第一章 動き出す闇


 魔術師と暗黒騎士を思わせる怨霊機が、ついにイシュザルトへ襲い掛かった。
『あれが、戦艦イシュザルト。《霊王》のいる戦艦ですか』
『……《霊王》や聖戦はどうでも良いが、私は強い奴と戦う』
『ええ。分かっていますよ、《破邪》』
 全世界の全ての憎悪や欲望などと言った負の感情により誕生した新たなる力。
 その一つである《破邪》は、静かに機体と同じ位の長さはある剣を手にした。
『さぁて、私も準備に取り掛かりますか』
 魔術師を思わせる怨霊機の操者が、静かに不敵な笑いを溢した。



 ヴァトラスが空を舞い、その翼を大きく広げる。
 ハヤトの兄であり、もう一つの人格マサトは、ヴァトラスに乗っているだけだった。
「……僕には霊力はない。でも、戦う必要がある」
 そう呟くと、ヴァトラスが唸りを上げる。
(新たなる怨霊機……敵……!)
「え……?」
(……友よ……私の声に応えよ……!)
 ヴァトラスの全身から放たれる六つの光。マサトには分からなかった。
 ただ、ヴァトラスは何かを知った。この戦いの事に関する何かを。
 マサトは手を置いている青い球体を強く握る。
「行くよ、ヴァトラス」
 そう言うと、ヴァトラスは唸った。



 どこか騒がしい。そんな中にハヤトはいた。
 そして、両親の姿と祖父の姿がある。
『親父と母さん……それと、じじい……?』

「反対だ! 《霊王》の血を継ぐ者と《覇王》の血を継ぐ者を結ばせるわけにはいかん!」
「獣蔵よ、これは神崎家に破滅をもたらすぞ!」
 神崎家の『長老』と呼ばれる者達が激昂する。そんな中、獣蔵はのほほんとお茶を飲む。
 まだ五十数歳であり、超人を超える強さを持つ男は、この頃から年寄りのような雰囲気だ。
 ハヤトの父である凌駕が頭を下げる。
「私は……私は《霊王》や《覇王》など関係ないと考えています……!」
「何を言う? 《霊王》がいなければ、この世界は滅んでいたも同然!
 そして、《覇王》とは宿命の敵である! 関係ないなど言わせん!」
「ほっほっほっ……。そう粋がるな、長老達」
 一息ついて獣蔵が長老達を宥める。その表情は、《霊王》としての顔だ。
 霊力を使い、長老達の後ろに崇められていた霊剣ランサーヴァイスを手元まで動かす。
「確かに、凌駕は《覇王》の人間じゃ。しかし、その力を捨てれば良いだけの話。
 わしは、真弓が本当に凌駕を好きならば反対はせん。凌駕が、真に《覇王》を捨てるならばな」
「お父さん……」
「《覇王》を捨てる……? そんな事が可能なのですか!?」
「可能じゃ。捨てるというより、その力を永遠に封じると言う形での」
 凌駕よりも霊力が高い《霊王》の人間が、霊剣ランサーヴァイスで封印の儀式を行えば良い。
 獣蔵は《霊王》になってからは全ての知識を身につけてきた。だからこそ言えるのだ。
 長老達が再び激昂する。
「獣蔵よ、正気か!? 奴は《覇王》の人間だぞ!?」
「《覇王》の人間じゃからこそ、《覇王》を捨てるのじゃ。こんな簡単な事も分からぬか?」
 霊剣ランサーヴァイスを鞘から引き抜き、凌駕へ突き向ける。
「凌駕よ、真に《覇王》を捨て、真に我が娘を愛するか? その覚悟があるか?」
「……あります。私は、《覇王》としてではなく、一人の人間として生きていきたい」
「その覚悟は認めてやろう」
 瞬間、凌駕の中に眠る《覇王》の力は封印された。

