襲い掛かってくる人間達を相手に、ハヤトが模擬刀を振るう。
 可能な限り一撃で気絶させて、尚且つ傷つけないように。
「…………」
 そして、彼らを操っている人間がどこにいるかを同時に探る。
 まだ見つからない。相手は霊力を探られないようにしている。
「操っている限り、必ずこっちの動きが見える所にいるはず……!」
 でなければ、ここにいる人間達は間違いなく、無造作に色々な方向へ襲い掛かるだろう。
 少しずつ霊力の解放を強めていく。



「なるほど……流石は《霊王》と呼ばれる者の人間ですか」
 遠くからハヤトの戦い方を見て、彼はそう言った。
 霊力の扱い方や戦い方からして、実力は相当な物であろう。
 だからこそ、隣にいる男は力を欲している。あの強大な力を。
「そろそろ良いだろう。奴を連れて行くぞ」
「分かりました」





宿命の聖戦
〜Legend of Desire〜



第二部 新たなる敵

第四章 聖域


 陽平は驚いていた。ハヤトの戦う姿を見て。
 学校で会っている時と違って、ハヤトはこう言った状況に慣れている。
 そして思った。自分はまだ、ハヤトの事を何一つ知らないのだと。
「これが終わったら、色々と訊かせてもらうか」
 そう言って、エアガンに霊力を集中させて撃つ。大分、扱い方が分かってきた。
 その上で理解した。この力は、体力の消費が激しいのだと。
 やや荒くなった呼吸を整え、弾をエアガンに込める。そして再度撃つ。
 瞬間、それは何者かに受け止められた。
「……!?」
 受け止めたのは、両腕を鎖で縛られた男だった。長身で金色の長髪の男。
 陽平を見た男がニッと口を歪ませ、その鎖を引き千切る。
「……もっと力を見せてみろ。俺を楽しませてみろぉぉぉッ!」
 男が陽平に襲い掛かる。



