イシュザルトの格納庫。怨霊機の襲撃に、霊戦機ヴァトラスが唸りを上げる。
 格納庫中に響く唸り。今にも動き出しそうなほど、ヴァトラスは唸りを上げている。
 その様子を、耳を手で塞いでいるアランが渋々と見る。
「操者を待ってんだろうけど、肝心の操者はなぁ……」
 肝心の操者は、まだ意識を取り戻していないはず。戦えるわけが無い。
「大丈夫ですか? 少しふらついていますが……」
「俺に構うな……! これくらい、どうって事ない!」
「って、もう起きてた!? つーか、姉ちゃん!?」
 遠くから見える姉と、ヴァトラスの操者の姿。アランが目を見開く。
 ヴァトラスの操者は、霊戦機に乗った事で気を失っていた。
 それはつまり、霊力の消費が激しかったからだ。
 霊力の消費によって意識を失った場合、そう簡単には目を覚まさない。
 しかし、目の前に見える彼は、全快とは言えないが、もう意識を取り戻している。
 彼――――操者であるハヤトがヴァトラスの足元まで歩み寄る。
「……おい、お前!」
 ヴァトラスを見上げて怒鳴る。ヴァトラスがすぐに反応した。
 身を屈め、ハヤトの目の前に手を差し伸べる。
「ふん、俺を待ってたってか? ……まぁ良い、とっとと行くぞ……!」
「って、ちょっと待った!? 起きたばっかなんだろ、あんた!?」
 アランが腕を掴む。瞬間、振り払われた。
「相手は所詮ザコだろ? だったら、これくらいはハンデだ!」
「うわ、すっげぇ強気!? つーか、思いっきり無謀!?」
「あ、待ってください……!」
 ハヤトがコクピットに乗り込むのを見て、慌ててアリサもコクピットに乗り込む。
 しかし、一瞬留まった。コクピットは一人乗り。つまり、二人も乗れるわけがない。
「…………」
「乗るんだろ? とっとと乗りやがれ!」
「ですけど、乗る場所が……」
「早くしろ! 敵が来ているんだろ!?」
 そう言って強引に腕を引き、アリサをコクピットに乗せる。コクピットが閉じた。
 ハヤトが乗り込んだのを知り、ヴァトラスが静かに立ち上がる。
 そして唸りを上げ、発進口まで一人で歩いていく。
『ヴァトラス、操者ノ搭乗ヲ確認。出撃』
「何言ってんだよ、イシュザルト!? つーか、何で姉ちゃんも乗ったんだよ!?」
 アランのツッコミは無意味に近く、ヴァトラスは構わず出撃した。





宿命の聖戦
〜Legend of Desire〜



第一部 はじまりを告げた聖戦

第三章 王の片鱗


 イシュザルトのブリッジにグラナが駆け込む。そして艦長席に座った。
 目の前のコンピュータから、イシュザルトが表示する情報を確認する。
「……ヴァトラスが出撃? まさか、もう目覚めって言うのかい……?」
『ヴァトラス、操者ノ霊力値確認。数値1000ヲ維持』
「1000? それも、維持……?」
 グラナが目を見開く。霊力の数値があまりにも高い上に、維持と言う信じられない状態であるからだ。
 霊力は元々低く、高くても1000以上の霊力はかなり珍しい。
 さらに、霊力と言うのは必ず変動があり、維持などありえない。
 それは、どんなに霊力に長けている人間でも、である。
「霊力の高さ……それに維持……。今度の王は、一体何がどうなっていると……?」
 少なくとも分かっているのは、”ジュウゾウ=カンザキ”は自分に何かを隠している。
 表示されている情報を見る。ヴァトラス内部の霊力反応が二つとなっていた。
「二つ? どうなっているんだい? 一人は《霊王》として、あと一人は……あのサエコって子かい?」
 いや、違うだろう。なにせ、彼女は今まで自分と話をしていたのだから。
 少し頭を捻る。すると、イシュザルトがすぐに答えた。
『同乗者確認。アリサ=エルナイド』
「何だって? アリサが……!?」
 こればかりは、流石にグラナも驚いた。



