CONNECT36.『こよみさん』


「……何で……何で……!」
 コクピットランサーの中に入ったまま、飛鳥はその言葉を繰り返していた。
 まだ信じられない。『ダーク・フォース』があの人だと言う事に。
 いや、信じたくない。そんな飛鳥の元に、ゴウが近づく。
 飛鳥が入っているコクピットランサーを開き、飛鳥に優しく話しかける。
「飛鳥君、大丈夫かい?」
「……何でこよみさんが……こよみさんが『ダーク・フォース』なんて……」
「少しは落ち着こう。とりあえず立つんだ。皆に迷惑が掛かる」
 ゆっくりと飛鳥を立たせる。



 バトル・フィールドに到着し、明日香が飛鳥を探す。どこにもいなかった。
「……あれ、飛鳥君、バトル・フィールドに行ったんだよね?」
「ええ。でも、バトルしていないし、変ね……」
 明日奈も首を傾げる。不機嫌そうな顔をしている勇治が口を開く。
「いないなら俺は帰るぞ」
「あ、うん。じゃあね、勇治君」
「…………」
 そして、そのまま帰っていく。勇治は早く妹に謝らなければいけなかった
 明日香と明日奈は飛鳥を再び探す。その時、明日香の視界が真っ暗になった。
「え……?」
「だーれだ?」
「え、あ、え……!?」
「悲しいなぁ。つい最近会ったばかりなのにねぇ〜」
「あ、ゆ、優さん……?」
 答える。「正解〜」と言って、優が手を離した。郁美も一緒にいる。
「何してるの、こんなとこで?」
「その、飛鳥君を……」
「飛鳥? 飛鳥だったら、ゴウと一緒に喫茶店にいるはずよ」
 郁美が答える。
「え……」
「ゴウから連絡を受けて、今そこへ向かっているのよ。あなた達も来る?」
「と言うより、一緒の方が良いと思うけど? あすあすの為にも」



 ショップ内の喫茶店。飛鳥は顔を俯かせたまま、何もしなかった。
 目の前に出されている紅茶にすら手を出さない。
「僕の奢りだ。冷めないうちに飲んでくれないかな?」
「…………」
 何も答えない。こればかりは、流石のゴウもお手上げだった。
 そんな二人の席に、明日香、明日奈、優、郁美の四人が訪れる。
 明日香は飛鳥の姿を見て、やや驚いた。
「飛鳥君? どうかしたの?」
「…………」
「飛鳥君?」
「ゴウ、どうなってるのか説明してくれる?」
 優が席に座りつつ訊く。ゴウが頷いた。
「電話で話したとおり、『ダーク・フォース』とバトルをした。逃げられてしまったけどね。
 その時、飛鳥君が『ダーク・フォース』の事を『こよみさん』と呼んだんだ」
「こよみさんって……こよちゃん?」
「まさか、その『ダーク・フォース』がこよみちゃんって事かしら?」
「……そんなわけ……ないです……!」
 ついに飛鳥が口を開いた。歯を噛み締め、何かを堪えている。
 そんな表情を、優が珍しくも真面目な表情で見る。
「……こよみさんは……こよみさんはコネクターじゃない……! こよみさんは……」
「一般人。でも、『ダーク・フォース』の声は、こよちゃんだったんでしょ?」
「だから変でしょう……! こよみさんが『ダーク・フォース』なんかになるわけ……!」
「そう言い切れる?」
 優の目が、飛鳥の目を見る。
「相手にはイブリスがいる。つまり、イブリスが洗脳してたら、可能性はあるけど?」
「洗脳……じゃあ、助けないと……!」
「助けるってどうやって? 今は落ち着いて考える事の方が大切だと思うけど?」
「そんな事言ってられないでしょう!? イブリスがどんな奴か、優さんは忘れましたか!?」
「そんな簡単に忘れないって。だから、今は落ち着きなさい、あすあす」
「だから――――」

