『ジャッジメント・ウィザード』とのバトルから数日。飛鳥はひたすらトレーニングしていた。 自分で設定したシミュレートで、自分の限界に挑む。 「……っ」 シミュレートを切る。目に大きな負担が掛かった。 「……少し、休むか」 そうしないと、目が持たない。いや、精神的に疲れる。 「あと少しどうにかなれば、セルハーツの力を完全に引き出せるんだけど……」 間違いなく、重要なのは自分の持つ『鷹の瞳』とタイミング。 少しでも違えば、セルハーツの力は全て引き出せない。 「とりあえず10分位休憩して、セルハーツを調整するか」 ドライヴを取り出し、そのままショップ内の喫茶店へ向かう。 「あ、いたいた! 飛鳥くーん!」 その時、呼び止められる。明日香が大きく手を振っていた。 飛鳥も軽く手を上げる。 「よう、明日香。どうしたんだ?」 「う、うん……。その……」 明日香がドライヴを取り出す。 「シルフィーナディアが変みたいで……」 「変?」 「うん。見たら、訳分からない文字で一杯になってて……」 「ちょっと貸して」 受け取り、すぐにコンピュータに接続する。飛鳥はシルフィーナディアを調べた。 表示される文字だけの羅列。それを見た飛鳥の瞳が見開かされる。 セルハーツを入れているドライヴを取り出す。何も変わりはない。 (……けど、これは間違いなく……) 息を呑む。明日香が首を傾げた訊く。 「何か分かるの?」 「…………」 「……飛鳥君?」 「……明日香、しばらく預かって良いか? 修理するから」 「う、うん。良いけど……」 コンピュータからシルフィーナディアを取り外し、自分のポケットに入れる。 そして、グロウファルコンのドライヴを明日香に渡す。 「調整用に持って来てて良かった。少しの間、そいつ使ってくれ」 「うん。ありがとう、飛鳥君」 とある病院の診察室。そこで、輝凰はいつものように患者の診察を行い、昼前に一通り終えた。 「カルテの整理も終わったし、少し早いが昼飯でも食うか」 どうせ午後からまた忙しくなるだろう。医者とはそう言うものだ。 そう思いつつ、席を立ち上がる。ドライヴが突然ポケットの中で振動した。 メールの着信。相手はこよみだろうと予測しつつ、ドライヴを手にする。 「……!」 目を見開く。 『Despair tells beginning.』(絶望が始まりを告げる) そう書かれたメールの本文。輝凰はすぐに分かった。 送ってきた相手は間違いなく、奴ただ一人。 「イブリス、あの馬鹿野郎……!」 ドライヴを強く握り締め、「飛鳥、油断するなよ」と心で思う。 少しの休憩を取った後、飛鳥は近くのコンピュータに接続して、セルハーツの調整に取り掛かった。 素早い手つきで状態を調べ、セルハーツを万全に仕上げて行く。 「……よし、あとは操縦性を確かめないとな」 そのままシミュレートを起動させる。途端、ファルシオンセイバーが強い反応を示した。 飛鳥が目を見開く。この反応は間違いなく、『ダーク=レガリア』だ。 「けれど、四つの『ダーク=レガリア』は完全に破壊して……――――!?」 シミュレート用のバトル・フィールドに一体のドライヴが出現する。そして襲い掛かってきた。 すぐに反応し、回避する。紅蓮のローブを纏い、黒炎の拳を持つドライヴ。 そして、背後から再び別のドライヴが襲い掛かってくる。 『覚悟してもらいますわ、ソード・マスター!』 「――――! ヴォルト・デュラハン!」 雷の鞭を放つヴォルト・デュラハン。飛鳥は瞳を鋭くし、『鷹の瞳』で攻撃を見切った。 剣を逆手にし、大地へと突き刺す。 「輝凰! 斬・王・陣ッ!」 セルハーツの周囲から無数の光の波動が大地から天空へと放たる――――が、一瞬にして無力化された。 『斬王陣封じ。これで、範囲攻撃は不可能だ、ソード・マスターよ』 「イブリス……!」 さらにイブリスのエヴィル・アスラフィルまで現れる。飛鳥は歯を噛み締めた。 まさか、このタイミングで現れるとは思わなかった。それも、かなり大勢で。 目には見えないが、レーダーにはちゃんと反応がある。 「……『ダーク・コネクター』総動員か? それも、幹部のお前らまで……!」 『その通りだ、ソード・マスター。我が名は劫火の戦神ネクロフィス』 「ネクロフィス……輝凰さんが言っていた、厄介な幹部の一人……!」 輝凰やイブリスに『ダーク・コネクター』としてのバトルを教え、そして鍛え上げた人物。 無論、すぐに二人に追い抜かれたらしいが、その強さは『ダーク・フォース』でも太刀が悪いとか。 『輝凰から話を聞いているわけか。