審判の判定が下りた瞬間、飛鳥はすぐにコクピットランサーの方に向かった。 外部からコクピットランサーを開く。気を失っている明日香の姿がある。 「明日香……明日香!」 呼び掛ける。明日香はゆっくりと瞳を開けた。 「……飛鳥……君……」 「大丈夫か!? い、いや……軽く頭を打ってるかも……」 「ごめ……んね……。負けちゃった……」 「何言ってるんだ! ……あとは俺に任せろ。だから、少し休め」 「……うん……」 明日香に聞こえないほど小さな声で、「ごめん」と呟く。 そして、桐生を睨んだ。 「……桐生、手加減はしなかったようだな」 「ああ。相手がCランクと言えど、全力で戦わせてもらう」 「そうか」 ドライヴを目の前に出す。 「俺とのバトルが狙いだろ? だったら、すぐにでも決着をつけてやる!」 「望むところだ。進化した『獣帝』を見せてやる」 「え……えっと……良いの、お兄ちゃん?」 「異論はない。それに、俺でも奴には勝てん」 飛鳥と桐生のやり取りを見つつ、勇治が言う。亜美が「えー!?」と大声を上げた。 「勝てないって、お兄ちゃんが!?」 「そうだ。悔しいが、接近戦において、桐生の強さは飛鳥に迫るほどだ」 まだ、『ソード・マスター』になる前――――Sランクの飛鳥が苦戦した相手。 今の飛鳥では、どうなるのか分からないように思えるが、桐生もあれから強くなっているはず。 間違いなく、飛鳥は『ソード・マスター』として、苦戦を強いられるだろう。 「あ、あのー……」 審判のリュウマチ小暮が勇治に言い寄る。 「勝手に話が進んでいますが、代表者は……?」 「蓮杖飛鳥だ。もう両者合意していると思うぞ」 その言葉に偽りはない。飛鳥と桐生は、お互いにバトルを意識している。 審判が少しだけ咳を吐く。 「えー、キューブバトルによる結果は引き分けにつき、代表戦にて勝敗を決めます。 代表者、『チーム・エンジェル』は蓮杖飛鳥! 『ゾディアック』は桐生彰でよろしいですね!?」 「ああ」 「問題ない」 両者、答える。 「それでは、代表者はコネクトを!」 「ドライヴ・コネクト! セルハーツ、セットアップッ!」 「ドライヴ・コネクト」 同時にコクピットランサーに接続する。 バトル・フィールドは荒れ果てた大地をイメージした場所だった。 セルハーツが構築され、飛鳥は目の前に構築されていく桐生のドライヴを待つ。 「……!」 構築されていく目の前のドライヴの大きさに、目を見開く。 巨大な爪と牙を持ったサーベルタイガー。背中には、巨大な砲身が剥き出しになっている。 それは、どう見てもベルセルクと言う桐生のドライヴではなかった。 セルハーツの5倍はあると思われる巨体が、ゆっくりと動き出す。 『キング・ゾディアック。それが、このドライヴの名だ』 「……それが、進化した『獣帝』か?」 『そうだ。お前がソード・マスターとして強くなったように、俺も新たな力を得た』 キング・ゾディアックが巨大な爪を振り下ろす。セルハーツはすぐに避けた。 刹那、物凄い勢いでキング・ゾディアックが迫り、再び爪が振り下ろされる。 「この……!」 瞳を鋭くさせ、その動きを見切る。飛鳥は距離を取って軽く息を吐いた。 強い。SRでトップクラスのコネクターより、数段上の実力だ。 キング・ゾディアックと言うドライヴを手に入れた事で、桐生はその強さを上げている。 「エアブレードッ!」 剣を振るい、風の刃を放つ。キング・ゾディアックの前足に直撃したが、それほどダメージはなかった。 かなりの機動性を持った巨体は、それ相応の装甲も持ち合わせている。 『どうした? その程度でキング・ゾディアックに傷をつけたつもりか?』 「…………」 桐生の言葉に、飛鳥は黙る。 セルハーツとキング・ゾディアックのバトルは、セルハーツが不利な状態だった。 二人のバトルをモニターで観戦する亜美が焦る。 「あ、飛鳥さん、負けちゃうよ!?」 「焦るな。それに、飛鳥が負ける事がまずない」 勇治には分かっていた。セルハーツのパワーゲージは減っていない。 いや、減る事はないのだ。周りから見れば不利な状態に見えるが、それは飛鳥が寸前で避けているだけだ。 まだ全力ではない。少なくとも、ドライヴ=レガリアの力に頼っていない。 「まだ飛鳥は全力で戦っていない。このバトル、飛鳥は勝てる」 「え、飛鳥さん、まだ本気じゃないの!?」 少しきつい。飛鳥はそう思った。 