 バシンッ。

 乾いた音が店中に響く。優が、飛鳥の頬を引っ叩いた。
 意外だったのか、叩かれた飛鳥はパチパチと目を瞬かせる。
「いい加減にしなさい、あすあす。今動いたところで、イブリス達を見つけられるわけ?
 それに、一人で無謀な事して、ファルシオンセイバーを奪われたいの?」
「けれど……!」
「言い訳無用。今は落ち着いて考える事。それができないなら、『ソード・マスター』失格よ」
「……ッ!」
 飛鳥がテーブルを強く叩いて立ち上がる。カップに注がれている紅茶が、少しだけ零れた。
 優を睨み、飛鳥が歯を噛み締める。
「……失格なら、先代の権限で『ソード・マスター』の称号を剥奪すれば良いじゃないですか」
「飛鳥君!?」
「飛鳥!?」
 明日香と明日奈が同時に驚く。
「……こよみさんは必ず助けます……俺一人でもやれます……!」
「ハッキリ言って、今のあすあすじゃ無理。断言しとく」
「無理じゃない! やってみせる!」
 そう言って立ち去る。明日香がやや戸惑いつつ、優達にお辞儀して後を追った。
 明日奈も少し溜め息をついて、後に続いていく。
 そんな飛鳥達の姿を見ないで、優は平然と店員を呼んで注文する。
「カフェオレとレアチーズケーキ。伝票はあっちに渡して
「優、僕は君に奢るとは……」
「良いじゃない。たかが合計1200円なんだし」
「……仕方ない。忙しい君達をわざわざ呼んだお詫びに奢るとしよう」
 ゴウが苦笑する。郁美が少しだけ可笑しそうに口元を歪める。
「これで二度目ね、優が他人を引っ叩いたのは」
「そう? そう言えば、一度目はマリアを叩いたっけ。今回と状況違うけど」
「そうだったわね」
 少しだけ笑う。そして、ゴウが一息ついた。
「しかし、あそこまで取り乱すとはね」
「ま、相手がこよちゃんだからね。これは、結構大変かも」
「確かに。彼と連絡がつけば良いんだけれど……」
「あら、ゴウも連絡が取れないの? 私もここ数ヶ月、メールは送ってるけれど、返事すらないのよ」
 郁美の言葉に、ゴウが頷く。三人は顔を見合わせた。



「待って、飛鳥君!」
 飛鳥を追いかける。飛鳥は言葉を聞かないまま、黙々と歩いて行く。
 明日香が飛鳥の腕を掴んだ瞬間、飛鳥が凄い勢いで振り払った。
「あ……」
 明日香が声を漏らす。立ち止まり、明日香に背中を向けたまま、飛鳥は歯を噛み締めていた。
「…………」
「…………」
 互いに沈黙の状態が続く。そんな二人の姿を見た明日奈は、近寄れなかった。
 何かが起こりそうな雰囲気の二人。明日香が沈黙を破る。
「……こよみさんって、あのこよみさんだよね……?」
「…………」
「……飛鳥君、どうしたの? こよみさんと何かあったの……?」
「……ない」
「え……?」
 飛鳥が、顔だけ明日香の方へ向ける。
「……明日香には関係ない。いや、こよみさんの事は……誰にも関係ない……」
「それって……もしかして……」
「明日香には関係ないって言ってるだろ! 俺は……俺はっ……!」
 そう言って、飛鳥が歩き出す。明日香は追いかけようとしなかった。
 今追いかけても、飛鳥は何も教えてくれない。逆に遠ざかってしまう。
 分かっている。けれど、涙が流れてきた。
 そして、気づいた。飛鳥は、自分よりもこよみさんが好きなんだと。
「……っく……ひっく……ひっく……」
 手で顔を覆い隠し、泣き出す。それを見た明日奈が近寄り、ゆっくりと抱きしめた。
「……飛鳥君……どうし……っく……」
「明日香……」



