CONNECT29.『二人がケンカした理由』後編


 勇治は亜美と二人でショップ内の喫茶店にいた。
 しかし、飛鳥のいるショップとは別のショップだ。わざわざ、遠いショップの喫茶店でコーヒーを飲む。
「あの男はどこにいる……? 今度こそ、確実に倒してやる……!」
 頭の中は、『アサルト・ハンター』を倒す事で一杯だった。
 銃による戦いで、先代とのバトル以来、苦戦するはずないと思っていたせいか、苛立ちもある。
 そして、飛鳥とのケンカによる苛立ちもあるせいか、勇治の表情は恐かった。
 妹の亜美は、誰よりもそう思えた。こんな兄の姿を見たのは初めてである。
「お、お兄ちゃん、そんなイライラしない方が良いような……」
「亜美は黙ってろ……」
「でも……」
「黙ってろ」
「あう……」
「こら、いくら妹とは言え、女の子にそんな事言わない」
 直後、勇治の背後からチョップによる制裁が下される。亜美は目を見開いた。
 兄にちょっかいが出せる人間はマリアだけだと思ったが、他にもいた事に驚いていた。
 やや茶色のかかったロングヘアの女性。勇治が彼女を見たと思ったら、すぐに目を逸らす
「あ、私に対してそう言う態度を取る? マリアのあれを発動させるわよ?」
「……何の用ですか、先代」
「ふぇ……お兄ちゃん、この人って……?」
「お、これが噂の妹ちゃんね〜。私は逢坂優。ゆうゆうの前の『マグナム・カイザー』よ」
「じ、じゃあ、先代の『マグナム・カイザー』なんですか!?」
 亜美の目が輝く。
「正解〜。あ、サインが欲しかったりするだろうけど、後回しでお願いね
「どうでも良いですよ、そんなもの」
「何か言った、ゆうゆう? そんなにマリアのあれを発動させて欲しい?」
「……すみません」
「お、お兄ちゃんが謝った……」
 弱い立場になっている兄の姿を見るのも初めてだったりする。
「ま、それは良いとして。あすあすとケンカしたんだって、ゆうゆう?」
「…………」
「黙らないで答える。オーバー・ドライヴ・システムの事でケンカしたんでしょ?」
 思いっきりケンカの原因は知られていた。
 勇治が小さくも頷く。そんな勇治に対し、優はやや呆れていた。
「何を考えてるの、ゆうゆう? あすあすは、ゆうゆうの考えてる事が知りたいだけだと思うわよ」
「……システムの負荷を中和するシステム」
 勇治が口を開く。
「連続使用で資質を失いかけた時から、あの負担を中和する為のシステムを考えていた……。
 それがついに分かったから、自分で作っただけです」
「そのシステムって、完成したわけ?」
「してません。エル・センティアで試しましたが、結局無駄骨でした」
「なるほど。あすあすが怒ったのは、そう言う事ね」
「あいつとの約束は忘れていない。俺があの時使っていれば、飛鳥はさらにキレたはず」
「そんな事であすあすが怒ったと思う?」
 指をチッチッと振り、優が否定する。
「あすあすが怒ったのは、何も相談しなかったゆうゆうに対してよ。
 3年もコンビ組んでるのに、そう言った事で相談してくれないから怒ったわけ」
「…………」
「確かにあすあすは、ゆうゆうの一番のライバルよ。それは、私や郁美、ゴウが良く知ってる」
 先代『フォース・コネクター』のバトルを圧倒させたバトル。
 互いの持てる力を全て出し切った最大のバトル。
 そんなバトルができたからこそ、互いの実力を分かり合う事ができ、コンビを組んだ。
 それが飛鳥と勇治。最強のコンビだ。
「それに、ゆうゆうはドライヴ作ったりするのが苦手でしょ。少しは、あすあすに頼っても良いんじゃない?」
「…………」
 その時、ドライヴが強い反応を示す。勇治はすぐに確認した。
 ドライヴ=レガリア『サタン・オブ・マグナム』の強い反応。間違いなく奴だ。
 勇治がドライヴを強く握る。
「出たか……!」
「ちょっと待ちなさい、ゆうゆう。一人で戦うのは無謀だと思うけど?」
「平気です。今度こそ、あの銃を持つ奴を俺だけで倒します」
 そう言って走り出す。そんな勇治の姿に優は呆れるだけだった。
 取り残された亜美も兄の後を追おうとするが、すぐに止められる。
「一般のコネクターは手出ししない。オッケー?」
「で、でも……」
「ま、様子だけは見に行きましょうか。とりあえず、あすあすに連絡しといてくれる?」
「は、はい」
 素直に先代『マグナム・カイザー』の言う事を聞く亜美だった。



