CONNECT10.『フォース・コネクターの長』


 前略

 久しぶり。元気にしているか? こっちの方は、相変わらず忙しくて、寝る暇もありゃしない。
 ようやく、こうしてメールができる位だ。まぁ、慣れたんだがな。

 ゴウから話は聞いた。早くも幹部が動くなんてな……俺も正直驚いている。
 けれど、お前なら大丈夫だと俺は思ってる。なにせ、俺に勝った奴だからな。

 あと1ヶ月くらいで、ようやくそっちに帰って来れると思う。
 飛鳥、”絶望へ誘う者”には気をつけろ。

「……『絶望へ誘う者』、か」
「飛鳥君、誰からのメール?」
 朝9時。リビングでのんびりと受信メールを見ていた飛鳥は、そう訊いてきた明日香に答える。
「輝凰さん。あと1ヶ月くらいで帰って来るって」
「そうなの? じゃあ、三年振りに会えるんだね」
「ああ」
 嬉しそうに頷く。輝凰とは、先代の『ソード・マスター』だ。
 飛鳥にその座を渡してからは、医者の勉強の為、アメリカへ留学している。
「ところで……」
 テーブルの向かいの椅子に座り、ティーカップに注がれているミルクティーを飲む明日香を見る。
「……何で、朝っぱらからいるんだよ?」
「え? ああ、えっと……今日はバトルがあるから、飛鳥君を呼びに来たの」
「バトル? どこと?」
「えっとね……『ランドライザー・コマンド』って言う……」
「……マジ?」
 唖然とする。『ランドライザー・コマンド』は、チーム戦で1位、2位を争うほどの強豪チームだ。
 リーダーは『フォース・コネクター』の一人、『ディフェンド・キング』である為か、その人気は高い。
「……勇治の奴しかいないか。こう言う事をするのは」
 有名なチームとバトルすると言う事は、間違いなく勇治が関係しているはずだ。
「あの野郎、また勝手にバトルの相手決めて……」と、渋々愚痴を溢す。
 そんな飛鳥の姿を見つつ、明日香は持っていたドライヴを見ていた。
 飛鳥が『ソード・マスター』になる前まで使っていたドライヴ。それを見ていると、自分は小さい存在だった。
「……飛鳥君、アローナディアの方はどうなってるかな?」
「ああ……シールドウイングの損傷が意外と酷いから、まだ時間がかかると思う。
 やっぱり、今のままじゃグロウファルコンは難しいよな?」
「う、うん……アローナディアと比べて、機動性が高いから……」
「少し調整して、操作を教えるよ。バトルは昼頃だろ?」
 そう言って、飛鳥はグロウファルコンを入れているドライヴを受け取った。



 この日、彼女は特訓に励んでいた。今日戦う相手を知っているが為に。
 そんな彼女の相手をしつつ、彼は苦笑する。
「紅葉、そこまでにしないか? 他のメンバーが可哀想だ」
 そう言いつつ、周りを見る。彼女の特訓で倒されたメンバーのドライヴがいくつもあった。
 紅葉と呼ばれた彼女が首を横に振る。
「いえ、まだお願いします! 自分は、今回のバトルで『ソード・マスター』に勝利してみせます!」
「しかし、紅葉……」と言葉を続けたのだが、全く彼女は聞いていなかった。
 今の『ソード・マスター』の存在は、彼女の闘争心に火をつけてしまう。
 彼は溜め息をつきつつ、静かに構える。
「紅葉、これを最後にしよう。そろそろドライヴの調整が必要だからな」
「はいっ! それでは、参らせて頂きます、リーダー!」



「あ、飛鳥さんと明日香さん」
 昼頃。飛鳥と明日香は、ショップのレジで買い物をしている亜美と会った。
 飛鳥が亜美の買った物を見る。アクティブ・ウェポンのようだった。
「何を買ったの?」
「ロングプラズマセイバーです。お兄ちゃんに貰おうと思ったんですけど、持ってなくて」
「ロングプラズマセイバー? 俺に言ってくれれば、ちょうど二つ持ってるのに」
「え!?」
「しかも、エネルギー出力を抑えたロングプラズマセイバー2」
「ええ!?」
 亜美が二度驚く。そして、深く肩を落とした。
「せっかく、今まで貯まってたポイントで買ったのに〜……」
「ははは……。ところで、勇治は?」
「あ、お兄ちゃん、今日は『マリアに呼び出された』って言って、どこか出掛けちゃいました」
 そう聞いて、飛鳥は苦笑する。「あいつに呼び出されたら、断ろうにも断れないからなぁ」と言いつつ。
 亜美がドライヴを取り出す。
「今日は頑張って勝ちましょう、明日香さん!」
「うん。頑張ろうね、亜美ちゃん」
「……いや、『ランドライザー・コマンド』相手に勝つ可能性って、かなり低いんだけど……」
 チーム構成など、全て知っている飛鳥は苦笑いを浮かべるしかなかった。



