「……何で……何で……!」 コクピットランサーの中に入ったまま、飛鳥はその言葉を繰り返していた。 まだ信じられない。『ダーク・フォース』があの人だと言う事に。 いや、信じたくない。そんな飛鳥の元に、ゴウが近づく。 飛鳥が入っているコクピットランサーを開き、飛鳥に優しく話しかける。 「飛鳥君、大丈夫かい?」 「……何でこよみさんが……こよみさんが『ダーク・フォース』なんて……」 「少しは落ち着こう。とりあえず立つんだ。皆に迷惑が掛かる」 ゆっくりと飛鳥を立たせる。 バトル・フィールドに到着し、明日香が飛鳥を探す。どこにもいなかった。 「……あれ、飛鳥君、バトル・フィールドに行ったんだよね?」 「ええ。でも、バトルしていないし、変ね……」 明日奈も首を傾げる。不機嫌そうな顔をしている勇治が口を開く。 「いないなら俺は帰るぞ」 「あ、うん。じゃあね、勇治君」 「…………」 そして、そのまま帰っていく。勇治は早く妹に謝らなければいけなかった。 明日香と明日奈は飛鳥を再び探す。その時、明日香の視界が真っ暗になった。 「え……?」 「だーれだ?」 「え、あ、え……!?」 「悲しいなぁ。つい最近会ったばかりなのにねぇ〜」 「あ、ゆ、優さん……?」 答える。「正解〜」と言って、優が手を離した。郁美も一緒にいる。 「何してるの、こんなとこで?」 「その、飛鳥君を……」 「飛鳥? 飛鳥だったら、ゴウと一緒に喫茶店にいるはずよ」 郁美が答える。 「え……」 「ゴウから連絡を受けて、今そこへ向かっているのよ。あなた達も来る?」 「と言うより、一緒の方が良いと思うけど? あすあすの為にも」 ショップ内の喫茶店。飛鳥は顔を俯かせたまま、何もしなかった。 目の前に出されている紅茶にすら手を出さない。 「僕の奢りだ。冷めないうちに飲んでくれないかな?」 「…………」 何も答えない。こればかりは、流石のゴウもお手上げだった。 そんな二人の席に、明日香、明日奈、優、郁美の四人が訪れる。 明日香は飛鳥の姿を見て、やや驚いた。 「飛鳥君? どうかしたの?」 「…………」 「飛鳥君?」 「ゴウ、どうなってるのか説明してくれる?」 優が席に座りつつ訊く。ゴウが頷いた。 「電話で話したとおり、『ダーク・フォース』とバトルをした。逃げられてしまったけどね。 その時、飛鳥君が『ダーク・フォース』の事を『こよみさん』と呼んだんだ」 「こよみさんって……こよちゃん?」 「まさか、その『ダーク・フォース』がこよみちゃんって事かしら?」 「……そんなわけ……ないです……!」 ついに飛鳥が口を開いた。歯を噛み締め、何かを堪えている。 そんな表情を、優が珍しくも真面目な表情で見る。 「……こよみさんは……こよみさんはコネクターじゃない……! こよみさんは……」 「一般人。でも、『ダーク・フォース』の声は、こよちゃんだったんでしょ?」 「だから変でしょう……! こよみさんが『ダーク・フォース』なんかになるわけ……!」 「そう言い切れる?」 優の目が、飛鳥の目を見る。 「相手にはイブリスがいる。つまり、イブリスが洗脳してたら、可能性はあるけど?」 「洗脳……じゃあ、助けないと……!」 「助けるってどうやって? 今は落ち着いて考える事の方が大切だと思うけど?」 「そんな事言ってられないでしょう!? イブリスがどんな奴か、優さんは忘れましたか!?」 「そんな簡単に忘れないって。だから、今は落ち着きなさい、あすあす」 「だから――――」 バシンッ。 乾いた音が店中に響く。優が、飛鳥の頬を引っ叩いた。 