CONNECT43.『奪われたセルハーツ』


 暗い闇の中に一つだけ無気味に光る液晶画面。
 その部屋で、『ファイナル・ロード』はイブリスともう一人の報告を聞いていた。
「ワイヴァーン・ウイングは手に入りそうか?」
『それは問題ないかと。そうですよね、ジャッジメント・ウィザード?』
『……はい。すでに手は回しております。例の作戦も順調に進んでおります』
 イブリスの言葉に、ジャッジメント・ウィザードと呼ばれた『ダーク・フォース』が答える。
『ただ、問題はやはりソード・マスターかと。見た限りでは、恐ろしいほどの余力を残しております』
『それについては、すでに私の方から手を打っている』
 イブリスが不敵に笑う。



『ダーク・フォース』の謎の動きから、早くも1週間。
 飛鳥はショップに設置されているコンピュータを操作しつつ、溜め息をついた。
「ったく、適当な完成予想図だけ渡して作らせるなんて……」
 そう、飛鳥は優にアクティブ・ウェポンを作らされていた。
 ある程度の設計図があれば良いのだが、完成予想図だけでは、流石に難しい。
「家に帰れば、保存データを利用できるんだろうけど、今は無理だしなぁ……」
 なぜ、わざわざショップで作っているのかと言うと、それには理由がある。
「とりあえず作れるところだけ作るか。少ないけど」
「飛鳥にーちゃん!」
 その時、呼ばれる。一人の少年が飛鳥の元に走ってきた。
 過去、四人の『フォース・コネクター』を束ねていた伝説のチーム『レザリオン』。
 そのチームの正統後継者である少年・嵩凪隆也。
 隆也が飛鳥の服の裾を引っ張る。
「飛鳥にーちゃん、僕もう終わっちゃったよ!」
「終わったって、俺が用意したトレーニングを?」
「うん!」
 隆也が頷く。飛鳥は思わず苦笑した。
 流石は後継者、と言わんばかりの才能には、常戦無敗である飛鳥ですら驚かされる。
「……って、隆也君? 美雪ちゃんいないけど……?」
「美雪はまだやってるよ?」
 それを聞いて肩を落とす。
「……隆也君、美雪ちゃんも終わってから言いに来ないと」
「どうして?」
「約束したろ? 二人とも一緒って」
 チームの正統後継者である二人の兄妹を一緒に強くしていく。
 それが、飛鳥が言われていた事でもあり、レザリオンの為でもあるからだ。
 隆也の頭を撫でる。
「隆也君。強くなるって言うのは、一人じゃ絶対にできないんだよ。一緒に伸ばし合える相手が必ず必要になる」
「う?」
「そのうち分かるよ。隆也君と美雪ちゃんならね」



 この日、マリアは優に呼び出しを受けていた。
 用件はただ一つ。ムササビ丸のパワーアップについて、である。
「まだアクティブ・ウェポンの方が完成してないけど、それでもムササビ丸の1.3倍近くの性能よ」
「うわ……ムササビ丸とは全く違った外見ですよ、優姉さま……」
 受け取ったドライヴのデータを見つつ、マリアが感嘆とする。
「それ専用のアクティブ・ウェポンを装備したら、間違いなく空じゃ最強かもね」
「ん? ドライヴの名前がムササビ丸から違うのになっていますけど?」
「当たり前でしょ、ムササビ丸なんて名前は合わないの。ちなみに、名付けたのはあすあす」
「ああ、確かに飛鳥っぽい」
 優がマリアに言う。
「今週中にはSRランクになる事。良い?」
「……優姉さま、今月はトーナメントありませんよ」
「あれがあるでしょ、あれが。元『ストーム・クラウン』だったら、あれを受ければ良いじゃない」
「あ、あれって……」
 脳裏に、ぐったりとした飛鳥の姿が思い出される。
 あの難易度の高さは、『フォース・コネクター』でさえも悪夢に近い。
 蒼白になっていくマリアを見つつ、優が「大丈夫だって」と励ます。
「マリアなら楽勝よ。なにせ、私の元後継者候補だったんだから」
 優の言葉に、マリアが渋々頷く。



