CONNECT53.『ジャッジメント・ハート』


『Limiter release, Completion. Sel-Hreats, Maximum Power!』

 光の中から姿を見せる一体のドライヴ。それは、飛鳥のセルハーツだった。
 否、肩や脚部の形状が違う。クリスタル状の装甲、背中の巨大スラスターが目立ったドライヴ。

『Sel-Hreats, End of reconstruction ... Wake up, Final-Hearts!』

 コンピュータの言葉に、飛鳥がゆっくりと深呼吸する。
 ファイナルハーツ。Bランクの頃に作った本当のセルハーツ
 これが、自分にとって最後の力。絶対に使いたくなかった力。
 静かに集中し、ただ、敵を睨む。
「…………」
『ドライヴに何をしたかは知らんが、ゴッド・ジェネシスに勝てると思うな!』
 ゴッド・ジェネシスがレイ・スペル・ノヴァで攻撃する。ファイナルハーツのいる場所が再び爆炎に包まれた。
 ファイナル・ロードが笑みを浮かべる。ドライヴの強さを見るまでもなかったと。
 そう思った瞬間、レイ・スペル・ノヴァを持つゴッド・ジェネシスの左腕が消滅した。
『な……!?』
 ファイナル・ロードが目を見開く。何が起きたか分からずに。
 そして、飛鳥のファイナルハーツは、爆炎の中から無傷の状態で姿を見せる。



 ゴッド・ジェネシスの左腕が一瞬で破壊された時、それを見ていた郁美は目を見開いた。
 優が郁美の様子に気づく。
「どうかした?」
「……バトル・フィールドの風の流れを見ていたんだけど、一瞬の変化があったわ」
「一瞬だけ?」
「ええ……変化があったのは、ゴッド・ジェネシスの左腕が破壊された時の一瞬だけ」
「ちょっと妙ね……調べてみますか」
 そう言って、すぐに飛鳥のドライヴを調べる。そして「嘘でしょ」と呟いた。
「機動性、それによる攻撃力増加の数値が計測できてない……!? 何これ、見た事ない……」
「計測不能? レガリアじゃあるまいし、そんな事ないでしょう?」
「これ見たら、そんな事言えなくなるよ。何をどうしたら、こんなドライヴができるのか……」
「これが飛鳥の切り札か」
 後ろからの言葉に、二人が振り向く。輝凰が立っていた。
 飛鳥のドライヴのデータを見て、バトル・フィールドに目を向ける。
「飛鳥の奴、何かを隠しているのは分かっていたが、なんて奴だ……!」
「それより、あれは違法じゃないの? 途中で交換するなんて」
「違法と言うより、負けね。交換するって事は、一度コネクト・アウトするって事だし」
 ドライヴをさらに調べながら、優が説明を始める。
「けど、このドライヴは違う。名称はファイナルハーツになってるけど、ドライヴ自体はセルハーツよ」
「どう言う事だ?」
「登録されてるデータはセルハーツって事。多分だけど、あれはセルハーツの第2形態よ」



 ファイナル・ロードは何が起きたか分からないままだった。
 いや、分かるのは一つ。飛鳥のドライヴが一瞬のうちに攻撃し、左腕を破壊したと言う事だ。
 ゴッドリバイヴで左腕を瞬間再生させつつ、飛鳥を睨む。
 無傷の状態で立つファイナルハーツ。飛鳥は深呼吸を繰り返した。
(……まさか、またお前を使うなんて思ってもいなかった……)
 初めて作った頃を思い出す。
(ファイナルハーツで戦う以上、俺は絶対に勝たなきゃいけない……!)
 これで勝てなければ、ドライヴはファイナル・ロードによって全て滅ぶ。
 目を閉じて集中する。ファイナルハーツがプラズマセイバーを構える。
 ゴッド・ジェネシスがデスブレード・ラグレオスを振り上げた。
『ラグレオス・スラッシャーッ!』
「――――!」
 振り下ろされた瞬間、飛鳥の瞳が開き、鋭くなる。ファイナルハーツが一瞬にして消えた。
 それを見たファイナル・ロードが目を見開く。その時には、右腕が消滅していた。
『何……!?』
「隙だらけだぜ、ファイナル・ロードッ!」
 飛鳥の声が聞こえつつも、ゴッド・ジェネシスが一瞬のうちに切り刻まれていく。
 ファイナルハーツが姿を見せた時には、ゴッド・ジェネシスの大半が破壊されていた。
『馬鹿な……一瞬でゴッド・ジェネシスを……!?』
「……はぁ……はぁ……はっ……!」
 飛鳥がやや肩で呼吸をする。



