光の柱から姿を見せた霊戦機。その名は、ヴァトラス。 ヴァトラスの姿に怯んだ怨霊機ガルファウストだったが、すぐに大鎌を構えて襲い掛かる。 刹那、すぐに受け止められた。 ヴァトラスが、いつの間にか腰に装備している剣を引き抜いている。 「おおおおおおっ!」 ハヤトの咆哮と共に、ヴァトラスが剣を振るう。瞬間、ガルファウストが雲のように消えた。 ヴァトラスが辺りを見渡す。その背後から、ガルファウストが姿を見せた。 鎌を振り上げるガルファウストだったが、すぐに気づかれた。 『グォォォオオオッ!』 ヴァトラスが唸りを上げ、剣を突き出す。ガルファウストの肩の装甲を貫いた。 悲鳴を上げるガルファウスト。貫かれた箇所から、邪気が溢れ出ている。 肩を貫く剣を引き抜き、ヴァトラスが剣に光を集める。 それを見て、ガルファウストは再び雲のように姿を消した。 宿命の聖戦 〜Legend of Desire〜 第一部 はじまりを告げた聖戦 第二章 揺れ動く心 イシュザルトのブリッジで、グラナは思わず立ち上がった。 怨霊機ガルファウスト。《死神》と呼ばれる称号を持った敵。 その特徴とも言えるのが、雲のように姿を消す”幻影”だ。 「……まさか、あれを一瞬で見破ったと言うのかい……!?」 ガルファウストの幻影を見破る。それは、あの”ジュウゾウ=カンザキ”でも難しかった。 しかし、目の前で戦うヴァトラスは、その幻影をすぐに見破った。 「お婆様、あれが……」 「ああ。あれが霊戦機ヴァトラス……怨霊機と対抗できる希望の一つだよ」 少女に答える。そして、ガルファウストが再び姿を消した。 イシュザルトが反応を確認する。 『ガルファウスト、反応ロスト。撤退ト確認』 「流石に、自身の危険を感じたようだね」 「お婆様、あれを……!」 少女の言葉に、グラナがモニターを見る。ヴァトラスが大地に落ちた。 どうやら、力尽きたらしい。グラナが通信を開く。 「アラン、アルスとロルにヴァトラスの回収をさせなさい」 『回収って……俺も見てたけどよ、中の奴生きてんのか?』 通信先のアランが訊く。グラナは頷いた。 「生きている。ただ、気を失っているだろうけどね」 『んじゃ、医務室に運ぶのか?』 「当然でしょう。あと、神殿にもう一人いる。そちらは私の元へ連れて来なさい」 通信を切る。少女が首を傾げた。 「お婆様、”王”は二人もいらっしゃるんですか?」 「いいや、一人だよ。なぜか二人もこちらの世界に来てしまったようだね」 「霊戦機に乗った方は、大丈夫でしょうか……?」 「大丈夫だよ。心配なら、様子を見に行ってきなさい」 少女にグラナは微笑む。 イシュザルトの格納庫。霊力機とは別の場所にヴァトラスは格納された。 いや、この場所こそが、霊戦機専用の格納庫だ。 イシュザルトに保存されている霊戦機のデータを見つつ、スパナを持った彼――――アランは驚く。 「動力炉なし!? おいおい、『エネルシスリアクト』は積んでねぇのかよ……」 『エネルシスリアクト』とは、イシュザルトの動力源である超エネルギーだ。 霊力機もそのエネルギーを元に作られたものを動力源として動いている。 しかし、霊戦機は違う。霊戦機には動力炉と言うもの自体がない。 「だったら、こいつはどうやって……?」 霊戦機には謎が多い。そう思うアランだった。 身体が重い。ハヤトはそう思った。 薄っすらと目を開けると、眩しい光に視野を奪われる。白一色の天井が目に入った。 鼻をツンとした匂いが襲う。そして、横たわっているこの柔らかい感触はベッドの上だからなのか。 記憶がない。神殿のようなところにいたはずだが、いつの間にか場所が変わってる。 「う……」 「あ、気がつきましたか?」 訊かれる。黒髪の長い少女がそこにいた。淡い緑色の瞳が綺麗な少女。 「う……くっ……」 「あ、まだ寝ていてください」 無理に体を起こそうとするハヤトを止める。 「もう少し休ませなさいとフィルツレント……あなたの世界で言うお医者様が申していましたので」 「あなたの……世界……? ここはどこなんだ……!?」 「私のお婆様から詳しく教えて頂けると思いますけど、この世界は”ネセリパーラ”と言います」 「ネセリパーラ……?」 「はい。あなたから見て、『異世界』と呼ばれる世界です」 耳を疑った。異世界と言う存在を信じていないからだ。 いや、様々な説を読んだ事もあるが、どれも確証などなく、あくまで推測の域だ。 考え込む。