CONNECT02.『決意と言う名の襲名』


 夜7時前。ようやく、飛鳥は自宅に帰り着いた。
 理由は、自分の作るチームに緋月歩、近衛瑞樹以外のコネクターにもチームに誘っていたからだ。
 しかし、結果は惨敗。良い返事はない。
「ただいま」
 少し疲れた口調で玄関を開けながら言う。すると、リビングからすぐに少女が走り寄ってきた。
「おにーたん!」と飛鳥に抱きつく。
「おかえり!」
「ただいま、美緒。迎えに行けなくてごめんな」
 そう言って頭を撫でる。美緒は首を横に大きく振った。
「おねーたんいたから良ーよ」
「そっか。お姉ちゃんと遊んでいたんだ?」
「うん!」
 美緒がたくさん話をする。飛鳥は黙って聞いていた。
 そして、明日香がリビングから出てきた。
「おかえり、飛鳥君」
「ただいま。悪いな、美緒の迎え頼んで」
「ううん、今日もメンバー集めしてたの?」
「ああ。それ以外もあるけど」



 夜10時頃。美緒を寝かしつけてから、飛鳥はセルハーツをパソコンに接続して調整を行う。
「これで、イクサ・グレイルの修理は完了」
「『レア・ウェポン』持ってから、結構修理とかしてるね?」
 まだ一緒にいる明日香にそう訊かれる。明日は休みと言う事で、泊まるらしい。
 飛鳥が頷く。
「あの技……ライトニング・ストライクはイクサ・グレイルを壊す技だからね」
 本来なら専用の矢を作れば良いのだろうが、飛鳥はそれをしなかった。
 作れば、セルハーツに装備する必要もあるし、それにより機動性の影響も出てくる。
 だからこそ、あえて作らないで、今のままで行こうと決めたのだ。
「でも、お陰で明日香とのコンビで使える攻撃の幅が増えたけどね」
「もう半年経つんだよね、飛鳥君とコンビを組む事になって……」
 半年前、成り行きで加入させられていた『チーム・エンジェル』から抜けて、二人はコンビを組んだ。
 飛鳥がチームを作るまでの間だけのコンビだが、明日香の実力向上により、良い成績を出している。
「それで、メンバーは集まりそう?」
「正直、難しい。シングルかコンビでやってる奴って、意外と少ない」
「じゃあ、光哉君と紡君、沙由華ちゃんを誘ったらどうかな?」
 そう、明日香が言う。飛鳥は首を横に振った。
「光哉達を誘う気はない。確かに、あいつらを加えればチームはできるけど、親しい人間で作りたくない」
 確かに、あの三人はチームに誘えば加わるだろう。特に光哉と紡は戦力にもなる。
 しかし、親しい人間で作ると強いチームにはならない。そう、飛鳥は思っている。
「あいつらは、あいつらでチームを作ったりした方が良い」
「そっか……」
「一応、目星を付けた奴らはいるけど、微妙なんだよな。俺の事、敵視してるし」
「誰?」
 そう訊かれ、すぐに返答する。
「元『ダーク・コネクター』幹部の緋月歩と近衛瑞樹って言う二人」
「『ダーク・コネクター』幹部……!? だ、大丈夫なの……?」
「大丈夫。あの二人は、ちゃんとしたコネクターになってる。だから、誘った」
「でも、その二人が入ったとして、チームとしては大丈夫なの?」
 明日香が不安に思う。しかし、飛鳥は頷いた。
「心配ないよ。あの二人なら、立派なメンバーとして迎えられる。まだランクと実力はないけど」
「で、でも……」
「俺が作ろうとしているのは、ただ最強ってわけじゃない。誰か一人でも欠けたらいけない。そんなチームなんだ。
 少なくとも俺は、あの二人に期待しているんだ。俺が作るチームに必要なメンバーだと思ってる」
「……そっか。飛鳥君がそう言うなら」
 飛鳥は考えてチームを作っている。そう分かった明日香は、もう何も言わないのだった。