「一瞬でゴッド・ジェネシスをあそこまで……」
 郁美が驚く。ファイナルハーツの強さは、セルハーツの時と比べて全く違っていた。
 同じように見ている明日香も驚く。
「飛鳥君……凄い……」
「武器はファルシオンじゃなくプラズマセイバーか……」
「まぁ、あの機動性のお陰で威力はレガリア以上かも。ほんと、領域違うわ」
「……なるほど、ようやく分かった」
 輝凰の言葉に、優が反応する。
「分かったって何が?」
「セルハーツの操縦性だ。飛鳥から聞いていたが、結構シビアなんだろ?」
「うん。接近戦に特化させて、さらに当時のあすあすが作ったものだからね。初心者の失敗作みたいな?」
「失敗作か。本人はそう言って誤魔化していたか」
 輝凰がファイナルハーツを見る。そして、話を続けた。
「操縦がシビアなのは、初心者だった飛鳥が作ったからじゃない。失敗したなら作り直せば良いからな。
 飛鳥はファイナルハーツを3年前に作っていた。けれど、あの機動性に操縦性が追いつかなかった」
「それって、つまり?」
「ファイナルハーツはセルハーツの第2形態じゃない。セルハーツの原型となったドライヴだ」
 それなら納得が行く。飛鳥は3年前にファイナルハーツと言うドライヴを完成させた。
 しかし、驚異的な機動性は操作を難しくさせた。そして作り直したのがセルハーツなのだろう。
 何をどうすれば、このようなドライヴが作れるのか分からないが、輝凰は飛鳥の才能に恐怖を感じた。
 稀代の天才・逢坂優を越える才能。飛鳥は間違いなく、優を超えている。
「3年前……3年前にあすあすはこれを作っていたと……」
 優の身体が微妙に震えている。そう思った矢先、明日香へと視線を向けた。
 あまりにも突然の事で明日香が驚く。優が近づく。
「明日香ちゃん、実はこのドライヴの事知ってたんじゃない?」
「え、あの……」
「知ってたよねぇ?」
「あ、あの……」
「知ってたよねぇ?」
「え、えーと……」

「知ってたよねぇ?」

「そ、その……」

「知ってたよねぇ?」

「いい加減にしろ」
 優にゲンコツする。
「知るわけないだろ。飛鳥の事だから誰にも教えないで隠していたはずだ。そうだろう、明日香ちゃん?」
「だと、思います……」
「……あすあすめ、私に内緒でこんなドライヴを……!」
「明日香ちゃんを問い詰めたと思えば、やっぱり……。いい加減認めなさい。飛鳥があなたより上って」
 郁美が呆れる。優が大人気無く首を横に大きく振った。
 まるでダダをこねる子供のように。それもかなり年甲斐もなく。
「絶対に認めない! あすあすが私よりも才能があるなんて絶対認めない! あすあすの師匠として!
「いつお前の弟子になった……」
「3年前から! 私のお陰で、あすあすはドライヴ製作技術を身につけたの!」
「優が作るべきアクティブ・ウェポンの7割を作らせたものね」
 郁美の言葉に、優がギクリと目を逸らす。輝凰が呆れた。
「優、お前な……自分の仕事くらい自分でやれよ。よく協会にバレなかったな」
「あすあすってば、作りが良いのよ。『マスター・コネクティブ』にもバレないくらいに」
「つまり、飛鳥は優以上って事ね」
「それはない!」
 あくまで認めない優。それを可笑しく苛める郁美。見た事ない光景に明日香は苦笑するしかなかった。
 三人を無視して、輝凰がバトルの状況を確認する。
 飛鳥のファイナルハーツがゴッド・ジェネシスを圧倒的な強さで押している。
「…………」
 瞳を鋭くさせ、『鷹の瞳』で見る――――が、ファイナルハーツの動きを捉えられなかった。
「……俺の『鷹の瞳』……ファイナル・ロードに鍛えられて鋭さを増した資質でも捉えられないか」
 輝凰が拳を強く握る。
「今のお前は間違いなく『鷹の瞳』を発動させ続けているはずだ……。飛鳥、資質を失う気か……!?」



