マリアが負けた。そう聞いた飛鳥は、ゴウ達と共に現地へ向かった。 相変わらずな状態の勇治と、異様な雰囲気の『レディエンス・ビューティーズ』の姿を見つける。 リーダーが負けて悲しんでいるメンバー。それを励ましているのは、なぜか明るい表情のマリアだ。 飛鳥が首を傾げる。 「……本当に負けたのか?」 「電話で言っただろう。あれは、無理してるだけだ」 「誰も無理してないわよ」 そう言って、マリアが勇治の頬を引っ張る。 そして、飛鳥達の前で軽く笑いながら言う。 「と言う事で、『ストーム・クラウン』じゃなくなっちゃいました」 「なくなっちゃいました、って……」 「マリア、無理は……」 「無理してないしてない。ほら、ゴウは新しい『ストーム・クラウン』のところに行って来て!」 そう言って、ゴウの背中を押す。そんなマリアの姿を優と郁美が黙って見ている。 それに気づいたのか、マリアが二人に近づいて、頭を下げる。 「ごめんなさい、お姉さま方。負けちゃいました」 「無理しなくて良いんじゃない?」 優が言う。 「本当は悔しいんでしょ? 無理しないで、出すもん出しちゃえば?」 「何を言いますか、優姉さま。私は別に無理なんて……」 「はいはい。素直になりなさい」 郁美がマリアを抱きしめる。今まで我慢していたマリアが泣き出した。 予想通り、と言わんばかりに、優がマリアの頭を撫でる。 「やれやれ、困った子ね、マリアは」 「ごめ……なさい……。私……私っ……!」 「気にする事はないわ。いずれ負ける時があるものでしょう? ただ、その相手が後継者じゃなかっただけよ」 二人でマリアを慰める。勇治は自分のドライヴを黙って見ていた後、行動に出た。 マリアの耳を強く引っ張る。マリアの顔が引きつった。 「い……痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 痛いってば!」 「だろうな。強く引っ張ったからな」 「な、何で引っ張るのよ、勇治!?」 勇治を睨む。勇治がふんと、そっぽを向いた。 「悔しいなら、『ストーム・クラウン』にもう一度なれ」 「え……!?」 「お前以外を『ストーム・クラウン』として認める気はない。 俺が『マグナム・カイザー』で居続ける限りは、お前が『ストーム・クラウン』だ」 「勇治……」 そう言って、勇治がドライヴを操作して、SDカードを取り出す。 取り出したSDカードを飛鳥に投げ渡す。 受け取った飛鳥が溜め息をつく。 「……お前、カードは投げるなよ。失くしても責任は取れないぞ」 「サタン・オブ・マグナムは預けた」 「何!?」 飛鳥がすぐに受け取ったSDカードの中身を調べる。 サタン・オブ・マグナムがSDカードに入っていた。飛鳥が目を見開く。 「おい、何考えてんだよ!?」 「マリアが再び『ストーム・クラウン』になるまで、俺はサタン・オブ・マグナムを使わん」 「だからって、俺に預けるな! 自分でどうにかしろ!」 「俺の勝手だ」 「……ったく、どうなっても知らねぇからな!」 そう言って、サタン・オブ・マグナムを自分のドライヴに入れる。 色々と文句を言いつつも、勇治の頼みを聞く飛鳥は、人が良い。 そんなやり取りの中、ゴウが新たなる『ストーム・クラウン』を連れて来る。 「飛鳥君、勇治君、彼が新『ストーム・クラウン』のカリス=ハーツェルト君だ」 「初めてお目にかかります、『ソード・マスター』に『マグナム・カイザー』。カリス=ハーツェルトです」 「ああ。『ソード・マスター』蓮杖飛鳥だ」 「……『マグナム・カイザー』の荻原勇治だ」 互いに挨拶を交わす。飛鳥がカリスに訊く。 「……お前、いくつだ?」 「15歳の中学3年生です」 「若いな……」 「飛鳥君、君も十分若いよ。まだ17歳だろう?」 ゴウが苦笑する。確かに、ゴウからすれば若い『フォース・コネクター』達である。 ちなみに、ゴウは約2年ほど前から「とっとと引退しろ」と言われ続けられているが、全くの余談である。 勇治が飛鳥の腕を小突く。 「飛鳥、話がある。お前の家に行って良いか?」 「話って、別にここでも良いだろ?」 「良くない。これは、お前にしか分からない事だからな」 「俺にしか分からない事、ね……」 そう言いつつ、すんなりと了承する飛鳥だった。 ショップ内に設置されているコンピュータで、優がマリアのドライヴをチェックする。 「ふーん、自分で良い感じに調整してるじゃない。ちょっと甘いけど」 「……甘いですか、優姉さま?」 「甘い。色々とムラがある」 ドライヴの全体図を出して、マリアに説明していく。しかし、マリアには理解できなかった。 それもそのはず。天才肌である優の説明は、細か過ぎて逆に分からないのだ。 優が軽く溜め息をつく。 「ま、機械に疎いマリアにしては上出来だけど。さて、これどうしよっか?」 「どうって、性能上げるしかないと思いますけど、優姉さま?」 そう答えるマリアに、デコピンする。 「性能上げられるわけないでしょ。これが限界よ、ムササビ丸は」 「……じゃあ、どうするんですか?」 「新型に作り変える」 そう言って、優の表情が真剣になる。 