CONNECT13.『決断する時』


 翌日。明日香から話を聞いた飛鳥は、「ふーん」と答えた。
「勇治がねぇ……」
「あ、あれ……? 飛鳥君、結構反応薄いけど……」
「まぁ、な。今はもう別々の立場だし、あまり気に掛ける訳にもいかないし」
 そんな事をする余裕があれば、よりチームに力を注ぐ。そう、飛鳥は言う。
「それに、勇治の問題は勇治自身で解決しないと」
「そうだけど……」
「大丈夫だって。亜美ちゃんには朧もいるし」
「う、うん……」
 それでも、明日香はまだ浮かない顔だった。



 コネクト協会に設けられた個人の開発室。そこで、優は溜め息をついた。
 そんな彼女の前にコーヒーが差し出される。
「ありがと、郁美」
「珍しいわね、優が溜め息なんて」
「そう?」
「ええ。協会指示のアクティブ・ウェポンを作っている時は、溜め息なんてつかないもの」
 そう言いながら、郁美が優のパソコンの画面を見る。
「これは、昔渡そうとして渡せなかった物?」
「そう。わざわざ作ったのに、呆気なく断られた代物。ま、あの時は試作段階だったけど」
 しかし、目の前に表示しているのは完成品。これがあれば、バトルでも困らない。
「問題は、あの子がどんな凄い物を見つけてくるか……」
「無理じゃないかしら。『レア・ウェポン』級でも無い限り、優は納得しないでしょう?」
「まね」
 ある意味、それを楽しんでいたりするのが優であるが。



 村瀬将射に敗北を味合わされた勇治は、自分の部屋であるものを探していた。
 確か持っていたはず。メモリースティックに入れたまま、放置しているのが。
「……無い」
 どれだけ探しても見つからない。4年前までは、そこにあったはずなのに。
 そんな勇治の姿を見ながら、後ろから一人の女性が話し掛ける。
「探し物はこれカナ〜?」
 エミリー☆荻原こと、姉である慧美理だった。勇治が白い目で彼女を見る。
「…………」
「どうやら正解みたいネ☆」
 そう言いながら、勇治が探していたメモリースティックを自分の胸元に入れる。
「これでヨシ♪」
「良しじゃない。何をしている?」
「これを渡したら、また勝手な事するでしょう? いい加減にしなさい」
 と、チョップされる。勇治はすぐに睨み返した。
 エミリー☆荻原――――否、慧美理が溜め息をつく。
「全く……強くなりたいのは良いけど、亜美の事もちゃんと考えなさいよね。
 誰よりも勇治が一番だって信じてるのは、亜美なのよ?」
「……分かっている」
 そんな事は、言われなくても分かっている。だからこそ、強くなりたいのだ。
 亜美が自慢できる兄として、誰にも負ける事のない最強のコネクターになる為に。
「亜美のチームを最強にするには、俺が誰よりも強くなる必要がある。
 リーダーである亜美が弱くても、俺がいれば絶対に負けない。そう、誰もが思えるほどに」
「だからこそ、これがいるの?」
「いる。ディル・ゼレイクを最強にして、俺がそれに合わせる」
「……相変わらずね。ほら」
 慧美理がメモリースティックを取り出し、勇治に渡す。
「これで強くなるのはどうか知らないけど、今度は負けちゃダメよ?」
 その言葉に、勇治が目を見開かせる。
「……見ていたのか?」
「これでも審判だしネ〜☆」
 そう言って、エミリー☆荻原として言葉を返すのだった。



 勇治が探し物をしている時、妹である亜美は溜め息をついていた。
 今日は前々から決めていたバトルの日。3対3なのだが、肝心のメンバーがいなかった。
「うぅ……羽山さんは来ないし、お兄ちゃんは来るわけないだろうし……」
「今日のバトルは、棄権にしましょう。相手チームには謝っておくから」
 朧が言う。小さく頷き、チームのメンバー表を見る。
「お兄ちゃんが言うには、最低でもあと4人は揃えるって言っていたけど……」
 勇治の理想としては、勇治、朧、紡の3人の他に時雨光哉、如月沙由華、そしてあと2人の強いコネクター。
 しかし、メンバーは全然集まっていない。時雨光哉、如月沙由華の二人は加わるかどうかも分からない。
「別に最強のチームとかしなくても良いんだけどなぁ……。こんな時、明日香さんがいたらなぁ……」
 明日香だったら、自分と同じ考えのはず。そう思っていた矢先、ようやく紡が姿を見せた。
「悪い悪い、遅くなった。バトルは?」
「棄権よ。待ち合わせから30分は過ぎているけれど、どう言う事なの?」
 紡の後ろから、朧が声を低くして言う。普段は穏やかで優しい朧だが、紡にとっては恐ろしい相手だった。



