CONNECT04.『勇治の強さ』


「きゃう!?」
 キューブの一つで、亜美の乗るエル・センティアが壁まで吹き飛ばされて力尽きる。
「キューブバトル、『チーム・エンジェル』荻原亜美VS『ゾディアック』藤堂満! 勝者、藤堂満ッ!」
『チッ、もう終わりか……』
 両腕にトンファーを装備しているドライヴを操る『ゾディアック』のコネクターが言葉を吐く。
 バトル開始から5分。少し様子を見ていたが、グランレオルトは無傷と言っても良いほど攻撃を受けなかった。
 Eランクのコネクターは弱過ぎる。今回のバトルはハズレを引いてしまった。
『……紅の野郎は負けたか。ま、今回のバトル、ゾディアックの圧勝だな』
 相手に『フォース・コネクター』がいようと、キューブバトルでは勝ち目はないだろう。
 接近戦のスペシャリストである『ソード・マスター』は勝つだろうが、他のメンバーが足を引っ張るはず。
『桐生も、何であの蓮杖飛鳥なんかにこだわるんだか……』



 バトルが開始してから5分。明日香は一歩も動かなかった。
 いや、動けなかった。目の前の相手は、飛鳥からとてつもなく強いと聞いていたから。
(……戦わなきゃ……私も、頑張らなきゃ……!)
『……まだ戦う気はない。他のバトルの経過を見せて欲しい』
 明日香の心が読めているのか、彼――――『ソディアック』のリーダー、桐生はそう言った。
 高貴なマントを纏ったドライヴが、静かにアローナディアを睨む。
『今のうちに言っておく。このベルセルクに勝てるコネクターはいない』
「……そんな事分からないと思います」
『分かる。蓮杖も昔、ベルセルクを相手に苦戦したからな』
 そう、Sランクコネクター同士だった時に。



 コクピットランサーから外へ出て、亜美は深くため息をついた。
 相手がSランクとは言え、大きなダメージを与えられなかった。
「はぁ〜ぁ……もう少し練習しなくきゃ……」
「まだコネクターになって1週間なんだから、そこまで焦らなくて良いよ」
 と、突然の言葉。亜美はびくっと驚き、隣を見る。
 飛鳥だった。バトルの結果を見ると、相手を倒して、コクピットランサーから出てきたようだ。
 飛鳥が一つのバトルの様子を見ている。
「……勇治の奴、苦戦しているな」
「え、お兄ちゃんが!?」
 再び亜美が驚く。
「キューブバトルだと、接近戦タイプのドライヴが強いんだ。勇治のドライヴは遠距離タイプ。
 しかも、ディル・ゼレイクには接近戦用のアクティブ・ウェポンがない」
「……それって、危ないんじゃ……!?」
「ああ。勇治が『マグナム・カイザー』じゃなかったら、今ごろ負けてるよ。間違いなく」
 しかし、もし勇治が負けても、このバトルは引き分けになる事は間違いないだろう。
 あくまで、桐生の目的は自分とのバトルのはず。キューブバトルでの勝利はしないだろう。
 やや涙目になって、兄が負けるのを見たくない亜美に気づき、微笑み返す。
「大丈夫。あいつはまだ本気じゃない。それに、あいつは俺の相棒だから」
 そう、誰よりも信頼できる相棒だから。



 巨大な棍棒がディル・ゼレイクを襲う。勇治はどうにか攻撃を避けていた。
 腰に装備しているレールガトリングを撃つ。高速のビーム弾が放たれた。
 敵が巨大な棍棒を使って防御する。バリアが形成され、ビーム弾を防いだ。
「……ビームシールドか」
『そうだ。ビームフィールドみたいに発動し続ける奴は嫌いだからな』
 巨大な棍棒を大きく振り上げる。
『ティターンを倒せるのは、蓮杖飛鳥でもお前でもないって事を俺が教えてやるよ!』
 巨大な棍棒からビームソードが形成される。勇治はそれを見てふっと笑みを溢した。
 確かに接近戦の相手では、あまり勝ち目が無い。しかし、逆にそれを有利に出来る。
 ティターンが棍棒を振り落とす。
『お前の負けだ、マグナム・カイザー!』
「それは俺の台詞だ」
 迫るビームソードを前に、ディル・ゼレイクが背中のゴッドランチャーを前に出す。
「発射」
 高出力のビームが放たれる。ティターンはすぐに防御した。
 ビームシールドを貫き、ダメージを受ける。その隙に勇治は相手と距離を取った。
 相手が歯を噛み締める。
『貴様ぁ!』
 ティターンのバックパックが展開する。
『うぉぉぉおおおおおおっ!』
 大型のバックパックから、ミサイルが無数に放たれた。
 ディル・ゼレイクに向かって来るミサイル。右手に持つ漆黒の銃を構える。
「……ミサイルの弾数50発。サタン・オブ・マグナム、出力を30%、速射型に設定」
 瞳を鋭くさせ、瞬時にミサイルの弾数と軌道を見切る。サタン・オブ・マグナムが轟音を上げた。
 ミサイルを全て撃ち落とし、勇治が言葉を続ける。
「出力50%に設定。お前の負けだ」
 ディル・ゼレイクが、まるで意思を持っているかのように相手を睨んだ。



