CONNECT06.『最強と天才』


「黒石さんが負けた?」
 翌日。朝の教室で、飛鳥は『チーム・アレス』の天鷹姫里・千里の二人と話をしていた。
 そして、昨日の事を二人から聞く。
「相手は、ゴッドランクアップをデビュー直後に受けて、SRになったって言う人間で……」
「曜ちゃん、頑張ったんですけど、無理でしたぁ……」
「デビュー直後にゴッドランクアップ……最初から作られたドライヴでって事なんだろうけど」
 初期型のドライヴで挑めば、間違いなく不可能だ。できるわけがない。
 しかし、ドライヴが最初から完成していれば別だろう。
 姫里が、空席となっている曜の席を見ながら言った。
「曜、蓮杖君の事を悪く言われて、それでバトルしたけど、全然歯が立たなかったの」
「それで、そのショックで今日は休みなわけか……」
「でも、まさかキシンで勝てない相手なんて……蓮杖君としては、キシンは強い方よね?」
 姫里の質問に、飛鳥が頷く。
「黒石さんに合わせて作ってるけど、性能は高い。装備している実体剣も相当な代物だし」
「だよね。それに余裕で勝ったって事は……やっぱり、天才って事かな?」
「それは分からない」
 そう言いながら、飛鳥がドライヴを強く握る。
「分かってるのは、そいつは強いと思う」
 ゴッドランクアップについては本当かどうかともかく、実力は確かだろう。
 二人の話を聞くと、狙いは『ソード・マスター』の座。
 間違いなく、バトルする事になるはず。今の――――『鷹の瞳』が使えない自分と。
「負けるわけにはいかない、な」
 そう、ドライヴを見つめながら言う。



 放課後。飛鳥はショップでセルハーツの状態を見ながら考えていた。
「もしパワーアップするとすれば、やっぱり……」
 意図的な、『究極のドライヴ』としての力を容易に扱える事。
 それが、セルハーツのパワーアップに繋がる。そう、思う。
「……流石に、難しいな。でも、やるしかないのか……」
「よう、待たせたな」
「けど、そうなると、やっぱりあのアクティブ・ウェポンを完成させないと……」
「って、おい。無視するなよ、飛鳥」
 と、一人の男が声を掛け、考え込んでいる飛鳥の肩を叩く。飛鳥はようやく気づいた。
 彼を見て、「待ってたぜ」と答える。
「悪いな、呼び出して。それに、スカウトまでして」
「気にするな。お前の誘いなら、何の文句もねぇよ。お前のチーム、入らせてもらうぜ」
「ああ。これから頼むな、蓮」
 新垣蓮(あらがき れん)。それが、彼の名だ。
 飛鳥の中学時代の友人であり、プロのボクサーを目指していた人間。
 蓮に飛鳥がメモリースティックを渡す。白く、金のラインを入れたものを。
「これが、蓮に託す『レザリオン』の証だ。蓮にとっては、必要ないものだろうけど」
「おいおい、そんなものを俺に渡すのかよ?」
「ああ。これが、蓮に相応しいって思ってる」
「へっ、飛鳥がそう言うなら、そうなんだろうな」
 受け取り、ドライヴに接続してすぐに装備する。
「しかし、本当にチームを作るなんてな。それも、伝説のチームって呼ばれてたチームのリーダーなんだろ?」
「ああ。本当は、ちゃんとした後継者がいるんだけど、まだ幼いから特例で、な」
「本気で最強のチームを作る気かよ」
「当然。シングル、コンビ、チームの最強は、俺が全部手に入れる」
「それは無理だな」
 突然、話を割り込まれる。飛鳥と蓮は同時にその声の持ち主を見た。
 相手をバカにしているような、そんな笑みを浮かべた男。蓮が睨み返す。
「何だ、お前? 人様達の会話に割り込みやがって」
「ふん、ザコに用はねぇ」
「な!?」
「お前が蓮杖飛鳥だな?」
 そう、飛鳥に訊いて来る。飛鳥は「だったら何だ?」と返した。
「そう言うお前は誰だ? 名前くらい名乗るのが礼儀だろ」
「俺か? 俺は小野寺慶彦。お前を倒して、『ソード・マスター』になる男だ」
 それを訊いた飛鳥の目が少しだけ大きく開く。
 朝、学校で天鷹姫里、千里の二人が言っていたコネクター。それがこの男だとすぐに分かった。
 小野寺がドライヴを飛鳥に突き向ける。
「俺に王の座を渡してもらおうか? この、天才である俺に」
「……お前の事は聞いている。ランクはSRらしいが、ランキングのトップじゃない奴とバトルする気はない」
「言うじゃねぇか。そうやって逃げるのかよ?」
「…………」
「と、そう言う話なら、俺にも用があるな」
 蓮が小野寺の前にドライヴを突き向けた。
「そこまで言うなら、俺が相手だ。最強のコネクターの実力、見せてやるぜ!」
「蓮!」
「最強だ? ふん、レベルの低い最強とバトルしても意味がねぇ」
「んな事言ってると後悔するぜ? 俺の強さは、桁違いだからな」
 その言葉に、小野寺の口元から笑みがこぼれる。
「面白ぇ。天才ってものがどんなものか、見せてやるよ」
「おいおい、俺は最強のコネクターって言っただろ? 格の違いを教えてやるよ」
「蓮、馬鹿な事を言うな! 俺とのバトルを望んでる奴と蓮がバトルなんて……!」
「気にするな。俺がバトルしたいだけなんだからよ」
「蓮がそうでも、俺が気にする!」
「気にするなって」
 そう言いながら、蓮が飛鳥の胸元を軽く殴る。
「正直、ムカついてんだよ。お前の事をザコみたいな目で見てるのはよ」
「…………」
「お前は、俺に光をくれた奴だ。だからこそ、あの野郎は絶対に許しちゃおけねぇ」