キング・ゾディアックは、機動性や装甲が高くて、普通に戦ってもまともなダメージを与えられない。 『この程度か、蓮杖。お前は、ソード・マスターになってから弱くなったな』 キング・ゾディアックが背中の砲身をセルハーツに向ける。 『蓮杖、お前の負けだ』 「……誰が負けだって?」 桐生の言葉に飛鳥が返す。セルハーツが剣を構えた。 ドライヴ=レガリアである『ファルシオンセイバー』が、わずかだが光を放っている。 「……見せてやるよ、俺の本気を。ここからが、全力勝負だ!」 ファルシオンセイバーを空へと向ける。 「ファルシオンセイバー、封印解除ッ! バスターファルシオン、グローアップッ!」 飛鳥の言葉に反応し、コンピュータが『OK!』の文字を表示する。 ファルシオンセイバーのやや横幅が広い刀身が真ん中から綺麗に割れ、横に開く。 刀身があった部分にエネルギーが集まり、燃え上がる青いビームソードが姿を見せた。 セルハーツの全長と同じくらいの刀身。セルハーツがその剣をキング・ゾディアックへ向ける。 「……バスターファルシオン。こいつを本当の姿にさせたのは、お前で二人目だ」 『それがお前の全力か。ならば、こちらも本気で挑むまでだ!』 キング・ゾディアックが巨大な爪を振り下ろす。セルハーツがバスターファルシオンで受け止めた。 否、巨大な爪を根元から切り刻んだ。それも簡単に。 『何……!?』 「フラッシングソードッ!」 瞬間的に斬撃を繰り出す。背中の砲身が吹き飛んだ。 本気を出した飛鳥の強さは圧倒的だった。桐生がやや目を大きく開く。 セルハーツが距離を取る。キング・ゾディアックが口元にエネルギーを集中した。 『これをくらえ! アルティメット・ロンギヌス!』 放たれる怒涛の波動。セルハーツがバスターファルシオンでそれを受け止めた。 『受け止めただと!?』 「全てを断て、ファルシオン!」 波動を両断する。飛鳥は次の一撃で決めようと思った。 バスターファルシオンを構え、エネルギーを集中させる。 「これで……ラストだ!」 バスターファルシオンの刀身がさらに伸び、セルハーツがそれを振り上げる。 刀身の長さは、セルハーツの全長の6倍以上に伸びていた。 「バスタァァァ、クラァァァシュッ!」 振り下ろす。巨大な刀身がキング・ゾディアックの巨体を両断した。 『何……ゾディアックが負けるだと……!?』 「……俺は勝ち続ける! それが、俺の目指した道だからな!」 「勝者、蓮杖飛鳥! よって、このバトル、『チーム・エンジェル』の勝利ぃぃぃっ!」 審判の判定が下されてから、飛鳥は置いてあるベンチに座っていた。 恥ずかしいが、安らかな寝息を立てている明日香を膝枕にして。 「……にしても、勇治の馬鹿、こう言う時だけ気を回してんじゃねぇよ」 バトルが終わって、すぐに勇治は「邪魔者は去る」と言って、妹の亜美とすぐに帰ってしまった。 こう言う時だけ、あいつは気を回す。やはり、馬鹿としか言い様がない。 明日香の髪を少しだけ撫でる。すると、ゆっくりと明日香が目を覚ました。 「う……ん……?」 「起きたか?」 「え……!?」 すぐ視界に入ったのは、飛鳥の顔。明日香は自分が今どうなっているのか分からなかった。 焦り、そして頬を朱色に染めて混乱する。 「え、あ、あ、飛鳥君!? な、何!? ば、バトルは!?」 「落ち着け。とりあえず、バトルは俺達の勝ち」 明日香の撫でつつ、飛鳥が言う。明日香はさらに頬を赤くした。 「あ、飛鳥君……くすぐったい……」 「大丈夫か? バトルの時、強く頭打ったろ?」 「う、うん……でも、飛鳥君がこうしてくれてるから……大丈夫……」 飛鳥の手を握る。冷たくて、温もりのある手。 飛鳥はそんな明日香の行動に、少しだけ頬を赤くした。 「飛鳥君、もう少しだけこのままにしてくれる?」 「……それは勘弁してくれ。恥ずかしいから」 「だーめっ。うふふふふふふっ」 恥ずかしがる飛鳥を、明日香は可笑しそうに笑っていた。 次回予告 こんにちは、明日香です。 最近、周りで『ソード&マグナム』の悪い噂を良く聞くの。 でも、飛鳥君は最近、テスト勉強に励んでいるんと思うけど……? 次回、CONNECT06.『ソード&マグナムの偽者』 ドライヴ・コネクト! 飛鳥君の偽者は、私がどうにかしなきゃ! |
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