 ハヤトは不思議に思う。ならばなぜ、《覇王》として怨霊機に乗ったのか分からない。
『……どうなっているんだ? なぜ……なぜ親父は《覇王》に戻った……!?』

 全ては……闇から光を守る為……。

『光を守る……?』

 全ての万物を生み出した光を……闇から守るのが君の使命……。

『俺の使命……?』
 ハヤトはその言葉に、どこか不安を抱いていた。



 二体の怨霊機の前に、その翼を大きく羽ばたかせる霊戦機。
《破邪》の怨霊機が剣を引き抜く。
『どうやら、お前が《霊王》だな?』
「……違う。僕は、《霊王》の力なんて少しも持っていない」
 ヴァトラスが剣を持つ。それは決して、マサトの意思ではない。
 ヴァトラスに搭載された最強のシステム――――アルトシステムによる動作だ。
「ヴァトラス、僕は君を信じる。だから……だからハヤトを守る力を貸して……!」
 ヴァトラスが瞳を輝かせてマサトに応える。剣を構えると、瞬時に《破邪》へ向かっていく。
 その動きに《破邪》が応じる。互いの剣がぶつかり、激しい音が響き渡る。
 単調な動きのヴァトラスの剣を、《破邪》は軽く流していた。
『霊戦機にしては動きが変すぎる。本当に《霊王》か?』
「違う。僕はハヤトを守る為にここにいる」
 少しずつ、ヴァトラスに力が宿っていた。



 アランが焦りつつも霊力機の整備を終わらせる。特に、コトネが乗る霊力機には手を入れた。
 なんでも、「出力が甘い!」とかで蹴られたらしい。
「くぅぅぅ……俺は昔の霊力機なんて嫌いだぁぁぁ!」
『馬鹿な事言ってないで、早くブリッジ行きな!』
 霊力機に乗っているコトネに怒鳴られる。アランは肩を落とした。
「んで、霊力機の調子は?」
『今度は良いようだね。よし、シュウハ、あたしらも行くよ!』
『分かりました。マサトでは苦戦するかもしれませんから』
 完璧と言うほどまで整備が済まされている霊力機二機。こればかりはアランも辛い。
 しかし、この戦いが終わるとまた同じ事をやらされるだろうと考えると、なお辛い。
 コトネとシュウハが出撃し、アランは渋々足を運んだ。ブリッジへ。
「……とりあえず、ロフに任せよ」



 マサトはやはり苦戦していた。《破邪》の攻撃はヴァトラスを苦しめる。
 差は圧倒的だ。剣など握った事のないマサトでは、ヴァトラスの力を制御できない。
 いや、霊力のないマサトにしては上出来である。
「ヴァトラス……!」
『他愛もないか……その程度で怨霊機を倒せると思っているのか?』
「…………」
 何も言えない。マサトはただ相手を睨みつける。
 その獣の瞳は、ハヤトにも負けないほどの瞳をしている。
(この戦い……誓いの時……訪れる……)
「……誓いの時……?」
 突然のヴァトラスの囁き。マサトは首を傾げる。
 その時、光が目の前に現れた。ハヤトが戦っていた時に自分も見ていた光が。
「……誓いの時……これが、ヴァトラスの友情の証……?」
 ヴァトラスはマサトに優しく唸る。



 魔術師を思わせる怨霊機はイシュザルトに近づく。
『さぁ、その強大なる力を今こそ手中に――――』
「そうはいきません。破衝撃!」
 上空から襲ってくる一閃のかまいたち。怨霊機はすぐに避ける。
 シュウハの乗る霊力機ブレーダーが二刀の剣を構えている。
「あなたの相手は私です。イシュザルトには一歩も近づけません」
『おやおや、霊力機で怨霊機と戦う気ですか?』
「ええ。いくら《霊王》の端くれとは言え、甘く見ない方が良いですよ」
「確かにね。さて、覚悟しな。あんたなんざハヤトが戦うまでもないからね!」
 コトネの乗る霊力機アスティアが拳を構える。怨霊機の操者は何が可笑しいのか、小刻みに笑っている。
『ならば、見せてあげましょう。《幽鬼》の怨霊機の力を』
 怨霊機が手を掲げ、怪しき光を放つ。シュウハとコトネは何かを察知して互いに距離を取った。
 しかし、何も起きない。子供騙しかとコトネが拳を振るう。
「こっちから行くよ! くらいな!」
『……さぁ、ショーの始まりです』
 アスティアの右拳が怨霊機を捉える。しかし、それは怨霊機を標的としなかった。
 シュウハの乗るブレーダーを襲うアスティア。寸前のところでシュウハが拳を受け止める。
 コトネは舌打ちした。操作ができなくなっている。
「まさか……!?」
『その通り。彼女を操っているのです』
《幽鬼》の怨霊機の力。それは、相手を操る力だと言う事。
 シュウハは剣を構え直し、コトネに一言。
「……姉さん、加減はします」
「ああ。あたしに気にせずやりな」
 コトネは何も躊躇わずに答える。その方が、事が早く進むからだ。
 それに、コトネは《幽鬼》の怨霊機操者に対して怒りを抱いている。
 通信機からポキポキと指の鳴る音が聞こえた。
「あとで後悔するんだね。あたしを操るなんざ、百年早いって事を」
『そう言っていられるのも今のうちですよ。くくく……』
 不気味に笑う怨霊機操者。それに対し、コトネの怒りは頂点に達しようとしていた。