 暗い闇の中に一つだけ無気味に光る液晶画面。
 そんな部屋で、総帥『ファイナル・ロード』は、一体のドライヴを手にした。
 生まれたばかりの赤子同然のドライヴ。それを見て、『ファイナル・ロード』がふっと笑みを浮かべる。
『――――ファイナル・ロード様』
 液晶画面に、一つの人影が映し出される。
『ご報告いたします。時機にファルシオンセイバーが手に入ります』
「ファルシオンセイバー……なるほど、『ソード・マスター』に狙いを定めたか」
『はい。ソード・マスターは見事、こちらの策略に。あとは最後の一手で使えば良いだけ。
 そして、あとはデス・ハンドを使えば……』
「ファルシオンセイバーは、『ソード・マスター』と共に手に入ると言う事か」
『その通りです』
 イブリスが不敵に笑う。『ソード・マスター』の弱点を狙えば、容易い事。
 しかし、それだけでは済まない。『ソード・マスター』の強さは貴重だ。
 なにせ、エヴィル・アスラフィルに傷をつけたコネクターだ。利用価値はある。



 歩きながら、飛鳥は苛立っていた。
 敵は――――イブリスは、あの人を『ダーク・フォース』に仕立て上げた。
 許せない。そんな気持ちだった。


「急がなきゃ……ほ、ほら君も!」
「え……急ぐって……!?」
「コネクト・バトル! 今日は、『ソード・マスター』戦をやるんだよ!」

 初めて出会った3年前、飛鳥は訳も分からないまま、ショップへと連れて行かれた。

「ドライヴって言うのはね、携帯電話に似た形のツールで、今目の前でやってるバトルをする為の物なの。
 それで、今やってるのが『フォース・コネクター』戦って言う、最も有名なバトルなんだよ」
「ドライヴ……『フォース・コネクター』戦……」

 彼女に連れて来させられた場所で知ったドライヴの世界。

「そう言えば、自己紹介してなかったね。私は日下部(くさかべ)こよみ。君は?」
「あ……れ、蓮杖……蓮杖飛鳥、です……」
「あすか……飛ぶ鳥って書いて、飛鳥で良いのかな?」
「は、はい……」
「そっか、良い名前だね。ね、飛鳥君。『ソード・マスター』に会ってみない?」

 そして『ソード・マスター』と出会い、ドライヴを始める事になった3年前。
 そう、こよみは自分にドライヴの世界を見せてくれた人。

「いよいよ、『ソード・マスター』戦なんだね」
「はい……」
「頑張ってね。あの人も、飛鳥君とバトルするのを楽しみにしてたから」


 ――――ごめんね……ごめんね、飛鳥君っ……。ごめんね……

「――――!」
 立ち止まり、近くの壁を強く殴る。骨が砕けそうなほど痛いと思った。
 頭に浮かんだ泣いている顔。分かっていたけど、辛かった顔。
「……くっ……こよみさん……こよみさん……! こよみさぁぁぁぁぁぁんっ……!」
 そして、その場に崩れ、飛鳥は涙を流した。



次回予告

 優  「うわ、シリアス展開? 作者にしては珍しいんじゃない?
 郁美 「別に珍しくはないと思うけれど?」
 優  「それより、こよちゃんの事であすあすは一杯一杯みたいね」
 郁美 「どうなるのかしらね、一体?」

  次回、CONNECT37.『暗黒へと染まる刃』

 郁美 「次回は、いよいよ飛鳥とこよみちゃんのバトルね」
 優  「バトルになるわけないでしょ、あすあすだし」
 明日香「あの、次回タイトルと違うような……」
 優  「大丈夫大丈夫♪ ちゃんとタイトル通りの展開になるはずだし」
 明日香「そ、そうなんですか……?」
 優  「それにしても、あすあすとの関係拗れ出したけど大丈夫?
 明日香「それは……その……っ……私は……私は……」(←泣き出しました)
 郁美 「優、今はそれはタブーよ」
 優  「あ、ヤバ……」



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