「あれが、神崎家当主の孫ですか?」
 ハヤトとアリサが二人で歩く姿を、遠くから見ている何者かが口を開く。
「確かに、強大な霊力の持ち主のようですね。それで、どのように?」
「決まっている。奴が持つ力を奪う」
「では、動くなら今でしょうか?」
「そうだ。奴の力を引き出せ。奪うのはそれからだ」
 隣で話す別の何者かが、低く笑う。そして、右手に力を集中させた。
 禍々しい闇の力。それを見て、相手が頷く。
「では、始めましょう。私の霊力で、彼が戦う環境に」





宿命の聖戦
〜Legend of Desire〜



第二部 新たなる敵

第三章 友達


 ハヤトとアリサの二人の様子を遠くから見ていた片桐美香と御堂えんな。
 二人がお互いを見合わせ、同時に親指を立てる。
「結構順調だね」
「これなら、あたし達は必要ないわね」
「…………」
 そんな二人と共に行動していた加賀美陽平が、ふむ、と首を傾げる。
「俺には分からん」
「分かろうともしないでしょ、あんたは。ほら、帰るわよ」
「帰るのか?」
「うん。私達も十分遊んだし、それにお小遣いも残り少ないし」
 美香が苦笑する。そうそう、とえんなも頷いた。
 陽平は、そんな二人と行動するのだった。



 アリサと一緒に遊園地を見て回ったハヤトは、ふと時計を確認した。
 気づけば夕方。そろそろ帰る時間だった。
「ハヤトさん?」
「……そろそろ日も暮れてくるな。帰るぞ」
「はい。ハヤトさん、今日はありがとうございます」
 アリサの笑顔に、ハヤトが頷く。二人は再び歩いた。
「――――!」
 瞬間、ハヤトが立ち止まり、周囲を見渡す。そしてポケットから携帯を取り出した。
 ハヤトの様子にアリサが気づき、首を傾げる。
「ハヤトさん、どうかしましたか?」
「…………」
「ハヤトさん?」
「……空気が変わった」
「え?」
「これを持っていろ。絶対に俺から離れるな」
 そう言って、ハヤトが携帯をアリサに渡し、少しだけ霊力を集中させる。
 闇の属性を持った霊力が感じられる。
「……どこにいるかまでは分からないか」
 霊力を使って探ってみるが、場所までは分からない。
 おそらく、相手は霊力の使い方を知っている。
 その時、二人の前に見知っている人間が姿を見せた。片桐美香と御堂えんなの二人だ。
 アリサが声を上げる。
「美香さんにえんなさん! どうしてここに?」
「…………」
「…………」
「……? 美香さん? えんなさん?」
 アリサが近づこうとする。ハヤトはそれを制止した。
 途端、二人がハヤトに襲い掛かる。ハヤトは舌打ちした。
 襲い掛かる二人を素早く回避し、少しだけ霊力を手に込めて二人の首元に軽い手刀を当てる。
 倒れる二人。それを見たアリサが目を見開く。
「ハヤトさん、何を……!?」
「操られている。だから気絶させた」
「え……!?」
「二人だけじゃないみたいだがな」
 と、気づけば囲まれていた。大量の人間が二人の周囲に群がっている。
 霊力を感知したハヤトが舌打ちする。ここにいる人間全てが操られている。
「片桐と御堂の動きから見て、狙いはやはり俺か」
 そうなれば、操っている人間は相当な霊力の使い手だ。
 ポケットに手を入れ、シュウハに渡されていた模擬刀を取り出す。
「…………」
「何がどうなっているんだ、神埼?」
「――――!?」
 美香とえんなの元に立つ男が訊く。加賀美陽平がそこにいた。ハヤトが目を見開く。
「加賀美、お前……」
「突然、二人の様子が変わったからな。追ってみれば、お前達がいた」
「……お前は問題ないみたいだな」
「何がだ?」
「いや……」
 陽平は操られていない。やはり、とハヤトは思った。
 取り囲む人間達が襲い掛かってくる。陽平が隠し持っていたエアガンを取り出して撃った。
 しかし、それでも襲い掛かってくる。ハヤトが手刀を繰り出して気絶させた。
 陽平に説明する。
「無駄だ。ここにいる奴らは操られている。その程度じゃ痛みを感じる事がないから止まらない」
「操られている?」
「そうだ。手伝え、加賀美」
 そう言って、ハヤトが陽平の肩に手を置いた。



