「ここは……?」
 気付けば、何も無い荒れ地だけが広がる場所にいた。何かに乗っていた。
 見た限りでは、何かのコクピットのようだ。
「確か屋上にいたはずだが……」
 そう、学校の屋上で友人を心配し、様子を見ていたはず。それも三人で。
 しかし、今はなぜか自分だけしかない上に、全く知らない場所にいる。

 ――――聞こえるな、主よ。

 自分に呼び掛ける声が聞こえる。彼は周囲を見渡した。
「今のは……?」

 ――――我が名は霊戦機ディレクス。《炎獣》の力を持つ者。

「これは……頭に直接か……?」

 ――――我が力を手にせよ。この力にて、主の守りたい者を――――

『おっと、そこまでだ』
 瞬間、何かによって吹き飛ばされる。彼――――陽平は目を疑った。
 視線の目の前に見えたのは、漆黒で中世に出そうな竜の姿をしたロボット。
『妙な力を感じたと思えば、やはり霊戦機か。面白い、相手してやるぜ!』
 竜のロボットが牙を向く。ディレクスと名乗った声の主が再び陽平に話し掛ける。

 ――――我が力を手にせよ。このままでは、主は死ぬぞ。

「む、流石にそれは困る。期末テストも受けられなくなる」
 そう言いつつ、陽平が手元の球体に触れた。





宿命の聖戦
〜Legend of Desire〜



第三部 真の聖戦

序章 二つの戦い


 光が消え、ハヤトはすぐに目の前に広がる場所を確認した。
 神殿か何かの建物の中。間違いない、ヴァトラスが封印されている場所――――異世界ネセリパーラだ。
「着いたか……」
「へぇ、ここがネセリパーラなのかい」
 と、煙草に火をつけながらコトネが言う。シュウハが首を傾げた。
「確か、話によればここが霊戦機ヴァトラスの封印の地でしたが?」
「ああ。これがヴァトラスだ」
 ハヤトが目の前にある巨大な岩を見る。何の変哲もない、ただの岩。
 岩に触れ、その名前を唱える。
「また俺に力を貸してくれ、ヴァトラス」
 巨大な岩が光り輝き、その全貌が明らかになかっていく。
 白銀の装甲に覆われ、戦闘機のような四枚の翼と鳥のような純白の翼を持った機体。
 霊戦機と怨霊機が一つに融合した事で、新たな姿となったヴァトラス。
 その身を屈め、手をハヤトの前まで伸ばす。
「…………」
 ハヤトが手に乗り、ヴァトラスの胸部のコクピットへ乗り込む。ヴァトラスの瞳に光が宿った。
 低い唸りを上げつつ、ゆっくりと立ち上がる。ハヤトが球体に力を込めた。
「二人を乗せろ。イシュザルトに向かう」

 ――――敵が来る。

「何……!?」
 霊力を集中させ、ヴァトラスを通じて周囲の状況を感じ取る。ハヤトにもそれが分かった。
 とても分かりやすい闇の霊力。黒鋼雷魔ほどではないが、この力の矛先は自分であるのは確かだ。
 手元の球体に霊力を込め、ヴァトラスが大空へと舞い上がった。
「あたしらを乗せずに飛んだと言う事は?」
「怨霊機でしょう」
 空へと飛び上がったヴァトラスを見つつ、二人が言う。



