『アサルト・ハンター』とのバトルから数日が経った。 特に『ダーク・コネクター』の動きはなく、しばしの平和が訪れている。 「さーて……面倒だけど、SHR始めようか」 学校の教室で、担任の代わりに副担任がSHRを始める。 飛鳥は、隣の席に座る勇治に話しかけた。 「そう言えば、朧だっけ? 病院に行ってどうだったんだ?」 「無事だ。今日のチームの集会にも来れる」 「また突然な……今日はゴウさんとこに行くからパス。って、朧がチームの集会に来るのか?」 「来る。亜美がチームに入れたからな」 話は数日前に戻る。 優が得意のコンピュータを使って、朧がコネクトしているコクピットランサーを見つけた。 朧は意識もハッキリして、無事である事は間違いないが、念の為に病院で検査をしたのである。 検査入院と言う事で、入院する事になったが、大丈夫だろうと医者は言う。 「良かったぁ……朧さん、無事で……」 「心配してくれたの、亜美ちゃん? ありがとう……」 病室で亜美が安心する。その時、勇治も駆けつけた。 「お兄ちゃん……」 「……無事のようだな」 「そりゃまぁ、イブリスのデス・ハンドで攻撃されたわけじゃないからね」 と、勇治の後ろから優が答える。 ちなみに、勇治が病院へ行ったのは、妹が行ったからである事は言うまでもない。 朧が亜美の顔を見て、優しく微笑む。 「本当に……あなたを見てると、妹の美月を思い出すわ……」 「妹、ですか? 美月さんって、どんな人だったんですか?」 「優しい子だったわ……。亜美ちゃんみたいに、純粋で優しい子……」 それでいて、自分の事を良く分かっている妹。そう朧が話す。 「生きていたら……きっと、亜美ちゃんと良いお友達になれたと思うわ」 「朧さん……」 「…………」 そして、朧が自分のドライヴを勇治に渡す。 「『マグナム・カイザー』、私を普通のコネクターに戻して頂けますか……?」 「…………」 「戻して良いんじゃない? と言っても、上からの許可がないといけないけど」 『ダーク・コネクター』から、普通のコネクターに戻るのは簡単だ。 しかし、それはあくまで『ドライヴ・マスター』がそう判断したときの場合である。 通常、『ダーク・コネクター』のような悪質なコネクターは、コネクター登録を抹消される。 そして、二度とコネクター登録できなくなるのだ。 無許可で朧を普通のコネクターにすれば、間違いなく何か厳しい課題を命令されるはず。 「確か、あすあすは『ゴッドランクアップ・トーナメント制覇』だったわね」 「…………」 その時、飛鳥からメールが入る。 『用件だけ言う。上には話つけといた』 「お、意外と手が早いじゃない、あすあす♪」 「……『マグナム・カイザー』の名において、朧のランクダウンを開始」 勇治のドライヴから、朧のドライヴへ光が転送される。 しかし、結果はエラーが返ってきた。 「…………」 「……あ、ごめんなさい。朧と言うのは、『ダーク・コネクター』に仕立てられた時に付けられた名前。 私の本当の名前は香月。稗田香月(ひえだ かづき)」 「香月さん、って言うんだぁ……」 「でも、今まで通り朧で良いわ。その方が慣れてるでしょう?」 「……『マグナム・カイザー』の名において、稗田香月のランクダウンを開始」 勇治のドライヴから、朧のドライヴへ光が転送される。液晶画面に映るランクが「E」に変わった。 朧にドライヴを返す。すると、朧がもう一つ頼んだ。 「あと、私をあなたのチームに入れてくれないかしら?」 「え、『チーム・エンジェル』に入ってくれるんですか!?」 「ええ。少しでも、私は亜美ちゃんの力になってあげたい。