CONNECT09.『レア・ウェポン狩り』


 小野寺慶彦とのバトルから数日。飛鳥は、自宅のパソコンと常に睨み合っていた。
「やはり、こいつを完成させるには、ファイナルハーツのデータをどうにかしないと……」
 万が一の切り札である、セルハーツの本来の状態ファイナルハーツ。
 今作っている物を完成させるには、そのファイナルハーツのデータをどうにか使える物にする必要がある。
「……それにしても」
 ふと、思い出す。小野寺慶彦とのバトルが終わった後の輝凰との会話を。


「飛鳥、それは『鷹の瞳』じゃない」
「え……!?」
 輝凰の元へ訪れ、全ての経緯を話した直後、飛鳥はそう言われた。輝凰が話を続ける。
「『鷹の瞳』の特徴を答えてみろ」
「……動体視力を高める事で、動きを読んで見切る事です」
「そうだ。それが、俺や一部のコネクターが持つ『鷹の瞳』だ」
「…………」
「お前のは、次元が違う。お前は、見える物全ての情報を把握して、見切っている
 それは、『鷹の瞳』じゃない。お前の資質は、全く別の代物だ」
 目に見える全ての物。距離、時間、動きの全ての情報を完全に把握できる力。
 それは、『鷹の瞳』とは全く異なる力だ。
「敢えて言うならば、空間把握能力。それが、お前の本来の資質だ」
「空間把握能力……」
「そうだな……視界に入る空間全ての情報から見切りを引き出せるから、『鷹の閃眼』ってところか」


「『鷹の閃眼』、か……」
 あまり分からないが、輝凰が言うには、それが今回のスランプの原因らしい。
 元々、自分には空間認識能力が優れているらしく、その能力と『鷹の瞳』が合わさろうとして、
 一時的に『鷹の瞳』が使えなくなったと言う。
「そう言えば、昔、優さんにも同じ事を言われたような気がする」
 が、思い出せない。いや、思い出したくもない。あの人との思い出は、いつも悲惨だった気がする
 とりあえず、今はこれをどうにかしなければと、パソコンに集中する。
「…………」
 集中し、ただ黙々とキーボードを叩く。



 この日、明日香はサブリーダーとして、『レザリオン』の事をガルノアと相談していた。
 ショップ内の喫茶店で、二人で紅茶を注文して話をしている。
「あ、あの……隆也君と美雪ちゃんは……?」
「今日は母親と出掛けている。それで、私に話とは?」
「はい……その、『レザリオン』の事で……」
 ガルノアが出された紅茶を一口飲みながら、話を聞く。明日香は続けた。
「飛鳥君、最近は自分の事で色々と大変だから、サブリーダーになってる私がしっかりしないとって……。
 でも、私にはどうすれば良いのか、全然分からなくて……」
「あまり気にする事ではない」
 ガルノアの言葉に、明日香が目を丸くする。
「え……?」
「彼が何を考えているのか、私には分かっている。『レザリオン』の事は気にする事はない」
「でも……」
「心配しなくて良い。蓮杖春香の息子は、自分の『レザリオン』をちゃんと考えている」
「自分の『レザリオン』……?」
「そうだ。まだ、『レザリオン』としては足りない物があるが、彼は少しずつ良きチームへとしている」
 ガルノアが話を続ける。なんでも、『レザリオン』には最強だった秘訣があるらしい。
 そして、飛鳥もそれを知っており、それは現『レザリオン』メンバーも関係するとか。
「『レザリオン』の事は、蓮杖春香の息子に任せておけば良い。それ以外の事をサポートするのがサブリーダーだ」
「は、はい。あの……」
 明日香が訊く。
「……どうして、飛鳥君の事をいつも『蓮杖春香の息子』って言うんですか?」
 いつも疑問に思っていた事だった。少し間を置いて、ガルノアが答える。
「……癖になっている。それだけだ」