意外だったのか、叩かれた飛鳥はパチパチと目を瞬かせる。 「いい加減にしなさい、あすあす。今動いたところで、イブリス達を見つけられるわけ? それに、一人で無謀な事して、ファルシオンセイバーを奪われたいの?」 「けれど……!」 「言い訳無用。今は落ち着いて考える事。それができないなら、『ソード・マスター』失格よ」 「……ッ!」 飛鳥がテーブルを強く叩いて立ち上がる。カップに注がれている紅茶が、少しだけ零れた。 優を睨み、飛鳥が歯を噛み締める。 「……失格なら、先代の権限で『ソード・マスター』の称号を剥奪すれば良いじゃないですか」 「飛鳥君!?」 「飛鳥!?」 明日香と明日奈が同時に驚く。 「……こよみさんは必ず助けます……俺一人でもやれます……!」 「ハッキリ言って、今のあすあすじゃ無理。断言しとく」 「無理じゃない! やってみせる!」 そう言って立ち去る。明日香がやや戸惑いつつ、優達にお辞儀して後を追った。 明日奈も少し溜め息をついて、後に続いていく。 そんな飛鳥達の姿を見ないで、優は平然と店員を呼んで注文する。 「カフェオレとレアチーズケーキ。伝票はあっちに渡して」 「優、僕は君に奢るとは……」 「良いじゃない。たかが合計1200円なんだし」 「……仕方ない。忙しい君達をわざわざ呼んだお詫びに奢るとしよう」 ゴウが苦笑する。郁美が少しだけ可笑しそうに口元を歪める。 「これで二度目ね、優が他人を引っ叩いたのは」 「そう? そう言えば、一度目はマリアを叩いたっけ。今回と状況違うけど」 「そうだったわね」 少しだけ笑う。そして、ゴウが一息ついた。 「しかし、あそこまで取り乱すとはね」 「ま、相手がこよちゃんだからね。これは、結構大変かも」 「確かに。彼と連絡がつけば良いんだけれど……」 「あら、ゴウも連絡が取れないの? 私もここ数ヶ月、メールは送ってるけれど、返事すらないのよ」 郁美の言葉に、ゴウが頷く。三人は顔を見合わせた。 「待って、飛鳥君!」 飛鳥を追いかける。飛鳥は言葉を聞かないまま、黙々と歩いて行く。 明日香が飛鳥の腕を掴んだ瞬間、飛鳥が凄い勢いで振り払った。 「あ……」 明日香が声を漏らす。立ち止まり、明日香に背中を向けたまま、飛鳥は歯を噛み締めていた。 「…………」 「…………」 互いに沈黙の状態が続く。そんな二人の姿を見た明日奈は、近寄れなかった。 何かが起こりそうな雰囲気の二人。明日香が沈黙を破る。 「……こよみさんって、あのこよみさんだよね……?」 「…………」 「……飛鳥君、どうしたの? こよみさんと何かあったの……?」 「……ない」 「え……?」 飛鳥が、顔だけ明日香の方へ向ける。 「……明日香には関係ない。いや、こよみさんの事は……誰にも関係ない……」 「それって……もしかして……」 「明日香には関係ないって言ってるだろ! 俺は……俺はっ……!」 そう言って、飛鳥が歩き出す。明日香は追いかけようとしなかった。 今追いかけても、飛鳥は何も教えてくれない。逆に遠ざかってしまう。 分かっている。けれど、涙が流れてきた。 そして、気づいた。飛鳥は、自分よりもこよみさんが好きなんだと。 「……っく……ひっく……ひっく……」 手で顔を覆い隠し、泣き出す。それを見た明日奈が近寄り、ゆっくりと抱きしめた。 「……飛鳥君……どうし……っく……」 「明日香……」 暗い闇の中に一つだけ無気味に光る液晶画面。 そんな部屋で、総帥『ファイナル・ロード』は、一体のドライヴを手にした。 生まれたばかりの赤子同然のドライヴ。それを見て、『ファイナル・ロード』がふっと笑みを浮かべる。 