ダークシュテイムの頭部を握り潰し、ハヤトはさらに霊力を解放した。
 謎の機体が大きく翼を広げ、羽ばたく。
『させるか! 鬼龍咆哮衝ぉぉぉっ!』
 スティンガルトが仕掛ける。ハヤトが舌打ちする。
「邪魔をするなっ! テメェらに構っている場合じゃねぇんだよ!」
『そう言えば、簡単に通すとでも思ったか? 甘く見るなっ!』
 スティンガルトの《鬼龍》の称号が輝く。
『こいつで今度こそ仕留めてやる! 鬼龍煉獄牙ッ!』
 右腕の龍の牙が赤熱に染まり、謎の機体の腕に噛みつく。ハヤトは火傷するかのような熱さと激痛に襲われた。
「ぐっ!?」
『これで、どこにも行けなくなったな。死ぬまで楽しんでもらうぞ、《霊王》!』
「ウォォォタァァァバティカルッ!」
 スティンガルトの後方から、アルスの乗る霊力機ウォーティスが攻撃する。
 しかし、ダメージなど無かった。霊力機の攻撃は怨霊機に通用していない。
「チッ……!」
『ザコは引っ込んでいろ。《霊王》を殺した後に、まとめて殺してやる』
「玄武ッ!」
 瞬間、謎の機体が剣を手にし、スティンガルトの右腕を両断する。スティンガルトは悲鳴を上げた。
 動けるようになったハヤトが、剣に霊力を集中する。
「光破麒麟閃ッ!」
 スティンガルトの胸部に突き刺す。剣に集中された霊力が一気に放出され、爆発を起こした。
『な……に……!?』
「うぉぉぉおおおおおおっ!」
 続けて、剣がスティンガルトを斬る。《鬼龍》は目を見開いた。
『この……お……れ……が……』
 スティンガルトの瞳の輝きが消え、全身が光の粒子となって消滅していく。謎の機体が勝利を収めた。
 肩で呼吸を整えつつ、ハヤトがアルスから目を背けつつ言う。
「……助かった」
「……!」
「……あいつの援護をしろ。ここは任せる」
 そう言って、ハヤトが飛び立つ。ハヤトの言葉に、アルスは自分の耳を疑っていた。
 感謝の言葉と任せるの一言。絶対に聞く事は無いだろうと思われる言葉が、ハヤトから発せられた。
 アルスが口元を歪ませる。
「……良いだろう。テメェは《覇王》との決着をつけろ」





宿命の聖戦
〜Legend of Desire〜 if



第一部 はじまりを告げた聖戦

第九章 求めた力


 イシュザルトのブリッジ。グラナとジャフェイルは二人して驚いていた。
 一つは、新たなに誕生したと言う怨霊機ヴァイザウレスの存在。そして、ハヤトの変化について。
「……新たなる怨霊機。イシュザルトのデータに該当しなかった理由は、そう言う事みたいね」
「ああ。まさか、怨霊機が新たに誕生するとは……」
「そして、《霊王》の変化……アリサに感謝しないといけないわね」
「いや、それだけではないだろう」
 ジャフェイルが首を横に振りながら言う。
「おそらく、彼は元々優しい性格なのだろう。獣蔵の言うように、彼の周りの人間がその心を閉ざしてしまったんだ」
 無限とも言える、高過ぎる霊力。忌み子として、周囲から避けられ続けていた。
 それがなければ、ハヤトは心を閉ざす事も無かっただろうとジャフェイルは話す。
「まぁ、アリサ君やサエコ君のお陰で、少しずつ本来の彼になろうとしているのかもしれない」
「……そうね。これで……」
 これで、彼が少しでも心を開く事が出来れば、《霊王》としての力を引き出す事もできるはず。