 勇治のバトルを見て、亜美は目を大きく開いていた。
 間違いなく、かなりの数のミサイルを撃ち落とした。それも、簡単そうに。
 兄が有名なのは分かるが、ここまで凄いとはとても信じられない。
「あれが、『狙撃の瞳(ターゲット・アイ)』。勇治の持っている資質だよ」
「え!?」
 隣で飛鳥が説明する。亜美はびくっと驚いた。
 瞬間的に標的を定め、確実に捉える『マグナム・カイザー』の資質。
 それさえあれば、大量のミサイルを前にしても恐れる事はない。
「それにしても、あの馬鹿、やっぱり遊んでいたな」
 相手の動きを見ていたとは思うが、ツインゴッドランチャーを撃った時に分かった。
 ツインゴッドランチャーは、飛鳥のセルハーツに装備している軽量型などと違い、エネルギーの消費が多い。
 それを平然と撃つのは、普通遊んでいる時くらいだ。いつもの事である。
「亜美ちゃん、とりあえずあの馬鹿は強い。馬鹿だけど」
「……馬鹿は変わらないんですか?」
「馬鹿は馬鹿だから」
「なるほど」
 兄の事を酷く言われているのだが、それでも納得してしまう彼女だった。



 相手は信じられなかった。ミサイルを全て撃ち落とされて。
 ディル・ゼレイクが再びサタン・オブ・マグナムを放つ。
『この!』
 棍棒を盾にし、ビームシールドで防――――げなかった。
『何!?』
「無駄だ。サタン・オブ・マグナムの弾はビーム兵器ではない。実弾兵器でもないがな」
 相手を睨みつけ、サタン・オブ・マグナムの出力を上げる。
「フルパワーショット。これで終わりだ」
 放たれる巨大な一撃が、ティターンを呑み込む。決着は呆気なかった。
 相手が倒れた事を確認し、審判が判定を下す。
「キューブバトル、『チーム・エンジェル』荻原勇治VS『ゾディアック』磐梯邦明! 勝者、荻原勇治ッ!」
 バトルに勝利しても、勇治は相変わらず無表情だった。



「……ったく、遊んでんじゃねぇよ、馬鹿」
 コクピットランサーから降りた途端、飛鳥が勇治と手を叩く。
 馬鹿、と言っているものの、やはり最強のコンビである二人は、親友同士だった。
「これで、あとは奴が倒されるだけだな」
「いや、桐生は負けない。なにせ、あいつは強いからな」
 それに、桐生とバトルするのは明日香だ。間違いなく、明日香は負ける。
 相手はSランクでもSRランクのコネクターを倒せるほどの実力者だ。
 バトル・フィールドを囲むギャラリーが歓声を上げる。飛鳥はすぐにモニターを見た。
「な……!?」
 目を見開く。そこには、壁にのめり込んでいるアローナディアの姿があった。
 そんなアローナディアの頭部を握る桐生のベルセルク。
「キューブバトル、『チーム・エンジェル』星川明日香VS『ゾディアック』桐生彰! 勝者、桐生彰ッ!」
「桐生の勝ち……いや、それよりも……、くそっ、桐生の奴……!」
 どことなく湧き上がる怒りと不安が、飛鳥に戸惑いを与える。

 この時、桐生が静かな笑みを浮かべていた事は、まだ誰も知らない……。



次回予告

 こんにちは、亜美です!
 明日香さんが負けてバトルは引き分け! あ、あの、飛鳥さん、落ち着いて……。
 って、飛鳥さんが戦う事になるんだけど……えぇ!? な、何なんですか、あのドライヴ!?

 次回、CONNECT05.『ソード・マスターVS獣帝』

 ドライヴ・コネクト! え、まだ飛鳥さんは本気じゃない!?



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