美月の時みたいに……」 「お兄ちゃん、良いかな……?」 亜美が上目遣いで訊く。勇治はそっぽを向いた。 「……亜美のチームだ、好きにしろ」 「で、チームに入ったわけか」 「そうだ。だからこそ、今日は集会だ」 「そうか。で、亜美ちゃんの方は? 奴らとのバトルに乱入した処罰はしたんだろうな?」 一般のコネクターは、決して『ダーク・コネクター』とバトルしてはならない。 『ダーク・コネクター』から仕掛けて来たのであれば別だが、ランクダウンの処罰が決定されている。 勇治が一枚の紙を飛鳥に渡す。 「優さんからの課題だ。それをお前にやらせる事で、亜美の方は許してもらった」 「って、何で俺が――――」 瞬間、二本のチョークが二人を襲う。 「痛っ……」 「…………」(←実は痛いが、我慢している) 「そこの二人、副担任である私の話を聞かないで私語をするんじゃない」 副担任が叱る。飛鳥と勇治はその痛みをどうにか堪えていた。 スタイルの良い美人教師。彼女の投げるチョークの威力は、市販の電動ガンなどより遥かに強い。 タイミング良くチャイムが鳴る。それを聞いて、副担任は軽く舌打ちした。 「学級委員、号令。そこの二人は職員室。じゃ、また明日」 「職員室かよ……」 飛鳥は深く肩を落とした。 放課後。飛鳥と勇治はそのまま職員室へ副担任と共に行った。 「……葉月先生、あれだけで指導ですか、まさか」 「そんな訳ないだろう。他の先生方はいないようだな」 副担任である葉月が椅子に座る。 「他の先生方がいないから、いつも通りの呼び方で良い」 「分かりました、”先代”」 飛鳥が頷く。彼女――――葉月恭子(はづききょうこ)は、先代の『ディフェンド・キング』だ。 引退後、すぐに身を潜め、自分が元『フォース・コネクター』だと言う事を隠したコネクター。 葉月が訊く。 「ゴウからある程度聞いてはいるんだが、『ダーク・コネクター』とのバトルはどうなってる?」 「まだ決着つかず、です。『ダーク=レガリア』は二つ破壊できましたけど」 「7年前だったか……私がゴウに引き継がせてから現れたんだったな」 「……って、7年? ゴウさんって、7年も『ディフェンド・キング』なんですか!?」 「ん? ゴウから聞いてるだろ、それ位」 聞いていない。そして、『ディフェンド・キング』ゴウボーグ=レンダリムは凄かった。 7年間も無敗の王者。それは、常戦無敗を誇る飛鳥など小さなもののように思えるほど。 いや、それ以前に、『ダーク・コネクター』の存在を誰よりも知っている事が分かった。 「まぁ、それは別に良いとして。お前達は奴らを倒せると思ってるのか?」 「当然です。いや、奴らは倒さないといけない。ドライヴの世界を守る為にも……!」 「同じく」 そう聞いて、葉月が鼻で笑う。 「結構自信があるようだな、蓮杖に荻原。ま、頑張れよ」 「はい」 そして、飛鳥と勇治が職員室から出て行く、葉月は一人で納得していた。 今まで色々なコネクターを見てきたが、あの二人のような奴は初めてだ。 あと8年も早く会っていれば、間違いなく鍛えていたかもしれない。 「……たまには、バトルでも観てみるか」 久々に『ディフェンド・キング』だった頃の血が騒ぐ葉月だった。 ドライヴ・ショップ内の喫茶店。そこで、飛鳥はゴウと待ち合わせをしていた。 ゴウが飛鳥に気づき、軽く手を上げて居場所を教える。 「すみません、ちょっと遅くなったみたいで」 「いや、のんびりできて良いよ。それに、相手もいたからね」 「相手?」 首を傾げる。どう見ても、ゴウしかいない。 そんな飛鳥に、後ろから彼女が声をかけた。 「こんにちは、飛鳥」 「明日奈ぁ!? って、何で明日奈がゴウさんと? ありえない組み合わせなんだけど……」 「たまたまよ。