 バトル・フィールド。飛鳥のセルハーツは、ただその場に立っているだけだった。
 飛鳥は、ただ静かに目を閉じている。瞬間、1体のドライヴが斬りかかった。
「えーい!」
 振り下ろされる。瞬時に感知し、セルハーツが回避した。
 刹那、今度は後方から巨大なビームが襲い掛かる。
「うん。その調子だよ」
 そう言って避ける。今度は実戦でバトルを教えていた。
 飛鳥がふっと笑みを浮かべる。そのコンビネーションの良さを確認して。
 セルハーツがプラズマセイバーを構える。
「今日教えるのは、防御。ここからが、このレクチャーの本番だ」
『その前に、こちらの相手をしてもらおうか!』
 一筋のビームがセルハーツを襲う。飛鳥は目を鋭くした。
 ビームの軌道を見切り、プラズマセイバーで弾き飛ばす。
「乱入……誰だ!?」
 教えていた二人のドライヴの前に立ち、セルハーツが瞬時にファルシオンセイバーを構える。
 セルハーツの前に姿を見せる二体。反応は『ダーク・コネクター』。
 漆黒の装甲が目立ち、深紅のビームソードを持ったドライヴと深い青の装甲でナギナタを持ったドライヴ。
 飛鳥が二体のドライヴを睨む。漆黒の装甲が目立つドライヴのコネクターが口を開いた。
『あんた、ソード・マスターだろ? 俺は緋月歩(ひづき あゆむ)。隣の奴は近衛瑞樹(このえ みずき)。
 てっとり早く言う。あんたの持ってるファルシオンセイバーを渡せ』
「……断る。『ダーク・コネクター』に渡す気はない」
『へっ、俺らがダーク・コネクター幹部ってのが分かってるって事か?』
「幹部だと?」
『ああ。俺は幹部ブラッディ・ファング。そして、こいつはゼパール・フラズグズ
 自ら幹部と名乗る目の前の敵。その言葉には、どこか余裕が感じられた。
 間違いなく甘く見られている。そう飛鳥は感じた。
 後ろにいる二人に話し掛ける。
「……隆也君、美雪ちゃん、コネクト・アウトするんだ。危ないから。
 そしてショップの店員さんの近くにいる事。何かあった時は、店員さんの所に逃げる。良いね?」
「飛鳥にーちゃんは……?」
「俺は、『ソード・マスター』としてやる事があるから。隆也君、美雪ちゃんを守れ」
「う、うん……!」
 飛鳥の言葉に、隆也が頷く。そして、セルハーツの後ろにいたドライヴが姿を消した。
 これで、敵は自分しか狙えない。思う存分戦う事ができる。
『俺達を相手に、本当に一人で戦う気かよ?』
「ああ。お前ら二人くらい余裕だ。全力でなくてもな」
『言ってくれるな……! 俺のアルトリアスを甘く見てみたら後悔するぜ、ソード・マスター!』
 幹部『ブラッディ・ファング』のドライヴ――――アルトリアスが突撃する飛鳥はすぐに反応した。
 振り向けられるビームソードを受け止め、押し返す。
『な……!?』
「遅い!」
 セルハーツが左手で殴り、アルトリアスを吹き飛ばす。
「それで幹部なんて笑わせるな。レガリアが欲しければ、本気で来い」
 挑発する。飛鳥にしては珍しかった。
 いや、飛鳥はたかが幹部に甘く見られている事に対し、やや不機嫌になっていた。
 つまり、自分を馬鹿にされているように思えた為、少しはまともに戦おうと言う事である。
 吹き飛ばされたアルトリアスが立ち上がる。『ブラッディ・ファング』こと、歩が歯を噛み締める。
『この野郎……俺のアルトリアスを! 瑞樹、援護しろ!』
『待って、歩! 相手はソード・マスター。そう簡単に倒せるわけが無いわ!』
『んなわけあるか! 俺とお前は幹部なんだ! あいつを倒せないわけがねぇ!』
 再びアルトリアスが突撃する。セルハーツがすぐに受け止める。
 その時を狙って、『ゼパール・フラズグズ』が攻撃を仕掛ける。
『スラッシュビーム!』
 放たれるビームの刃。飛鳥は『ブラッディ・ファング』を突き飛ばした。
 そしてビームの刃を弾き、空高く跳び上がる。
「エアブレード・アトモスフィア!」
『ゼパール・フラズグズ』のドライヴに風の飛礫が降り注がれる。刹那、ドライヴの周囲をバリアが覆った。
 風の飛礫がバリアに防御される。
「威力の低い攻撃じゃ倒す事はできないか」
 風の刃を拡散させる事によって、その命中率を大幅に上げるエアブレード・アトモスフィア。
 命中率が高くなって攻撃は当たりやすいが、その威力は下がる。
 大地に着地したセルハーツに、『ブラッディ・ファング』が三度襲い掛かる。
