CONNECT22.『今明かされる全て』後編


「……母さんが初代……『ソード・マスター』……!?」
 愕然とする。飛鳥には一瞬信じられなかった。
 母は、まだ開発時期の頃にドライヴを始め、そして自分と同じ『ソード・マスター』になった人だった。
 驚きを隠せない飛鳥に対し、父は淡々と話を進めていく。



 当時、『ドライヴ=レガリア』を手にする事ができる『フォース・コネクター』の存在が決定された。
 そして、ランクに関係なく執り行われた『フォース・コネクター』を決める大会。
 たまたま仕事の案件で会場に行っていた常世は、やや憂鬱な気分だった。
(……高価な物で遊べるなんて、良い身分だよな、全く)
 高校卒業してすぐ今の仕事に就いた自分から見ると、そう思う。
 まだ一台10万近くもするドライヴ。その大会は小さなものだった。
 参加しているコネクターと呼ばれる人間は30人程度。大会もすぐに終わるだろう。
「先輩、仕事の案件って何なんでしょうか?」
「あー……今度行われる会議の話だ。で、取引先の社長が、ドライヴに凝っているらしい」
 つまり、今日は『フォース・コネクター』を決める大会である為、その社長も大会に出ているらしい。
 軽く溜め息をつく。そんな時、一つのバトルが目に入った。
 巨大な剣を振るう大型のドライヴと、女剣士を思わせるドライヴ。大型のドライヴが有利に見えた。
 しかし、女剣士のドライヴの戦いは、剣で旋律を奏でているかのように美しく、そして見事だった。
 大型のドライヴは、その強さの前に抗う事ができず、そのまま決着がついた。
『勝者、滝道春香選手! ソード・マスターは、なんと17歳の最年少コネクターです!』
「17歳? ……結構若い子もやっているものなんですね」
「みたいだな。しかも、初代が女の子ってのはぁ、これまた意外か……」
 その『ソード・マスター』の座に立ったのが、後の蓮杖春香となる飛鳥の母である。
 しかし、この時の彼女は特に嬉しそうでもなく、まるで人形のような顔をしていた。


 それから数日後。常世は仕事の件で取引先の相手に呼ばれ、再びその場へ向かっていた。
 まだドライヴが流行でなかった頃、コネクト・バトルができる施設は数えるくらいしかなかった。
 よく経営できるなと思いつつ、施設内に入ろうとしたところ、偶然にも『ソード・マスター』を見かけた。
 前に見た時と同じ表情だが、目はキョロキョロと周りを見渡して、何かを探している。
「どうかしましたか?」
「……!?」
 驚き、目を見開く。常世は首を傾げた。
「何か落し物ですか?」
「……タ」
「え?」
「……戦績を記録したデータ……フロッピーディスクの……大切なもの」
 表情はあまり変わらないものの、困っているようだ。常世は彼女を手伝う事にした。
 しかし、色々と不便な気がする。携帯電話のように肩から掛けなければならないが、フロッピーまでいるとは。
 磁気によってデータが消去されてしまった場合、どうするのだろうと思ってしまう。
(……ドライヴというものが、将来、流行になるとは思えない)
 本気でそう思った。それに、こんな高価な買い物は、とても一般人では無理がある。
 辺りを探す。しかし、フロッピーディスクはなかった。
 彼女の表情は変わらないが、目は間違いなく動揺している。

「あ、いたいた! 春香ー!」

 探している最中、彼女の友人であろう少女が現れる。
「何やってるの、他の『フォース・コネクター』の人達集まってるよ?」
「……がないの……。データフロッピーが……ないの……」
「データフロッピー? それって、これでしょ?」
 そう言って、ピンク色のフロッピーディスクを取り出す。彼女は目をパチパチとさせた。
「昨日、私に預けてたじゃない。バックアップ取って欲しいって」
「あ……」
「忘れちゃってたのね、やっぱり。とにかく急ごう。皆待ってるし。
 あ、お兄さんも一緒に探してくれてありがとうございました。ほら、春香も」
「あ、ありがとう……」
「いや、見つかって良かった。これからは気をつけて」



「……仕事の話はいつもショップで行われ、私はその度に春香と出会っていた。
 そして、春香が高校を卒業した頃、私と春香は結婚し、お前が生まれた」
「…………」
「お前が生まれてからも、春香はドライヴを辞めずに続けていた。お前を抱いてな。
 しかし、それを止めていればよかった。そう、あの事件は起きてしまった……」