 ――――タ〜リラ〜リラ〜ン♪

 突然、誰もバトルしていないバトル・フィールドが海のフィールドとなり、そこから審判が姿を見せる。
 頭にゴーグル、口元にシュノケール。そして、海パン姿に浮き輪を持った中年の男性がそこにいた。

「ただ今より、このバトルは公式バトルと認められました。
 審判は私、モリ森田! 皆様、お待たせいたしました!」
「……いや、誰も待ってないし。つーか、審判」
 溜め息をつきながら、飛鳥がモリ森田に話しかける。
「このバトルは大事にしたくない。だから、審判はいらない
「な、なんと!?Σ( ̄□ ̄;)」
 そう言われた途端、強制的に戻されていくモリ森田。
 蓮が苦笑しながら、「可哀想じゃねぇか?」と言う。
「俺だけじゃない、蓮の立場もあるからな。……負けるなよ、蓮」
「おう。んじゃ、やりますか」
 ドライヴを手に取り、蓮がコクピットランサーに乗り込む。
「グロウネクサス、ドライヴ・コネクト!」



 バトル・フィールドは、モリ森田が登場する為に用意した海とは違い、闘技場のフィールド。
 そこに構築される二体のドライヴ。
 飛鳥が昔使用していたドライヴ・グロウファルコンに似たフォルムで緑のカラーリングを施したドライヴ。
 そして、自分が最強と言いたいのか、真紅のマントに気高き王を思わせる姿をしたドライヴ。
 蓮のドライヴは、緑のカラーリングを施した方だ。
 グロウネクサス。飛鳥が蓮の為に作った、グロウファルコンの兄弟機とも言えるドライヴ。
「よし、軽く慣らすか」
 そう言って、グロウネクサスでボクシングをやるかのように、ジャブを何度もする。
 その姿を見ていた小野寺が鼻で笑った。
『ボクサー気取りかよ? バカだろ』
「ボクサー気取りだと? 違うな、俺はボクサーだ」
 蓮が拳を小野寺に突き向ける。
「もう昔の事だけどな、俺はボクシングチャンピオンだ。今は、最強のコネクターだけどな」
『チャンピオン? ふん、ザコがチャンピオンになれるわけねぇだろ』
 小野寺のドライヴが剣を構え、グロウネクサスを睨む。
『後悔するなよ? 俺のドライヴ、剣帝に勝てる奴は誰もいないからな』
 そして、バトルが始まる。最初に動いたのは小野寺だ。
 剣を振るい、風の刃を放つ。
『飛燕』
「早速かよ、おい!」
 向かって来る風の刃。グロウネクサスが拳を構えた。
「エレメントは風! 行くぜ!」
 拳に風が巻きつく。
「テンペスト・ボンバー!」
 繰り出される高速の左ジャブ。拳に巻きついた風が、無数の弾丸となって放たれる。
 風の刃を無数の弾丸で防ぎ、蓮が反撃する。
「今度は地だ! アース・リヴァイアー!」
 拳に地面の岩が浮き上がって纏わり、大地を思い切り殴る。衝撃波が発生した。
 グロウネクサスを中心に、広範囲に放たれる衝撃波。小野寺がふっと笑う。
『甘いぜ』
 衝撃波が来ると同時に飛び上がり、剣を振るう。
『疾』
 風の刃を放つ。先程とは比べ物にならないほどのスピードを持った風の刃を。
 蓮が舌打ちしながら回避し、拳に光を纏わせた。
 拳を強く引き、狙いを定める。
「こいつは強力だぜ? フラッシュ・マグナムッ!」
 勢い良く拳を突き出す。巨大な波動が放たれた。
 避けれなかったのか、小野寺のドライヴ・剣帝が直撃を受ける。
 が、剣帝はまだ倒れていなかった。
「何!?」
最強のコネクターって言うのは、この程度かよ?』
