翌朝の午前五時、いつものように起きる。ハヤトは溜め息をついた。
 アリサとの再会は嬉しかったが、まさか許婚と言う関係にあったとは思わなかった。
「じじいの奴、覚えておけ……!」
 まだ、根に持つ。いや、絶対にあの祖父に一撃を与えてやる。そう、ハヤトは思った。



 午前七時。いつもの修行を終えたハヤトは、制服に着替えてリビングへ向かった。
「……!」
 リビングから香しい匂いがする。扉を開けると、アリサがリビングにいた。
「おはようございます、ハヤトさん」
「……ああ。おはよう」
 ハヤトに気づいたアリサが挨拶をする。ハヤトも返した。
 テーブルに置かれた料理を見る。香しい匂いはこれだった。
「これは……」
「朝食です。地球の料理は知りませんが、材料はネセリパーラと似ていましたので……」
「…………」
「お口に合わなければ、残して頂いても構いませんので……」
 不安な表情を浮かべるアリサ。ハヤトは目の前の料理に箸を出した。
 口に入れ、ゆっくりと味を確認しながら食べる。そして、次の料理を食べ始める。
 黙って見ているアリサを見て、軽く頷いた。
「……美味い」
「本当ですか!?」
「ああ……ネセリパーラでも食べたが、美味いと思う」
 その言葉に、アリサが笑顔になる。
「良かった……」
「普段から作っていたのか?」
「はい。私は、こう言う事しかできませんから……ハヤトさんは、いつも食事はどうしていたんですか?」
「いつもは神崎家で雇った料理人に作らせている。たまに、コト姉が作ってくれる」
「そうですか……じゃあ、これからは私が毎日作ります」
「……ああ。それより……」
 ハヤトがアリサを見る。ハヤトが通う学校の制服だった。
「……その制服、いつの間に……」
「これは、昨日シュウハさんが……」
「昨日、帰る前に渡していたんですよ。今日から一緒の学校です」
 そう言いながら、ハヤトの後ろから料理をつまみ食いするシュウハの姿があった。ハヤトが目を見開く。
「いつの間に……!?」
「さっきからいましたよ。それにしても、なかなかのお味ですね。これは姉さんよりも上かと」
「あ、ありがとうございます……」
「……何しに来た? そもそも、手続きが早くないか?」
 ハヤトの言葉に、シュウハが軽く頷く。
「いやはや、神崎家ならあの程度一日もあれば十分です」
「…………」
「朝からここへ来たのは、お前に渡す物があるからです」
「渡す物?」
 シュウハがポケットから何かを取り出し、ハヤトに渡す。
 一枚のメモと刀の柄だった。ハヤトが首を傾げる。
「これは?」
「柄の方は、祖父より『非常事態の時に使え』との事です。メモは、アリサさんの服を買う店の地図です」
「柄だけで戦えって言うのか、あのじじい?」
「祖父が言うには、それに霊力を込めれば、刀が出てくるそうです。殺傷能力は無いそうですが」
「ネセリパーラの模擬刀ですね……でも、どうして地球に……?」
 柄を見たアリサが首を傾げる。シュウハが答えた。
「昔持っていた物だそうです。気づけば持って帰って来ていたとか」
「……なるほど。で、このメモの店に行く必要は?」
「決まっているでしょう、こっちで生活する為の服を二人で直接選んでください。新婚生活の第一歩です
 その言葉に、ハヤトが思わず箸を落とす。アリサもまた、顔を赤くして俯いていた。
「まだ結婚していない!」
「もうしていると言っても良いでしょう。では、頼みましたよ」
 そう言って、早々と撤退するシュウハだった。





