異世界ネセリパーラでは、恋人達を祝福する鳥が存在する。
 その鳥は、一年に一度だけ現れ、幸せを運んでいる。

 そして、二人にもその祝福があった――――






























 宿命の聖戦 〜Legend of Desire〜
  クリスマス特別エピソード 星凰の祝福






 冬休みが近づいてきた時期、ハヤトはいつもと変わらず剣術の修行をしていた。
 寒いと言えば寒いが、慣れれば、すぐに忘れる。
「はぁ……」
 呼吸を整える。白い吐息は、外の寒さがどれ程なのか教えるほどだ。
 剣術の腕は相変わらずだった。ただ、一つの事を除いて。
 ハヤトの肩に一匹の鳥が留まり、羽を見繕っている。
 七色の翼を持つ、摩訶不思議な鳥。ハヤトはその鳥に微笑んだ。
「おはよう、セフィア」
 ハヤトの言葉に、七色の翼を持つ鳥――――セフィアは「ピィッ」と鳴く。
 セフィアとの出会いは、数日前にさかのぼる。

「あの……これは……?」
 学校の帰り、アリサは渡された丸くて白い食べ物を見つつ訊く。
「肉まん。ひき肉を中に入れて蒸した物だよ。ネセリパーラには、こんな食べ物ないの?」
「はい……。似たようなものはありましたけど……」
 ハヤトが肉まんを一口頬張る。アリサは話を続けた。
「ビレイナナと言うのですけど、中に小豆とお肉を一緒に入れた物です」
「……食べられるのか、それ?」
 口の中の肉まんを飲み込み、ハヤトはビレイナナと言う食べ物を思い浮かべる。
 外見は肉まんと同じとして、肉と小豆が具になっている食べ物。
 味を思い浮かべるだけで、なぜか「食べたくない」と思う。
「ピィッ」
 突然聞こえた鳴き声。ハヤトは空を見上げる。
 やや曇りがかかった空。今にも雪が降ってくるのではないかと思う。
 そんな空を眺めていると、一羽の鳥がハヤトの肩に留まった。
 七色の翼を持つ鳥。ハヤトが首を傾げる。
「鳥?」
「……この鳥は“セルファレアムレインボー”と言う、ネセリパーラの鳥です」
 アリサが七色の翼を見つつ答える。
「……長い名前だな。でも、どうしてネセリパーラにいるはずの鳥が?」
「さあ……。アランに訊いてみた方が良いですね」
 鳥の頭を軽く撫でつつ、アリサは微笑んでいた。

 結局、ネセリパーラとは連絡が取れなかった。
 セルファレアムレインボーと言う鳥は、ハヤトとアリサに懐いており、結局は飼う事にしたのだ。
 そして、アリサが『セフィア』と名付けたのである。
「ピィッ」
「お前、俺の肩が好きなのか?」
 セフィアの頭を優しく撫でつつ、ハヤトはいつも思う。
 鳥籠を購入したのだが、妹であるサキに「可哀想だから駄目!」と言われた。
 なので、放し飼いしているが、よくハヤトの肩に留まっては、羽を見繕っている。
 どうやら、セフィアにとって、ハヤトの肩はお気に入りのようだ。
「ハヤトさん、おはようございます」
 家の中からアリサが出てくる。上にコートを羽織っているので寒いのだろう。
 アリサとキスを交わす。アリサは目を細めて微笑んだ。
「今日も寒いですね。ね、セフィア」
「ピィッ」
 セフィアの頭をアリサも撫でる。