 村瀬将射とのバトルから一週間。とあるショップで、飛鳥は顔を隠して喫茶店にいた。
 飛鳥本人は誰にも気づかれていないと思っているが、彼女はすぐに彼だと気づいた。
 後ろから頬を引っ張られる。
「う!?」
「こんな所で何をやってるのかな、あすあす〜?」
「……別に何も。と言うより、何で俺だと分かったんですか、優さん……」
「だって、誰にも気づかれないようにしてるのって、基本あすあすだけだし」
 と、優が頬を引っ張りながら言う。そして、飛鳥の向かいの席に座り、注文を取った。
「……奢りませんよ」
「大丈夫。これはゆうゆうに払わせるから」
「勇治に?」
「そ。今日のバトルの為に作った新型の代金としてね」
 優のその言葉に、飛鳥が反応する。
「新型?」
「そ、新型。自分で言うのもあれだけど、凄いわよ」
 そう言って、飛鳥が持ってきていたパソコンを自分の方に向ける。
 パワーアップしたセルハーツのデータが画面に出ている。
「エアリアル・ウイング……まさか、本当に完成させるなんてね」
「3年は掛かりましたけどね。と言うか、返してください。まだ、調べてない武器もあるんですから」
「調べてない武器? 何それ?」
「これですよ」
 飛鳥が奪い返したパソコンを操作し、優に見せる。
 実体剣だ。白銀の刀身に黄金の柄で作られた、普通の実体剣。母のドライヴから転送された物。
 優が首を傾げる。
「普通の実体剣じゃない。どちらかと言えば、かなり出来の良い実体剣。これがどうしたの?」
「これを見てください」
 実体剣のデータを細かく見せる。それを見た優が目を大きく見開かせた。
「……何これ? 普通の実体剣のくせに、この膨大なデータは何?」
「それが分からないんですよ。分かっているのは、これは多分『レア・ウェポン』だと言う事です」
「『レア・ウェポン』? 確かに、見た目は凄く出来の良い剣だけど、特性は?」
「それもさっぱり」
 どうして、母はこんな剣を俺に託すようにしていたのか。それも分からない。
 この剣に何があるのか、それさえ分かれば良いのだが。
「『レア・ウェポン』で、まだ存在が確認できていない物はあるんですか?」
「そりゃ、まだあるわよ。例の『幻のレア・ウェポン』も含めて」
「……やっぱり、一度バトルで使ってみるか。どんなものか分かってからって思ったけど……」
「と、そんな事より、ようやく始まるみたいね」
 優の言葉に、飛鳥がバトル・フィールドの方へと目を向ける。



 飛鳥と優が話をしている時、勇治は姿を現した。
 コクピットランサーの前には、すでに村瀬将射が待っている。
「あれから一週間。少しは強くなったのだろうな、『マグナム・カイザー』?」
「何を言っている。俺は、最初から誰よりも強い」
「そうか。ならば、話は早い」
 村瀬がドライヴを構える。
「決着をつける。『ドライヴ=レガリア』の無いお前とどちらが強いか、ここで決める」
「お前の負けは決まっている。だからこそ、お前に一つ言っておく」
 勇治がドライヴを構えながら、村瀬に告げる。
「チームに来い。このバトルは、俺とお前、どっちがエースに相応しいか決めるバトルだ」
 勇治の意外な発言。村瀬が目を見開かせる。
「良いのか?」
「良い。亜美のチームだ。俺が勝手な事をして、亜美を泣かせる気はない。それが、俺の答えだ」
「……良いだろう。どちらが『エーム・エンジェル』のエースか、ハッキリさせる」

 ――――そのバトル、両者の合意と確認しましたっ!

 突如、バトル・フィールドの中心が開き、そこからタキシード姿のおっさんが姿を見せる。
「ただ今より、このバトルは公式バトルと認められました。審判は私、リュウマチ小暮さんがやりますっ!
 今回のバトルは――――」
「ルールの説明はしなくて良い。すぐに始めろ。退場させるぞ
 早くも審判を脅す。リュウマチ小暮が首を縦に大きく振った。
「わ、分かりました! そ、それではコネクトをっ!」



 バトル・フィールドは何も存在しない、平地のみが広がるフィールド。
 そこに構築される村瀬のレイ・マキシマム。そして、勇治のドライヴ。
 勇治のドライヴを目の前に、村瀬が目を見開く。
「そのドライヴ……?」
 背中に見えるツインゴッドランチャーは変わらない。
 しかし、全体的に武装が増えているのは、見ていて明らかだった。
 重厚感溢れた漆黒の装甲のドライヴ。勇治がふっと笑う。
「これが、俺の最強のドライヴ……ディル・ブラストだ」



次回予告

 明日香「今回は勇治君の新しいドライヴ登場、だね!」
 亜美 「お兄ちゃん、いつの間に作ったの?」
 勇治 「秘密だ」
 飛鳥 「いや、今回の話でバレてるだろ……」

  次回、CONNECT14.『最凶のドライヴ』

 勇治 「見せてやる。これが、最強のコネクターの力だ」

 明日香「次回は、勇治君と新型ドライヴ、ディル・ブラストのお披露目!」
 亜美 「ど、どれくらい強いのかなぁ……!?」
 飛鳥 「最凶って、字間違ってんじゃないのか、これ?」
 明日香「う、ううん、これで合ってるよ? ここに書いてあるから」(←片手にプロットを持ちつつ)
  ※お願いだから返してください。_| ̄|○



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