 同時刻。明日奈、蓮、歩、瑞樹の四人はバトル・フィールドでトレーニングをしていた。
 バトル形式のトレーニング。明日奈と蓮が容赦なく歩と瑞樹を攻撃する
「少しは手加減しろよ!? あんたらSランクだろ!」
「あら、Sランクだからって手加減していたら、強くなれないでしょ?」
「それは分かるけど、何で蓮杖じゃないんだよ!」
「仕方ねぇだろ、飛鳥は今大変なんだよ」
 歩の反論を呆気なく返す。後方で援護している瑞樹は溜め息をついた。
「歩、文句ばかり言わないで、攻撃した方が良いと思う」
「んな事言っても、この二人の強さがどんなか瑞樹も分かるだろ!?」
「分かってるけど、これもトレーニングなんだから」
「トレーニングって、俺はもう何日もバトルしてないんだぜ!?」
 そう、歩はここ数日間、バトルをさせてもらえていなかった。
 飛鳥曰く、「まともな実力になるまではバトル禁止」とか。
 しかし、反発せず、素直に言う事を聞いている歩は色んな意味で馬鹿な気がするが
 そう思いながら、明日奈が溜め息をつく。
「飛鳥が言う事も正しいわね。自分に託された武器がどんなものか分かっていないでしょ、あなた?」
「託された武器って……ブラッディ・ファングの事かよ?」
「違うわ。ブライト・オブ・ボルテッカの方よ」
 エネルギーの充填時間が掛かるものの、威力の優れたブライト・オブ・ボルテッカ。
 明日奈は、その武器を飛鳥から託された意味を問うが、歩には答えられなかった。
「……どう言う事だよ?」
「メモリースティックの状態で渡された物が、どんな意味で託されたか理解できてる?」
「……そう言うあんたはどうなんだよ!?」
「私には分かっているわ。私が、なぜグランドクロスセイバーを託されたのか、その意味くらい」
 そう言いながら、蓮の方を見る。そして、またも溜め息をついた。
最強のコネクターも理解できていないでしょうけど」
「俺に振るのか、いきなり!?」
「当然よ。あなたも、飛鳥がスカウトしたんだから」
 飛鳥には、何か考えがあって、このメンバーをスカウトしている。
 それは、『レザリオン』と言うチームが最強になる為なのだろうと明日奈は思っていた。
 しかし、それを理解できている人間は少ないようだ。
「飛鳥がどう言う理由でスカウトしているのか分かってないなんて、ザコにもほどがあるわね
「うるせぇ! ザコとかいちいち言うんじゃねぇよ!」
「そうだ! 俺だって、最近は『空の瞳』を意識して使えるようになってきてるんだ!」
 反論する蓮と歩。その様子を見ていた瑞樹は、ただ苦笑するしかなかった。
「蓮さんと歩って、なんだか似て――――明日奈さん、蓮さん、私達とは別のドライヴ反応!」
「何!?」
「後ろね」
 そう言って、明日奈のハデスハーツが後ろへ振り向き、氷の刃を複数放つ。いくつもの爆発が起きた。
 爆煙がしばらく続き、消える。そこには、何十体ものドライヴが存在していた。
 歩が目を見開く。
「な……こいつら!?」
「勝手にコネクトするなんて、違法コネクターね」
「つーか、あいつらって……」
 蓮が違法コネクター達のドライヴを見る。どのドライヴも、どこかにチーム名と髑髏のマークを刻んでいる。
「……『スカルナイツ』じゃねぇか」
「スカルナイツって、飛鳥が何度も制裁している例のチームでしょう?」
「ああ。結構しつけぇらしいぜ」
『聞け、平民ども!』
 一体、金色の装甲に包まれたドライヴが先頭に立つ。
『これより、お前達が持つ武器は全て! この僕、柏木影二が所有する!』
「……何言ってんだ、お前? 何様のつもりだよ?」
『柏木影二様だ! お前達、あいつらの武器を全て奪え!』
 柏木影二の一声に、『スカルナイツ』のドライヴが一斉に襲い掛かる。



 パソコンと睨み合っていた飛鳥は、空腹を感じて台所へ向かった。
「気づけば徹夜してるな、俺……思いっきり腹減った……」
 とりあえず、何か食べよう。そう思って台所へ着くと、何かを見つけた。
 オニギリだ。オニギリが二つ、皿の上に載ってラップされている。
「……明日香か?」
 そして、皿の下に敷かれていた紙に気づき、取る。手紙だった。


 飛鳥へ

 集中しているようだったから、用件だけ伝えるわ。
 今日はこれから、ザコ三人とトレーニング。明日香も遅れて来る予定よ。

 あと、お腹が空くかもと思ったから、オニギリを作っておくわね。
 あまり無理をしたらダメよ?

