CONNECT34.『最強チームの敗北』


『アサルト・ハンター』とのバトルから数日が経った。
 特に『ダーク・コネクター』の動きはなく、しばしの平和が訪れている。
「さーて……面倒だけど、SHR始めようか」
 学校の教室で、担任の代わりに副担任がSHRを始める。
 飛鳥は、隣の席に座る勇治に話しかけた。
「そう言えば、朧だっけ? 病院に行ってどうだったんだ?」
「無事だ。今日のチームの集会にも来れる」
「また突然な……今日はゴウさんとこに行くからパス。って、朧がチームの集会に来るのか?」
「来る。亜美がチームに入れたからな」
 話は数日前に戻る。


 優が得意のコンピュータを使って、朧がコネクトしているコクピットランサーを見つけた。
 朧は意識もハッキリして、無事である事は間違いないが、念の為に病院で検査をしたのである。
 検査入院と言う事で、入院する事になったが、大丈夫だろうと医者は言う。
「良かったぁ……朧さん、無事で……」
「心配してくれたの、亜美ちゃん? ありがとう……」
 病室で亜美が安心する。その時、勇治も駆けつけた。
「お兄ちゃん……」
「……無事のようだな」
「そりゃまぁ、イブリスのデス・ハンドで攻撃されたわけじゃないからね」
 と、勇治の後ろから優が答える。
 ちなみに、勇治が病院へ行ったのは、妹が行ったからである事は言うまでもない。
 朧が亜美の顔を見て、優しく微笑む。
「本当に……あなたを見てると、妹の美月を思い出すわ……」
「妹、ですか? 美月さんって、どんな人だったんですか?」
「優しい子だったわ……。亜美ちゃんみたいに、純粋で優しい子……」
 それでいて、自分の事を良く分かっている妹。そう朧が話す。
「生きていたら……きっと、亜美ちゃんと良いお友達になれたと思うわ」
「朧さん……」
「…………」
 そして、朧が自分のドライヴを勇治に渡す。
「『マグナム・カイザー』、私を普通のコネクターに戻して頂けますか……?」
「…………」
「戻して良いんじゃない? と言っても、上からの許可がないといけないけど」
『ダーク・コネクター』から、普通のコネクターに戻るのは簡単だ。
 しかし、それはあくまで『ドライヴ・マスター』がそう判断したときの場合である。
 通常、『ダーク・コネクター』のような悪質なコネクターは、コネクター登録を抹消される。
 そして、二度とコネクター登録できなくなるのだ。
 無許可で朧を普通のコネクターにすれば、間違いなく何か厳しい課題を命令されるはず。
「確か、あすあすは『ゴッドランクアップ・トーナメント制覇』だったわね」
「…………」
 その時、飛鳥からメールが入る。
『用件だけ言う。上には話つけといた』
「お、意外と手が早いじゃない、あすあす♪」
「……『マグナム・カイザー』の名において、朧のランクダウンを開始」
 勇治のドライヴから、朧のドライヴへ光が転送される。
 しかし、結果はエラーが返ってきた。
「…………」
「……あ、ごめんなさい。朧と言うのは、『ダーク・コネクター』に仕立てられた時に付けられた名前。
 私の本当の名前は香月。稗田香月(ひえだ かづき)」
「香月さん、って言うんだぁ……」
「でも、今まで通り朧で良いわ。その方が慣れてるでしょう?」
「……『マグナム・カイザー』の名において、稗田香月のランクダウンを開始」
 勇治のドライヴから、朧のドライヴへ光が転送される。液晶画面に映るランクが「E」に変わった。
 朧にドライヴを返す。すると、朧がもう一つ頼んだ。
「あと、私をあなたのチームに入れてくれないかしら?」
「え、『チーム・エンジェル』に入ってくれるんですか!?」
「ええ。少しでも、私は亜美ちゃんの力になってあげたい。美月の時みたいに……」
「お兄ちゃん、良いかな……?」
 亜美が上目遣いで訊く。勇治はそっぽを向いた。
「……亜美のチームだ、好きにしろ」


