「ソード・マスター、サインください!」 「ソード・マスター、ずっと好きでした! 付き合ってください!」 「ソード・マスター、写真撮りましょう、写真!」 「ソード・マスター――――」 7月末。夏休みに入って、飛鳥は毎日同じような状態を迎えながら、バトルを繰り返していた。 そして、明日香は不機嫌だった。 「あ、明日香さん、怒ってます……?」 「……別に怒ってないよ。飛鳥君のバカ……」 「あ、あははは……」 亜美が苦笑する。今朝からこの調子である。 「それにしても、飛鳥さんの人気って、夏休みに入って一気に上がったね」 「夏休みだからな。それに、ゾディアック戦で久しぶりにバスターファルシオンを使ったのもある」 まだ、飛鳥も二度しか使った事のない最強の剣『バスターファルシオン』。 レガリアの一つ『ファルシオンセイバー』の真の姿であるそれは、人気の一つでもある。 「……しかし、今の飛鳥は昔とは違うんだがな」 「何か言った、お兄ちゃん?」 「いや、何も」 ニットキャップをかぶり直し、勇治は飛鳥に連絡を取ろうとした。 しかし、繋がらない。どうやら、飛鳥はまだバトルでもしているようだ。 「バトル中か」 「飛鳥のバトル? それじゃあ、観に行かなきゃね」 「今から行く。……なぜ、ここにいる?」 そう訊くと、彼女は後ろから「気にしない、気にしない」と、勇治の頬を引っ張っていた。 サングラスをかけ、ベレー帽をかぶっている。腰まで届く長い金髪が目立つ。 そして、ノースリーブとジーンズで決めているその姿は、周りの男を魅了していた。 亜美は勇治の頬を引っ張る彼女に驚く。 「え!? お兄ちゃんの頬を引っ張ってる!?」 「ん? 勇治、この子が前に言ってた妹さん?」 「そうだ。それがどうした?」 「これまた似てないわね〜。あ、私はマリア=ローゼニ。よろしくね〜」 「あ、はい。……って、す、『ストーム・クラウン』の人!?」 亜美の驚きように勇治は「これでもな」と小さく言う。それをマリアは逃していなかった。 引っ張っている勇治の頬をさらに引っ張る。 「勇治〜」 「まえのばひょるみひゃが、くへんするな」(訳:前のバトル見たが、苦戦するな) 「それを言うかな〜。それに、自分の恋人の事を悪く言わない方が身の為よ〜」 「ひゃれがほいびとだ」(訳:誰が恋人だ) 「え!? お、お兄ちゃんの恋人!?」 明日香は一人、勇治達から離れてバトルを見ていた。 飛鳥が『フォース・コネクター』の中で一番の人気があると言うのは分かる。 けれど、なぜか納得できないのだ。複雑な乙女心である。 「はぁ……」 「溜め息つくと、素敵な顔が台無しですよ」 「え……?」 振り向く。一人の女性がいた。 肩より少し下まで伸ばしている綺麗な金髪。大人しそうで、フリルのついた服は、とても輝いていた。 容姿端麗。そう言える人。 「星川明日香様、ですよね?」 「……あなたは?」 「私はセレナーデ=ウィンダリナと申します。あなたの事は、いつも飛鳥様から伺っております」 「飛鳥君から?」 途端、心が痛かった。彼――――飛鳥の事をセレナーデと名乗る人は知っていたから。 飛鳥との関係がある人。セレナーデが微笑む。 「あの……よろしければ、私とバトルして頂けないでしょうか?」 「え……!?」 彼女の言葉に、明日香は驚くだけだった。 ファンから逃げ切り、自販機で買った紅茶を飲みつつ、飛鳥は溜め息をついた。 正直、疲れた。『ゾディアック』の桐生と戦ってから、ファンが増えている。 「……明日香の事だから、多分怒ってるんだろうなぁ。どう機嫌を直してもらうか考えよう」 しかし、夏休みに入って、意外と平和だった。バトルをしていて実感する。 長い休みに入って、奴らが動かないはずが無い。必ず動くはずだと思っていたが、まだ何も起こらなかった。 このまま平和な日々が続けば良いのだが、そろそろ奴は本気で動き出すはずだ。 なにせ、先代の『ソード・マスター』の頃から、5年以上も阻止されているのだから。 「ん? アラーム音……ドライヴのバッテリーは昨日の夜に充電したはずだけど……」 アラーム音に気づき、ドライヴをポケットから取り出して確認する。 バッテリー切れによるものではなく、それは、奴らの誰かに反応していたからだった。 