「遅い! 一体、自分達をどれほど待たせる気でしょうか!?」
「まだ10分前だ。いきり立つのは止めた方が良い」
 やや短めのセミロングの黒髪が目立つ彼女に、細メガネをかけている顔立ちの良い彼が言う。
 そして、大柄な男が苦笑する。
「今日のバトルは、『向こうの練習に付き合う』と言う形になっている。それを忘れたらダメだよ、紅葉」
「練習ですか!? 私達『ランドライザー・コマンド』とのバトルが練習だと言う事ですか!?」
「今回はね。それに、まだチーム戦の正式トーナメントは開かれていないよ。そうだろ?」
「うっ……」
 本当の事を言われる。確かに、まだチーム戦の正式トーナメントは開かれていない。
 しかし、自分達のチームは1位、2位を争うほどの強豪チームだ。練習相手にされるのは、流石に抵抗がある。
 そんな怒りを抱いていたところ、彼らは姿を見せた。
「こんにちは、ゴウさん」
「やあ。今日は、僕達は関係ないけれど、楽しくやろう、飛鳥君」
「『ソード・マスター』蓮杖飛鳥!」
 飛鳥がゴウと呼んだ大柄の男の前に、今回のバトルに不満を持つ彼女が前に立つ。
「今日こそは、あなたに勝利し、その座を貰い受けます!」
「……いや、今日は俺、バトルの予定ないんだけど」
「何を言いますか! 今日のバトルはチーム戦。ランクは関係ないはずです!」
「紅葉、今日のバトルはチーム戦ではなくて、コンビバトルだ」
「え!?」
 ゴウのその言葉に、彼女――――鳴澤紅葉(なるさわ くれは)は目を見開く。それを見て、ゴウは頷いた。
 飛鳥の隣に立つ明日香と亜美に一礼する。
「『ディフェンド・キング』のゴウボーグ=レンダリムだ」
「あ、はい。飛鳥君から話は聞いてます」
「お兄ちゃんから聞いてます! 今日は、よろしくお願いします! えっと、ゴウボーグさん」
「ははは。ゴウで良いよ。皆はそう呼んでいるから」
「リーダー! コンビバトルだなんて、一体どう言う事ですか!? 私は聞いてません!」
 和もうとしたところで、紅葉が怒鳴り声を上げる。ゴウは困った顔をして答えた。
「紅葉、僕の話を最後まで聞いていなかったのかい?
 僕は『飛鳥君達のチームのリーダー、サブリーダーとバトルする事になった』と言ったはずだよ?」
「それは聞きました。だからこそ、『ソード・マスター』とバトルができるんでしょう!?」
「……あー、俺、チームリーダーじゃないんだけど」
 そう言うと、紅葉が「え!?」と驚く。亜美が恐る恐る「私がリーダーです……」と手を上げた。
 細メガネの男が溜め息をつく。
「……やれやれ。そんな事も知らなかったのか、うちのサブリーダーは」
「うっ……」
「今回のバトルは、紅葉と晃鉄、頼むぞ」
 ゴウが言う。細メガネの彼――――佐々木晃鉄(ささき こうてつ)は頷いた。
「分かりました」
「リーダーは?」
「僕は、飛鳥君と話しがある。紅葉、相手が低ランクとは言え、油断はするな」
「分かっています。自分は、『ランドライザー・コマンド』のサブリーダーとして、全力を尽くします」

 ――――バトルですか? バトルですね!? 合意と確認しましたっ!