 学校。ハヤトとアリサは、いつものように席に座って話をする。
 そこへ、丸坊主頭の同級生である亀田豊が話しかけてきた。
「うい、神崎! 神崎さん!」
「おはようございます、亀田さん」
「おう」
 朝、必ずと言って話しかけてくる亀田に、ハヤトとアリサは軽く挨拶を交わす。
 亀田はハヤトを見て訊く。
「なぁ、神崎。やっぱ、クリスマスって予定あんの?」
「あるよ。自宅でクリスマス・パーティー。それがどうした?」
「いや、ちょっと合コンのメンバーが足りなくてよぉ……。それで、神崎が予定なかったらと」
「……クリスマスに合コンなんてやるなよ」
 相変わらずの事だが、亀田は馬鹿だった。ハヤトは呆れる。
「ハヤトさん、合コンって何ですか?」
「皆で盛り上がる事だよ。その時に仲良くなった男女は、たまに恋人同士になるらしいけど」
「らしいじゃねぇ! 俺は今度の合コンで彼女をゲットしてみせる!」
「無理」
 即答する。亀田はショックを受けた。
 この日の学校は、いつもと変わらないのだった。



 時は経ってクリスマス・イヴ。ハヤトは朝早くから訪ねて来た従兄に質問する。
「シュウ兄、こんな朝から何か用か?」
「いやはや、今日はクリスマス・イヴですからね……」
 どこかやる気のないサラリーマン風の眼鏡をかけた従兄・シュウハは答える。
 すると、そんなシュウハに向かって体当たりする少女の姿があった。
 神崎沙希。ハヤトと同じく宿命の因縁を持つ《霊王》と《覇王》の血を継ぐ八歳の妹。
 シュウハが溜め息をつく。ハヤトは苦笑した。
「もしかして、今日はサキとどこか出掛けるの?」
「……ええ。お前の事だから、今日はアリサさんと二人だけでデートの方が良いだろ?」
「お兄ちゃん、サキね、今日は遊園地に行くの!」
 シュウハに考えていた事を察しさせ、ハヤトはただ笑うだけだった。
 サキの頭を撫でる。
「気をつけて行って来るんだよ、サキ。明日は、お兄ちゃん達とクリスマス・パーティーだからな」
「うん! サンタさん、今度も来てくれるよね!?」
「ああ。サキが良い子にしていたから、ちゃんと来るよ」
「うん!」
 純粋。そう、サキはとても純粋な心を持っていた。
 心を塞ぎ込んでいたハヤトですら、妹の純粋さには負けるほどである。
 シュウハがサキの手を引く。
「それでは、夕方から姉さんの方にサキを連れて行きますので、今日は姉さん宅に泊まるでしょう」
「そうか。サキ、気をつけて行って来いよ。コト姉によろしく伝えてくれ」
「うん! 行ってきます、お兄ちゃん!」
「ああ。行ってらっしゃい」
 シュウハとサキを見送った後、ハヤトは軽く背伸びをした。
 アリサがやや唖然とした顔でリビングに姿を現せる。
「あの……サキちゃんは、もう行っちゃったんですか……?」
「うん。どうして?」
「いえ……今日は寒いから、マフラーをちゃんとするように言おうと思ったのですけど……」
 アリサにとって、サキは大切な妹のような存在だ。だからこそ、サキもアリサの事を姉として慕ってくれる。
 ここ最近、寒い日が続く為、サキの為にマフラーを編んでいたのだ。
「大丈夫。ちゃんと、アリサが編んでくれたマフラーを巻いて行ったよ。お気に入りだからね」
「そうですか……良かった……」
「それで、俺達も出掛けようか。二人だけのデート。クリスマス・イヴだし」
「はいっ」
「ピィッ」
 アリサの嬉しそうな返事と共にハヤトの肩に留まる一羽の鳥。
 セフィアは、ハヤトの肩の上で相変わらず見繕う。
 アリサがセフィアの頭を優しく撫でつつ言う。
「セフィアも一緒に来る?」
「ピィッ」
「そうか。じゃ、セフィアも一緒に行くか」



 クリスマス・イヴと言え、二人のデートの内容は変わらずだった。
 ただ二人で一緒の道を歩いて、一緒に笑って、一緒に景色を観る。
 セフィアは、ハヤトの肩の上で、そんな二人の姿を見ているだけだ。
「それにしても、今日はまた、一段と寒いな」
「はい。でも、ハヤトさんと一緒だから平気です」
 ハヤトの手を握る。ハヤトもアリサの手を握り返した。
 アリサと一緒だからなのか、恥ずかしいのだが、このままで居たいと思う。