 それは、とてつもない悲劇だった。試作型のドライヴによる暴走事件。
『ドライヴ=レガリア』をも凌ぐほどの強さを持ったドライヴは、『フォース・コネクター』を苦戦させた。
 四つのレガリアの力を合わせて、どうにか暴走を止めたが、『ディフェンド・キング』は亡くなった。
 そして『ストーム・クラウン』は『資質』を失い、『ソード・マスター』である春香も危険な状態だった。
「春香ッ!」
 病室の扉を開ける。常世の叫びに寝ていた飛鳥は目を覚まし、大きな声で泣き出した。
 口に呼吸器を取り付けられている春香が薄らと目を開ける。
「……あす……か……。常世……さん……」
「春香、なぜ……なぜ馬鹿な事を……!? なぜ、君がこんな目に……!?」
 常世の問いに、春香がゆっくりと首を横に振る。
「……私は……ドライヴが……好……きだから……」
「好きだからって……なぜ、君がこんなになるまで……!」
「……ドライ……ヴは……、私の……居場所だから……」
「春香っ……!」
「……常世、さん……これ……を……」
 春香が常世に一枚の紙を渡す。
「……いつか……飛鳥が大きくなった時に……『ソード・マスター』になった時に……」
「馬鹿な事を言うな! 飛鳥は……飛鳥には、ドライヴなど……!」
「それは……飛鳥が決める事……です……」
 春香が常世が抱いている飛鳥の頭を撫でる。
「……常世さん……飛鳥を……お願い……します……」
「春香!?」
「……あなたと出会えて……あなたを……愛してよかっ……た……」
 息を引き取る。常世は歯を噛み締めた。
 なぜ、大切な人が死ななければならないのか、なぜドライヴを続ける事を止めなかったのか自分を責めた。
 そして決めた。息子には――――飛鳥にはドライヴをさせないと。



「春香が息を引き取った後、私はお前にドライヴはさせないと決めた。
 なぜだか分かるか? ドライヴで家族を失いたくないからだ。
 愛する妻を失い、そして息子までドライヴで失う事を恐れたからだ」
「…………」
「飛鳥、今すぐドライヴをやめなさい。私にもう一度、あの悲劇を見せないでくれ……!」
「父さん……」
 父の言葉に、飛鳥は黙り込む。父の気持ちが痛いほど分かる為に。
 明日香が飛鳥の手を握る。飛鳥は静かに首を横に振った。
「……俺、ドライヴはやめない」
「飛鳥……!」
「確かに……確かに、母さんはドライヴで死んだかもしれない。けれど、ドライヴは俺の大切なものなんだ。
 父さんが海外に行ってて、母さんがいなくて悲しかった俺を変えてくれものだから……!」
「……絶対にやめない気か?」
「……はい。ドライヴは、俺の居場所だから。俺も、母さんと同じように、ドライヴが好きだから」
 飛鳥が頷く。父は飛鳥に愛する妻を重ねた。
 どうして、こうも自分の息子は母親似なのだろうか。そう思ってしまう。
 そんな時、父の携帯電話が鳴り出す。
「私だ。……そうか、すぐにそちらへ戻る」
 そして携帯電話を切る。
「今日はお前と食事をしようかと思ったが、すぐに日本を発つ事になった。次に帰ってくるのは、来年になる」
「日本を発つって……まだ話は終わっていないのに……!?」
「……机の一番上の引き出しだ」
「……!?」
「私の書斎に置いてある机の一番上の引き出しだ。そこに、お前に渡すものがある」
 父が微笑む。
「私はもう何も言わん。お前の好きにしなさい。……お前は、やはり春香似だ」
 そう言って、そのまま立ち去っていく。ガルノアが飛鳥にドライヴを渡した。
「『ソード・マスター』よ……いや、蓮杖春香の息子よ。私を普通のコネクターに戻して欲しい。
 そして、私にお前を守らせてもらいたい」
「……何でだよ?」
「私は、総帥が蓮杖春香の息子だと思っていた。だからこそ、『ダーク・コネクター』になって止めようとした。
 しかし、私の読みは外れた。彼女の息子は、彼女と同じ道を歩いていた事を知ったからだ」
「…………」
「『ダーク・コネクター』を壊滅するには、『フォース・コネクター』だけでは不可能に近い。
 そして、バスターファルシオンは奴らを倒す鍵となる。それを守る者は多い方が良いのだ」
「……今じゃなくても良いか?」
「ああ。私を信用してくれた時で良い」
 ガルノアのその言葉を聞いて、飛鳥がすぐに走り出す。
 明日香が追いかけようとしたところ、明日奈が静かに止める。
「今は一人にしてあげなさい。飛鳥一人でやらなきゃいけない事だと思うわ」
「……うん、そうだね」



 大急ぎで自宅に帰り、父の書斎に入る。そして、机の引き出しを引いた。
 一枚の封筒だけが入っている。手に取り、封筒の中身を取り出す。一枚の手紙が入っていた。
「……『私の愛する息子、飛鳥へ』って……これって、母さんの……!?」
 父の筆跡ではない。となると、母が飛鳥に残した手紙だった。


 私の愛する息子、飛鳥へ

 この手紙をあなたが読んでいるということは、私はもう、あなたの側にいないと思います。
 そして、あなたがドライヴと出会い、私の事をお父さんから聞いたという前提で書いています。

 あなたが産まれてきた時、私は涙が出るほど嬉しくて、あなたの名前を何度も呼んでは、何度も抱きしめた。
 知ってる? あなたの名前は、お母さんが決めた名前なのよ。
 大空を自由に飛ぶ鳥。その意味を込めて、飛鳥。それが、あなたの名前。