 空へ飛び、建物から出たヴァトラスが敵の姿を見つけた。
 鬼の面に牛のような角、巨大な棍棒を持った機体。見た事もない。
「……あれは怨霊機なのか?」
 そうなのであれば、変だ。前に聞いた話と戦った時の怨霊機の姿とはどれも一致しない。
 しかし、敵から感じる闇の霊力。間違いなく怨霊機だと言える。
『――――ァァァァァァーッ!』
 敵が棍棒を振り回して襲い掛かってくる。ハヤトは瞬時に霊力を集中した。
 ヴァトラスが両腕を前に出して受け止める。が、巨大な棍棒には無意味だった。
 耐え切れず後ろへと下がる。
「くっ……!?」
『アアアァァァァァァーッ!』
 再び棍棒がヴァトラスを襲う。ハヤトは霊力を集中して防御した。
(もう少し遠ざけないと……!)
 今、ここでまともに戦えば、下手すると後ろの建物を破壊する。
 それは、まだ中にいるコトネやシュウハに被害が出てしまう。
 あの二人ならどうにでもなるかもしれないが、出来れば避けたい。そうハヤトは思った。
「チッ……!」
 敵が棍棒を振り上げた瞬間を狙い、ヴァトラスの拳に霊力を集中させる。
「これでどうだぁっ!」
 殴る。その時、敵がまるで雲の如く姿を消した。



 巨大戦艦イシュザルトは、いつもと変わらず飛行していた時、その霊力を反応した。
 艦内に響く警報。副長のロフがイシュザルトに話し掛ける。
「どうした、イシュザルト!?」
『霊力反応ヲ確認。約32フォレム(32km)ノ地点ニ《死神》、約19フォレム(19km)ノ地点ニ《鬼龍》』
「二体別々にだと!?」
 表示された場所は、ほぼ正反対と言っても良いほどだった。
 ここから近いのは《鬼龍》の怨霊機が存在している。だが、問題はここではない。
 仮にどちらも向かうとして、怨霊機に対抗できる力は無かった。
「いくら新兵装を搭載した霊力機とは言え、怨霊機に通用するかどうか……」
「副長、《死神》の怨霊機の地点は、確か《霊王》の……」
「何!?」
 確認する。間違いない、《死神》の怨霊機が出現している地点には《霊王》の神殿がある場所だ。
「まさか、怨霊機の出現は……!」
 霊戦機が目覚めた事による襲撃。そう考えるのが妥当だろう。
 つまり、霊戦機が同時に二体、《霊王》ともう一体の霊戦機が目覚めたと言う事になる。
「……あの《霊王》なら、《死神》の怨霊機も敵ではない」
 彼なら《霊王》の力を引き出さなくても《死神》を倒した事がある。今回も同じのはずだ。
 イシュザルトとしては、もう一体の霊戦機の方に応援へ行った方が良い。
「イシュザルト、《鬼龍》のいる方へ。急いでくれ!」
『了解。進路ヲ変更シマス』



 襲い掛かって来た竜のロボットに、陽平が手元の球体に触れる。
 霊戦機ディレクスが全身に装備している武器の砲門を開いた。
「……む、これは全部本物か?」
 うむ、夢ではない。そう思った陽平が首を傾げる。
「どうやって動かすかが分からん」
 このままだと、向かって来る竜の姿をしたロボットに攻撃されて殺される。
 死ぬわけにはいかない。期末試験を受ける為にも。

 ――――我が力を手にせよ。

「どうやってだ?」

 聞こえて来る声に返す。

 ――――心を通い合わせよ。我が力を主の力とする為に。

「……こうか?」

 触れていた手元の球体に力を加える。開かれた砲門から一斉に銃弾が放たれた。
 竜のロボットが一瞬で炎に包まれる。
『やるじゃねぇか……霊戦機に乗りたてで、俺に攻撃するとはな!』
 しかし、竜のロボットは壊れていなかった。否、それどころか損傷も見られない。
「む、動かせたがこれじゃ駄目のようだな」
 肝心の攻撃はどうやら当たっていないようだ。どうしたものかと考える。