「で、チームに入ったわけか」
「そうだ。だからこそ、今日は集会だ」
「そうか。で、亜美ちゃんの方は? 奴らとのバトルに乱入した処罰はしたんだろうな?」
 一般のコネクターは、決して『ダーク・コネクター』とバトルしてはならない。
『ダーク・コネクター』から仕掛けて来たのであれば別だが、ランクダウンの処罰が決定されている。
 勇治が一枚の紙を飛鳥に渡す。
「優さんからの課題だ。それをお前にやらせる事で、亜美の方は許してもらった
「って、何で俺が――――」
 瞬間、二本のチョークが二人を襲う
「痛っ……」
「…………」(←実は痛いが、我慢している)
「そこの二人、副担任である私の話を聞かないで私語をするんじゃない」
 副担任が叱る。飛鳥と勇治はその痛みをどうにか堪えていた。
 スタイルの良い美人教師。彼女の投げるチョークの威力は、市販の電動ガンなどより遥かに強い。
 タイミング良くチャイムが鳴る。それを聞いて、副担任は軽く舌打ちした。
「学級委員、号令。そこの二人は職員室。じゃ、また明日」
「職員室かよ……」
 飛鳥は深く肩を落とした。



 放課後。飛鳥と勇治はそのまま職員室へ副担任と共に行った。
「……葉月先生、あれだけで指導ですか、まさか」
「そんな訳ないだろう。他の先生方はいないようだな」
 副担任である葉月が椅子に座る。
「他の先生方がいないから、いつも通りの呼び方で良い」
「分かりました、”先代”」
 飛鳥が頷く。彼女――――葉月恭子(はづききょうこ)は、先代の『ディフェンド・キング』だ。
 引退後、すぐに身を潜め、自分が元『フォース・コネクター』だと言う事を隠したコネクター。
 葉月が訊く。
「ゴウからある程度聞いてはいるんだが、『ダーク・コネクター』とのバトルはどうなってる?」
「まだ決着つかず、です。『ダーク=レガリア』は二つ破壊できましたけど」
「7年前だったか……私がゴウに引き継がせてから現れたんだったな」
「……って、7年? ゴウさんって、7年も『ディフェンド・キング』なんですか!?
「ん? ゴウから聞いてるだろ、それ位」
 聞いていない。そして、『ディフェンド・キング』ゴウボーグ=レンダリムは凄かった。
 7年間も無敗の王者。それは、常戦無敗を誇る飛鳥など小さなもののように思えるほど。
 いや、それ以前に、『ダーク・コネクター』の存在を誰よりも知っている事が分かった。
「まぁ、それは別に良いとして。お前達は奴らを倒せると思ってるのか?」
「当然です。いや、奴らは倒さないといけない。ドライヴの世界を守る為にも……!」
「同じく」
 そう聞いて、葉月が鼻で笑う。
「結構自信があるようだな、蓮杖に荻原。ま、頑張れよ」
「はい」
 そして、飛鳥と勇治が職員室から出て行く、葉月は一人で納得していた。
 今まで色々なコネクターを見てきたが、あの二人のような奴は初めてだ。
 あと8年も早く会っていれば、間違いなく鍛えていたかもしれない。
「……たまには、バトルでも観てみるか」
 久々に『ディフェンド・キング』だった頃の血が騒ぐ葉月だった。