「んなわけねぇだろ! ランサー・スプラッシュ!」
 拳に水を纏い、殴る。水で作られた巨大な針のそうなものが放たれた。
 剣帝がそれを受け止め、小野寺が「弱ぇ」と呟く。
『全然弱ぇんだよ』
 プラズマライフルを取り出し、撃つ。
「氷! ミラー・ブレイク!」
 グロウネクサスの拳に氷が纏わり、向かって来るビームを弾き飛ばす。
「そろそろ本気でやってやるぜ! バーン・ブレイジング!」
 拳から炎が発せられ、突撃して殴る。小野寺は瞬時に回避した。
 が、次の瞬間、グロウネクサスが剣帝の懐に入り込む。
 その拳には、雷が纏わりついていた。
「プラズマ・ストライクッ!」
 殴る。蓮は直撃を確信したが、次の瞬間、目を見開かされた。
 剣帝が左腕に装備していたと思われる盾で見事防いでいる。
『今のは危なかったぜ』
「あの一瞬で防いだってのか? テメェ、いつの間に……!」
『言ったはずだ。俺のドライヴに勝てる奴はいねぇ!』
 剣帝が剣を振り上げる。グロウネクサスがすぐにその場から離れた。
 舌打ちしつつ、蓮が「やるしかねぇか」と呟く。
「あまり好きじゃねぇが、こいつで行くか。エレメント、闇!」
 拳から闇が噴き出す。周囲が暗闇に包まれた。
「ステルス・フィニッシュ!」
 暗闇に紛れた状態で、グロウネクサスが剣帝との距離を詰め、一気に殴る。
 今度こそ直撃。そう思いながら、拳から噴き出る闇を止める。
 暗闇が消える。
「何……!?」
 蓮が驚く。グロウネクサスの拳は、確かに剣帝の胸部を捉えていた。
 しかし、剣帝にはダメージどころか、傷一つない。小野寺が笑う。
『今ので倒せたと思ってたのか? 笑わせるなよ、ザコが』
「どうなってやがる……!? グロウネクサスの拳で無傷だと!?」
『当然だ。剣帝は、最強の中の最強。天才である俺に相応しいドライヴだからな』
 剣帝が剣を振り、グロウネクサスを斬る。
「ぐっ!?」
『お前の負けだ、最強のコネクター! 無限烈風殺!』
 凄まじい斬撃が繰り出され、グロウネクサスが切り刻まれる。
 呆気なく、それもまるで紙のように。バトルは、小野寺が制した。



 バトルを見ていた飛鳥は、流石に目を見開いた。
「蓮が負けた……嘘だろ……!?」
 飛鳥の予想では、蓮が勝つはずだった。理由は言うまでもない。
 蓮は最強のコネクターだ。そして、蓮のグロウネクサスは自分が作ったドライヴでもある。
 蓮の持つボクサーとしての才能は、ドライヴでも通用する。
 だからこそ、蓮が負けるのは有り得ない。
「小野寺慶彦……一体、何者だ……」
「言ったはずだ、天才だって」
 小野寺が姿を見せる。そして、ドライヴを飛鳥に突き向けた。
「今度はお前が俺とバトルする番だ。逃げるわけねぇよな?」
「…………」
 ポケットの中に入れているドライヴに触れる。飛鳥は躊躇った。
 今の自分は、最大限まで力を引き出せる状態じゃない。
 しかし、蓮が負けた以上、このまま引き下がるわけにはいかない。
 飛鳥が「分かった」と頷く。
「ただし、バトルは一週間後、特設ステージでやる。文句は無いな?」
「ああ。お前を倒せるならな」
 そう言って、笑いながら立ち去っていく。蓮が飛鳥の肩を掴んだ。
「本気でバトルするのかよ?」
「ああ。蓮が負けた以上、俺も逃げるわけにはいかない」
「……悪い」
「気にするな。どのみち、俺が相手をしないといけなかったんだから」