 怨霊機ヴァイザウレスを追い掛けるハヤト。ついに、その後ろ姿を捉えた。
 霊力を集中して、謎の機体の拳に力を込める。腕を伸ばし、ヴァイザウレスの翼を掴んだ。
「おおおおおおっ!」
 背中から胸部へと拳を貫く。ヴァイザウレスが悲鳴を上げた。
 霊力でサエコを感じ、そのままサエコと共に拳を引き抜く。
『――――』
 ヴァイザウレスが襲い掛かる。ハヤトの額に《霊王》の称号が浮かび上がり、謎の機体が強い唸りを上げる。
「はぁぁぁっ!」
 サエコを持っていない側の拳に霊力を集中し、それを一気に解き放つ。ヴァイザウレスを巨大な波動が呑み込んだ。
 謎の機体の胸部が開き、そこからサエコを入れる。
「ハヤトっ……!」
「無事だな?」
「ごめん……私……」
「話は後だ。今は――――」
 刹那、謎の機体が吹き飛ぶ。ハヤトは目の前の敵を睨みつけた。
 全身に重火器を搭載した怨霊機ディリムレスター、深紅のマントを身に纏う怨霊機キングガスタム。
 二体の怨霊機が、吹き飛ばされた謎の機体を静かに見下す。
『霊力の扱いに、さらに磨きをかけたか』
『まさか、ヴァイザウレスを一撃で倒すとは。一度戦った時より、確実に強くなっていると言う事でしょうか』
『そうでなくては困る。それでこそ、《霊王》と《覇王》の二つを持つ”化け物”だ』
「……くっ……」
 キングガスタムが謎の機体の頭部を掴み、胸部へ手を伸ばす。そして、胸部を引き剥がした。
 悲鳴を上げる謎の機体。そして、謎の機体を伝って、激痛が走るハヤト。サエコが声を上げる。
「ハヤト!」
「ぐっ……ぁぁぁぁぁぁっ……」
「ハヤト! ハヤ――――」
『ヴァイザウレスの操者は返してもらうぞ』
 キングガスタムの手がサエコを掴み、奪う。ハヤトは歯を噛み締めた。
 激痛を抑え、霊力を集中する。謎の機体が立ち上がり、剣を構えた。
「はぁ……はぁ……!」
『ほう、まだ立てるか』
「サエコを……サエコを返せぇぇぇぇぇぇっ!」
 謎の機体が突撃する。キングガスタムが剣を振るい、謎の機体を吹き飛ばす。
 激痛が走る。ハヤトは歯を噛み締めた。
 強い。今のままでは、サエコを助ける所か凌駕すら倒せない。
「くそ……」
 力が欲しい。そう、ハヤトは思った。凌駕を倒す為の力を、サエコを助ける為の力を。

 力が欲しい。ただ、それだけを思う。

 力が欲しい。力さえあれば、他には何も要らない。

 力が欲しい。

「ちか……ら……力ッ……!」

 ――――力を欲するか?

 その時、声が聞こえた。



 イシュザルト前方。霊戦機ヴィクダートが剣を構えた。
 剣に雷が走り、《氷河》に突っ込む。
「疾風雷鳴斬ッ!」
 振り下ろす。《氷河》は全身の氷を分離させて盾を形成し、その一撃を防いだ。
『無駄です』
 怨霊機ファイアンダーの全身から吹雪が発生する。ロバートはすぐに反応した。
 剣に炎を走らせ、一気に振り下ろし、ファイアンダーの吹雪を無力化する。
 その姿を見た《氷河》は、少しだけ笑みを漏らした。
『どうやら、少しは強くなったようですね』
 ファイアンダーが分離させていた氷を戻す。
『これは防げますか?』
 ファイアンダーから無数のビームが放たれる。ロバートは霊力を集中させた。
 力が漲り、ヴィクダートの胸部に《武神》の称号が浮かび上がる。
 上手く行った。そう思ったロバートが、さらに霊力を集中する。
「武神双撃斬ッ!」
 剣に雷と炎が走り、振りかざす。迫り来る無数のビームを全て相殺した。
《氷河》が目を見開く。ロバートが霊戦機の力を自分の意思で引き出せている為に。
『《武神》の力をそこまで……シヴァ・ウィザリウス』
 再び、怨霊機ファイアンダーの全身から吹雪が発生する。ロバートは剣に炎を走らせ、無力化した。
 しかし、それは罠だった。《氷河》が笑みを浮かべる。
『あなたの負けです。氷河無限回廊』
「――――!」
 放たれた《氷河》の一撃。それが、ロバートの狙いだった。
《氷河》の攻撃を受けるヴィクダートの姿が消える。
『分身……! まさか……!?』
 霊力を集中するロバート。ヴィクダートが唸りを上げ、その剣を振り上げる。眩く、青い光が刀身に走った。
「武神双破斬ッ!」
 振り下ろす。光の斬撃がファイアンダーを捉え、両断した。
『そんな……短時間のうちにここまで……!?』
「……アドバイス通りだな」
 ハヤトの言葉を思い出す。爆発するファイアンダーを前に、ヴィクダートが勝利の唸りを上げた。



 ――――力を求めるか?