 同時刻。自宅にいたシュウハはハヤトからの着信に気づいた。
 電話の相手は何も話して来ない。つまり、何かあったと推測する。
 そして、すぐにコトネに連絡して合流するのだった。
「それで、何が起きているって言うんだい?」
「それは現場に行かなければ分からないかと。しかし、ハヤトが無言電話をして来たと言う事は……」
「敵だね。神崎家の人間なのかい?」
 神崎家の中には、ハヤトを良く思っていない人間がいる。
 現当主の孫とは言え、忌み子とされているハヤトには、敵が大勢いるのだ。
 シュウハが溜め息をつきつつ、話す。
「神崎家の人間ならハヤトの敵ではないはずですが、それ以外の敵の可能性もあります」
「だったら急ぐしかないね。シュウハ、飛ばしな」
「ええ」



 ハヤトの言葉に、陽平が首を横に振る。
「無理だ。俺ではどうしようも出来ないぞ」
「出来る。お前には”力”がある」
「力?」
 陽平が首を傾げる。ハヤトは頷いた。
「それを撃つ時に力を意識しろ。それだけで、撃たれた相手は気絶する」
「それだけで、だと?」
「そうだ」
 陽平がエアガンを構え、言われた通りにする。
 引き金を引くと同時に集中し、撃つ。放たれた弾が勢いよく飛び出した。
 いつも見ている速度とは全く違う速度。弾が操られている人間に命中し、その場に倒れる。
 目を見開く陽平。
「これは……!?」
「それが”力”だ。俺や身内は霊力と呼ぶ力」
「霊力……」
 ハヤトが模擬刀に霊力を集中し、その刀身を出す。
「今のお前なら、十分戦える。任せるぞ、加賀美」
「…………」
「……?」
「……陽平だ」
「……!?」
 陽平がハヤトの胸に拳を出して、コツンと当てる。
「前々から、そう呼ばせるつもりだった」
「……何故だ?」
「決まっている。俺とお前は、”友達”だからだ」
「……!」
 ハヤトが目を見開いて驚く。襲い掛かってくる人間を相手に、陽平がエアガンを撃つ。
「これからは陽平で良い。俺も、お前の事はハヤトと呼ぶ」
「…………」
「友達なんだ。名前で呼び合う方が良い。そうだろう、ハヤト?」
「……ああ」
 頷く。ハヤトは拳を強く握った。
 胸に込み上げてくる熱い”何か”が、抑えられそうにない。
 分かっているのは、ハヤトと呼ばれて嫌な気がしなかった。
「……やるぞ、陽平」
「ああ。すぐに片付けるぞ、ハヤト」
 そう言って、二人が取り囲む人間達に攻撃する。
 二人のやり取りを見ていたアリサは、そこで理解した。
 なぜ、ハヤトが陽平とだけ会話するのか。
 そして、友達と言われたハヤトは、どこか嬉しそうに見えた。
(……サエコさん。ハヤトさんは、あなたと陽平さんのお陰で変われます。心を開けます)
 そう思うと、アリサも嬉しく思うのだった。



「……嫌な霊力を感じる。そして、知っている霊力に似た霊力も……」
 同時刻。彼は感じ取った霊力の方角を見た。
 一つは、闇の霊力。そしてもう一つは、懐かしくも違った霊力。
 分かっているのは、戦いが起きると言う事。
「向かうしかないだろう。彼の者ならば、私の助けが必要かもしれぬからな」
 そう言って、感じられる場所へと向かうのだった。



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