 ――――とても温かい想い……。

「声……?」
 ふと、ハヤトが肩に留まっているセフィアを見る。セフィアは羽を見繕っていた。
 ハヤトは首を傾げる。アリサが不思議に思った。
「どうかしましたか?」
「いや……今、セフィアが喋ったと思って……」
 気のせいにしては、確かに聞こえた。セフィアの声が。
 途端、セフィアが七色の翼を広げて、空へと舞い上がる。
 二人はそれを見て驚いた。セフィアがこちらを見て、何か言っている。
「ピィッ」
「どうしたの、セフィア? 何?」
「……『私について来てください』……そう言っている」
 直接声が聞こえた。ハヤトはアリサの手を引いて、セフィアの後を追いかける。
「ハヤトさん……?」
「今はセフィアについて行こう。それに、セフィアが向かっている場所は、とても景色が良い場所だから」
「え……?」



 夕方、セフィアを追いかけたその先には、街一面を見渡せる丘だった。
 日が沈んでいく空を見て、ハヤトはアリサの肩を抱く。アリサは頬を赤くして照れた。
「……温かいですね」
「それに、良い場所だろ? どうして、セフィアが知っているのか分からないけど……」

 ――――それは、私が《星凰》だから。

 空を舞うセフィアが光に包まれる。その温かい光を見て、ハヤトは目を見開いた。
 七色の翼を持ち、光を全身に纏う鳥。異世界で戦っていた頃に、一度見えた称号と同じ姿。
「ハヤトさん……」
「……ああ。空を舞う《星凰》……。けれど、どうして?」

 ――――想いは、私に戦う勇気を与えてくれるから。

「戦う勇気……?」

 そう。私は臆病者。けれど、私は二人の想いのお陰で、戦う事ができた。
 私の心を理解してくれた初代《星凰》レナスと、初代《霊王》ヴァトラスのお陰で。

「あの……どうして、地球に?」

 あなた方二人の想いを知る為です。

「俺とアリサの想いを知る為……?」

 はい。セルファレアムレインボーは、元々恋人達を祝福する鳥。
 そして私は、あなた方の温かい想いを感じる事で、あなた方を祝福する事ができます。

 セフィア――――《星凰》が翼を大きく広げる。
 ハヤトは《星凰》の放つ光を感じていた。

 あなた方に幸せがあらん事を祈ります。その想い、大切にしてください。

「……ああ。俺は、アリサとの想いを大切にする」
「はい。私も、ハヤトさんとの想いを大切にします」
 二人の言葉に《星凰》が微笑む。そして、空の彼方へと消え去った。
 光が舞い、それぞれが粒子となる。光の粒子の中には、白いものまで降っている。
 雪。光と一緒に舞う雪が、街一面に降り注がれていく。
「綺麗ですね……」
「ああ。これが、祝福って事だろうね」
「はい」
 二人はいつまでも、雪と光が舞う景色を眺めていた。





 余談。実は、五十一年前にも《星凰》は、地球に現れている。
 そう、その頃の《霊王》であり、ハヤトの祖父である神崎獣蔵と、その妻となる人の元に。
「綺麗ね、獣蔵さん」
「……寒い。早く帰って、温かい物でも食べたい……」
「……」
 神崎獣蔵。この時十九歳の若者には、ロマンよりも食い気だったりする。





 メリー・クリスマス。ハヤトとアリサに永遠の祝福を……。















 カンザキのあとがき=言い訳
  ……これが、クリスマスSSだと思う方、挙手! って、いねぇだろ!(滝汗)
  普通にハヤトとアリサのクリスマスでも良かったのですが、気分的にこんな展開を。
  セルファレアムレインボー、長い名前ですよね。虹を名前に入れたいだけで名付けた鳥です。
  ちなみに、製作時間10時間。……もう一度出直すか(謎)





 戻る

 トップへ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送