 頭の中に聞こえる言葉。ハヤトは頷いた。
 力が欲しい。ただ、それだけ。倒す為に。助ける為に。

 ――――良いだろう。汝の求める力、我が与えてやろう。

 その言葉と同時に、ハヤトの中でドクン、と胸が大きく鳴った。
 瞬間、サエコを――――キングガスタムが彼女を掴んでいる腕が切断される。凌駕は目を見開いた。
 ハヤトが乗る謎の機体が、気づけば目の前にいた。
『何……!?』
「…………」
 切断された腕を取り、ゆっくりと大地に降ろす。謎の機体がキングガスタムを睨む。
 その瞳は、両方とも血塗られた深紅となっていた。
「――――アアアァァァァァァァァァッ!」
 咆哮が上がる。謎の機体の全身が漆黒に染まり、翼が深紅色へと変貌。驚きつつ、その様子を見た凌駕の口元が笑う。
『闇を手に入れたか。そして、その闇の力で”化け物”となったか』
 これは予想外の出来事だったが、狙っていた展開だ。
 ハヤトを”化け物”として覚醒させる。それは、ハヤトが大切だと思っている人間を殺す事で実現できる。
 しかし、ハヤトは闇の力を手にした事で、”化け物”へと覚醒した。
 方法は変わってしまったが、これでハヤトは全てを滅ぼす事が出来る”化け物”になった。
「アァァァァァァァァァッ!」
 謎の機体が迫る。キングガスタムは剣で受け止め――――られなかった。
 謎の機体が向けた腕がキングガスタムの右腕を掴み、引き千切る。キングガスタムが悲鳴を上げた。
『ぐっ……!?』
「アァァァァァァァァァッ!」
 さらに続く、謎の機体による攻撃。キングガスタムの四肢全てが失われる。
 その様子を見た《黒炎》の怨霊機ディリムレスターが動いた。謎の機体へ攻撃を仕掛ける。
 だが、それは無謀だった。謎の機体が一瞬のうちに頭部を掴み、もう一方の腕で胸部を貫く。
 破壊された怨霊機。《覇王》ですら勝てない脅威の力。
「アァァァァァァァァァッ!」
 ただ、ハヤトの咆哮だけが空へと昇る。



 謎の機体の変貌を見たグラナとジャフェイルは、お互いの顔を見た。
 まさかと思える事態。グラナが声を上げる。
「イシュザルト、《霊王》に何が起きている!?」
『……解析完了。霊力属性ハ闇、《覇王》ノ解放ヲ確認』
「《覇王》……!?」
《霊王》が《覇王》の力を解放した。それはつまり、闇の力を手に入れてしまった事と同じ。
「まさか、サエコを助ける為に闇を選んだと言う事……!?」
「力を求めた故の選択か……こうなっては仕方ないようだな」
 愕然とするグラナの隣で、ジャフェイルが淡々と指示を出す。
「イシュザルト、総員に主砲形態移行を告げろ」
『警告。出力不安定ニヨリ、主砲形態ヘノ移行ハ危険ト判断』
「構わない。主砲は出力が小さくても撃てれば良い」
『了解』
「ジャフェイル、何を……!?」
 グラナが訊く。ジャフェイルは頷いた。
「《覇王》だったキングガスタムが倒され、彼が《覇王》へと目覚めた今、止められるのはイシュザルトだけだ」
 そう、怨霊機が全滅した今、ハヤトは全てを滅ぼそうとする存在へと変貌してしまった。
 ハヤトを止める事は、《武神》の霊戦機でも不可能。止められるとすれば、イシュザルトの主砲のみ。
「正直、このような事態になるとは思わなかった……だが、やるしかない」
 ジャフェイルの苦渋の顔を見て、グラナがゆっくりと頷く。
「……分かった。彼を……《霊王》を楽にしてあげましょう。私達の手で」



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