 翌日。近くのショップで、今では日常と化してしまったメンバー集めを行う。
 しかし、成果はない。
「全然集まらないな……どうするかな……」
 そう言いながら、ベンチに腰掛けて自販機で買ったコーヒーを一口飲む。
「こうもメンバーが集まらないとなると、残っているのはあいつとかになるな……」
「苦戦しているわね」
 後ろから声を掛けられる。飛鳥は後ろを振り返った。
 落ち着きのある、美人で大人の女性。飛鳥にとって、自分の母の事を知っている人間の一人。
「……紗雪さん」
「隆也と美雪から聞いていたけれど、大変そうね」
 そう、母と親しかった友人・嵩凪紗雪。飛鳥が軽く頭を下げて挨拶する。
「こんにちは。今日は隆也君と美雪ちゃんに教える日じゃ……」
「今日は、飛鳥君に話があって来たのよ」
「話?」
「ええ。隆也と美雪にも関係がある、大切な話」



 緋月歩は、心ここにあらず、だった。
 喫茶店で注文したアイスコーヒーを一口も飲まないまま、ぼーっとしている。
「歩! 歩ってば!」
 彼の幼なじみである近衛瑞樹が、彼の前で手を振る。しかし、反応はない。
 溜め息をつきつつ、瑞樹が歩の耳元で何かを言う。
「蓮杖飛鳥が近くにいるけど」
「――――!?」
 瞬間、歩が立ち上がる。そして、辺りを見渡した。
 しかし、瑞樹が言う蓮杖飛鳥の姿はどこにもない。その様子を見て、瑞樹がさらに溜め息をつく。
「まだ迷ってるの? 蓮杖飛鳥のスカウトを受けるか受けないかで」
「……当たり前だろ!? 蓮杖飛鳥は、敵だったんだぞ!?」
「向こうからしたら、眼中に入ってなかったけどね?」
「う……」
 痛い所を突かれる。歩がアイスコーヒーを飲んで訊く。
「瑞樹はどうしようって思ってるんだよ?」
「私は入ろうかなって思ってる」
「え……? ま、マジ!?」
「うん。歩とコンビ組んで実力上げるより、チームに入った方がもっと実力がつくと思うから」
 このまま、二人で試行錯誤するより、チームで様々な経験を積んだ方が良い。
 そう、瑞樹は思った。自分の為にも、歩の為にも。
「確かに、一時は敵として戦ったけど、今はチームとして一緒に戦って欲しいって言ってくれた。
 それって、少しでも私と歩を認めてくれてるからだと思う」
「けど、瑞樹……」
「それに、私には無理だけど、蓮杖飛鳥なら歩をもっと強くしてくれると思うから」
「…………」
 歩が黙る。瑞穂の言うとおりだからだ。
 確かに、今のままより、自分達より実力のあるコネクターと一緒にバトルした方が良い。
 しかし、自分達をチームに誘ってきた相手が相手だ。
「……蓮杖飛鳥のチームに入るなんて、やっぱ……」
「歩……」

「レザリオンを解散する!?」

 突然聞こえた声。壁際の方からだ。
 同時に振り向き、二人がその姿を確認する。蓮杖飛鳥だった。
 歩が目を見開く。
「瑞樹、本当にいたのかよ!?」
「え、あれは嘘のつもりだったんだけど……」
 まさか、本人がこんな近くにいるとは思わなかった。それも彼よりも年上と思われる美人と一緒に。
「……誰だよ、あの女の人?」
「知らないわよ。母親……じゃないわよね」
「まさか、○○○○!?」
「んなわけないでしょ。レザリオンがどうとか言っていたけど……」
 蓮杖飛鳥が女性と何を話しているのかを話し合う二人。
 そんな時、蓮杖飛鳥がドライヴを取り出し、何かを確認して席を立ち、そのままどこかへ走って行った。
 その姿を見て、二人も喫茶店を後にする。