 雲のように姿を消した敵。ハヤトはすぐに思いだした。
 前に――――初めて戦った敵と同じ動きだ。つまり敵は《死神》と呼ばれた怨霊機。
「武器や姿は違うが、あの時と同じなら……!」
 もし相手が《死神》なら、姿を消したのはその特殊な力によるもの。
 それを見つける為に、集中して”聖域(=ゾーン)”に入る。
 しかし、感知できなかった。《死神》と思われた怨霊機のそれは、気配を全く感じないレベルで消えている。
「――――!?」
『アアアアアアアアアアアアアッ!』
 ヴァトラスの後ろに出現し、棍棒で殴りつける。強い衝撃がハヤトを襲う。
「くっ!? この――――」
 振り返ると同時に殴る。が、そこに怨霊機はいなかった。
 再び消えたのだ。それも気配を残す事なく。
「くそっ……」
 舌打ちする。そして一つだけ分かった。
 今戦っている怨霊機は、《死神》であって《死神》ではない。
「……”聖域”以外で敵を見つける方法……!」
 敵を倒す事はおろか、戦う事すらも出来ない今、必要なのはまた別の何かだ。
 考える。どうやって敵を見つけ、まともに戦うのかを。そして、この場から遠ざける方法を。



「姿を瞬時に消すのは、何の怨霊機だ?」
「神崎家の文献に書いてあったのは《死神》でしょうか。《天馬》の霊戦機の対となる存在です」
《死神》の怨霊機には、瞬時に姿を消す事が出来る幻影と呼ばれる力を持っている。
 今ハヤトが戦っている怨霊機が《死神》と呼ばれる怨霊機なのだろう。
「ハヤトでも、あの力には太刀打ち出来ないのかい?」
「そこまでは流石に分かりません。あの文献には、幻影について細かく記載などされておりませんので」
 分かっているのは、幻影には霊戦機の中でもスピードに優れた《天馬》の霊戦機が有効としかない。
《天馬》にも《死神》の幻影同様の力を持っており、それによって《死神》と対等に渡り合えるからだ。
 ヴァトラスにはそんな力はない。ハヤトが《死神》の幻影を見破る方法は皆無かもしれない。
 そう考えると、今の状況は不利だった。
「このまま黙って見てるしかないのは、性分的にやってらんないね」
 そう言いつつ、コトネが煙草を吸い始める。
「ハヤトに託すしかないのかい、やっぱり」
「今の所は。ヴァトラス以外の霊戦機が目覚めれば、状況は変わるかもしれませんが」



 全くダメージの無かった竜のロボットを相手に、陽平はずっと考えていた。
「そもそも、何でこいつは動いたんだ?」
 分かっているのは、手元の球体を握ったら動いたと言う事だけ。
 そこで疑問が浮かんだのだ。なぜ、球体を握っただけで動いたのか。
「俗に言うロボットとか言うのは、ゲームのコントローラーみたいなもので動いているんじゃないのか?」

 ――――げーむ? こんとろーらー?

 流石の霊戦機ディレクスも、それは「?」しか出て来ない。
 竜のロボットが動きの無いディレクスを見て舌打ちする。
『おい、あの一回だけで攻撃は終わりか? もう戦えないのか!?』
「そう言われてもな……」
 自分と戦いたいのだろうが、肝心の操作方法などが全く分からない今、陽平はどうすれば良いか分かっていない。
 とりあえず、手元の球体を握る。ディレクスが陽平に語り始めた。

 ――――主よ、球体に触れて念じるが良い。

「念じる?」

 ――――我は主の力。主の意思が、我の手足を動かす。

「……つまり、俺がこう動きたいと思ってれば動くと言うのか」
 しかし、それはそれで不思議だ。そんな単純な物で良いのだろうかと言いたくなる。
 とりあえず、頭の中に聞こえた声の言うとおりにする。ディレクスが両手に銃のようなものを装備した。
 それを見た陽平が「おお」と声を上げる。
「じゃあ、こうすれば撃つのか」
 今度は銃を撃つ事を念じる。ディレクスが銃弾を撃った。
「戦い方は分かった」
 あとは、これで竜のロボットを倒せば良い。余裕だろう。
「とっとと終わらせて帰る。テスト受け損ねて留年は困るからな」

 ――――選んだ操者は間違いだっただろうか……。

 そう思ってしまう霊戦機ディレクスだった。



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