《破邪》は目の前に現れた光を見て素直に喜べた。
 根拠はなくとも感じられる強い力。それがどれだけのものかは分からない。
 光が消え、そこから現れたのはヴァトラスと同じ霊戦機。
 そして、その強さは接近戦においては最強でもある機体。腰に収められた二本の剣が印象的だ。
 霊戦機ヴィクダート。《武神》の称号を持つ《霊王》を守護する者。
「……!? ここは……!?」
 ヴィクダートが首を動かし、辺りを見渡す。操者の方は目の前の敵を見て思った。
「……怨霊機……? だったら、ここはネセリパーラか……?」
 その言葉に、ヴィクダートが二本の剣を手にする。
 ヴァトラスが目の前に現れた霊戦機に語りかける。マサトはそれを耳にする。
(友よ……《武神》よ、戦えるか……?)
(……私を誰だと思っている? お前を守る剣だぞ)
《霊王》と《武神》の会話。マサトは少しだけ笑った。
「ヴァトラスの友達か……僕はマサト。君の操者は誰だい?」
「……マサト? ハヤトはどうした?」
「その声は……うん、ハヤトから君の事も聞かされている。ロバートさんだよね?」
 マサトの言葉に、ロバートはやや首を傾げたが、静かに頷く。
 どこかハヤトと似ているそう思う。
「……そうだ。しかし、『さん』付けはやめてくれ。ロバートで良い」
「うん。分かったよ、ロバート」
「とりあえず、目の前の怨霊機を倒す」
「じゃあ、僕はもう一体の方を。ヴァトラス、良いかな?」
 その言葉にヴァトラスは唸る。どうやら、ヴァトラスはマサトに従うようだ。
 ヴァトラスとヴィクダートが軽く言葉を交わす。「任せた」と。
 ロバートは目の前の怨霊機を睨みつけた。《破邪》が剣を突きつける。
『《武神》の霊戦機か。剣の腕前は?』
「不明だ。しかし、俺と《武神》はそう簡単に負ける事はない」
『ならば、全力で戦わせてもらう』
「望むところだ!」
 二体の剣が激しくぶつかる。



 二体の怨霊機が戦闘を始めた頃、彼はイシュザルトの真上に存在していた。
 分厚い鎧に覆われた怨霊機。その巨大な棍棒を持つ姿は、まさに鬼のようだ。
『あれがイシュザルト……殺してやる……壊してやる……!』
 巨大な棍棒に光が集う。不気味な闇の光。
『くらえ、ダァァァク・エクスプロォォォドォォォオオオオオオッ!』
 棍棒から振り落とされる巨大な光の球。イシュザルトへ急降下していく。
 この《深淵》怨霊機グリムファレスのダーク・エクスプロードの破壊力は《霊王》をも勝る。
 そう思っていた操者だったが、目を見開かされた。一体の霊戦機がダーク・エクスプロードを阻止する。
 アルトシステムが起動しているヴァトラスには分かっていた。怨霊機が三機襲来していた事に。
 こればかりはマサトも驚いている。あれほどの威力がありそうな攻撃を受け止めたヴァトラスを見て。
「……どうなっているの? 一体、どうなって……?」
(……バニシング・バーン……)
「え……?」
 ヴァトラスがその答えを頭に伝える。
『あれを止めただとぉ……!? 貴様……俺の邪魔を……俺の邪魔をぉぉぉ!』
 グリムファレスが棍棒を振り落とす。ヴァトラスは霊剣ランサーヴァイスで応戦しようとした。
 その時、グリムファレスの棍棒が縦から二つに分離する。
「分離……!?」
『ぶっ潰れろぉぉぉ!』
 剣が左の棍棒に受け止められ、右の棍棒がヴァトラスを襲う。
 ヴァトラスは寸前のところで避けたが、左肩に強烈な一撃を受けた。痛みがマサトにも伝わる。
「うぅぅぅっ……!?」
 棍棒による破壊力は一撃でマサトを苦しめる事ができた。ヴァトラスが悲痛の唸りを上げる。
 立て続けにもう一撃、グリムファレスの棍棒がヴァトラスの右肩を砕く。
「あぁぁぁっ……!?」
『ヒャハハハハハ! そうだ……そうやって苦しめぇぇぇ!』
 分離した棍棒でヴァトラスを殴りつける。ヴァトラスはすぐに二枚の翼を閉じて防御に入る。
 しかし、そのダメージが大きく、反撃は不可能に近かった。
「……負け……負けられ……ない……!」
 マサトは手元の青い球体を力強く握る。