宿命の聖戦
〜Legend of Desire〜



第二部 新たなる敵

第一章 変化の表れ


 午前八時。アリサと二人で学校に行き、アリサを職員室で教師に後を任せる。
 そして教室の席に座ってから、軽く溜め息をついた。
「……朝から疲れる」
 色々と根回しが早いだけでなく、完全に弄ばれている。そう、ハヤトは思った。
 朝の段階でこれだ。おそらく、夕方にはコトネが来て、同じ事が起こるに違いない。
 再度溜め息をつくハヤトに、後ろから加賀美陽平が声を掛ける。
「溜め息とは珍しいな。何かあったのか?」
「……別に。加賀美の方こそ、珍しいな。朝から俺に声を掛けるなんて」
 言葉を返す。すると、陽平が申し訳なさそうに一冊のノートをハヤトの前に出す。
「……すまないが、数学を教えて欲しい。宿題が全然終わっていない」
「宿題だと? そんなもの……」
 あったかどうか、頭の中を整理する。そして、ハヤトは思い出した。
 昨日は色々な事があり過ぎて、完全に忘れていた。
 ノートを取り出し、目の前の席に陽平を座らせる。
「悪いが、簡単に説明するぞ。あまり時間を掛けたくないからな」
「ああ。助かる」
 ハヤトが宿題の問題を見ながら、陽平に教えていく。陽平は目を疑った。
 いつもと変わらない説明。そして、手は確実にペンを走らせている。
 これが、天才と言うべき人間なのか、それともハヤト個人が凄いのか。
「…………」
 しかし、何も言わない。陽平は黙って宿題を進めた。



 午前八時半。始業のチャイムが鳴り、教師が教室へと入って来る。
 そして、その後ろをアリサがついてきた。
 あのシュウハの事だから、ある程度予想はしていた。そう思うハヤトが軽く溜め息をつく。
「えー……皆、おはよう。見ての通り早速だが、転校生を紹介する」
 教室中がざわめき始める。特に、男子生徒の反応は大きかった。
 そんな彼らの反応を無視していたハヤトだったが、教師が黒板に書いた名前を見て目を見開いた。
「神崎アリサさんだ。神崎とは親戚だそうだ」
「……そう来たか」
 シュウハが冗談で言っていた新婚生活とは、この事だろう。
 親戚としたのも頷ける。あの男ならやりかねない。
 そして、不自然に空いた隣の席についても同じように。
「席は神崎の隣が空いている。親戚同士だから、気を使う事もないだろう」
「はい。ありがとうございます。か、神崎アリサと申します。よろしくお願いいたします」
 その言葉に、男子生徒のほとんどが声を上げる。隣のクラスにも聞こえるほどに。
 ハヤトの隣の席にアリサが座る。別に良いか、とハヤトは諦めた。