 ヴァトラスのコクピット内。アリサは頬を赤くしていた。
 彼女が座っているのは、ハヤトの膝の上。つまり、ハヤトと密着しているのだ。
「あ、あの……」
「何だ?」
「私、乗らなかった方が良かったんじゃ……?」
「知るか。お前が乗るって言ったんだろ。俺の邪魔をしないなら、俺も何も言わない」
「……はい」
 ハヤトの表情を見て、アリサが頷く。そして、身体を動かないように固定した。
 少しでも邪魔にならないように。そんな彼女の取った行動を見て、ハヤトは「それで良い」と呟いた。
 ヴァトラスが大空を舞う。瞬間、目の前に骸骨のロボット――――怨霊機ガルファウストが現れた。
「――――!?」
 巨大な鎌が振り下ろされる。ハヤトはすぐに反応した。
 しかし、ヴァトラスは動かず、鎌を真っ向から受ける。胸部の装甲が剥がれ落ちた。
「ぐっ……貴様、なぜ動かなかった!?」
 怒鳴りつける。しかし、ヴァトラスは何も答えない。アリサが言う。
「お婆様が言っていました。霊戦機は、操者の意思を霊戦機に伝える事で動くと」
「伝える? どうやって!?」
「それは、私にも分かりませんが……」
 その言葉に、ハヤトが舌打ちする。
「チッ、分からないなら意味が無い! おい、どうやったらまともに動くんだ、テメェは!」
 手元には球体が二つ存在するだけで、操作するようなものが全く無い。
 ガルファウストが再び鎌を振り下ろす。
「――――テメェの攻撃は見えてんだよッ! 動きやがれぇッ!」
 手元の球体を強く握る。ヴァトラスの瞳が光り、ガルファウストの鎌を避けた。
 腰元の剣を引き抜き、剣を構える。
「おおおおおおっ!」
 ヴァトラスが剣を振るう。いくつもの風の刃――――それも炎を纏ったカマイタチが剣から放たれた。
 炎のカマイタチがガルファウストを捉えるが、ガルファウストが煙のように消えた。
 ハヤトが目を見開く。瞬間、ガルファウストが姿を見せ、容易くヴァトラスの背後を取られる。
「何――――ッ!?」
 鎌がヴァトラスの背中を攻撃する。コクピット内部が激しく揺れた。
 敵の姿が煙のように消えた。そして、敵の攻撃を受けた。
 歯を噛み締め、敵を睨みつける。再び、ガルファウストは煙のように姿を消す。



 ブリッジのモニター越しにガルファウストの姿が消えたのを見て、副長ロフが目を見開いた。
「幻影……! ガルファウストは、その力を全て引き出しているようですね……」
「おそらく、ね。しかし……」
 ヴァトラスの動きを見る。どう見ても、初心者のような動きが多かった。
 目覚めた時の戦いができていない。戦い方が違うように感じる。
「あの時は無我……だったみたいね。王としての力は持っているのに、今はそれを引き出せていない」
 もし、彼の中にある王の力が目覚めれば、ガルファウストなど敵ではないはず。
 あの”ジュウゾウ=カンザキ”が、自分よりも上だと認めざる得なかったであろう強さを持つ人間。
 そんな人間が、怨霊機に負けるはずが無い。
「その力を引き出せるか、否か……。この戦いは、操者次第と言ったところだね」



 ガルファウストの幻影に翻弄され、ハヤトは歯を噛み締めた。
「くそがっ! ちまちまと姿を消しやがって……!」
 それさえなければ、敵の攻撃は全て分かる。ガルファウストが攻撃を仕掛けた。
 幻影がヴァトラスを混乱させ、巨大な鎌で斬りつける。左肩の装甲が失われた。
 敵を睨みつけ、ハヤトが吠える。
「貴様ぁぁぁっ!」
 剣を横一線に構え、振り切る。龍の姿をした波動が放たれた。
 ガルファウストへ襲い掛かるが、幻影で再び避けられる。ハヤトは舌打ちした。
 そんなハヤトを見て、アリサが言う。
「ハヤトさん、焦らない方が……」
「うるさい、黙ってろ! それに、俺は焦ってないッ!」
 ヴァトラスが剣を振り落とす。ガルファウストは姿を消し、そして再び背後から姿を見せた。
 鎌で背中を攻撃し、ハヤトを刺激する。
「ッ! このぉぉぉぉぉぉっ!」
 龍の波動を放つ。そこにガルファウストの姿は無かった。
 ガルファウストがヴァトラスの目の前で姿を見せる。ハヤトは目を見開いた。
 鎌が振り下ろされ、左肩の間接部に食い込んだ。
「ぐぁぁぁっ!?」
 ハヤトに激痛が走り、ヴァトラスが悲鳴を上げる。鎌はまだ食い込んでいた。
 歯を噛み締めて敵を睨む。怒りが目に見えるほどに、ハヤトは感情を露わにしていた。
「テメェ……! 絶対にぶっ殺……!?」
 途端、右腕に重みが掛かる。アリサの顔がそこにあった。
 すぐにアリサを睨み、右腕から頭を動かそうとする。その時、ハヤトは気づいた。
 触れて感じたのは血。敵の攻撃による揺れで頭を打ったのか、彼女の頭から血が流れている。
「……おい……? おいっ!?」
 呼ぶ。しかし、反応はない。気を失っているようだった。
「……俺は何をやった……!」
 歯を噛み締める。それも音がなるほどに。
 彼女がこうなったのは、自分のせい。この霊戦機と呼ばれる物を上手く動かせず、敵の攻撃を受けたせい。
「馬鹿か、俺は……こんな敵くらい、すぐに倒せていた……!」
 静かに敵を睨む。ハヤトはひたすら集中した。
 敵の動きが予測できないなら、その動きを見切る事を優先する。
 そうすれば、攻撃は避けられる。そして、倒す事もできる。
「……怪我をさせたが、お蔭で冷静になれた……!
 今までよくもやってくれたな……! だが、もうお前じゃ俺には勝てない!」
 ハヤトの額に何かが浮かび上がる。古代の人間が太陽を描いたかのような称号だ。
 ヴァトラスの瞳が光り、胸に同じ称号が浮かび上がる。



