謎の機体から解き放たれる凄まじい霊力。イシュザルトのブリッジで、ジャフェイルは何かを感じ取った。 「この霊力……! イシュザルト、霊力属性並びに解放されている称号は解析出来るか?」 『可能』 「ならば、解析を頼む」 「ジャフェイル、一体何を……?」 訊いてくるグラナに、ジャフェイルが拳を強く握る。 「あの霊力の解放……私の考えが誤っていないとすれば……!」 『解析完了。霊力属性ハ闇、《覇王》ノ解放ヲ確認』 「やはり……!」 「《霊王》から《覇王》の力の解放……!? なぜ……」 「……”覚醒(=スペリオール)”だ」 ジャフェイルが説明する。 「火事場の馬鹿力と言う物があるのは知っているな?」 「ええ」 「それすらも遥かに超えた力、神の領域とも言われる力の解放……それが”覚醒”だ」 人間に内在しているとされている力。普段は、自壊しない為に無意識に抑制しているとされる力。 その力をも超えた力の解放。それが、”覚醒”である。 「かつて、二代目《霊王》が解き放ったと伝説にはあるが、まさか実在するとは……」 「ジャフェイル、まさかとは思うけれど……」 「……ああ。そのまさかだ。このままでは……彼は死ぬ」 宿命の聖戦 〜Legend of Desire〜 第一部 はじまりを告げた聖戦 第十章 決着と真実 放たれた一撃。謎の機体は剣で受け止めた。 凄まじい霊力が剣に集中し、キングガスタムに斬りかかる。 『青龍弐刀剣』 放たれる龍の波動。謎の機体を呑み込み、吹き飛ばす。 凌駕が舌打ちする。凄まじい力を発しているが、それだけだと知って。 『《霊王》の力か』 ”化け物”として、全てを破壊できるほどの力。しかし、それを《霊王》の力が抑制している。 これでは、怨霊機と何も変わらない。 『覇王爆砕破ッ!』 キングガスタムの一撃に吹き飛ばされる謎の機体。ついに、その瞳から輝きが消えた。 動かなくなり、漆黒や深紅に変貌していた全身が元に戻る。 全てを破壊できる力の解放が終わった。それを確認したキングガスタムが、その剣を振り上げる。 『力の解放はできたが、失敗のようだな』 霊力が集中し、刀身が巨大な闇の刃を纏う。 『力を完全に引き出すには、殺して奪うまでだ』 巨大な闇の刃を振り下ろす。瞬間、雷がキングガスタムに襲い掛かった。 イシュザルトのブリッジ。ハヤト――――《霊王》の死を覚悟したグラナとジャフェイルは、次の瞬間、目を見開いた。 キングガスタムの剣を受け止める、一体の霊戦機。《武神》の霊戦機ヴィクダートがそこにいた。 「ヴィクダート……まさか、《氷河》を倒せたのか……!?」 『そうだ。《覇王》の攻撃は……この怨霊機は俺が相手をする。その間に、彼を頼む』 「頼む? まさか……」 グラナがすぐに確認する。 「イシュザルト、《霊王》の状態を確認しなさい!」 『生体反応確認。霊力解放率低下』 「気を失っているだけと言う事?」 『肯定』 イシュザルトの言葉に、グラナが驚く。 「まさか、”覚醒”でまだ生きている……」 「流石はジュウゾウの孫か……まだ、希望は残っていたか……!」 しかし、このままでは危険だ。《武神》では《覇王》には勝てない。 《覇王》を倒す方法は一つ。気を失っているハヤトを目覚めさせ、《霊王》として覚醒してもらう事だ。 「グラナ、君の孫の出番だ」 「……アリサに、彼を任せると言うの?」 「そうだ。サエコ君がいない今、彼の力になれるのは、アリサ君しかいない」 失い、怒りで力を解放させた彼を助けられるのは、彼に寄り添っていたアリサしかいない。 ジャフェイルの言葉に、グラナが迷う。なぜなら、アリサは霊力機を動かせないからだ。 霊力を扱える能力がアリサには全く無い。その為に、霊力機を動かす事もできない。 「アリサを生身で彼の元に行かせるわけには……」 『艦長、それ位なら俺達でも十分だろう?』 アルスが割り込む。グラナは目を見開いた。 「アルス、あなた……」 『《武神》の奴が時間を稼いでいる間に、俺がアリサをあいつの所に連れて行く。それで良いな?』 「どう言う風の吹きまわし? 彼の事を嫌っていたのに」 『別に。ただ、このままじゃ《覇王》のせいで、全部が終わる。それを止められるのは、あいつだけだろ。それだけだ』 ぶっきら棒な言葉。