ドライヴ、アクティブ・ウェポンを手掛ける時の姿。本来の彼女と言っても良い。 「久々に、とんでもないドライヴを作るとしますか。驚くほどのドライヴをね」 自宅。飛鳥が溜め息をつく。 「……ったく、厚かましいぞ、おい」 「何がだ?」 「その態度だ、その態度!」 怒鳴る。現在、21時半過ぎ。勇治が帰る気配など全くない。 「前々から言っていたはずだ、『いつか泊まりに行く』と」 「ああ、言ってたよ。まさか今日とは思わなかったけどな」 「だったら別に良いだろう?」 「それが、図々しくも最高級のステーキとかリクエストしやがった奴の台詞か!」 そう、勇治はとても厚かましかった。 夕食のメニューを家政婦がリクエストしたところ、勇治は「最高級のステーキ」と言い出した。 当然、どうにか近所のスーパーで売っているようなステーキにまでランクを下げたのは言うまでもない。 「ったく、少しは遠慮くらいしろよ」 「お前に遠慮してどうする?」 「……おい」 もはや、何も言う気が起きなくなった。 そんな時、飛鳥のドライヴから某ゲームの勝利のテーマが着信音として鳴り響く。 「電話か? しかし、その着信音は何だ?」 「お前も聴いた事がある曲だ」 そう答えながら、電話に出る。 「もしもし?」 『飛鳥か。俺だ』 「輝凰さん? どうかしました?」 『ああ。今度のダーク・フォースの事で、お前に話だけはしておこうと思ってな』 輝凰の言葉に、飛鳥が真剣な表情になる。 「今度の『ダーク・フォース』……!」 『空を支配せしダーク・フォース。間違いない、ジャッジメント・ウィザードが今回の相手になるはずだ』 「『ジャッジメント・ウィザード』? それが、空の『ダーク・フォース』ですか?」 『そうだ。7年前からその座についていた存在で、今度こそ動きを見せるはずだ』 「7年前から? けど、前に現れた空の『ダーク・フォース』は……」 『ゴウから聞いてはいたが、そいつは偽者だ。おそらく、こちらの目を欺く為に存在していただけだろう』 「偽者って……回りくどいですね、それ」 今までバトルしてきた空の『ダーク・フォース』は偽りの存在。 本当の空の『ダーク・フォース』――――『ジャッジメント・ウィザード』は、7年前から存在する。 『イブリスの事だ、何か企んでいるんだろう』 「……なるほど、確かにイブリスなら……。けど、輝凰さん、やけに詳しいですね……?」 飛鳥の疑問に、輝凰が「ん?」と電話の向こうで首を傾げる。 『ゴウから聞いていないのか? ……いや、俺が話しておくべきか』 「何をですか?」 『俺が、元々ダーク・コネクター幹部だったって事だ』 「な……!?」 目を見開く。流石に、こればかりは驚くしかない。そんな飛鳥とは逆に、勇治は平然とゲームをしている。 先代『ソード・マスター』が敵の幹部だった。信じられるわけがない。 輝凰が話を続ける。 『ダーク・コネクター幹部、修羅を司りし者。それが、昔の俺だ』 「……ほ、本当ですか!?」 『ああ。と言っても、7年近くも前の話だ。ゴウに負けて、自分の間違いに気づいたからな』 「間違い?」 『俺は総帥から、最強の強さを与えてもらう事を約束されていた。しかし、それは間違いだった。 最強の強さとは、人に与えられるものじゃない。自分で手に入れるものだと知ったからな。 だからこそ、俺は奴らを裏切った。元々、イブリスとはウマが合わなかったからな』 「優さんや郁美さんは、その事……」 『知っている。と言うより、この事を知っているのは、上の人間くらいだ』 輝凰が軽く息を吐く。 『……本来なら、俺の代で奴らを倒すべきだった。だが、俺にはイブリスは倒せない』 「倒せないって……輝凰さんが!?」 『イブリスの奴は俺の事を知り尽くしている。俺の戦い方全てを、な。 奴を倒せる強さがあれば、ダーク・コネクターを壊滅させる事ができる。 その為に、俺は最強を貫きながら、イブリスを倒せる後継者を探していたんだ』 「……それが、俺って事ですか?」 『そうだ。その証拠に、お前は俺を倒してソード・マスターになってくれた。 すまないな、お前にとんでもない事を押し付けてしまって』 「……いいえ、大丈夫です。なにせ、あなたの後継者ですから」 輝凰の言葉に、強く応える飛鳥だった。 ちなみに、勇治はゲームオーバーになって、意味もなく不機嫌だったのは余談である。 次回予告 明日香「輝凰さんって、『ダーク・コネクター』だったんだ……」 飛鳥 「流石に俺も驚いた。全く、人が悪いよな……」 明日香「そう言えば、カリス君ってどんな感じだったの?」 飛鳥 「真面目な少年って感じ。何で?」 明日香「ううん、気になっただけだから。女の子だったら、どう答えるのかなって思っただけだよ」 飛鳥 「……そ、そうなんだ……」(←久々に彼女の嫉妬の恐ろしさを知った人) 次回、CONNECT42.『謎のダーク・フォース』 明日香「次回は、ダーク・フォースの登場!?」 飛鳥 「何気に疑問系だね」 明日香「何かありそうだよね……」 ※そこ、変な推測しない! |
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