輝凰も、面白い奴を育てたものだ』 『いいえ、彼が輝凰から教わったのは斬王陣のみ。それ以外の強さは、彼自身の実力です、ネクロフィス』 『ほう……ならば、どれほどの実力か確かめさせてもらう』 ネクロフィスが襲い掛かってくる。飛鳥は剣を構えた。 黒炎の拳がセルハーツへと振り上げられる。 『おおおっ!』 「フラッシングソード!」 素早く対応する。剣による斬撃が黒炎の拳を受け流した。 「ミラージュ・ブレイドッ!」 『炎の盾よ!』 飛鳥がすかさず攻撃を繰り出す――――が、ネクロフィスはそれを受け止めた。 黒炎の拳から発せられた盾が、飛鳥のミラージュ・ブレイドを防いだ。 ネクロフィスが言う。 『確かに実力はあるようだ。だが、その程度で我を倒そうと思うな』 「くっ……!」 『このまま一気に仕留めさせてもらうぞ、ソード・マスターよ!』 拳が振り下ろされる。飛鳥は瞳を鋭くする。 『鷹の瞳』がネクロフィスの攻撃を見切る。セルハーツが大地を蹴って回避する。 その瞬間、突然の重力がセルハーツを襲った。 「ぐぅっ……!?」 セルハーツが全く動かなくなる。ネクロフィスがイブリスへと目を向ける。 『邪魔をするな、イブリス』 『そのつもりでしたが、レガリアを手に入れるのが優先です』 『そうか。惜しいが、仕方ない』 黒炎の拳の炎がさらに激しくなり、その姿を剣へと変えていく。 『戦火・炎王――――』 「バハムート・ティアッ! うぉぉぉおおおおおおっ!」 巨大な斧が高回転しながらネクロフィスへと迫る。イブリスが重力でそれを阻止した。 刹那、ネクロフィスが吹き飛ばされる。一閃がネクロフィスを襲ったのだ。 「どうやら、間に合ったようだな」 「当然でしょ。飛鳥がやられちゃってたら、ファルシオン奪われるんだし」 「ゴウさん、マリア……!」 「たかが幹部に何を苦戦している。お前の強さはそんなものじゃないだろ」 「勇治……何でそんなに早く来る事が……?」 「何でって、明日香ちゃんから連絡をもらったからでしょ」 マリアが言う。飛鳥は「なるほど」と呆気なく納得した。 集合した『フォース・コネクター』。吹き飛ばされたネクロフィスが立ち上がる。 『邪魔が入ったか。どうする気だ、イブリス?』 『ディフェンド・キングのお相手をお願いいたします。輝凰と互角の実力者ですので、油断せず』 『輝凰と互角か。だが、俺はソード・マスターを倒したいと言ったらどうする?』 『それはご遠慮願います。ソード・マスターは、私自らの手で始末します』 イブリスのエヴィル・アスラフィルがセルハーツを睨む。飛鳥は身構えた。 感じるのは今までにない威圧感と恐怖心。間違いない、イブリスは全力を出すつもりだ。 ゴウがネクロフィスを睨んだまま言う。 「勇治とマリアはヴォルト・デュラハンを。そして、イブリスは任せて良いな、飛鳥?」 「……はい。イブリスを倒すのは、輝凰さんの後継者になった俺が託された事ですから」 「頼むぞ。勇治とマリアもそれで良いな?」 「構わない。ヴォルト・デュラハンは、俺とマリアで仕留める」 「例の悪趣味な合体使ってくるだろうし、それが良いかもね」 決定。周りにかなりの数の敵がまだ潜んでいるが、幹部クラスじゃない限り敵ではないだろう。 倒すべきなのは、幹部三人。そして、総帥『ファイナル・ロード』。 ゴウが力を込めて大地を殴る。それが、始まりの合図となった。 ゴウのプラディ・ラ・グーンが大地を殴る。バトル・フィールドに大地震が起きた。 その瞬間を狙って、勇治とマリアが仕掛ける。 「分かってるな、マリア」 「もちろん。勇治の的にならないように注意するわよ」 勇治が凄いのは、その射撃の腕。それは時と場合によって味方を不利にさせる事がある。 しかし、そんな事態にさせないように撃つ、と言う考えを勇治は絶対に持たない。 だからこそ、飛鳥とのコンビ『ソード&マグナム』は凄いのだ。 互いを不利にさせず、有利へと変えるコンビネーション。「飛鳥には嫉妬しちゃうわ」とマリアがぼやく。 「ちゃちゃっと終わらせますか。レディエンス・ワルツ♪」 斬撃を繰り出す。ヴォルト・デュラハンは雷の鞭を振るって防いだ。 その隙を突いて、針を通すような射撃が繰り出される。 『ラフレシア!』 ヴォルト・デュラハンの目の前にラフレシアが姿を現し、勇治の攻撃を防ぐ。 『本気を出させて頂きますわ、マグナム・カイザーにストーム・クラウン』 「本気? その大きなお花ちゃんと合体して?」 『ええ、それも含めて……来なさい、ドナル』 途端、地中から一体のドライヴが姿を現せる。