『ディフェンド・キング』が私を明日香と間違えて声をかけて来たのよ」 明日奈の言葉に、ゴウが苦笑する。 「まさか、双子だとは思わなくてね」 「なるほど、そう言う事か。まぁ、別に明日奈だったら良いか。むしろ好都合かも」 「あら、どう言う事?」 飛鳥が席に座り、注文を取る。そして話を始めた。 「この間連絡しましたけど、ティシフォネの盾を持つ『ダーク・フォース』が動き出しました」 「確か、二人目を倒してすぐに現れたんだったね?」 「はい。それで、その『ダーク・フォース』についてなんですけど……」 「言っておくけど、詳しい事は分からないわ」 明日奈が言い放つ。 「前にも言ったけれど、幹部は『駒』でしかない存在よ。だから、分かるのは存在くらしかしら」 「じゃあ、盾を持つ『ダーク・フォース』については……」 「『ナイトメア・クイーン』と言う名前だけしか分からないわ」 「そうか……」 飛鳥が溜め息をつく。ゴウが声をかける。 「何かあるのかい、飛鳥君?」 「……その『ダーク・フォース』の声、聞き覚えのある声だったんです」 「そうなのかい?」 「はい。ただ、それが誰の声だったか思い出せなくて……」 別のショップにて、最強チーム『ランドライザー・コマンド』はバトルをしていた。 相手はトーナメントでも上位を狙う有力チーム。 しかし、リーダーであるゴウがいなくとも、サブリーダーの統率力による強さは、上位チームでも通用する。 だが、バトルしている相手は、半端ない強さだった。 『どうした、この程度か? それで最強チームとは、聞いて呆れる』 「くっ……『ランドライザー・コマンド』は、こんなところで……!」 サブリーダーの紅葉が駆るクリムゾン・ティアーズがランサーを構える。 敵は相手チームが助っ人に呼んだ1体のドライヴのみ。 全長が通常の10倍以上もある巨大なドライヴ。そのドライヴを相手に、どうにか1体まで戦い抜いたのだ。 しかし、こちらも残る戦力は自分だけと言う過酷な状況にある。 『チームの指揮を執っている人間がAランクとはな。最強チームなど、ザコに過ぎないか』 「黙れ! リーダーの……あの人の作ったチームをザコ呼ばわりさせない! 自分は『ランドライザー・コマンド』がサブリーダー、鳴澤紅葉! 必ず勝利を掴む!」 『できると思うな、小娘』 巨大なドライヴが、その拳を振り落とす。クリムゾン・ティアーズは距離を取って避けた。 シールドを投げつける。刹那、簡単に破壊された。 「……!」 『小手先の攻撃など通用せん。俺のドライヴは、ディフェンド・キングをも葬れる』 「リーダーは、お前のような奴に負けはしない! 否、自分がそうはさせない!」 クリムゾン・ティアーズが駆ける。加速し、ランサーを突き出す。 「赤光!」 巨大ドライヴの右胸を刺し、さらに連続で刺す。 「はぁぁぁっ、紅牙ッ!」 連続の突きから、渾身の力を込めた突きを繰り出す。紅葉は直撃を確信した。 瞬間、ランサーが砕け散る。 「な……!?」 『弱いな。傷一つ付けられないとは』 紅葉が目を見開く。攻撃した箇所は、全くと言って良いほど無傷だった。 巨大ドライヴが拳にエネルギーを込める。 『終わりだ、ブレイク・ヘルッ!』 巨大ドライヴの拳が、紅葉のクリムゾン・ティアーズへと繰り出される。 それは、最強チーム『ランドライザー・コマンド』の敗北を意味した。 再び、飛鳥達のいるショップ。出されたコーヒーを飲みつつ、ゴウの表情が一瞬だけ変わった。 ドライヴを取り出し、確認する。飛鳥が訊いた。 「奴らの反応、ですか?」 「……いいや、違うようだ。