 喫茶店にて、飛鳥は明日香に全てを話した。
 オーバー・ドライヴ・システムによって、資質を失いかけた勇治の事。
 そんな勇治の為に、オーバー・ドライヴ・システムについて色々と調べた事を。
「俺にできるのは、あのシステムの負荷をどうすれば無力化できるか。
 けど、どれだけ調べても、出てくる答えはノーで、諦めてたんだ」
「飛鳥君でも、諦める事ってあるの?」
「そりゃ、あるよ。特に、学校の英語のテストとか
「あ、やっぱり……」
 明日香が苦笑する。
「もしかして、勇治君は飛鳥君が作ろうとしたシステムを作ったんじゃ?」
「そうだとしても、勇治じゃ完成できないよ。あいつが不器用なのは、誰よりも俺が知ってる」
「そ、そうなんだ……」
「……だから、相談して欲しかったんだ。ライバルとしてじゃなく、相棒としてさ」
「飛鳥君……」
 飛鳥にとって、勇治は掛け替えのない相棒。
 互いを意識し合い、その実力を上げていくライバルであり、親友。
 つくづく、勇治が羨ましいと明日香は思った。
 いつか、自分もそんな風に飛鳥の同等の立場に立ちたいと思った。
「飛鳥君、仲直りしたら? 勇治君も仲直りしたいと思ってるはずだよ」
「…………」
 そんな時、ドライヴに電話が掛かる。亜美からだ。
「もしもし、亜美ちゃん?」
『あぁ、飛鳥さん、ちゃんと出てくれたぁ!』
「どうしたの? 何かあった?」
『えっとですね……ダーク・コネクターが……』
「場所は?」
『ば、場所はえーと……』
『場所はメールで送るわよ、あすあす』
 突然、電話の相手が優に変わった。
『相手は銃よ。ゆうゆうが負ける前に来る事』
「負ける? 優さん、あの馬鹿が負ける訳――――」
『負けるわよ。相手は、ゆうゆうの攻撃を全て防げるほどの実力者よ』
「……そんな奴が『ダーク・フォース』に……!?」
 飛鳥の表情に焦りが見える。優の言葉が信じられなかったからだ。
 勇治の射撃の腕は、間違いなくトップクラスだ。
 そんな勇治の攻撃を全て防げる相手は、間違いなくそれ以上の射撃の腕前を持っている。
『ゆうゆうの力になれるのは、あすあすだけよ』
 そして電話が切れる。飛鳥はドライヴを握り締めた。
「……飛鳥君」
「……セルハーツを取りに行く」
「え……」
「あの馬鹿のドライヴとコンビを組むのは、セルハーツだ。グロウファルコンじゃない」
 そう、グロウファルコンではディル・ゼレイクとの相性が悪い。
 機動性を高め、接近戦に重点を置いたセルハーツでなければ、絶妙なコンビネーションを引き出せない。
「明日香は先に行ってて。すぐに向かうから」
「うん!」



 バトル・フィールドでは、『ランドライザー・コマンド』の佐々木晃鉄のドライヴのみ存在していた。
 SR同士によるシングル戦を行っていたのだが、突然の乱入で対戦相手が倒された。
 晃鉄が周囲を警戒する。目の前に一体のドライヴが構築された。
 そのドライヴの姿に、晃鉄が目を見開く。
「白戦鬼レイ・マキシマム……将射か!」
『そのドライヴは晃鉄……そうか、お前か』
「彼――――『マグナム・カイザー』から聞いてはいたが、本当にお前が『ダーク・フォース』とは……」
 信じたくはなかったが、やはり彼だった。晃鉄のドライヴ・スキルヴィングが構える。
 刹那、一気に両腕の関節部を撃ち抜かれた。それも数発。
「な……!?」
『会わないうちに弱くなったみたいだな、晃鉄。一発も避けれないとは』
「早い……! あれが、リーダーの言う『ダーク=レガリア』の強さ……!」
 晃鉄の頬を冷たい汗が流れ落ちる。

 ――――フルパワーショット。

 突然、レイ・マキシマムに一閃の波動が襲い掛かる。将射は鋭く睨みつけた。
 波動の中心点を見抜き、撃ち抜く。すぐに無力化された。
「くっ……」
 攻撃したドライヴを駆る勇治が舌打ちする。またも攻撃を止められたからだ。
 サタン・オブ・マグナムを構えたまま、ゆっくりと歩み寄る。
「……『マグナム・カイザー』か」
「コネクト・アウトしろ。こいつを仕留める」
「……ああ。頼む、あいつを止めてくれ」
 スキルヴィングがバトル・フィールドから消える。勇治は敵を睨んだ。
「今度こそ、お前を倒す」
『無理だ。貴様の攻撃は、俺には一切通用しないと言ったはずだ』
「ふざけるな。俺は『マグナム・カイザー』だ」
 ディル・ゼレイクが全武装の砲門と言う砲門を開く。
 今度こそ、自分だけであの銃を持つ『ダーク・フォース』を倒してみせる。
「見せてやる、俺の本気を」
『何度言わせる、貴様では無理だ』
 互いに睨み合う。そして、互いの攻撃がぶつかり始めた。



次回予告

 明日香「こんにちは、明日香です」
 亜美 「亜美です! えっと、お兄ちゃん、今度は大丈夫だよね!?」
 マリア「それはどうかな? ほら、勇治って弱い時は弱いし」
 亜美 「ふぇ……それじゃ、お兄ちゃんはレギュラー降板になりますよ!?」
 マリア「あ、それはヤバイかも」
 明日香「マリアさん、何だかキャラが違うような……」

  次回、CONNECT30.『飛鳥と勇治』

 明日香「次回は、勇治君と相手の大激突だよ」
 亜美 「あの、飛鳥さんは!?」
 マリア「あそこ」
 飛鳥 「だーかーらぁーっ! ファンの人達は俺を追いかけないでぇぇぇっ!」(←ファンに追い回され中)
 明日香「…………」(←思いっきり怒ってます)



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