巨大な蜘蛛型のドライヴだ。 それを見たマリアが「うわ……」と嫌な顔をする。が、勇治は相変わらずだった。 ドナルを呼ばれた蜘蛛型ドライヴへと狙いをつけて撃つ。避けられた。 「避けただと……!」 『ドナルの機動性を甘く見ないでくださいますか? この子は、とても優秀なのです』 ドナルの頭を撫でる。 『そして……』 ヴォルト・デュラハンの下半身が背中へと移動する。 ラフレシアが6つの花弁を分離し、中心部がヴォルト・デュラハンの背中に合体する。 そして、ドナルの頭部にヴォルト・デュラハンの上半身が合体した。 『ヴォルト・ラファエル……これが、ヴォルト・デュラハンの本来の力を引き出した姿ですわ』 「うわ、すっごい悪趣味……見てるだけで寒気がするわ」 「背中には花で、下には蜘蛛か。微妙だな」 『そう言っているのは今のうちですわよ、二人の王。このドライヴは、絶対に力尽きませんもの』 ヴォルト・ラファエルから無数のレーザーの雨が降られる。勇治の瞳が鋭くなった。 レーザー全てに照準が定められ、全て迎撃する。 刹那、今度は無数のミサイルがヴォルト・ラファエルから放たれた。 「面白い、この俺を本気にさせるか」 「って、今まで本気じゃなかったって事?」 同じく、飛鳥も大地震と同時にイブリスへと攻撃を仕掛ける。 「フラッシングソード!」 『ディヴァイン・プロテクション・シルフ』 エヴィル・アスラフィルの周辺を風が覆い、セルハーツの剣の軌道を逸らす。 『アシッド・ザ・ウンディーネ』 右手を空へと掲げ、水を集中させる。集中された水が空へと放たれ、雨となって降り注がれた。 飛鳥がゴッドランチャーを大地へと向けて放つ。セルハーツがその反動で大空へと舞い上がった。 降り注がれる雨よりも高く舞うセルハーツ。装甲が少しだけ溶けている。 「酸の雨……あのままだったら、装甲が全部溶けてたって事かよ……!」 『イフリート・ブリット』 瞬間、炎弾が放たれる。飛鳥は剣を振るった。 炎弾全てを剣で叩き落としながら大地へと降下し、反撃に移る。 『遅い。ノーム・ギガント』 エヴィル・アスラフィルの両手から巨大な岩が生成され、セルハーツへと振り落とされる。 「ミラージュ……ブレイドォォォッ!」 巨大な岩を斬撃で粉砕し、跳躍する。 「もう一撃!」 『セルシウスキャリバー』 氷の剣を生成し、セルハーツの剣を受け止める。飛鳥は舌打ちした。 イブリスと距離を置き、風の刃を放つ。 『無駄です』 風の刃がエヴィル・アスラフィルに命中する前に反れる。 『流石はソード・マスター。重力制御以外の攻撃を全て回避するとは』 「何度もバトルして思ったが、お前のドライヴの攻撃は……」 『察しが早いな、ソード・マスター。このドライヴには五つ目のダーク=レガリアが装備されている』 「何……!?」 イブリスが不敵に笑う。 『その名もSYSTEM-ZERO。ダーク=レガリアは五つ作られていたのだ』 「まさか、輝凰さんが勝てかなったのは……!」 『SYSTEM-ZEROの力。しかし、それだけではない……見せてやろう、これが私の真の力だ』 エヴィル・アスラフィルの周囲の風の流れが変わる。エヴィル・アスラフィルが紫のオーラを放った。 背中から現れる七色の翼。飛鳥が目を見開く。 「その翼は、この間の……!」 『セルファレアムレインボー。これが、私の本来の力であり、最強の技』 氷の剣をセルハーツへと向ける。 『真の力を引き出したのだ。覚悟は良いな、ソード・マスター!』 「……覚悟も何も、俺はお前には負けない! 輝凰さんの後継者として……『ソード・マスター』として!」 セルハーツが構える。そして、瞬時に駆け出した。 次回予告 明日香「は、始まっちゃったよ、『ダーク・コネクター』との最終決戦!」 飛鳥 「ああ。けど、俺は負けない。『ソード・マスター』として、俺も全力を出すだけだよ」 明日香「だ、大丈夫なの!? イブリスも凄い技出したけど……」 飛鳥 「大丈夫。俺は絶対に負けないから」 明日香「……最近の飛鳥君、やっぱりキャラ違う」 飛鳥 「……え?」 次回、CONNECT51.『それは鷹、獅子、龍の如く』 明日香「次回は、今度こそ飛鳥君が本領発揮!?」 飛鳥 「いや、今度こそって……何で疑問系なんだよ……」 明日香「だって、前に本領発揮って言ったのに、全然しなかったから……」 飛鳥 「……なるほど」(←否定できないらしい) |
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