 あなたが産まれて、同じフォース・コネクターの皆から、お祝いされました。
 そして、「この子に、ソード・マスターを継がせるの?」と言われた事もあります。
 でも、私にはどうでも良いと思った。だって、あなたが決める事だもの。
 あなたがマグナム・カイザーや他のフォース・コネクターになろうと決めたなら、それがあなたの道です。


 でも、もしお母さんと同じソード・マスターをなる事を決めてくれたら、お母さんは嬉しいかな。
 だって、お母さんは飛鳥にドライヴを教えたいと思っていたから。
 だから、あなたがソード・マスターの道を選んだら、この技を教えてあげたかった。

 ドライヴと心を通い合わせ、その鼓動を剣と化し、相手に刻む。
 名を天翔蒼破絶靭斬(てんしょうそうはぜつじんざん)。その威力はビームセイバーでも一撃必殺を誇ります。
 けれど、この技はドライヴへの負担が大きく、あなた自身にも相当な集中力を要します。
 気をつけて。この技を使うタイミングは、とても難しいから。

 本当は、直接教えてあげたかった。あなたが私と同じ場所に立つ姿を見たかった

 飛鳥、本当にごめんね

 飛鳥、もうあなたを抱きしめる事が出来なくてごめんね

 飛鳥、あなたの側にいられなくなってごめんね

 飛鳥、あなたは私にとって、お父さんにとって一番の宝物

 飛鳥、あなたは私の自慢の息子

 飛鳥、それは大空を自由に飛ぶ鳥。私の願いを込めたあなたの名前

 飛鳥、産まれてきてくれてありがとう

 飛鳥、お母さんは、ずっとあなたを愛しています

 飛鳥、お父さんのように強く、そして優しい人になってください

                                                  あなたの母より


「…………」
 ポタポタと涙がこぼれる。自然に涙が溢れ出していた。
「……か……さん……、母……さん……お母……さん……っ」
 その場に泣き崩れる。母の残した手紙を抱きしめて。
 初代『ソード・マスター』だった母。顔も知らずに亡くなってしまった母。
「ああ……ああああああぁぁぁっ……」
 飛鳥は、部屋中に響くほどの嗚咽で、思いっきり泣く。



 空港のロビー。愛する妻と、妻が抱えているまだ赤ん坊だった息子の写真を入れたペンダントを見る。
 あれから十七年。時が流れるのは早いものだと思う。
「ようやく、息子さんに全てお話されたみたいですね」
「……紗雪さんですか。ご無沙汰しております」
「こちらこそ。……飛鳥君は、やはり春香に似ていますね」
「ええ……特に、あの瞳は春香にそっくりでした」
 前だけを見ている強い瞳。資質と呼ばれる『鷹の瞳』を母親から受け継いだ瞳。
 飛鳥とドライヴは、春香の導きなのかもしれない。
「飛鳥は、春香と同じ事を言っていました」
「『ドライヴは自分の居場所、ドライヴは自分の大切な物』、でしたか?」
「ええ。私は、嬉しいのかもしれません。飛鳥が……あの子が春香と同じ道を選んだ事が」
「蛙の子は蛙、と言う事ですね」
 ペンダントを握り締める。
「春香、これからも飛鳥を見守ってやってくれ。私のお前の大切な息子を……」
 そう、愛する妻の意志を受け継いだ息子を、これからも見守り続けよう。



「…………」
 父の書斎でセルハーツを握り締める。
 初めてドライヴと出会い、『ソード・マスター』になって、今に至る自分。
 憧れだった剣の覇者と呼ばれる『ソード・マスター』。なぜか、今は偶然の出会いと思えない。
「俺が『ソード・マスター』になれたのは、母さんが導いててくれてたからかな……?」
 いや、母が導いてくれたのは、ドライヴとの出会いだ。
「……母さん、俺、必ず母さんよりも強い『ソード・マスター』になる……!」
 同じ『フォース・コネクター』にも負けない真の強さを持つ最強のコネクターに。
 俺はまだ強くなる。今の自分で終わらせない。

 飛鳥。それは大空を自由に飛ぶ鳥。それが、俺の名前だから――――






 イメージソング:「REVER」 アーティスト:石井 竜也


次回予告

 マリア「やっほー、皆、ドライヴやってる?」
 明日香「あの、ドライヴは私達の世界しかないんですけど……」
 マリア「気にしない、気にしない。今回は飛鳥にとっての話しだし」
 明日香「えっと、イメージ曲は、飛鳥君がお母さんの手紙を読み終えた所から流れるイメージです」
 マリア「作者曰く、『ドライヴの話としての感動シーン』らしいけど、どうだったかな?」
 明日香「今回は多分……今までのお話で悩んでるお話でしたよね」
 マリア「それだけ、今回は手を入れたって事かな? それとも、今までが手抜き?」(←痛い所を突く発言)

  次回 CONNECT23.『綺麗な人は甘く見るな』

 マリア「次回の主役は中盤から、この私!」
 明日香「あの、また私出番ないみたいなんですけど……ヒロインなのに……(汗)」

 常世 「私の出番はたったの2話だけか。飛鳥の父親なのに……」
 飛鳥 「そりゃ、設定が設定だから仕方ないよ、父さん……」



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