 ファイナルハーツが姿を消し、その一瞬でゴッド・ジェネシスを切り刻む。
 しかし、ゴッド・ジェネシスの装甲に傷は入るが、破壊までは至らなかった。
「くそっ……ゴッドリバイヴの力が……ファイナルハーツに追いついてきている……!」
 舌打ちする。ファイナル・ロードが軽く笑った。
『ハハハ……その機動性は確かに驚いたが、やはりゴッド・ジェネシスの前では無意味だったようだな』
「くっ……!」
『今度は私の番だ。キメラ・アマテラス!』
 真空の刃が降り注ぐ。飛鳥は奥歯を噛み締めてファイナルハーツを動かした。
 姿を消し、やはり一瞬でゴッド・ジェネシスの両腕を破壊する――――が、瞬時に両腕が再生した。
『ティシフォネ・フォール』
 今度は巨大な重力弾。ファイナルハーツは三度姿を消し、瞬時にティシフォネ・ザ・ナイトメアを破壊する。
 が、やはり今度も再生。これではいたちごっこだと、飛鳥は舌打ちした。
「破壊してもすぐに再生する……! コアを……ゴッドリバイヴのコアごと破壊しないと……――――ぐっ!」
 瞳に痛みが走る。ついに『鷹の瞳』を使用した代償が襲ってきた。
(くそっ、限界が……次の一撃で決めないと、ファイナル・ロードを倒せない……!)
 残されたチャンスは一回。これで決めなければ、ファイナル・ロードは倒せない。
 ゴッドリバイヴのコアの位置さえ分かれば。そう強く思う。
 ファイナル・ロードが鋭い瞳で飛鳥を睨む。ゴッド・ジェネシスがデスブレード・ラグレオスを構えた。
『限界のようだな。ゴッド・ジェネシスを相手に良く戦った……すぐに楽にしてやろう』
 デスブレード・ラグレオスが漆黒の光を放つ。飛鳥は歯を噛み締めた。
 瞬間、ゴッド・ジェネシスを一閃の銃弾が貫く。
『何……?』
「……隙だらけだな……。俺はまだ……倒れていないぞ……!」
 ディル・ゼレイク――――勇治の姿があった。
 もはや立つ事すら限界に近いはずなのに、サタン・オブ・アブソリュートを構えている。
 いや、勇治だけじゃない。ゴウのプラディ・ラ・グーンとマリアのセイレント・クイーンの姿もある。
 飛鳥が目を見開く。
「勇治……ゴウさん、マリア……!」
「言いたくないが、もう限界だ……狙いだけは定めてやるから決めろ、飛鳥……!」
「コアの場所は『金剛の瞳』で見える……そこを教える。……飛鳥、お前に全てを託す!」
「飛鳥、倒さないと許さないわよ……? こっちも限界なんだから……」
 そう言って、三体のドライヴがレガリアを前に出す。レガリアが光り輝いた。
 近くに転がっているファルシオンセイバーも光り輝き、4つの光が一筋の道を飛鳥に作った。
 ゴッド・ジェネシスの胸部より下――――腹部の中心より少し上を示す光。
「ここにコアが……? そうか、レガリアも俺に力を……」
 ファイナルハーツがコアの位置に狙いを定める。この正確な狙いの定め方は勇治のやり方。
 ファイナルハーツのカメラアイを通して見える光の点は、ゴウの力。
 そして、マリアは「役に立たないと思うけど」と言いつつも、風の流れを教えてくれた。
「……ありがとう勇治、ゴウさん、マリア……! この一撃で必ず決める!」
 ファイナルハーツがプラズマセイバーを構える。飛鳥は瞳に走る痛みを堪えて集中した。
 次の一撃で決める。全てのエネルギーをプラズマセイバーに集中させる。
「うぉぉぉおおおおおおっ!」
『その一撃で私を倒そうと思っているのか? そうはさせぬぞ、蓮杖飛鳥よ!』
 ファイナル・ロードが先に動いた。ゴッド・ジェネシスがデスブレード・ラグレオスを振り上げる。
 漆黒の光を放ち、その光を刀身に変える。それは、漆黒の刀身を持ったバスターファルシオンのよう。
『バスター・デスブレードッ!』
 振り下ろされる漆黒の刀身。飛鳥がその刀身を見切り、ファイナルハーツが避けた。
 姿を消さず、ゴッド・ジェネシスへと突撃する。
「ジャッジメント……ハァァァトッ!」
 プラズマセイバーが振り下ろされる――――が、それだけだった。
 無傷と言っても良いゴッド・ジェネシス。ファイナル・ロードが高々と笑う。
『もはや力尽きいたか? 最後の一撃は無駄だったようだな、蓮杖飛鳥よ?』
「……くっ……はぁ……はっ……!」
 ファイナルハーツが片膝を大地につく。もはや、立つ力すら残っていない。
 その姿に、ファイナル・ロードは勝利を確信した。
 脅威と言える機動性は確かに驚いたが、それでもゴッド・ジェネシスは倒せない。
 デスブレード・ラグレオスを構える。
『私の勝ちだ、蓮杖飛鳥よ。これで、全てが終わるのだ――――!?』
 瞬間、それは起こった。ファイナル・ロードが目を見開いた。
 斬撃がゴッド・ジェネシスを襲う。それも一つではなく数えられないほど無数に。
 全身を切り刻まれ、崩壊していくゴッド・ジェネシス。
『な……これは……!?』
「……俺の勝ちだ、ファイナル・ロードッ……!」
 飛鳥が言い放つ。この時、ようやく理解した。
 ファイナルハーツがプラズマセイバーを振り下ろした瞬間に、勝敗は決していた。
 崩壊していくゴッド・ジェネシスの中で、ファイナル・ロードが全てを理解する。
『馬鹿な……無限なる斬撃を……!? ゴッド・ジェネシスが倒されるなど……いや、まさか……!?』
 ファイナル・ロードが飛鳥を睨む。
『……蓮杖飛鳥……、まさか、そのドライヴは……!?』
「……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
 呼吸するだけで精一杯の飛鳥。それを見たファイナル・ロードはふっと笑みを浮かべた。
 ファイナルハーツは、ゴッド・ジェネシスを超える『究極のドライヴ』だった。
 そして、それを動かしていたのは、自分が知る少女の面影がある少年。
『……私の負けだな、蓮杖春香よ……。お前の息子は……お前同様、素晴らしいコネクターだ……』
 爆発せず、塵と化すゴッド・ジェネシス。それは、決着がついた瞬間だった。