 時は戻り、飛鳥は紗雪と共に喫茶店へ向かった。
 自分の事を周りに知られないようにする為、ワザと壁際の席に座る。
 お互いに注文したところで、紗雪が話し始めた。
「話は二つ。まず、雷聖弓だけれど、どう?」
「命中率はともかく、心強い『レア・ウェポン』です。それに、母さんが使ってた物だから、愛着もあります」
 そう、飛鳥が手に入れた『レア・ウェポン』雷聖弓は、紗雪から受け取った物だった。
 母が紗雪に「秘密兵器」と言って預けていたものらしいが、その意味は分からない。
 しかし、母が残していたものだからか、飛鳥にとっては大切で最高の武器でもある。
「何で母さんが秘密兵器って言っていたのかは、まだ良く分かっていませんけど……」
「春香は、そう言った事はあまり話さなかったものね」
「……でも、教えてもらって使ってみたライトニング・ストライクじゃないんですよね?」
 雷聖弓が生み出す雷の矢ではなく、実体剣のように精錬された矢で射る技ライトニング・ストライク。
 あれのお陰で半端ない強さを誇った強敵を倒したが、それは母の言う秘密兵器ではなかったと言う。
「分かっているのは、雷聖弓だけじゃ成り立たない事。
 そして、春香は飛鳥君が使う必要がある時に使う為の力。そう言っていたわ」
「俺が使う必要がある時に……母さんは、どうして俺にそんな……」
「あなたが、春香にとって掛け替えのない息子だから」
 掛け替えのない息子。それだけで、母は自分の為に『レア・ウェポン』を残していた。
 飛鳥が「母さん」と呟きながら、ドライヴを握り締める。
 そんな飛鳥を優しく見守りながら、紗雪が話を続ける。
「そして、ここからが本題。飛鳥君には関係の事だけれど……レザリオンを解散する事にしたわ
「え……!?」
 突然の言葉。飛鳥が目を見開きながらも繰り返す。
「レザリオンを解散する!?」
「ええ。メンバーは隆也と美雪の二人だけだし、まだ二人とも子供だから」
「そんな……だって、レザリオンは……」
「誰もが認めた最強にして、伝説のチーム。でも、今はリーダーも不在でチームとしては存在できないチーム」
 紗雪の子であり、レザリオンのリーダーだった人間の子でもある隆也と美雪。
 しかし、二人にはまだリーダーとしてレザリオンを継ぐのは早過ぎる。
 だからこそ、解散を決めた。そう、紗雪が言う。
「私としては、隆也があなたくらいの年齢にまでなれば、再び結成しても良いと思ってるわ」
「…………」
 飛鳥は何も言えなかった。自分がレザリオンのメンバーではないからだ。
 それに、同じ考えだった。確かに、まだあの二人の子供にレザリオンは荷が重い。
 しかし、解散はしてほしくない。
 下唇をキュッと噛み、飛鳥が何かを決意したかのように紗雪の方を見る。
「紗雪さん、俺……――――!」
 その時、ドライヴの着信音が鳴った。メールだ。内容を確認する。
「美雪ちゃんから? ……何だって……!?」
 席を立つ。そして、紗雪が訊いた。
「二人に何かあったの?」
「分かりません。とりあえず行ってみます。それと……」
「それと?」
「レザリオンは解散しないでください。今は、俺が覚悟を決めますから」
 そして、そのまま立ち去る。飛鳥の言葉を聞いた紗雪は可笑しそうに笑みを浮かべた。