『――――ファイナル・ロード様』 液晶画面に、一つの人影が映し出される。 『ご報告いたします。時機にファルシオンセイバーが手に入ります』 「ファルシオンセイバー……なるほど、『ソード・マスター』に狙いを定めたか」 『はい。ソード・マスターは見事、こちらの策略に。あとは最後の一手で使えば良いだけ。 そして、あとはデス・ハンドを使えば……』 「ファルシオンセイバーは、『ソード・マスター』と共に手に入ると言う事か」 『その通りです』 イブリスが不敵に笑う。『ソード・マスター』の弱点を狙えば、容易い事。 しかし、それだけでは済まない。『ソード・マスター』の強さは貴重だ。 なにせ、エヴィル・アスラフィルに傷をつけたコネクターだ。利用価値はある。 歩きながら、飛鳥は苛立っていた。 敵は――――イブリスは、あの人を『ダーク・フォース』に仕立て上げた。 許せない。そんな気持ちだった。 「急がなきゃ……ほ、ほら君も!」 「え……急ぐって……!?」 「コネクト・バトル! 今日は、『ソード・マスター』戦をやるんだよ!」 初めて出会った3年前、飛鳥は訳も分からないまま、ショップへと連れて行かれた。 「ドライヴって言うのはね、携帯電話に似た形のツールで、今目の前でやってるバトルをする為の物なの。 それで、今やってるのが『フォース・コネクター』戦って言う、最も有名なバトルなんだよ」 「ドライヴ……『フォース・コネクター』戦……」 彼女に連れて来させられた場所で知ったドライヴの世界。 「そう言えば、自己紹介してなかったね。私は日下部(くさかべ)こよみ。君は?」 「あ……れ、蓮杖……蓮杖飛鳥、です……」 「あすか……飛ぶ鳥って書いて、飛鳥で良いのかな?」 「は、はい……」 「そっか、良い名前だね。ね、飛鳥君。『ソード・マスター』に会ってみない?」 そして『ソード・マスター』と出会い、ドライヴを始める事になった3年前。 そう、こよみは自分にドライヴの世界を見せてくれた人。 「いよいよ、『ソード・マスター』戦なんだね」 「はい……」 「頑張ってね。あの人も、飛鳥君とバトルするのを楽しみにしてたから」 ――――ごめんね……ごめんね、飛鳥君っ……。ごめんね…… 「――――!」 立ち止まり、近くの壁を強く殴る。骨が砕けそうなほど痛いと思った。 頭に浮かんだ泣いている顔。分かっていたけど、辛かった顔。 「……くっ……こよみさん……こよみさん……! こよみさぁぁぁぁぁぁんっ……!」 そして、その場に崩れ、飛鳥は涙を流した。 次回予告 優 「うわ、シリアス展開? 作者にしては珍しいんじゃない?」 郁美 「別に珍しくはないと思うけれど?」 優 「それより、こよちゃんの事であすあすは一杯一杯みたいね」 郁美 「どうなるのかしらね、一体?」 次回、CONNECT37.『暗黒へと染まる刃』 郁美 「次回は、いよいよ飛鳥とこよみちゃんのバトルね」 優 「バトルになるわけないでしょ、あすあすだし」 明日香「あの、次回タイトルと違うような……」 優 「大丈夫大丈夫♪ ちゃんとタイトル通りの展開になるはずだし」 明日香「そ、そうなんですか……?」 優 「それにしても、あすあすとの関係拗れ出したけど大丈夫?」 明日香「それは……その……っ……私は……私は……」(←泣き出しました) 郁美 「優、今はそれはタブーよ」 優 「あ、ヤバ……」 |
<< CONNECT35. CONNECT37. >> 戻る トップへ
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||