しかし、その言葉にグラナが小さく笑う。その時、別の通信がさらに割り込んだ。 『そう言っていますけど、本当は認めてるんですよね。彼を《霊王》として』 『な……!? 何言ってんだ! 俺は別にそんな事……!』 『任せるって言われたのが、余程嬉しかったんでしょ? 分かりやすいんだから、アルスは♪』 『リューナ、お前まで……! 違うって言ってるだろ!?』 『はいはい、その話は後で。今は、アリサを彼の所まで連れて行くのが先決でしょ?』 『…………』 四人の霊力機操者の会話に、グラナが小さく笑い続ける。その隣では、副長のロフが呆れていた。 しかし、グラナは思った。彼――――ハヤトなら、《覇王》に勝てると。 キングガスタムの攻撃を受け止めた霊戦機ヴィクダート。凌駕が鋭く睨みつける。 『邪魔をするか、《武神》の使い手よ』 「そうだ。彼が……ハヤトが立ち上がるまで、あなたの相手はこの俺だ」 『たかが《武神》の霊戦機で、《覇王》相手に戦えると思うな!』 キングガスタムが剣を振り下ろす。ヴィクダートの姿が消えた。 《武神》の力を使った分身。凌駕が舌打ちする。 『小賢しい事を……』 「疾風雷鳴斬ッ!」 ヴィクダートが斬りかかる。キングガスタムが剣で受け止めた。 『遅い! 朱雀爆輪剣!』 炎のカマイタチが放たれる。ロバートは霊力を集中させた。 ヴィクダートの剣に炎が走り、攻撃を全て弾く。それを見た凌駕がほう、とロバートを睨んだ。 霊戦機との同調はハヤトより上。これが、霊戦機操者として選ばれた人間か、と。 『だが、所詮は《武神》。王の力を持たない霊戦機が、《覇王》の怨霊機に勝てると思うな』 キングガスタムの瞳にエネルギーが集中する。 倒れている謎の機体に、アルス達が乗る霊力機が駆けつけた。 アルスの乗る霊力機ウォーティスの手に、アリサを乗せた状態で。 「到着したな。アリサ、大丈夫だな?」 「はい……! アルスさん、ロルさん、ミーナさん、リューナさん、ありがとうございます……」 ウォーティスの手から、謎の機体の胸部に移る。謎の機体に触れて、アリサはハヤトの名を呼んだ。 しかし、反応が無い。ロルがうーんと唸りながら言う。 「機能停止しているのは、この機体が操者の霊力だけで動いていると言う事ですかね?」 「何が言いたいんだ、ロル!?」 「ですから、《霊王》が気絶していると言う事は、この機体も気絶しているようなものですから……」 「なるほど、コクピット部分も開かないって事よね?」 ミーナの言葉に、ロルが頷く。それを聞いたアルスは目を見開いた。 「じゃあ、どうしようも無いだろ! くそっ、ここまで来て……!」 「コクピットの所を開ければ良いんじゃないの、霊力機で?」 リューナの言葉に、ロルがポンと手を打つ。 「なるほど」 「なるほどじゃねぇ!」 そう言いながら、アルスが謎の機体の胸部を掴み、無理やり引き剥がす。コクピットが見えた。 「よし、あとは……」 「帰艦ですね」 「何言ってんだ! 俺らでヴィクダートの援護して、時間を稼ぐに決まってるだろ!」 「無理無理。瞬殺されるのがオチだって」 「ここはアリサに任せて、私達は撤収。ほら、行くわよ、アルス」 「待て! 俺だけでも……おい、待てって言ってるだろ……!」 アルスのウォーティスを三人が引っ張りながらイシュザルトへ戻って行く。 そんな彼らを見届けたアリサは、謎の機体の内部に入った。気絶しているハヤトの姿を見つけ、彼の元に寄る。 「ハヤトさん!」 「…………」 「ハヤトさん……ハヤトさん!」 「……ぅ……」 ハヤトの瞳が小さく、ゆっくりと開く。 「……こ……こ……」 「ハヤトさん!」 抱きつく。アリサが抱きついた事で、ハヤトは全身に走る激痛に耐えられず、声を出した。 アリサがすぐに離れる。 「す、すみません……大丈夫ですか?」 「……俺……どう……なって……」 思い出す。ハヤトは目を見開き、歯を強く噛み締めた。そして、コクピットの内部を強く殴った。 「……俺は……あいつを……サエコを……!」 守れなかった。死なせてしまった。悔しい思いで再度、内部を強く殴る。 「サエコ……俺は……! くそぉぉぉっ……!」 「ハヤトさん……――――!?」 ハヤトの悔しさに、何もできないアリサ。