そんなハヤトを見て、少女は「あ……」と口を開いた。 「自己紹介していませんね。私は、アリサ=エルナイドと申します。お名前を教えてもらって良いですか?」 「……ハヤトだ。神崎……勇人……」 「ハヤトさん……良いお名前ですね」 アリサと名乗った少女が微笑む。ハヤトは目を背けた。 どこか違う。いつも見てきた笑顔とは違って、不思議な感じがする。 直視できない。それが本心だった。 「……一体どうなってるんだ……? 神殿のようなとこにいたのに、気づけばここは……」 「ここはイシュザルトと言う戦艦の医務室です。霊戦機に乗ったあなたは、気を失ってここに運ばれたんです」 「霊戦機……? 乗った……?」 (思い出せない……神殿のような場所で突然胸が熱くなって、それを抑えられなくて……――――!) そして、ハッと何かを思い出し、再び身体を起こそうとする。 「うっ……」 身体中に痛みが走る。それを見たアリサがハヤトを優しく横に寝かせた。 「あ、無茶しないでください。先程も言いましたように、もう少し休まないと……」 「あいつは……? あいつはどうした……!?」 「あいつ……?」 「もう一人いたはずだ……! もう一人……俺の他に……!」 「その方なら、おそらくお婆様のところかと……」 ハヤトに優しく微笑みかける。 「今は休んでください。大丈夫です、その方も無事ですから」 イシュザルトの艦長室。神殿から巨大なロボットに連れられ、そこにサエコは案内された。 目の前に座る老母のグラナに不安の表情を見せる。グラナは困った。 「そう言えば、向こうの世界の人間との会話は難しかったね……」 これでは会話などできない。どうすれば良いか、グラナが考える。 ヴァトラスに選ばれた操者から話を聞けば良いのだろうが、まだ目を覚まさないだろう。 仕方ない、と軽く溜め息をつきつつ、机の引き出しから一本の瓶を取り出す。 そして、その瓶の蓋を開けて、彼女の前に差し出した。 「こちらの言語が理解できる薬、と言っても伝わっていないものね……」 後ろの棚からグラスを取り出し、瓶の中身――――少し濃い青い液体を半分だけグラスに注ぐ。 そして、グラスの方をサエコの方に置き、瓶の方を自分で飲んだ。 中身は毒じゃないと証明する行為。グラナの顔が歪む。 「……やっぱり、この味は好きにはなれないわね」 そう言って苦笑の表情を浮かべる。サエコはおどおどしながらも、グラスを手に取った。 注がれている液体を一口含む。口中になんとも苦い味が広がりつつも、頑張ってそのまま飲み込んだ。 彼女の表情を見て、グラナが訊く。 「お味はどうだい? とても苦ったでしょう?」 「……はい、凄く……」 グラナの言葉に頷く。その時、サエコは「え?」と驚いた。 さっきまで言葉は分からなかったのに、なぜか言葉が分かるようになっている。 「今あなたが飲んだ薬は、こちらの世界の言語を理解する事ができる薬でね。私の夫が作ったものでもある」 「こちらの世界? あの……ここは日本じゃないんですか……?」 サエコの質問に、グラナが顔を横に振る。 「この世界はネセリパーラ。あなた達の世界で言うところの異世界」 「異世界……?」 「ええ。詳しい話は、彼が目を覚ましてから一緒に」 「彼……そう言えば、ハヤト……!」 サエコがグラナに訊く。 「あ、あの、ハヤト……私の友達がロボットに乗って……!」 「彼なら医務室だ。少し無茶をして、気を失っていたからね」 「気を失って……!?」 「心配ない。こちらの世界の医療技術は、地球とは違ってかなり進んでいる。すぐに目も覚ますでしょう」 それよりも、とグラナがサエコを見る。 深く、それでいて澄んだ緑色の瞳。その瞳にサエコの姿が映る。 「あなたの名前を訊いてよろしいかな? 私はグラナ=エルナイド。艦長をやっている」 「み……三嶋冴子……です」 「ミシマサエコ……サエコ=ミシマか。サエコと呼ばせて頂いてよろしいかな?」 「は、はい……」 「では、サエコ、あなたはどうしてあの場所に? 覚えている事だけで良いから、説明して頂けませんか?」 「えっと、その……」 サエコが全て話す。ハヤトが光の柱の中心にいて、消えようとしていた事。 そして、それを見て思わず彼の腕を掴んだ事で、一緒にこの世界へ来た事を。 医務室。ハヤトはベッドで大人しくするだけだった。 否、動こうにも、身体は重く痛みも走って、起き上がる事さえもできない。 