 同時刻。少年と少女はショップ内で奇妙な連中に絡まれていた。
 否、奇妙と言うよりは、この辺では色んな意味で有名なチームの黒服達。
「良いじゃないか、ただバトルするだけなんだからよ?」
「で、でも……」
「お、お母さんが良いって言わないと……」
「良いじゃん、良いじゃん。お母さんには内緒でね?」
 断ってもしつこく言ってくる黒服連中。少年と少女――――隆也と美雪の二人は今にも泣きそうだった。
 いや、すでに美雪は目に涙を浮かべている。ドライヴを強く握って、どうにか耐えながら。
 黒服連中は退こうとしない。
「ほらほら、とっととバトルしないと、お兄さん達も怒っちゃうよ?」
「……子供相手に馬鹿な事やってんじゃねぇよ、おい」
 その時、駆けつけた飛鳥が呆れながら言う。隆也と美雪がすぐに飛鳥の元へ走った。
 飛鳥の脚にしっかり抱きつく二人。そんな二人の頭を飛鳥は撫でる。
「怖かったろ、二人とも。でも、もう大丈夫だからね」
「そ、『ソード・マスター』!? 何でこんなところに!?」
「落ち着け! 俺らはまだ違法なんてやってねぇ!」
「そうそう、俺達はバトルしようとしただけなんだからよ!」
 飛鳥の姿を見て、途端に動揺する黒服連中。飛鳥の鋭い瞳が彼らを睨む。
「小さい子相手にバトル申し込むなんて、とことん弱くなったな、骸骨騎士団も」
「違う! 俺達は柏木影二様が結成したチーム、『スカルナイツ』だ!
「そんなのはどっちでも良い。この子達とバトルは絶対にさせない」
「ふざけんな! 天下の『ソード・マスター』様には関係ねぇだろ!」
「関係ある。俺は、この子達の……チーム『レザリオン』のリーダー、蓮杖飛鳥だ!
 飛鳥の突然の発言。それを聞いた隆也と美雪がキョトンとした顔で飛鳥を見る。
「飛鳥にーちゃん……?」
「驚かせてごめんね。今日から、二人のチームリーダーになる事にしたんだよ」
 そう言って、飛鳥がドライヴを取り出し、『スカルナイツ』の黒服メンバーに突き向ける。
「バトルなら俺が受けてやる。俺一人でも、十分だからな」
「何だと!?」
「俺らを馬鹿にしてるのか、おい! 俺らはこれでも、Aランクだぞ!」
「Aランクか……俺からすれば雑魚同然だな
 明らかな挑発だった。しかし、飛鳥は本気だった。
 そんな飛鳥の前に、二人――――緋月歩と近衛瑞樹が立って、同じようにドライヴを構える。
「ちょっと待て! バトルするなら俺達もだ!」
「もちろん! 私達もチームのメンバーなんだから!」
「緋月に近衛……。って、お前ら喫茶店にいた時から後をつけていただろ」
 飛鳥の鋭い言葉に、二人がビクッと反応する。最初から気づかれていたらしい。
「でも、チームに入る事を決めてくれた事には感謝する。まずは、こいつらを片付けるぞ、歩、瑞樹!」
「おう!」
「はい! って、名前……?」
「チームだからな」
 そう言って、『スカルナイツ』の黒服達にバトルを申し込む――――と思ったら、そこには誰もいなかった。
 流石、逃げ足だけは天下一品を誇るチームである。
 バトルができなくて、歩が舌打ちする。
「チッ、チームのデビュー戦だってのに……」
「いや、デビュー戦はまだ先の話だ。メンバーを揃える必要があるからな」

 チーム『レザリオン』、チームリーダー・蓮杖飛鳥。
 メンバー・緋月歩、近衛瑞樹、嵩凪隆也、嵩凪美雪。

 これで、とりあえず飛鳥のチームが結成した。



次回予告

 明日香「飛鳥君が結成したチーム名は『レザリオン』! ……あれ、これって結成なの?」
 飛鳥 「結成と言うよりは襲名。だから、サブタイトルもそうなってるだろ?」
 明日香「あ、言われてみたら……」
 飛鳥 「ともかく、これでチームも出来た。あとは、実力を持ったコネクターをスカウトだな」
 明日香「それより、勝手にリーダー名乗って大丈夫なの?」
 飛鳥 「……大丈夫……だと思う」(←流石に今回は自信がない)

  次回、CONNECT03.『レザリオンのメンバー』

 飛鳥 「『レザリオン』は今年、どのチームにも負けない最強のチームになる。俺と皆の力で」

 明日香「次回はメンバー集め! ……まだやるの?」
 飛鳥 「……流石にこの面子じゃ厳しいだろ」



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