 操られている人間達を、ハヤトはついに全員気絶させた。
 体力の消耗に呼吸が追いつかず、肩で息をする。それを見たアリサがハヤトを心配した。
「ハヤトさん、体力が……」
「大丈夫だ……これ位、まだどうにでもなる……!」
「…………」
「操られている奴らは全員気絶させた。あとは……!」
「あとは、我々を倒すだけですか?」
 気絶している人間達の中に立っている人間が訊く。ハヤトはキッと睨みつけた。
 目の前にいるのは二人。長身で細い体の男と黒髪で赤い瞳を持つ男。
 ハヤトが二人の霊力を感じて、模擬刀を強く握る。その霊力の高さに反応して。
 特に赤い瞳の男からは、強大な闇が感じられる。
「……ッ!?」
 途端、ハヤトの全身に激痛が走る。ハヤトは歯を噛み締めた。
 額と右手の甲に、《霊王》と《覇王》の二つの称号が浮かび上がっていた。
 細身の男がそれを見て、やや関心を示す。
「あれが《霊王》の称号と言う物ですか」
「それだけじゃないな。こいつ、《覇王》も持っているか」
「……!? なぜ、それを……!」
「簡単だ。俺が、その力を欲しているからだ。そして……!」
 赤い瞳の男から霊力が発せられる。漆黒の闇のように黒く、禍々しい霊力が。
「そして、《霊王》の力も奪わせてもらうぞ!」
 放たれる闇の霊力。ハヤトは抑え込んでいる霊力を解放した。
 全て、とまでは行かないが、ほとんどの霊力者でも敵う事が出来ないほどの霊力。
 その様子を見た男が笑みを浮かべる。
「面白い……! 俺に勝てると思うな、《霊王》!」
 男から発せられる闇の霊力が強まる。ハヤトは目を見開いた。
 敵は、父――――父を偽り、《覇王》として自分と戦った奴より強い力を持っている。
 驚くハヤトを横目に、細身の男が手をアリサに向ける。
「隙がありますよ、《霊王》。後ろの女性が守れないほどに」
「しまった……!?」
「霊力とは、このように使うのですよ」
 細身の男が霊力を集中させ、発生した球体をアリサへと放つ。ハヤトは防げなかった。
 歯を噛み締め、霊力を球体へと放つ――――が、呆気なく散ってしまった。
 まさかの瞬間。ハヤトがアリサの名を叫ぶ。
「アリサッ……!」
 アリサへと迫る球体。それは、すぐに消え去った。細身の男が目を見開く。
 彼女の前に立った人間が、球体を消し去っていた。
「辛うじて間に合ったようだ……流石に、老体には堪える……」
「あなたは……?」
 アリサが訊く。男――――老人は「話は後だ」とハヤトに顔を向ける。
「霊力の練成が甘いようだ。それほど強大な霊力ならば、少しの練成でより強力になる」
「……!」
「霊力で形をイメージしてみなさい。放つのではなく、手元に集めるように」
「形をイメージ……」
 初めて言われた方法。ハヤトは何も訊かず、言われたとおりに動いた。
 霊力を手元に集中させる。そして、それを赤い瞳の男へと放った。
 赤い瞳の男がそれを受け止めるものの、簡単に吹き飛ばされる。
「何……!?」
「まさか、あの一瞬で……!」
 驚く二人の敵。ハヤトも同じだった。
「これは……」
「呑み込みが早い。それでこそ、《霊王》の人間だ」
「あんたは一体……!」
「今は、目の前の敵に集中しなさい。敵は、あの程度で倒れてはいない」
 老人の言葉に、ハヤトが頷く。赤い瞳の男がハヤトを睨みつつ立ち上がった。
 まさか、ここで傷を負うとは思ってもいなかった。そう思わんばかりに。
「仕方ねぇ……! テメェのその力、絶対に手に入れてやる!」
「……強い霊力……ぐっ!?」
 全身に走る激痛が増す。赤い瞳の男の手から、より強力な霊力を放った。
 闇の霊力が手元に集まり、それが剣を形作る。それを見たハヤトが目を見開いた。
「霊力を具現、だと……!?」
「暗黒空絶斬ッ!」
 闇の剣が振り下ろされ、衝撃波が放たれる。ハヤトは模擬刀を構えた。
 霊力を集中させ、一気に振る。迫る衝撃波に対抗したが、呆気なく敗れた。
 衝撃波によって吹き飛ばされるハヤト。アリサが声を上げる。
「ハヤトさんっ!」
「ふん、俺の本気を前にその程度か。弱い」
「……まさか、霊力の具現化する者がいたとは」
 老人が驚く。霊力を実体ある物に具現化する。それは不可能ではない。
 しかし、具現化は霊力の消費が激しい上に、長時間の維持が出来ないのだ。
 だが、目の前の敵は具現化した。間違いない、霊力以外の力を持っている。
「《霊王》が勝てぬ程の強さ……あの頃とは違うか……!」
「俺より弱いのは分かった。だが、テメェの霊力は手に入れる」
 赤い瞳の男がハヤトへと近づく――――瞬間、二つの衝撃波が男を襲った。
 闇の霊力を解放して受け止める。
「チッ……誰だ!?」
「いやはや、どうにか間に合いましたか」
「当然だ。あの危ない方は任せるよ。もう一人はこっちで相手する」
「おや、姉さんが譲るとは珍しい」
「違うね。あれは、あたしでも難しい。本気で挑まないと死ぬよ」
「ええ。最初からそのつもりです」
 会話しながら近づく二人。その二人の姿を見て、アリサが瞳に涙を浮かべる。
「シュウハさん、コトネさん……!」