 イシュザルトのブリッジ。アリサはそこからヴァトラスの姿を見ていた。
 怨霊機の攻撃に苦しむヴァトラス。アリサは小さな悲鳴を上げる。
「……ハヤトさん……!」
 手を合わせて祈る。今目の前で起きている戦いを全て終わらせて欲しいと願う。
 ハヤトに。想いを通わせた大切な人にそう祈る。
「イシュザルト、現在の状況は?」
『怨霊機三体を確認。しかし、データ不明』
 人工知能イシュザルトの言葉に、ロフは悩む。
「いくら霊戦機とは言え、ここまで苦戦させられているとは……」
 新たに誕生した怨霊機の強さは、今までの聖戦で勝ち続けていた霊戦機を凌いでいる。
 差は圧倒的だ。このままでは負ける。
「兄貴だったら、多分勝てるんだろうなぁ……王なんだし……」
「……いや、怨霊機3体が相手だと話は別だ。霊兵機とは違うぞ」
「分かってるって。けど、ここで負けるわけにはいかねぇだろ?」
 アランの言葉にロフは苦笑する。
「当然だ。そうでなければ、艦長に面目が立たん」
「よし、だったら主砲いくぜ! イシュザルト、無理しちまえ!」
「それは却下だ!」



 シュウハはコトネの乗るアスティアに苦戦はしていないが、考えていた。
 なぜ、《幽鬼》の怨霊機に乗る操者はコトネを操れて自分を操る事ができないのか。
「シュウハ、早く何とかしな。もう我慢なんざ通用しないよ」
「分かっています。とりあえず、姉さんの動きを止めて、一気に攻めます」
 ブレーダーの二本の刀が青色に光り出す。そして、一閃。
「――――破刃光牙!」
 青い刃の閃光が放たれる。怨霊機へ向かって。
《幽鬼》の怨霊機はそれを避けたが、隙を狙われた。ブレーダーが急接近し、構えている。
『――――!?』
「――――終わりです。龍神光闇斬!」
 一気に放たれる赤龍と青龍の波動。怨霊機は直撃を受けた。
 瞬間、コトネの乗るアスティアが怨霊機の腹部を捉えた。凄まじい回転を生み出した右腕で殴る。
 その一撃はまさに、コトネの怒りが込められたものだ。
『な……!?』
「気になっていた事が分かりましたよ。なぜ姉さんを操れて、私を操る事ができないのか。
 それは、貴方の霊力が私よりも低く、姉さんより高いと言う事ですね?」
「なるほど。だったら、もう容赦はなしのようだね」
 コトネ、本領発揮。こうなったら自分でも手が付けられないとシュウハは苦笑する。
 怨霊機の操者が苦痛の表情を浮かべている。
『くくく……やりますね……。流石は端くれと?』
「さぁ、それはどうでしょうか?」
 シュウハもまた、不敵に笑みを溢す。



 ロバートと《破邪》のぶつかり合いは激しかった。
 二本の剣と一本の剣が響きの良い音を生み出し、そして互いに距離を取る。
「強い……」
『なかなかの腕だ。まだ荒削りか』
 それでも《破邪》の本心は嬉しいのだ。全力で戦える相手が見つかって。
《武神》の強さは知っていたが、彼はその域を超えている。心の底から喜べる。
『《武神》を超えてみろ。そして、私と全力で戦え!』
「…………!」
 ロバートは額に汗を浮かべる。
 この怨霊機の操者は強い。《覇王》とはまた違った威圧感も感じる。
 だからこそ、「負けたくない」と思ってしまうのだろうか。



