇治がさり気無くたこ焼きを遠ざける。
「……何だ、これは?」
「だから、クリスマス特製真っ赤なトナカイスペシャル♪」
「なぜ真っ赤だ?」
「真っ赤なお鼻のトナカイの鼻をイメージしてみたのよ。美味しそうでしょ?」
「どこがだ……」
見るからに辛い食べ物。否、食べた後の姿が見える食べ物と言っても良い。とにかく、勇治は逃げたかった。
しかし、逃げられなかった。マリアが勇治の腕に抱きつき、勇治のドライヴを本人に見せる。
「ほら、遠慮せずに食べて食べて♪ ディル・ブラストの為にも☆」
「…………」
勇治にとって、またも忘れられない地獄だった。
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