 モニターに表示されているヴァトラスの戦闘値が急激に上昇する。グラナは思わず身を乗り上げた。
 ヴァトラスの胸に浮かび上がっている称号。グラナが「まさか」と声を出した。
「王の力を引き出した……それだけじゃない。これは……?」
『操者ノ霊力値、1000……2000……3000……10000……計測不能。霊力解放率、サラニ上昇』
 イシュザルトが告げる。計測できないほどの霊力に、その解放率。
 間違いなく暴走するほど危険な状態のはずだが、ヴァトラスの様子からして、それは起こらない。
 操者の凄まじい集中力が、強大な霊力を上手く制御している。
「強大な霊力を暴走させていない……この集中力は、間違いなく”聖域(=ゾーン)”の領域……」
「”聖域”……? 艦長、それは……」
「神経と集中力が研ぎ澄まされ、必要に応じた能力のみ突出して発揮する状態の事」
 その状態になれば、人間は火事場の馬鹿力と同じほど、信じられない力を引き出す。
 ヴァトラスの操者は、その”聖域”の領域に入り、王の力をも目覚めさせた。
 これなら、ガルファウストなど敵ではない。そう、グラナは察した。



 ヴァトラスから眩い光が溢れ出す。それを見たガルファウストは唸りを上げた。
 鎌を大きく上げ、振り落とす。ハヤトはすぐに反応した。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
 剣を素早く振る。ガルファウストが幻影で攻撃を避けた。
 そして、ヴァトラスの背後から姿を現し、鎌を大きく振り上げる。
 その時、ハヤトがガルファウストを鋭く睨みつけた。
「そう何度も……同じ手が通用すると思うなぁぁぁっ!」
 剣で弾き、空いている拳で殴って吹き飛ばす。
 ガルファウストが呻き声を上げながら体勢を崩す。しかし、ハヤトの猛攻は止まらなかった。
「おぉぉぉっ!」
 炎を纏ったカマイタチをいくつも放ち、ガルファウストを追撃する。
 ヴァトラスが唸り、剣を肩上に持っていく。剣先に光の球体が生成された。
 ハヤトの額の称号が光り輝き、光の球体がその大きさを増していく。
「これで終わりだぁぁぁッ!」
 振り下ろす。剣先にあった光の球体から、巨大な光の波動が放たれた。
 光の波動がガルファウストを呑み込む。ガルファウストが悲鳴を上げながら、大爆発を起こした。
 剣を腰元の鞘に納め、ヴァトラスが高々と唸りを上げる。
「……なるほど、操者の意思を霊戦機に伝えるって言うのは、こう言う事か……」
 手元にある球体に触れ、自分の意思を霊戦機に伝える。それだけで霊戦機は普通に動く。
 しかし、自在に動かすには、霊戦機と言う存在を支配しなければいけない。
 自分が主である事を思い知らせ、自分の意のままに使える力。
 それが、ハヤトの見つけた答えだった。
「……一応、お前のお陰だな」
 怪我をし、気を失っているアリサに言う。そして、静かに頭部へと手を置いた。
 霊力を集中させ、光を彼女に当てる。
「……これで傷は良いはずだ。あとは、地球に帰るだけだ」
 そう言って、ヴァトラスを動かすハヤトだった。



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