 ヴァトラスはグリムファレスの攻撃を耐え続け、ついにその鼓動は動き出した。
 唸りを上げ、純粋な青い光を全身から発する。
(我はここで負けん……我はこの星を救いたい……!)
「ヴァトラス……?」
(我の心を聞けし者よ……我を信じ、己を信じよ……!)
「ヴァトラスを信じ、自分を信じる……!」
 ヴァトラスの言葉がとても心強い。ハヤトと同じで温かい言葉だ。
 負けられない。ハヤトの為にも、この星の為にも、僕は戦わなければいけない。
「……力を貸して、ヴァトラス!」
 マサトの言葉にヴァトラスが応える。額が輝き出した。
 古代の太陽に翼が生えた《神王》の称号が、マサトを認めた。
 グリムファレスの操者が棍棒を一つにする。
『面白ぇ! さらに痛めつけてやらぁぁぁ!』
「――――ヴァトラス!」
 ヴァトラスが右手を敵に向け、閃光を放つ。青く綺麗な閃光。
 マサトには分かっている。ヴァトラスの力が。
 グリムファレスは閃光に飲み込まれたが、それでもヴァトラスに突撃してくる。
 ヴァトラスが両手を胸の前に出し、光を生み出す。
「……これが、ヴァトラスの力だ! いけ、聖霊天掌破!」
 胸から放たれる青い巨大な波動。それは、ハヤトが以前使えるようになった霊王閃光破を超える。
 ヴァトラスの本来の力が生み出した波動は、グリムファレスを包み込んだ。
 巨大な爆発がグリムファレスを襲う。
『ぐおぉぉぉおおおおおお!?』
「もう一度行くよ、ヴァトラス!」
『……そうはさせるかぁ! 俺はここで負けるかぁぁぁ!』
 その時、グリムファレスが消えようとする。操者は激昂した。
『待て! 俺はまだ戦える! 戦えるぞぉぉぉ!』
 空に向かって吼える。しかし、それは届かず、グリムファレスの姿は消えた。
 マサトは大きく息を整える。敵の強さはかなりだった。
 しかし、ここまで戦えたのは自分でも不思議と充実感がある。
「……勝てた……のかな……?」
 ヴァトラスは少しだけ微笑むかのように唸りを上げた。



 グリムファレスの撤退を目撃し、《幽鬼》の怨霊機操者は少し救われた。
 怨霊機の力が弱まっている。まさか、ここまで攻撃を受けるとは思っていなかったのだ。
『《深淵》が退きましたか……どうやら、潮時ですね』
「待ちな。あと一発殴らせろ」
 怒りが頂点にあるコトネが指をポキポキと鳴らす。
『今回は単なる小手調べです。霊戦機二機で私達には勝てませんので』
「何……?」
『《霊王》など、私達には勝てないのです。特に私にはね。はははは……』
 乾いた笑いと共に去っていく怨霊機。コトネは舌打ちする。
 その頃、シュウハはマサトの戦いを見ていて思った。
「……マサトは天才ですね。ヴァトラスの操作を掴んだようです」
「そうかい? だったら、ハヤトはどうなる?」
「分かりません。しかし、ハヤトは強くなります」



《破邪》もまた、二体の撤退を確認する。
『……《深淵》と《幽鬼》は退いたか。では、私も退くか』
「待て。お前に聞きたい事がある」
 ロバートは睨みつけたまま質問する。
「……なぜ、なぜ全力で戦いと思うんだ? お前らの場合、弱い今の方が、都合が良いはずだぞ」
『……簡単な質問だな。答えは、私は全身全霊で敵を倒したい。それだけだ』
 瞬間、影のように消えていく。ロバートは深く息を吐いた。
 あのまま戦い続けていたら確実に殺されている。だからこそ、奴の行動が気になった。
 今度戦う時、奴は本気で戦ってくるのだろうかと疑問に思う。
「……俺も、まだ弱いな」
 いくら霊戦機の声が聞けたとしても、それで奴と互角かそれ以上に戦えると言う根拠はない。
 強くなりたいと思う。《武神》の力を全て引き出せるほど強く。

 この日、イシュザルトでは霊戦機についてジャフェイルから提案が下される。
《武神》の目覚めから、他の霊戦機も目覚めているだろうと言う考えは、誰でも頷けるほどだった。
 しかし、アリサはこの時、何か嫌な感覚に襲われた事を、誰も知る事はない――――



 序章 ハヤトを守る者

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