 昼休み。ようやく、静かな時間を迎える事ができる。そう、ハヤトは思った。
 休み時間の度に騒がしくなる教室。アリサの周りに集まろうとする男子生徒とそれを阻止する女子生徒。
 なぜ、彼らは転校生と言うだけで騒ぐのか、それが理解できない。
「…………」
 そんな疑問はさておき、席を立つハヤト。アリサが訊く。
「ハヤトさん、どちらへ……?」
「屋上だ。昼だからな」
「そ、それなら……」
 アリサが鞄から二つ、布に包まれた箱を取り出す。
「実はお弁当を……。シュウハさんから教えてもらっていましたので……」
「…………」
 取り出された弁当箱を一つだけ受け取る。
「……俺は屋上に行くが、アリサは他の奴と食べろ。誘いたがっているみたいだしな」
 そう言って、アリサの後ろへ目を向ける。弁当を持った女子生徒が数人いた。
 アリサが小さく頷く。それを確認したハヤトは、そのまま教室を後にした。
 女子生徒達がアリサに話し掛ける。
「神崎さん、一緒に食べよう? 私は片桐美香」
「私は御堂えんな、よろしく」
「えっと……片桐さんに御堂さんですね。よろしくお願いします」
 アリサの近くの席に、二人が座る。そして、美香が訊いた。
「神崎君とは親戚なんだよね? 従兄妹とかそんな感じ?」
「いえ、ハヤトさんとはお家同士の繋がりで……」
「遠い親戚とか?」
「そう、なるかと思います……」
 流石に、アリサも言えなかった。親戚ではなく、許婚と言う関係については。
 そもそも、ハヤトはその事を明かすとは思えない。
 今度は、えんなが訊いてくる。
「何で転校してきたわけ? 家庭の事情?」
「はい。お婆様がハヤトさんのお爺様と付き合いが長いので、それで」
「ふーん……」
「あの……」
 アリサが二人に訊く。
「……ハヤトさんは、お二人から見てどんな感じですか……?」
「神崎君? 成績、運動、その他全てトップクラスの凄い人、かな?」
 美香の返答に、えんなが呆れる。
「……そう言う事じゃなくて、性格の方でしょ? 物静かで、一人でいる事が多いんじゃない?」
「お一人で、ですか?」
「そう。『俺に関わるな』って言わんばかりの感じで。でも、陽平とはたまに会話するわね」
「陽平、さん?」
「うん、加賀美陽平。色々と問題ばっかり起こす、軍事オタクみたいなの」
「誰が軍事オタクだ。俺はただ、学校の治安の為に動いているだけだ」
 と、一人の男子生徒が話に割り込む。すかさず、えんなが動いた。
 男子生徒の背後へ回り込み、その脳天に木槌による一撃を与える。
「女子の会話に入ってくるんじゃないわよ!」
「だからって、いきなり木槌はダメだよ、えんな」
「えっと……」
 突然の事で、戸惑うアリサ。構わず、美香が説明する。
「彼が、加賀美陽平君。えんなと同じ風紀委員なんだけど、色々とやり過ぎる事があるの」
「はぁ……」
「……えんな、痛いぞ」
「うるさい! 人様の会話に入って来たあんたが悪い!」
「えんなが、俺の事を軍事オタクだと言ったからだろ」
「本当の事でしょうがぁっ!」
 再び、木槌が陽平を襲う。えんなは容赦無かった。
 一撃を受け、床に屈している陽平にアリサが話し掛ける。
「あの……大丈夫ですか?」
「……心配はない。これ位で怪我はしないからな」
「この……本当に頑丈ね、あんたは……!」
 だからこそ、木槌で遠慮なく殴っているのが、御堂えんなと言う女子生徒なのだが。
 軽く周囲を見てから、陽平が訊く。
「神崎は?」
「神崎君なら屋上だよ。どうかしたの?」
「いや、今日はたまたま弁当だからな。一緒に食べる話でもしようかと思っていた」
「屋上に行ってみたら? いつもみたいに」
「そうする」
 そう言って、陽平が教室から出て行く。終始、アリサの頭には「?」が浮かんでいた。
 呆れたように溜め息をつき、えんなが話を進める。
「あれが、たまに神崎に話し掛けてるの。多分、陽平だけじゃない? 神崎と普通に話せるのって」
「そうなんですか……」
 アリサの表情を見て、美香とえんなが首を傾げる。そして、次の一言に目を見開いて驚いた。
「……ハヤトさん、本当は優しい人なのに……」
「……そうなの?」
「はい」
 その言葉が信じられない二人だった。



 放課後。ハヤトは何も喋る事なく、帰り支度を済まして席を立った。アリサが焦る。
「あ、ハヤトさん、もう少し待ってください……すぐ支度致します……!」
「先に行く。校門の所にいるから、慌てなくて良い」
 否、慌てているのはアリサではなく、ハヤトの方だった。
 放課後が近づくにつれて、謎の寒気が襲う。だからこそ、この場を早く去りたいのだ。
 アリサを後に、教室から出る為に一歩を踏み出す――――遅かった。
「あの! 先輩!」
 教室に入ってくる、一人の女子生徒の姿。ハヤトは目を逸らした。
 前日、クッキーを持って来た紺野美咲だ。今回も、何かを持っている。
「今日は、ケーキを焼いたんです! どうぞ!」
 そう言って渡される。嫌な予感しかしなかった。
 ケーキを渡した当の本人は、顔を赤くしてすぐに立ち去る。どうしたものか、とハヤトは悩んだ。
 これが前日と同じなら、食べたいとは思えない。
「…………」
「ハヤトさん?」
 アリサが顔を覗かせてくる。ハヤトは意を決して、ケーキを一口食べた。
「…………」
 予想通りだった。甘味はない。それどころか、煎餅のような味がする。
「……シュウ兄にでも渡すか……」
「……?」
「気にするな。それより、朝言われた場所に行くぞ」
「は、はい」
 ハヤトが歩き始める。それを慌てて、アリサも追いかけた。
 二人の様子を見ていた美香とえんなが首を傾げる。
「もう帰っちゃうのかな? せっかく、神崎さんの歓迎パーティーやろうって話していたのに……」
「まだ来たばかりで、色々あるんじゃない? 神崎のとこって、凄いところみたいだし」
「そう言えば、何回か車見た事があったね。それも、凄く高そうな車」
「そうそう。あんな車、ドラマとかでしか見た事なかったしね」
「……どこ行くか、気になるね」
「……そうね」
「そうだな」
「って、いきなり現れるなぁっ!」
 二人の会話に入った陽平が、えんなの一撃を受けた。