「これは……動き出していたか、やっぱり!」 飲みかけの紅茶を。もったいないと思いつつゴミ箱に捨て、飛鳥はドライヴの調子を確認する。 「飛鳥様の作ったドライヴを持つ者同士、バトルをしませんか?」 「え? じゃあ、セレナーデさんも飛鳥君にドライヴを……!?」 ズキリと心が痛む。セレナーデは大袈裟に首を横に振った。 「あ、でも、あれは仕方なく私のドライヴが壊れただけだったので……」 「そう、なの……」 「はい。ですから、飛鳥様が純粋に作り上げたドライヴを見てみたいんです」 「……別に良いけど……」 嫌だ、と言いたかったが、彼女の持っているドライヴを見てみたかった。 飛鳥が手がけたドライヴ。アローナディアとは違ったドライヴがどんなものか、見てみたい。 ――――そのバトル、両者の合意と確認しましたっ! バトル・フィールド中心に穴が開き、そこからタキシードを纏ったおじさんが出てくる。 「ただ今より、このバトルは公式バトルと認められました。審判は私、リュウマチ小暮さんがやりますっ!」 「…………」 「今回のバトルはシングル戦。どちらかが先に倒れるか、降参するかで勝敗が決まります!」 タキシードのネクタイを締め直し、審判がビシッと決める。 「それでは、両者、コネクトを!」 この時、セレナーデは静かに不敵な笑みを浮かべていた。 ドライヴでゲームを楽しみつつ、勇治はどうにかして、マリアから逃れようか考えていた。 しかし、全く思いつかない。いや、亜美がマリアと仲良く話し込んでいる為に、術が全くなかった。 「それじゃあ、マリアさんはお兄ちゃん達の前から『フォース・コネクター』だったんですか?」 「そうよ。でも、それから3ヶ月くらいで勇治が『マグナム・カイザー』になちゃったけどね」 「こんなので、良く『ストーム・クラウン』になれるものだ」 勇治が呟く。マリアは瞬時に勇治の頬を引っ張る。 「優さんが手加減しなかったら、『マグナム・カイザー』になれなかったのは誰だったかしら〜?」 「誰が手加減していたと言うんだ? 先代とは全力でバトルして、俺が勝った」 「良く言うわね、SRに上がるまでに9ヶ月もかかってるくせに〜」 「それって、結構早いんじゃ……?」 「飛鳥に負けていなければ、あと1ヶ月は早くSRに上がっていた」 Aランクだった頃、わずか半月でCランクに上がった飛鳥とバトルをして負けた。 互いに全力をぶつけたバトル。そして、互いの実力を認め、コンビを組む事を決める事になったバトル。 飛鳥と言う男は、1ヶ月と言う短い間にAランクにまで上がった天才だ。 そんな相手とバトルしなければ、あと1ヶ月は早くSRにランクアップしている。 「そんな事より、マリア。ドライヴの反応に気づいているか?」 「……当然でしょ。はぁ、今まで動きが無かったと思ったのに、やっぱり動くわけね、あいつらも……」 紫の戦乙女。セレナーデのドライヴはそんな感じだった。 そして強い。アローナディアのシールドウイングによるバリアは、あまり通用していない。 『ヴォルト・ビュート』 電流の走る鞭が振るわれる。アローナディアのシールドウイングの右側が破壊された。 マルチビームライフルを撃つ。しかし、すぐに避けられた。 セレナーデが静かに笑みを溢す。 『飛鳥様の手がけたドライヴにしては、それほど強力なものではないですね』 「……それは、私がまだ……」 『まだ、そのドライヴの強さを引き出していないと言うんですか? けれど、それがあなたの限界なのです。 ドライヴに振り回される。そう、弱者です』 「……!」 セレナーデのドライヴが、さらに鞭を振るう。刹那、一閃の刃が襲い掛かった。 綺麗な弧を描いている風の刃。セレナーデはそれを避け、そのドライヴを確認する。 鮮やかな青い塗装の施された装甲のドライヴ。『ソード・マスター』の証である剣。 明日香がそれを見て目を見開いた。 「飛鳥君……!?」 「明日香、すぐにコネクト・アウトしてくれ! こいつは……『ダーク・コネクター』だ」 「え……!?」 『意外と駆けつけるのが早いですね、ソード・マスター』 セレナーデが不敵に笑う。明日香にはさっぱりだった。 飛鳥が簡単に説明する。 「細かい事はいつか話す。コネクターの中には、ドライヴの世界を征服しようと考えている奴らがいる。 