 ドライヴ・ショップ内の喫茶店。そこで、飛鳥はゴウと待ち合わせをしていた。
 ゴウが飛鳥に気づき、軽く手を上げて居場所を教える。
「すみません、ちょっと遅くなったみたいで」
「いや、のんびりできて良いよ。それに、相手もいたからね」
「相手?」
 首を傾げる。どう見ても、ゴウしかいない。
 そんな飛鳥に、後ろから彼女が声をかけた。
「こんにちは、飛鳥」
「明日奈ぁ!? って、何で明日奈がゴウさんと? ありえない組み合わせなんだけど……」
「たまたまよ。『ディフェンド・キング』が私を明日香と間違えて声をかけて来たのよ」
 明日奈の言葉に、ゴウが苦笑する。
「まさか、双子だとは思わなくてね」
「なるほど、そう言う事か。まぁ、別に明日奈だったら良いか。むしろ好都合かも」
「あら、どう言う事?」
 飛鳥が席に座り、注文を取る。そして話を始めた。
「この間連絡しましたけど、ティシフォネの盾を持つ『ダーク・フォース』が動き出しました」
「確か、二人目を倒してすぐに現れたんだったね?」
「はい。それで、その『ダーク・フォース』についてなんですけど……」
「言っておくけど、詳しい事は分からないわ」
 明日奈が言い放つ。
「前にも言ったけれど、幹部は『駒』でしかない存在よ。だから、分かるのは存在くらしかしら」
「じゃあ、盾を持つ『ダーク・フォース』については……」
『ナイトメア・クイーン』と言う名前だけしか分からないわ」
「そうか……」
 飛鳥が溜め息をつく。ゴウが声をかける。
「何かあるのかい、飛鳥君?」
「……その『ダーク・フォース』の声、聞き覚えのある声だったんです」
「そうなのかい?」
「はい。ただ、それが誰の声だったか思い出せなくて……」



 別のショップにて、最強チーム『ランドライザー・コマンド』はバトルをしていた。
 相手はトーナメントでも上位を狙う有力チーム。
 しかし、リーダーであるゴウがいなくとも、サブリーダーの統率力による強さは、上位チームでも通用する。
 だが、バトルしている相手は、半端ない強さだった。
『どうした、この程度か? それで最強チームとは、聞いて呆れる』
「くっ……『ランドライザー・コマンド』は、こんなところで……!」
 サブリーダーの紅葉が駆るクリムゾン・ティアーズがランサーを構える。
 敵は相手チームが助っ人に呼んだ1体のドライヴのみ。
 全長が通常の10倍以上もある巨大なドライヴ。そのドライヴを相手に、どうにか1体まで戦い抜いたのだ。
 しかし、こちらも残る戦力は自分だけと言う過酷な状況にある。
『チームの指揮を執っている人間がAランクとはな。最強チームなど、ザコに過ぎないか』
「黙れ! リーダーの……あの人の作ったチームをザコ呼ばわりさせない!
 自分は『ランドライザー・コマンド』がサブリーダー、鳴澤紅葉! 必ず勝利を掴む!」
『できると思うな、小娘』
 巨大なドライヴが、その拳を振り落とす。クリムゾン・ティアーズは距離を取って避けた。
 シールドを投げつける。刹那、簡単に破壊された。
「……!」
『小手先の攻撃など通用せん。俺のドライヴは、ディフェンド・キングをも葬れる』
「リーダーは、お前のような奴に負けはしない! 否、自分がそうはさせない!」
 クリムゾン・ティアーズが駆ける。加速し、ランサーを突き出す。
「赤光!」
 巨大ドライヴの右胸を刺し、さらに連続で刺す。
「はぁぁぁっ、紅牙ッ!」
 連続の突きから、渾身の力を込めた突きを繰り出す。紅葉は直撃を確信した。
 瞬間、ランサーが砕け散る。
「な……!?」
『弱いな。傷一つ付けられないとは』
 紅葉が目を見開く。攻撃した箇所は、全くと言って良いほど無傷だった。
 巨大ドライヴが拳にエネルギーを込める。
『終わりだ、ブレイク・ヘルッ!』
 巨大ドライヴの拳が、紅葉のクリムゾン・ティアーズへと繰り出される。
 それは、最強チーム『ランドライザー・コマンド』の敗北を意味した。