『カイザーネイル!』
 ビームソードを二本構えて振りかぶる。セルハーツが再び跳躍した。
 攻撃に対する反応速度、そして驚くべきセルハーツと言うドライヴの性能。
 上空からセルハーツがゴッドランチャーを構える。
「ゴッドランチャー、シュート!」
 ビームが放たれる。『ブラッディ・ファング』が舌打ちし、攻撃をどうにか避けた。
 セルハーツが再び大地に降り立つ。幹部二人はセルハーツから距離を置いた。
『チィッ! この野郎……!』
『動きが速い……流石はソード・マスターって事ね……』
『こうなったら、あの技を使うぞ! 瑞穂、エリアス・ファルケは動けるんだろうな!』
『ええ! やるわよ、歩!』
 二体のドライヴがセルハーツを挟んだ状態で構える。
『くらえ、スキル・プログラム! インフィニティ・ブレイクッ!』
 二体のドライヴが同時にセルハーツへ向かって突撃する。飛鳥はふっと鼻で笑った。
 剣を振り上げる。
「輝凰! 斬・王・陣ッ!」
 大地に突き刺し、エネルギーを突き刺した中心から放出する。光の波動が二体のドライヴを襲った。
『ぐぁぁぁぁぁぁ!?』
『きゃぁぁぁぁぁぁ!?』
 二体のドライヴが光の波動で吹き飛ばされる。飛鳥はこれを狙っていた。
 機能を失う歩のアルトリアスと瑞穂のエリアス・ファルケ。歩が目の前のコンピュータに八つ当たりする。
『くそっ! あいつ、狙ってたのかよ!?』
『まさか、私達の攻撃が読まれていたなんて……あれがソード・マスターなの……!?』
 デビュー時から一度も負ける事なく、その座に立ち続けているコネクター。
 あの『アサシン・ブレード』や『サタン・ビックフット』でさえ倒せない相手。
 セルハーツが大地に突き刺した剣を引き抜く。その時、セルハーツの動きが止まった。
「――――!?」
『ふふふ……作戦成功ですか』
「な……!?」
 セルハーツの目の前に姿を見せる一体のドライヴ。イブリスのエヴィル・アスラフィルだ。
 重力によって動きを制したセルハーツの胸部を左手で掴む。
『今回はあなたを倒す為の作戦ではなく、あなたを戦えなくする為の作戦なのですよ』
「……どう言う事だ……!?」
『こう言う事です。ダークハンド』
 セルハーツが足元から少しずつ消えて行く。
「イブリス、何を……!?」
『あなたの強さは、セルハーツと言うドライヴによる強さが含まれます。それを奪うだけですよ。
 ついでに、このままファルシオンセイバーも手に入れさせて頂きます』
「そうはいくか……ファルシオン!」
 飛鳥の声に反応し、ファルシオンセイバーが姿を消す。
『ほう……?』
「レガリアは渡さない……! そして、セルハーツもなぁ!」
 コンピュータを操作する。『OK!』とコンピュータが反応した。
 セルハーツのカメラアイが光り出し、エヴィル・アスラフィルを吹き飛ばす。
 しかし、セルハーツの消滅は防げていない。
『なるほど。私の予想通り、そのドライヴには何か秘密ありましたか……』
「くそっ、間に合わなかったか……!」
『目当てのものは少なからず手に入りました。では、撤退です、ブラッディ・ファングにゼパール・フラズグズ』
 そして姿を消す。同時に、セルハーツの姿もバトル・フィールドから消えた。



 ドライヴを取り出してコクピットランサーから降りる。飛鳥はすぐにドライヴを確認した。
 そして、すぐに舌打ちする。
「セルハーツ……くそっ!」
 ドライヴには、セルハーツは表示されていない。
 それは、『ダーク・コネクター』にセルハーツが奪われた結果だった。



次回予告

 明日香「本当に奪われたんだ……」
 飛鳥 「前回の予告通りの結果……」(←酷く落ち込み中)
 明日香「とりあえず、元気出そうね……?」

  次回、CONNECT44.『勇治の意外な励まし?』

 明日香「次回は勇治君が大活躍?」
 飛鳥 「……馬鹿カイザーが活躍するわけないだろ」
 明日香「そ、それは流石に酷いんじゃ……」
 勇治 「その通りだ。とりあえず、しっかりしろ。ポーション奢らせてやる
 飛鳥 「奢るんじゃねぇのかよ!? つーか、ポーションなんてもう売ってねぇよ!」
 明日香「……勇治君って、ポーション好きだったんだ……」(←飲んで微妙だったらしい人)



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