それを俺達は『ダーク・コネクター』と呼び、今目の前にいる敵は、幹部と呼ばれる存在だ」 「ダーク……コネクター……?」 『そう。私こそ、ダーク・コネクター幹部が一人、ヴォルト・デュラハン』 電流の流れる鞭を構える。飛鳥がファルシオンセイバーを大きく振るった。 大気が震え、飛鳥が鋭く睨みつける。本気だと明日香は感じた。 飛鳥のドライヴ――――セルハーツが空高く跳躍する。 「エアブレード! フラッシングソードッ!」 『ヴォルト・リアクト。ヴォルト・アロー』 鞭で風の刃を受け止め、鞭を手にしていない方の手から電撃を放つ。 『一気に仕留めます。ヴォルト――――』 「バーンってね」 遠くから向かってくる一直線の波動。ヴォルト・デュラハンは素早く避けた。 瞬間、連続で弾丸が直撃する。それを見て、飛鳥は「遅かったな」と言葉を吐いた。 遠くから構えている『マグナム・カイザー』の勇治が乗るディル・ゼレイク。 そして、竜の翼を持った女性型のドライヴがそこにいた。 「良く言うわよ、飛鳥。あなたも今来たばかりでしょ?」 「まぁな。とっとと片付けるぞ。この事を、『ディフェンド・キング』にも伝える必要があるし」 「ラジャー。勇治、一気に片付けるって」 「分かった」 ディル・ゼレイクが足を固定させる。顔の部分にスコープが搭載された。 サタン・オブ・マグナムを構え、『狙撃の瞳』で狙いを瞬時に定める。 「スナイパーショット」 放たれた弾丸。ヴォルト・デュラハンの右腕を奪った。 『――――!? 早い!?』 「マリア!」 「一気に接近ね。あれを使うんでしょ?」 「ああ。行くぞ!」 セルハーツと、マリアの乗るムササビ丸が武器を構える。 ヴォルト・デュラハンを真ん中に、セルハーツが真下、ムササビ丸が真上に。 「『スキル・プログラム』発動! 唸れ、烈迅たる刃!」 「輝きのソル・ワルツ♪」 二人の斬撃が上下から繰り出される。ヴォルト・デュラハンの機能が低下した。 セルハーツが剣を構え直す。ヴォルト・デュラハンは己の危機を感じた。 『くっ……今回は退きます。しかし、忘れないでください。私達は動き出した事を!』 ドライヴが姿を消す。逃げられた。 「……逃げられたか。けれど……下っ端より先に幹部が動き出すなんてな……」 結果、バトルはダーク・コネクターの存在が認められ、無効となった。 マリアが下を向いている明日香の肩を抱く。 「そんなに落ち込まなくて良いよ」 「でも……」 「今回は仕方ないのよ。ダーク・コネクターって言っても、普通の人間なんだから」 アローナディアの破損状態を調べ終え、飛鳥が自分の持っている予備のドライヴを渡す。 「結構やられてるから、しばらくはグロウファルコンを使ってくれるか?」 「う、うん……。ごめんね」 「謝るなよ。アローナディアはちゃんと直るから」 けれど、飛鳥はアローナディアの状態を見て確信した。 明日香がCランクより上のランクに上がれないのは、明日香の実力の問題じゃなかった。 明日香の操作レベルが、アローナディアの限界値を超えている。 作り直すしかない。明日香に合わせた、新しいドライヴに。 「けど、飛鳥もマメだよね〜。明日香ちゃんの為だったら、例え火の中、水の中って感じで」 「え?」 「知ってた? 飛鳥って、他の女の子から海とかに誘われても、明日香ちゃんが恐いから断ってるのよ」 「って、マリア、何を言い出してる!? ……って、明日香!?」 明日香から感じる怒りに、飛鳥は脂汗を浮かべる。 「……飛鳥君なんて、やっぱり大嫌い!」 「って、マリアの嘘を信じるなよ!?」 「あながち、嘘じゃないでしょ?」 「嘘に決まってるだろが!」 マリアの一言は、飛鳥にさらなる疲労感を与えた。 次回予告 こんにちは、明日香です。 飛鳥君と海に行ったら、飛鳥君の知り合いの人に出会ったの。 ……え? 先代のマグナム・カイザーとストーム・クラウン!? 次回、CONNECT09.『綺麗な薔薇に棘があるのは当たり前』 ドライヴ・コネクト! 飛鳥君、顔色悪いよ……? |
<< CONNECT07. CONNECT09. >> 戻る トップへ
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||