 再び、飛鳥達のいるショップ。出されたコーヒーを飲みつつ、ゴウの表情が一瞬だけ変わった。
 ドライヴを取り出し、確認する。飛鳥が訊いた。
「奴らの反応、ですか?」
「……いいや、違うようだ。一瞬、胸騒ぎがしたんだけどね」
「…………」
「り、りりりりりり、リーダーァァァッ!」
 喫茶店に、一人の男が入ってくる。ゴウがすぐに反応した。
『ランドライザー・コマンド』の二軍メンバーの一人だ。
 名前が思い出せず、飛鳥が頭の中で思い浮かべた名前で訊く。
「どうしたんだよ、桃太郎?」
「も、桃太郎ぉ!? れ、蓮杖、同じ学校なのにそれはねぇよ!? つーか、なぜ桃太郎だよ!?」
「いやー、同じクラスじゃないし。桃太郎なのは、お前のドライヴが桃太郎だから
「おう!?」
 桃太郎、撃沈。ゴウがやや苦笑しつつも、何があったか訊く。
「それで、何か用なのかい?」
「あぁ、そうでした! た、大変です、リーダー!」
「大変なのは見て分かっているよ。それで、何が大変なんだい?」
「ら、『ランドライザー・コマンド』が……一軍メンバーが負けました」
 その言葉に、ゴウが目を見開く。飛鳥も驚いた。
 最強チーム『ランドライザー・コマンド』。その強さは、かなりのメンバーを持つほどだ。
 メンバーの多さから、一軍と二軍に分かれており、連携に優れた一軍が負ける可能性は限りなく低い。
 信じられないと思いつつ、話の続きを聞く。
「最初は、サブリーダーの鳴澤の指揮で調子良かったんスけど、向こうの助っ人に……」
「助っ人?」
「巨大なドライヴっス! それも、普通の10倍はある巨大な……」
 それを聞いて、飛鳥の表情が変わる。
「巨大なドライヴ……まさか……!?」
「……話を続けてくれるかい?」
「そ、それで、バトルは終わったのに、そのドライヴがクリムゾン・ティアーズを捕まえたままで……。
 で、『ディフェンド・キングを連れて来い』と……」
「そうか……」
「やっぱり、そのドライヴってマリアから聞いた……!」
「間違いない。『ダーク・コネクター』の幹部のドライヴだね……」
 ゴウが頷く。そして、立ち上がった。
 いつも穏やかな表情が険しい。間違いない、ゴウは怒っている。
 明日奈の方を見て互いに頷き、飛鳥も立ち上がる。
「どこのショップだ、桃太郎?」
「だから、俺は桃太郎じゃねぇって……学校近くの、いつものショップって言えば分かるか?」
「十分。そこだったら、勇治もいるか……」
「いや、ここは僕だけで良い」
 ゴウの言葉に、飛鳥が目を見開く。
「ゴウさん!?」
「たとえ相手が彼らでも、これは『ランドライザー・コマンド』の問題だ。僕だけで十分だ」
「けど、罠の可能性だって……」
「大丈夫。僕は『ディフェンド・キング』だ。負けはしないよ」
 そして、桃太郎と共にゴウが走り去っていく。
 飛鳥もまた、明日奈と共にゴウの後を追うのだった。



次回予告

 明日香「こんにちは、明日香です」
 飛鳥 「同じく、飛鳥です」
 明日奈「明日奈よ」
 明日香「それで、どうして一緒なの、明日奈と?」(←思いっきりヤキモチ中)
 飛鳥 「いや、偶然だってば……つか、ゴウさんも一緒だったし」(←本当にこれしか言えない)
 明日奈「飛鳥とのデート、楽しかったわよ」(←思いっきりワザと)
 明日香「で、デートぉ!? あ、あ、飛鳥君っ!」(←真に受ける人)

  次回、CONNECT35.『衝撃の再会』

 明日奈「次回は、思いがけない悲劇と言う名の再会よ」
 飛鳥 「だから、明日奈の言う事を真に受けるなって!」
 明日香「飛鳥君なんて大嫌いっ! 飛鳥君の馬鹿ぁっ!」(←走り去る)
 飛鳥 「だーかーらぁーっ!」(←追いかける)
 明日奈「……ちょっと冗談が過ぎたかしら……?」(←ちょっと反省)
  ※ちなみに、ちゃんと仲直りしてるので、ご安心を。



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