 夜。飛鳥は自宅のパソコンでシミュレートを何度も繰り返した。
 しかし、結果は惨敗。データ上のアーク・ウィザリオに何度も敗北する。
「くそっ……やっぱり、『鷹の瞳』がないと……!」
『鷹の瞳』なら、敵の動きを見切る事ができる。
 そうすれば、攻撃や回避もスムーズにできる。それが、今までのやり方だ。
「どうする……? どうすれば、今の状態で強くなれる……!?」
 悩む。今の自分には、それしかできなかった。
 その時、ドライヴに着信が入る。すぐに出た。
「もしもし……」
『私だ』
「父さん……!? どうしたの、普段は家の方に電話してくるのに……?」
『何か胸騒ぎがしてな』
 父・常世からの電話だった。常世が話を続ける。
『何か変わった事はないか?』
「……大丈夫。美緒も元気だし、何も問題は……」
『あったな』
「ないよ。大丈夫だから……」
『嘘をつくな。私には分かる』
「…………」
 全てお見通しだった。どんなに離れていても、一緒に暮らしていなくても父親は父親だった。
 飛鳥の少しの違い。それに気づいている常世が再度訊く。
『何があった?』
「…………」
『飛鳥?』
「……大丈夫。俺自身の問題だから、俺自身で解決する。そうしないと、いけないから……!」
『そうか。私より、春香の方が力になれそうだな』
「え……?」
『私の書斎の一番下の引き出しを開けなさい。そこに、今のお前が必要とする物がある』
「俺が必要とする物……」
『必ずお前の力になるはずだ。しっかりな、飛鳥』
 電話が切られる。飛鳥は、すぐに父の書斎へと向かった。
 書斎に入り、父の机の一番下にある引き出しを開ける。そこには信じられない物があった。
 ドライヴだ。今の折り畳み式と違い、倍近い厚みのドライヴ。
「これって結構昔の型……だよな、確か。でも、何でドライヴがここに……?」
 そして、ドライヴと一緒に手紙を見つける。それを手に取り、中身を見た。
「……この字、父さんの字だ。えっと……」


 飛鳥、このドライヴがお前の手に渡った時の為に、この手紙を残しておく。

 このドライヴには、春香が使用していたドライヴのデータが入っている。
 初期型の物を今の物に入れた為か、使用する事はできない。
 まぁ、昔の代物が現在の物に通用するとは思わないが。

 飛鳥、もし、お前が何かに行き詰っているなら、このドライヴをお前にやろう。
 このドライヴには、春香の戦闘データも入っている。
 母さんなら、お前の力になれる。母さんから、色々と学びなさい。


「……母さんのドライヴ……」
 初代『ソード・マスター』だった母のドライヴ。
 このドライヴの作りや性能はともかく、母の戦い方は参考にできるかもしれない。
「……ありがとう、父さん。母さんから、色々と教えてもらう」
 この時、飛鳥は久々に笑顔になれた。



次回予告

 明日香「飛鳥君、大丈夫かな……?」
 明日奈「大丈夫よ。蓮みたいなザコじゃないんだから」
 蓮  「ザコておい……」
 明日香「でも、まさか蓮君がレギュラー昇格だなんて驚きかも」
 蓮  「何だと!?」
 明日奈「最強のコネクターって言うのが、信じられないもの」
 蓮  「ぐっ……」
  ※色んな意味で、ザコ扱いな最強のコネクターて……(汗

  次回、CONNECT07.『大ピンチ』

 小野寺「お前じゃ俺には勝てないんだよ、『ソード・マスター』。俺の方が天才で強いんだからな」

 明日香「次回は飛鳥君大ピンチ! ……って、明日奈!」
 明日奈「あら、早速不安な展開ね」
 明日香「どうしよう!? 本当にどうしよう!?」
 明日奈「落ち着きなさい。とりあえずバトル観戦のチケット買いに行くわよ」
 蓮  「冷静過ぎだな、おい……次回もドライヴ・コネクトだぜ!」



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