一瞬、胸騒ぎがしたんだけどね」 「…………」 「り、りりりりりり、リーダーァァァッ!」 喫茶店に、一人の男が入ってくる。ゴウがすぐに反応した。 『ランドライザー・コマンド』の二軍メンバーの一人だ。 名前が思い出せず、飛鳥が頭の中で思い浮かべた名前で訊く。 「どうしたんだよ、桃太郎?」 「も、桃太郎ぉ!? れ、蓮杖、同じ学校なのにそれはねぇよ!? つーか、なぜ桃太郎だよ!?」 「いやー、同じクラスじゃないし。桃太郎なのは、お前のドライヴが桃太郎だから」 「おう!?」 桃太郎、撃沈。ゴウがやや苦笑しつつも、何があったか訊く。 「それで、何か用なのかい?」 「あぁ、そうでした! た、大変です、リーダー!」 「大変なのは見て分かっているよ。それで、何が大変なんだい?」 「ら、『ランドライザー・コマンド』が……一軍メンバーが負けました」 その言葉に、ゴウが目を見開く。飛鳥も驚いた。 最強チーム『ランドライザー・コマンド』。その強さは、かなりのメンバーを持つほどだ。 メンバーの多さから、一軍と二軍に分かれており、連携に優れた一軍が負ける可能性は限りなく低い。 信じられないと思いつつ、話の続きを聞く。 「最初は、サブリーダーの鳴澤の指揮で調子良かったんスけど、向こうの助っ人に……」 「助っ人?」 「巨大なドライヴっス! それも、普通の10倍はある巨大な……」 それを聞いて、飛鳥の表情が変わる。 「巨大なドライヴ……まさか……!?」 「……話を続けてくれるかい?」 「そ、それで、バトルは終わったのに、そのドライヴがクリムゾン・ティアーズを捕まえたままで……。 で、『ディフェンド・キングを連れて来い』と……」 「そうか……」 「やっぱり、そのドライヴってマリアから聞いた……!」 「間違いない。『ダーク・コネクター』の幹部のドライヴだね……」 ゴウが頷く。そして、立ち上がった。 いつも穏やかな表情が険しい。間違いない、ゴウは怒っている。 明日奈の方を見て互いに頷き、飛鳥も立ち上がる。 「どこのショップだ、桃太郎?」 「だから、俺は桃太郎じゃねぇって……学校近くの、いつものショップって言えば分かるか?」 「十分。そこだったら、勇治もいるか……」 「いや、ここは僕だけで良い」 ゴウの言葉に、飛鳥が目を見開く。 「ゴウさん!?」 「たとえ相手が彼らでも、これは『ランドライザー・コマンド』の問題だ。僕だけで十分だ」 「けど、罠の可能性だって……」 「大丈夫。僕は『ディフェンド・キング』だ。負けはしないよ」 そして、桃太郎と共にゴウが走り去っていく。 飛鳥もまた、明日奈と共にゴウの後を追うのだった。 次回予告 明日香「こんにちは、明日香です」 飛鳥 「同じく、飛鳥です」 明日奈「明日奈よ」 明日香「それで、どうして一緒なの、明日奈と?」(←思いっきりヤキモチ中) 飛鳥 「いや、偶然だってば……つか、ゴウさんも一緒だったし」(←本当にこれしか言えない) 明日奈「飛鳥とのデート、楽しかったわよ」(←思いっきりワザと) 明日香「で、デートぉ!? あ、あ、飛鳥君っ!」(←真に受ける人) 次回、CONNECT35.『衝撃の再会』 明日奈「次回は、思いがけない悲劇と言う名の再会よ」 飛鳥 「だから、明日奈の言う事を真に受けるなって!」 明日香「飛鳥君なんて大嫌いっ! 飛鳥君の馬鹿ぁっ!」(←走り去る) 飛鳥 「だーかーらぁーっ!」(←追いかける) 明日奈「……ちょっと冗談が過ぎたかしら……?」(←ちょっと反省) ※ちなみに、ちゃんと仲直りしてるので、ご安心を。 |
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