 バトル・フィールドの外。ファイナル・ロードが倒された瞬間、一斉に歓声が沸き上がった。
 ドライヴに着信が入ったのを確認して、優が状況を知る。
「うわ、やってくれる……」
「この歓声の原因は何だ?」
「『マスター・コネクティブ』が、バトルを終始流してたみたい。全国のショップに」
「……良いのか、それは」
「良いんじゃない? 最高責任者がやったんだし」
 そう聞いて輝凰が呆れる。そして、「飛鳥、ご愁傷様」と心の中で合掌した。
 このバトルで、間違いなく飛鳥の人気は今まで以上に上がるだろう。確実に。
 しかし、今はそんな事を考えている場合じゃない。輝凰は真っ先にコクピットランサーへ向かった。
 飛鳥が気になる。ファイナル・ロードとのバトルで、間違いなく飛鳥の瞳に何かが起きているはずだ。
 急いで向かう輝凰を見ながら、優が近づいてくる人影に言う。
「無事?」
「無事じゃないですよ……セイレント・クイーンなんてボロボロだし……」
「直してあげるわよ。ついでに、ゆうゆうのも」
 そう言って、なぜか柱に隠れている勇治に言う。マリアが引っ張ってきた。
「何で隠れてるのよ、勇治?」
「…………」
「どうせ、情けないからでしょ。ま、今回は仕方ないわよ」
 勇治の頬を引っ張る。
オーバー・ドライヴ・システム発動させて、ファイナル・インフェルノ使ったけど大丈夫?」
「……どうにか」
「じゃ、良いじゃない。ちゃんと、最後まで戦ったでしょ?」



 コクピットランサーを開く。予想通り、飛鳥は疲れ果てていた。
「大丈夫か、飛鳥?」
「……輝凰……さん……?」
「立てるか?」
「あ……えっと……」
「ほら」
 輝凰の肩を借りて、飛鳥がコクピットランサーから出てくる。明日香が駆け寄った。
 手には自販機で買ったと思われる紅茶の缶を持っている。
「飛鳥君、大丈夫? 紅茶買ったけど、飲める……?」
「今は無理……ごめん……」
「ううん、気にしないで」
 明日香に、飛鳥がもう一度「ごめん」と謝る。
「……すみません、輝凰さん。少し眠ります……もう……限か……」
 うな垂れる。輝凰がしっかりと飛鳥を支えた。
 静かに寝息を立てる飛鳥。やれやれと輝凰が溜め息をつく。
「とりあえず運ぶか……」
「あ、じゃあ、空いてるベンチ探します」
「いや、運ぶのは病院だ」
「え?」
 輝凰の言葉に、明日香がキョトンとする。
「ファイナルハーツなんてドライヴで戦ったんだ。あれで、何も支障がないのは変だからね。
 だから、ついでに検査する。容赦なく」
「もう二度とドライヴができないって事はないですよね……?」
「ない。あるとすれば、一つだけだ」
 そう言って飛鳥を運んで行く。

 こうして、ついに『ダーク・コネクター』との戦いは終わりを迎えた。



次回予告

 明日香「こんにちは、明日香です」
 飛鳥 「どうも、飛鳥です」
 明日香「ようやく、終わったね。『ダーク・コネクター』とのバトル」
 飛鳥 「ああ。これで、もう大丈夫だと思うけど」
 明日香「そう言えば、ファイナルハーツって、どうやって作ったの?」
 飛鳥 「ノーコメント」
 明日香「ノーコメントって……」

  次回、CONNECT54.『叩きつけられた挑戦』

 明日香「次回は新展開!」
 飛鳥 「タイトルからして、次は『ソード・マスター』戦かよ……」
 明日香「あ、凄いやる気ない?」
 飛鳥 「あるわけないだろ……」(←まだ疲れが残ってる人)



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