第一、起き上がろうにも、アリサと言う少女に止められてしまう。 「……そう言えば、ハヤトさんは私の言葉が分かるんですね……?」 突然、アリサが訳の分からない事を訊く。そして続けた。 「地球とネセリパーラでは、言語が違うとお婆様から言われてたんですけど……」 「…………」 では、なぜ自分はこちらの世界の言葉が分かるのか。それが疑問に浮かぶ。 しかし、それは彼女に訊いても分からないだろう。 彼女の言う”お婆様”とやらから詳しい事を聞くしかない。 今は考える事もしないで、この痛みが走る身体を少しでも回復させよう。 そう思いながら、ハヤトが目を閉じる。途端、医務室の扉が横にスライドした。 「アルスさん……?」 アリサが扉の方を見る。短髪の青髪の青年がそこにいた。 その深い青色の瞳は、静かにハヤトを睨みつけている。 アルスと呼ばれた青年がハヤトに近づく。そして、寝ているハヤトの胸倉を掴み、無理やり起き上がらせた。 「アルスさん!?」 アリサが声を上げる。彼はハヤトを睨み、掴む手の握力を強める。 「テメェ……”王”なら何でもっと早く目覚めなかった!? テメェがもっと早く目覚めてりゃ……テメェが早く霊戦機に乗って戦ってれば……!」 「アルスさん、それは……」 「テメェのせいで、どれだけの人間が死んだか分かるかッ!?」 怨霊機と呼ばれる、世界を滅ぼす存在。その存在によって、大勢の人間が殺された。 人々は霊戦機を真似て作られた巨大兵器で対抗するも、それは無駄なものだった。 そう、怨霊機と戦えるのは、霊戦機しかいない。 霊戦機が戦えば、怨霊機による被害も少なくなる。いや、被害は出ずに済む。 しかし、霊戦機は今になって、ようやく目覚めた。 アルスにはそれが許せなかった。”希望”と呼ばれた存在が、あまりにも無責任過ぎると。 「テメェは、俺らネセリパーラ人にとっての希望のくせに、今になってようやく現れやがった! 分かるか!? テメェは俺らを見下してんだよ!」 「…………」 「何とか言いやがれ、テメェッ!」 「……うるさい。離せ」 ハヤトが自分の胸倉を掴むアルスの腕を握り、引き離す。 そしてベッドから立ち上がる。痛みを堪えてなのか、一瞬だけ顔が苦痛に歪んだ。 アルスを睨みつける。 「テメェの被害妄想なんか聞く気はない」 「何っ!?」 「こっちの世界で何が起きて、そのせいで何人の人間が死んだ事なんて、俺には全く関係ない。 それに、俺は自分の意思でこの世界に来たんじゃない。テメェに文句を言われる筋合いはない」 「んだと、テメェッ!」 アルスが殴りかかる。ハヤトは呆気なく拳を受け止めた。 まるで動きが分かっているのか、余裕のある対応。アルスが目を見開く。 「こいつ……!?」 「すぐに手を出すって事は、単純な奴なんだな。ザコだな」 「この野郎ッ!」 「アルスさん!」 アリサが止める。そして、アルスを睨んだ。 「……ハヤトさんの言うとおりです。昔の事でハヤトさんに当たるのは変です」 「何言ってやがる! こいつが――――」 「関係ありません! 今になって、霊戦機操者の方に文句を言っても仕方ないんです……! それに、お婆様から言われてるはずです。『何があっても、地球の方に危害を加えてはいけない』と」 「チッ……!」 アルスが舌打ちする。地球からネセリパーラへ召喚された人間に危害を加えてはいけない。 それは、この巨大戦艦イシュザルトに所属する人間誰もが知る事である。 拳を下げ、歯を噛み締める。 「俺は認めねぇ……テメェが”王”だとは絶対に認めねぇ!」 そう言って立ち去る。ハヤトは黙ったままだった。 そんなハヤトを見て、アリサが頭を下げる。 「……ごめんなさい。アルスさんは、怨霊機と言う敵との戦いで仲間を失って……」 イシュザルトに所属する前のアルスは、国で怨霊機と戦った。 その時、仲間は呆気なく殺され、自分だけが生き残った。 その事を今も引きずっていると、アリサが説明する。 「ハヤトさん。こんな事を言うのもなんですけど、アルスさんの事……」 「……関係ない。それに、ああ言う奴に何か言われるのは慣れている」 「え……?」 ハヤトの顔を見る。その瞳は、とても悲しげだった。 孤独を知っている黒い瞳。けれど、なぜか光も感じられる瞳。 アリサはそれが気になった。いや、自分は何かを知っている気がした。 身体の調子を確かめているのか、ハヤトが腕を少し動かす。 その時、その場が大きく揺れた。倒れようとするアリサを素早く受け止める。 