その瞬間、コクピット内部が大きく揺れた。 砂煙が舞い、その先にキングガスタムの姿が見える。 『《武神》は倒れた。ようやく、これで止めが刺せるな』 「親……父……!」 キングガスタムが迫る。ハヤトは手元の球体に触れようとしたが、触れなかった。 手が震えていた。それを見たハヤトが目を見開き、舌打ちする。 「くそっ……!」 恐怖。ハヤトは恐怖を感じていた。だからこそ、手が震えて、上手く手元の球体に触れる事ができない。 歯を噛み締める。頭では分かっているが、震えが止まらない。 迫り来るキングガスタムを見て、焦る。その時、アリサはハヤトを抱き締めた。 「……!?」 「大丈夫です。ハヤトさんは独りじゃありませんから……私がここにいます」 「…………」 アリサの言葉、伝わってくる心臓の音。気づけば、手の震えが止まっていた。 アリサが止めてくれた。ハヤトはアリサの背中に腕を回していた。 「…………」 「…………」 互いに何も語らず、ただ、抱き締める。そして、ハヤトが口を開いた。「ありがとう」と。 その言葉に、アリサが驚きつつ、小さく頷いた。 「……力を……」 ハヤトが手元の球体に手を伸ばし、強く握る。 「……力を貸してくれ、”ヴァトラス”……!」 謎の機体――――ヴァトラスの瞳に光が走る。そして、立ち上がった。 唸りを上げ、左右で異なる瞳の色が緑に統一され、漆黒の一対の翼が純白へと変わった。 胸部に《霊王》の称号が浮かび上がり、輝く。それを見た凌駕が目を見開いた。 『《霊王》……力を解放したか。だが……』 キングガスタムの胸部の瞳にエネルギーが集中する。 『お前では私には勝てん! 覇王爆砕破ァァァッ!』 放たれる無数の波動。ヴァトラスがさらに大きな唸りを上げた。 左手を前に出し、キングガスタムの攻撃を受け止める。ハヤトは霊力を集中した。 「青龍ッ!」 龍の波動を放ち、キングガスタムを呑み込む。 『何……!?』 「おおおっ!」 ヴァトラスがキングガスタムに接近し、剣を振るう。キングガスタムは剣で受け止め、応戦した。 凌駕が驚く。 『この力……貴様、”聖域(=ゾーン)”に入ったか……!?』 「知るか。俺はただ、親父……あんたを倒す。それだけだ!」 吹き飛ばし、ヴァトラスが空高く舞い上がる。 《霊王》の称号が輝きを増し、剣先に霊力を集中する。光の球体が生成され、徐々に巨大化していく。 「霊王……閃光破ァァァッ!」 放つ。巨大な波動がキングガスタムを呑み込み、大爆発を起こした。 それを見たアリサがハヤトを見る。 「ハヤトさん……!」 「まだだ」 「え……?」 ハヤトはまだ睨みつけている。その目線の先では、キングガスタムは存在していた。 否、両腕と両足が失われ、黒い”何か”がその代わりをしている。 『おのれ……おのれ、おのれぇぇぇぇぇぇっ!』 凌駕がハヤトを睨みつける。 『おのれ、《霊王》! 父であるこの私をここまでぇぇぇぇぇぇっ!』 「違う。お前は、”俺の親父じゃない”」 『何……!?』 ハヤトの言葉に、凌駕が驚く。当然、ハヤトと一緒に乗るアリサも同じだった。 驚く凌駕を見て、ハヤトが話す。 「お前と親父じゃ、霊力が全く違う。俺の知る親父の霊力は、誰よりも温かった。お前のように、冷たくはなかった」 『ならば、なぜ私を父と……!?』 「簡単だ。親父を偽っていたお前が何者なのか、俺は知らない。だから、親父の名を呼ぶしかなかった……!」 ハヤトが手元の球体を強く握り、霊力を集中する。 「お前を倒して、全部終わらせる……!」 『ふざけるな……ふざけるなぁぁぁぁぁぁっ!』 キングガスタムが無数の漆黒の波動を放つ。ヴァトラスが動いた。 目にも止まらぬ速さで攻撃を全て回避し、キングガスタムに近づく。 剣に霊力が集中し、眩い光を放つ。 「光破麒麟閃ッ!」 キングガスタムの胸部を突き刺し、剣に集中されていた霊力が一気に放出、爆発を起こす。 『馬鹿な……この私が……この私がぁぁぁぁぁぁっ……』 光の粒子がキングガスタムの全身から放出されながら、空へと舞って消滅していく。 《霊王》と《覇王》。二人の王の戦いは、《霊王》の勝利で幕を閉じるのだった。 |
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