 バトル・フィールド中心に穴が開き、そこからタキシードを纏ったおじさんが出てくる。
「ただ今より、このバトルは公式バトルと認められました。審判は私、リュウマチ小暮さんがやりますっ!」
「……うわ、いつも以上に張り切っているな、あの人。そうだ、明日香」
「何?」
「えっとな……」
 飛鳥が明日香の耳元で何かを説明する。明日香は目を見開いた。
「ええ!? 私じゃ無理だよ……」
「大丈夫だって。その為に、グロウファルコンを明日香に合わせたんだから」
「で、でも……」
「少しでも、Aランクの強さを知っておいた方が良いよ。今後の為にも」
「う、うん……」
 小声で何かを話している二人。
 そんな二人を見て、亜美が「飛鳥さん達、本当に付き合ってないのかな?」と呟いた。
 紅葉達はすでにセットアップを始めている。
「あ、明日香さん。私達も早くセットアップしないと……」
「う、うん、そうだね。飛鳥君、とりあえずやってみるね?」
「おう。頑張れ、明日香」
 親指をぐっと立て、飛鳥は応援した。



 草原のバトル・フィールドに、二体のドライヴが構築される。
 中世の騎士と言うより、女性らしい緩やかな曲線により、神話等に登場する戦乙女のような深紅の機体。
 そして、武人のフォルムで、黒色の装甲が特徴の機体。深紅の機体に乗る紅葉が、状態を確認する。
「クリムゾン・ティアーズ、各部異常なし。参謀はどうですか?」
「スキルヴィングも正常だ。あと、いつも言っていると思うのだが……」
「参謀は参謀です。いくら、あなたが自分のサポートとは言え、名前では呼べません」
 その言葉に、スキルヴィングに乗る晃鉄は「参謀と呼ばれるのは、少し抵抗があるんだがな」と呟いた。
 紅葉が軽く深呼吸をする。
「参謀、自分は星川明日香さんの相手をしようかと思います」
「さっきの『ソード・マスター』との会話のやり取りが気になっているのか?」
「はい。彼が何を指導したのかは分かりませんが、全力で戦いたい」
「分かった。今回はコンビバトルだが、シングルと同じ形に持ち込もう」



「さて、いよいよバトルが始まるね。飛鳥君は、亜美ちゃん達に勝機はあると思うかい?」
「どうでしょうね。明日香には、ちょっとした事を教えましたけど、晃鉄さんには勝てそうにない」
 ショップ内に設置され、バトルを閲覧する事ができる喫茶店。そこで、飛鳥とゴウは話をしていた。
 もし、明日香が紅葉を倒せたとしても、晃鉄は難しいだろうと思う。
 理由は、晃鉄という男は、SRランクのディフェンド・クラスでトップに立つ男だからだ。
 ゴウの次に強いと思う彼の前では、流石に戦法を教えても勝てないだろう。
「それで、『ダーク・コネクター』の事なんですけど……」
「ああ。早くも幹部が動き出したんだったよね? どうやら、奴らは今が狙いだと思っているようだ」
「……やっぱり、ドライヴの世界を征服しようと考えているんですかね?」
「真の目的は分からないけど、間違いないだろうね」
 数年に渡って、ドライヴの世界を我が物にしようと企む『ダーク・コネクター』。
 しかし、その目的は分からず、今が奴らにとっては都合が良いらしい。
「幹部が早く動き出したと言う事は……おそらく、かなりの実力を持ったコネクターがいるはずだ」
「……厄介、ですね」
「大丈夫。こっちには、レガリアがある。それに、僕達が力を合わせれば、絶対に負ける事はない」
 ゴウの言葉に、飛鳥が頷く。なぜか、ゴウの言葉には力強いものがあった。
 いや、力強いのだ。『フォース・コネクター』の司令塔であり、長でもある人。
 そんな人の言葉は、飛鳥にとって、とても大きなものだ。
「奴らの好き勝手にはさせない。なにせ、僕は『ディフェンド・キング』だから」
「はい。奴らからドライヴの世界を守りましょう。俺達が大好きな世界を」
 二人の『フォース・コネクター』は、互いに決意を示した。



次回予告

 ゴウボーグ=レンダリムです。
 紅葉達のバトルを見ていた時に、ドライヴが強い反応を示した。
 そして現れるダーク・コネクター。紅葉、晃鉄、負けるなよ!

 次回、CONNECT11.『炸裂、守護の王者の拳!』

 ドライヴ・コネクト! 見せてやろう、キングと呼ばれた俺の拳を!



<< CONNECT09.     CONNECT11. >>     戻る     トップへ





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送