意外な状態に、アリサの頬が赤くなる。そして、警報が鳴り響いた。 「……何が起きた?」 「警報が鳴っている言う事は、怨霊機が……」 揺れが続く。ハヤトの表情が歪んだ。 頭に直接声が聞こえてくる。 ――――敵が現れた。主よ、我が元へ。 「……俺に戦えって事か、それは?」 ――――主よ、我と言う名の剣で闇を断て。 「ふざけるなッ……! 俺は戦う気なんて……ない!」 訳の分からない世界で戦うなんて馬鹿げている。 艦長室。揺れを確認し、グラナがイシュザルトに訊く。 「敵襲?」 『データ適合、《死神》ノ怨霊機ガルファウスト。イシュザルト、第二装甲マデ大破』 「特殊フィールド形成。まさか、戻ってくるとは。ヴァトラスの操者に任せたいが、どうした事か……」 まだ目覚めたばかりの霊戦機では、今の怨霊機に勝つ事など無理だろう。 なにせ、まだ操者がこの世界や状況に慣れていない。だからと言って、霊力機を出撃させても無意味だ。 真剣な表情で考えるグラナに、サエコが訊く。 「……怨霊機って何ですか?」 「この世界に存在する敵」 「敵……?」 「そう。しかし、それは地球にとっての敵でもある」 「え……!?」 サエコの表情から恐怖が見える。グラナが少しだけ微笑んだ。 「安心なさい。怨霊機に対抗する存在もいる。それが、あなたと一緒にいた彼だ」 「ハヤトが……!?」 揺れが少しだけ収まる。ハヤトは語りかけてくる声に抵抗していた。 何も知らない世界で戦う。それは、死ねと言っているに過ぎない。 死ぬ気なんてない。それが本音だ。 ――――主よ、戦え。全世界の為に。 「ふざけるなっ! 俺に死ねって言うのか!?」 ――――主が戦わなければ、全てが終わる。 「全てが終わるだと!?」 ――――主は全世界を救う剣を持つ事ができる者。その剣でなければ、闇は消せぬ。 「どう言う事だ……!?」 ――――闇はこの世界を覆い、もう一つの世界を覆う。そうすれば、全ての命は滅ぶ。 「…………」 一瞬だけ躊躇う。戦うか、戦わないか。その二つの選択肢に。 そんなハヤトを見たアリサが不思議そうな目で見る。 ハヤトがアリサに訊いた。 「さっき怨霊機とか言ったな?」 「は、はい……」 「全てを滅ぼすってどう言う事だ? その怨霊機ってのは何だ?」 「怨霊機は……お婆様が言うには、全世界を支配すると……」 アリサが答える。ハヤトの中で、少しずつ答えが見え出してきた。 語りかけてくる声は、怨霊機と呼ばれる存在と戦う力そのもの。 しかし、その力は自分がいなければ使えない、中途半端な力。 そして、自分が戦わなければ、怨霊機はこの世界だけではなく、地球をも支配する。 ――――奴らの支配とは、命を消す死の支配。それが、奴らの目的。 そう。支配と言う名の絶望。ハヤトは舌打ちした。 死ぬ気はない。しかし、戦わなければ、どのみち死ぬ。 そんな理不尽は許せない。 「……俺が乗ったロボット……確か、霊戦機って言ったな?」 「はい」 「そいつはどこだ?」 「え……!?」 「俺は死ぬ気はない。そんなふざけた奴らは、逆にぶっ殺してやる!」 殺される位なら、逆に殺す。そんなハヤトをアリサが止める。 「ダメです! ハヤトさんの身体はまだ……」 「んな事を言っている場合かッ! このままだと、どうせ死ぬだけなんだろ!」 「ですがっ……!」 「戦うしかねぇんだろが! 俺は死ぬ気なんてない、そう言っただろっ!」 怒鳴る。その姿を見て、アリサは思った。 彼は分かっているのかもしれない。自分が戦う運命にあると言う事を。 そして、それが今なのだと。 怒りが混ざっているが、その瞳は野生の獣の如く、強い意志に溢れた瞳。 アリサが「分かりました」と頷く。 「霊戦機の元へ案内します。ですが、私も乗ります」 「乗るだと? ふざけるな、お前に何ができる!?」 「少なくとも、ハヤトさんにかかる負担を和らげる事ができると思います。それ位は、お婆様に聞いています」 アリサの強い眼差し。ハヤトは意外にも驚いた。 少なくとも、彼女のような人間は自分の周りには一人しかいなかった。 彼女に対し舌打ちしつつ、ハヤトが少しだけ頷く。 「……良いだろう。だが、邪魔をしたら許さねぇ」 「……はい。ありがとうございます」 アリサの笑顔。ハヤトにとって、それは何かが刺さるような笑顔だった。 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||