 シュウハに渡されたメモの店は、ハヤトにとっては行きたくない場所だった。
 神崎家でも当主の次に偉いとされる、五大老と呼ばれる一人が経営する服飾店。
 店内に入ると、店長と思われる男性が近づいてくる。
「いらっしゃいませ。本日はどのような――――」
 ハヤトを見て、言葉が詰まる。
「あ……し、失礼致しました。あの、本日は……えっと……」
「客として来た程度で動揺するな。幾つか見せてもらう」
「か、畏まりました。では、すぐに飲み物でも……」
「必要無い。何かあったら声を掛ける」
 そう言って、店の中を歩いて行く。アリサはハヤトに続いた。
 店内にある様々な服を見て、感嘆と声を上げる。
「凄いですね……こんなにたくさん……」
「普通だろう。ここは、多い方になるだろうがな」
「そうですか……ネセリパーラでは、ここまで多くはありませんので……」
「気に入った服を選べ。俺は少し外に出る」
「え? あの……」
「心配するな。店から離れる事はしない」



 同時刻。二人の後をつけていた美香、えんな、陽平の三人は驚いていた。
 二人が入った店は、全国規模で有名なブランド店だった。
「凄いね、あんなお店に入れるなんて……」
「やっぱりお金持ちなんじゃない? でなきゃ、高校生なんかが入れるわけないわよ」
「そんなに高いのか、あの店は?」
 陽平の一言に、二人が「は?」と反応する。
「陽平、あんた本当に服とか興味無さ過ぎでしょ。あそこ、シャツだけでも万はするのよ、万!」
「そうだよ。結構有名だし、何度もテレビで紹介されているよ?」
「そうなのか……?」
「そうなのかって、あんたね……」
「それで、なぜお前達はここにいる?」
 と、後ろから声を掛けられる。ハヤトがそこにいた。美香とえんなが驚く。
「か、神崎君、いつの間に!?」
「と言うか、どうやって店から出たのよ!?」
「あそこは、知り合いの店だからな」
「知り合いのお店なの……!?」
「どうりで、普通に中に入っていけるわけね……」
「それで、ここで何をしている?」
 三人にハヤトが訊く。美香とえんなは、不味いと顔を見合わせた。
 驚く事もなかった陽平が普通に話す。
「二人がどこに行くのか気になった。それだけだ」
「って、陽平!?」
「加賀美君、流石に正直過ぎ……」
「そうか」
 瞬間、三人が頭を下げる。陽平は、えんなに手で頭を押さえられながら。
「ご、ごめんなさい!」
「ごめん! 私達、これで帰るから!」
「別に良い。それよりも頼みがある」
 ハヤトの一言に、美香とえんなが「え?」と顔を上げる。言い難そうなハヤトの姿があった。
「……アリサと一緒に服を見て欲しい。俺は……あまり詳しくない」
 それは、二人にとって意外な頼みだった。