 明日奈より


「明日奈が来てたんだ……今思えば、美緒もいないし……」
 今日は保育園のない日だ。どこに行ったか探そうと思ったら、ドライヴにメールの着信が入っていた。
「……月子さんからメール着てるし」
 月子は、飛鳥の叔母だ。どうやら、美緒は叔母である月子の所にいるらしい。
 流石に反省する。自分の事で集中し過ぎたと。
「もう少しで終わるし、『レザリオン』の様子だけ見て、今日は美緒と遊んでやらないとな……」
 そう言いながら、オニギリを一口食べる。



 突如乱入してきた『スカルナイツ』。明日奈と蓮が素早く動いた。
「フレイムヴァイパー!」
「アース・リヴァイアーッ!」
 次々と敵ドライヴを倒す。その強さを見て、歩は驚くだけだった。
 トレーニングの時と違い、二人の強さは比べ物にはならない。
 自分を相手にしていた時の状態は、あれでも手加減だったのだ。そう思うと呆然としてしまう。
「あの二人……無茶苦茶強ぇ……」
 あれが、Sランク――――それもかなりの実力を持った優秀なSランクコネクターなのだろうか。
「あんだけ強い二人って事は、蓮杖の奴はどんだけ強いんだよ……」
 全く予想できない。この間の『ソード・マスター』戦の時は、苦戦していたのに。
 けれど、相手は違法していたと聞く。
「……くそっ、俺だって!」
 歩のアルトリアス・ツヴァイが剣を構える。
「あの金色のドライヴを倒せば、こいつらは撤退でも何でもするはずだ!」
 明日奈と蓮がザコを倒し、その隙を見つけて突撃する。そして、柏木影二のドライヴに攻撃を仕掛けた。
 が、銀色のドライヴに攻撃を阻まれる。
「こいつ……!?」
『…………』
 銀色のドライヴが瞬時に殴る。アルトリアス・ツヴァイが大地に倒れた。
『影二様のゴールドマスターに手を出そうとするとは、愚かな奴だ』
「くそっ……こいつ……!」
『平民が僕に近づくな! ラルク!』
『はい』
 影二の手下の一人、ラルクのドライヴが攻撃する。アルトリアス・ツヴァイは吹き飛ばされた。
『ザコは大人しくしていろ』
「あ……う……」
「歩!」
 瑞樹が近寄る。が、それをラルクは見逃さなかった。
 銀色のドライヴが両腕の爪で瑞樹のドライヴ――――エリアル・ファルケに襲い掛かる。
「――――!」
『終わりだ』
 振り下ろされる爪。瑞樹が思わず目を閉じる。しかし、何も起こらなかった。
 エリアル・ファルケの周囲に、いくつかの羽根が存在し、バリアを覆っている。
 そして、ラルクのドライヴに一体のドライヴが攻撃した。
「……明日香さん、ガルノア……さん……」
「大丈夫、瑞樹ちゃん!?」
「無事か?」
 明日香とガルノアだった。二人は、この状況を知って、すぐに駆けつけたのだ。
 そんな二人に、『スカルナイツ』のドライヴ達を退けながら、明日奈と蓮が駆け寄る。
「助かったわ、明日香」
「これで、飛鳥以外が揃ったわけだ。……しっかし、んだよ、この数……!」
「違法による大群と言う事か」
 そう言いながら、ガルノアが柏木影二を睨みつける。柏木影二は怯んだ。
『な、何だ、お前!?』
「なぜ、このような事をしている?」
『決まってるだろ? レア・ウェポンを手に入れる為だ!』
「『レア・ウェポン』を?」
『そうだ! 幻のレア・ウェポンを手に入れて、僕が最強になる! この僕、柏木影二が!』
「そうか……」
 ガルノアが剣を構える。そして、次の言葉を放った。
「知りつつも法を破るか。ならば、『全てを悟りし者』である私自らが裁きを下そう」



次回予告

 明日香「スカルナイツが狙ってるのは、『レア・ウェポン』みたい……」
 明日奈「そのようね。それにしても、何度反則行為をすれば気が済むのかしら?」
 明日香「飛鳥君が何回も制裁してるって言ってたけど、懲りないのかな?」
 明日奈「懲りないんでしょうね」

  次回、CONNECT10.『新たなるセルハーツ』

 飛鳥 「試すにはちょうど良い。パワーアップしたセルハーツの力、見せてやるぜ!」

 明日香「次回は、ついに登場! 新しいセルハーツ!」
 明日奈「そう言えば、飛鳥は大丈夫かしら? オニギリの塩と砂糖を間違えたの、あとで気づいたけれど」
 明日香「え、嘘……?」
 飛鳥 「……お、オニギリって、こんなに甘かったっけ……? ぐはぁっ……」(←死す)



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