 現れた金髪の男を前に、陽平は防戦一方だった。
 どんなに攻撃をしても、全て阻止されては反撃される。
「…………」
「どうしたぁ!? 俺を楽しませろぉぉぉっ!」
 金髪の男が大地を殴り、衝撃波を生み出す。陽平は巻き込まれた。
 吹き飛ばされ、大地に叩きつけられる。力の差は歴然だ。
 男が再び大地を殴り、衝撃波を放つ。
「……っ!」
「もう大丈夫だ。君には、私が加勢しよう」
 陽平の前に老人が立ち、迫り来る衝撃波を受け止める。陽平は目を見開いた。
 ハヤトと同じ、霊力と呼ぶ力を操れる人間。
 老人が陽平を見て、目を細める。
(霊力の扱いは未熟。今のままでは勝てない。しかし……)
 陽平が歯を噛み締めて立ち上がる。その姿に、老人は何かを感じていた。
 間違いない。彼は自分と同じだ。彼なら、その力を使える。
 そう思った老人が、陽平に話し掛ける。
「……君に一つだけ助言をしてあげよう」
「……助言?」
「その銃を撃つ時に霊力を意識しているだろう? その意識と同時に炎をイメージしなさい」
「……? それは……?」
「難しいかもしれないが、君なら出来る。私はそう思っている」
「…………」
 老人の言葉に、陽平が頷く。金髪の男が拳を再度大地に殴りつけた。
 発生する衝撃波。陽平がエアガンを構える。
 そして、言われた通りにイメージする。力を意識すると同時に、銃口から炎を放つイメージ。
 霊力がエアガンへと集中され、迫り来る衝撃波を前に撃つ。放たれた弾丸が衝撃波を掻き消した。
「……!?」
 陽平が目を見開いて驚く。弾丸は炎を纏い、金髪の男へと命中して、そのまま吹き飛ばしたのだ。
 老人が口元を歪ませる。やはり、自分と同じだと。
(懐かしい……あの頃の自分を見ているようだ……)
「…………」
 自分で撃った弾丸に驚いている陽平に、老人が話し掛ける。
「その感覚、覚えておきなさい。大切な友を守りたいのであれば」
「…………」
 その言葉に、陽平はただ頷くしかなかった。



 赤い瞳の男の前に立ったのは、シュウハだった。
 そして、細身の男の前に立つコトネ。二人を前に、細身の男が少しだけ笑う。
「この周辺に仕掛けた私の霊力を消したみたいですね」
「やっぱり、あんた達の仕業だったみたいだね。あの程度の人避け、あたし達には通用しないよ」
「そのようですね。しかし……」
 細身の男が霊力を解放する。赤い瞳の男と同じ、闇の霊力。
「私はまだ全力ではありません。あなたが勝てるとは思いません」
「あたしを甘く見ない事だね。ハヤトは、あたし達が必ず守る!」
 コトネが霊力を拳に集中する。それは、シュウハも同じだった。
 赤い瞳の男を前にして、掛けている眼鏡を取り外し、胸ポケットへと入れる。
「最初から全力で行かせてもらう」
「テメェ程度で何が出来るんだ? あの《霊王》ですら、俺には勝てないんだぞ」
「それはどうだろうな。ハヤトは自分の力を完全に引き出せていない。それに……」
 シュウハが集中する。赤い瞳の男はそれを見て目を見開いた。
 解放される霊力。《霊王》ほどではないが、他を圧倒するほどの力。
 驚く男に、シュウハが言う。
「ハヤトのように無限の霊力ではない。しかし、俺の霊力も高い方でな」
 ポケットから、ハヤトが持つ模擬刀と同じ物を二本取り出し、霊力を込める。
「高い霊力を抑える為に、眼鏡で暗示している。それが俺だ!」
 シュウハが赤い瞳の男に挑む。



 吹き飛ばされたハヤトは、大地に屈しつつ、今何が起きているかを把握した。
 陽平の方は、謎の老人によってどうにかなる。問題はシュウハとコトネの方だった。
 細身の男はともかく、赤い瞳の男――――奴の霊力による剣の具現には太刀打ちできない。
「くっ……!」
 拳を強く握る。ハヤトは思った。このまま負けるわけにはいかないと。
 そして、失いたくない。あの赤い瞳の男は、容赦なく二人を殺しかねない。下手をすればアリサも殺される。
 シュウハとコトネを――――家族を失いたくない。アリサを死なせてはいけない。
 自分が今”生きている”のは、あの三人もいたからだ。
 守りたい。守らなければいけない。
「ち……から……」
 力が欲しい。守る為の力が。アリサを、シュウハを、コトネを、陽平を守りたい。

 守りたい。

 違う。守りたい、ではない。守る!

「守……る……! 守るんだぁぁぁぁぁぁっ!」
 霊力が解放される。その時、ハヤトは今までにない感覚を感じていた。
《霊王》と《覇王》、二つの称号の力による激痛が無い。
 なにより、霊力が今まで以上に溢れている。あの時――――ネセリパーラで戦った時と同じだ。
「これが……”聖域(=ゾーン)”……!」
 これなら、あの男を退く事も出来る。皆を守れる。
 立ち上がり、赤い瞳の男を睨む。
「――――おぉぉぉぉぉぉっ!」
 そして、駆け出した。



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