 ハヤトの頼みを聞いて、美香とえんなはアリサと一緒に服を選ぶ事にした。
「これとか良いと思うよ。一度着てみたらどうかな?」
「そうね。これも着てみたら? 似合うと思うし」
「はい。ありがとうございます、片桐さんに御堂さん」
 二人から服を受け取ったアリサが頭を下げる。二人が少しだけ笑いながら言った。
「美香で良いよ」
「私も、えんなで全然良いから」
「え、でも……」
「その代わり、アリサって呼ばせてもらうけど」
「……は、はいっ」
 アリサが笑顔で頷く。その様子を、ハヤトと陽平は遠くから見ていた。
 これで、シュウハに言われていた服はどうにかなる。そう思ったハヤトに陽平が話し掛ける。
「神埼は服を見なくて良いのか?」
「ああ。今持っている服で十分だからな」
「そうか」
「……楽しそうだな」
 ハヤトの言葉に、陽平が首を傾げる。
「何がだ?」
「あの三人……服を選ぶだけなのに、楽しそうだ」
「そうだな」
 会話は続かなかった。ハヤトもハヤトだったが、陽平も陽平だった。
 美香とえんなに促されて試着したアリサが、その姿を見せる。
「ハヤトさん、あの……どうでしょうか?」
「…………」
「……似合い、ませんか……?」
「……いや、似合うとかの感覚が良く分からないだけだ」
「そうですか……」
「けど、悪くは無いと……思う」
 ハヤトが小さく答える。その言葉を聞いたアリサが、笑顔になった。
「じゃあ、これにします!」
「ああ」



 アリサ達の服選びから約一時間後。ようやく、会計となった。
 店員がレジに表示される合計金額にやや驚きつつ、ハヤトに訊く。
「えっと……お会計は現金でしょうか?」
「いや、店長に後は頼むと伝えておけ。本家からと言えば分かるはずだ」
「か、畏まりました……お、お買い上げ、誠にありがとうございます……」
 購入した服については、家まで持って来させれば良い。ハヤトは軽く息をついた。
 これで、シュウハから言われていた事は終わった。そう思うと、どこか疲労感がある。
 会計でのやり取りを見ていたえんなが訊く。
「……支払いはカードじゃなくて、まさかの顔パスって……どんだけ凄いのよ?」
「…………」
「えっと、お洋服も買い終わった事だし、五人でどこか遊び行かない? ね?」
 何も答えないハヤトを見て、美香が言う。それを聞いたアリサがハヤトを見た。
「あの……ハヤトさん?」
「……好きにしろ。アリサが楽しめるなら、俺は別に良い」
「それじゃあ、皆でゲーム・ミュージアムにでも行こう。あそこなら、カラオケとかボーリングもあるし」
「そうね。あそこだったら、軽く二、三時間は遊べるもんね」
「いや、そこに行くのならば、ドウラクの方が良い」
 と、陽平が言う。えんなが訊いた。
「何で?」
「あそこなら、店長に貸しがある。それを使えば、ほとんどが無料になる」
「貸しって何の?」
「サバゲーで勝つ為にガスガンを改造して欲しいと依頼されて、その報酬を貰っていない」
「依頼?」
「そうだ。改造して通常のガスガンの約三倍の威力に――――」
「って、馬鹿じゃないの、あんた!」
 木槌で殴られる。陽平が床に叩きつけられた。それを見ていた美香が苦笑する。
 そして、同じように見ていたハヤトが言う。
「どこに行くかは好きにしろ。金を使うなら、俺が出してやる」
「え!? いや、流石にそれは……」
 断る美香。ハヤトは首を横に振った。
「良い。アリサの服を選んでくれた礼だ。それに……」
「それに?」
「……少しは興味がある。俺も遊んでみたくなった」
 目を逸らしながら、ハヤトが言う。それを聞いた美香達は目を見開いた。
 三人の不思議そうな物を見る表情を見て、ハヤトがそっぽを向く。
「……とっとと行くぞ。どこにあるかは知らないから、案内してくれ」
「……う、うん」
「神崎がいるなら、今日こそダーツの賞品取れるんじゃない?」
「ダーツなら俺だろう。俺がダーツの矢を発射できるように改造したエアガンで――――」
「それは使えないわよ! と言うか、壊すよう言ってたでしょ、あれは!」
 と、騒ぎながら三人が先に歩いて行く。その様子を見ていたハヤトは、少しだけ笑った。
 そして、そんな彼を見ていたアリサは微笑んでいた。
「……やっぱり、優しい人ですね」
「何がだ?」
「いえ、何でも……」
「行くぞ、アリサ。片桐達に置いて行かれる」
「はいっ」
 笑顔で頷く。ハヤトは少しずつ変わって、それが表に出て来ている。
 そう思うと、どこか嬉しいアリサだった。



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