宿命の聖戦 〜Legend of Desire〜 第一部 はじまりを告げた聖戦 終章 決意 キングガスタムを――――《覇王》を倒したハヤトは、一緒に乗るアリサにも聞こえないような声で呟いた。 「俺の勝ちだ、親父……――――?」 ふと、頬を水が流れる。気づけば、瞳から涙が流れ落ちていた。 それを見たアリサが優しく抱き締める。 「な、何を……?」 「泣いても良いと思います……」 「……別に、俺は泣く事なんて……」 「サエコさんの事は、泣いて良いんです……」 「…………」 その言葉に、唇を強く噛み締める。涙が止まる事無く流れる。 小さく嗚咽を漏らしつつ、ハヤトは涙を堪えていた。 イシュザルトのブリッジ。艦内で歓喜の声が沸き上がる。 グラナとジャフェイルもまた、互いの顔を見て安堵の息をついた。 「終わったか、これで……」 「ええ。まさか、あの土壇場で彼が《霊王》に目覚めてくれるとは思わなかった……」 あそこで《霊王》として戦っていなければ、《覇王》には勝てなかった。 「しかし、”聖域”と”覚醒”か……奴の孫としては、色々と出来過ぎている」 「それに、キングガスタムを倒した最後の一撃も」 通常、怨霊機は倒されると爆発する。しかし、ハヤトが倒した怨霊機は爆発しなかった。 光となって消滅していく姿は、自分達の頃でも見た事がない。 「怨霊機が光となって消滅した事については、獣蔵に訊いても分からないでしょう」 「確かに。あれは、彼自身の持つ力だろう。《霊王》と《覇王》の二つを持った為に生まれた光の力、なのかもな」 「そうね。私は、そう信じたい……」 ヴァトラスが倒れているヴィクダートに手を差し伸べる。 「無事か?」 「……ああ。どうにか……」 手を取り、立ち上がるヴィクダート。それを見たハヤトが言う。 「俺の言ったとおりに出来たようだな」 「ああ……お陰で、俺は無事勝つ事もできた」 「そうか」 黙る。その様子を見ていたアリサが首を傾げる。同じく、ロバートも。 すると、ハヤトが目を逸らしつつ口を開いた。 「……ありがとう」 「……!」 「ハヤトさん……!」 二人が驚く。ハヤトは目を逸らしたままだった。 しかし、耳が赤くなっている事にアリサが気づく。照れているのだ。 驚きつつ、ロバートが頷く。 「……ああ」 ヴァトラスとヴィクダートが握手を交わす。それは、霊戦機操者による友情の証だった。 数日後。戦いでの傷や疲労を癒し、ハヤトはロバートと二人でグラナに呼ばれた。 イシュザルトの艦長室で、グラナが二人に対して頭を下げる。 「《霊王》と《武神》に選ばれた霊戦機操者よ、この度はありがとう……」 「礼は必要ない。それより、訊いておく事がある」 そう言って、ハヤトが言葉を続ける。 「なぜ、今回の戦いで他の霊戦機は目覚めなかった? 聞いた話だと、あと五体いるはずだ」 「……確かに、その通りです。しかし、それについては説明できない」 「できない?」 「ええ。霊戦機は自らの意思で操者を選び、目覚める。その時期は誰も予測できない」 なぜ、今回の聖戦で残り五体の霊戦機が目覚めなかったのか、その謎は誰にも分からない。 そう説明するグラナに、ハヤトが舌打ちする。 「……まぁ良い。戦いが終わったなら、これで地球に帰る事も出来るな?」 「ええ。霊戦機がそれぞれの場所へと確実に」 「そうか。だったら、お前とはこれで別れだな」 ハヤトがロバートの前に手を出す。 「少しとは言え、お前のお陰で親父を……親父を偽った奴を倒せた。……ありがとう」 その言葉に、ロバートが目を見開く。そして小さく笑った。 「……いや、俺の方こそ感謝する。霊力について、少しは勉強になった」 「もう二度と使う事はないだろうがな」 「そうかもな。だが、お前とはこれで最後じゃない」 「……?」 「いつか、どこかで再会しよう。友として、お前と話がしたい」 「……!」 ハヤトが驚く。顔を俯きつつ、「ああ……」と答える。 「……お前で二人目だ」 「ん?」 「何でもない。……また、な」 「ああ」 握手する。 数時間後。イシュザルトはある場所へ辿り着いた。 神殿のような建物が見える場所――――霊戦機ヴァトラスが封印されていた場所だ。 格納庫でヴァトラスを前にしたハヤトが、胸のペンダントを握る。 「…………」 『ほら、何してるのよ? このままじゃ、何も出来ないまま終わるわよ』 『で、ですけど……』 『大丈夫、大丈夫。一緒にヴァトラスに乗った仲なんだから、全然問題ないわよ』 『あ、あれは成り行きで……』 『良いから! とっとと行く!』 後ろから聞こえてくる複数の声に気づいていたハヤトが、その方向に振り向く。そこにはアリサがいた。 他には、ミーナと言う少女と一度も顔すら見た事ない少女。二人がハヤトを見て、にっこりと笑う。 そして、アリサをハヤトの前に押し出した。アリサが二人の方を向く。 「み、ミーナさん! リューナさん!」 「じゃ、頑張って!」 「ども、お邪魔しました〜」 と、二人がその場から逃げるかのように去っていく。ハヤトは軽く溜め息をついた。 アリサに近づき、胸のペンダントを取ってアリサに渡す。 「ハヤトさん、これ……」 「返しておく。元々、その予定だったからな」 「で、ですけど……」 「大丈夫。あの時の……初めてお前と会った時の笑顔を覚えているから」 それさえあれば、これからも大丈夫。ハヤトの言葉に、アリサは頷いた。 受け取ったペンダントを首から掛け、今度は自分が身に着けていたペンダントを渡す。ハヤトは驚いた。 「これ……」 「同じ物ですけど、交換です。こうする事で、今まで以上に大切な物になるって、お爺様に教えてもらってましたので」 「良いのか?」 「はい。ハヤトさんに持っていて欲しいです」 「……分かった。ありがとう、大切にする」 「はい」 ヴァトラスが小さな唸りを上げる。それを聞いたハヤトが頷いた。 ヴァトラスの手の平に乗り、アリサと向き合う。 「……アルス、だったか? あいつに伝えておいてくれ。ザコとか言って悪かったって」 「え?」 「俺が相手じゃなかったら、あいつは誰よりも強いはずだ。霊力の扱いが上達すれば、まだ強くなれる」 「……はい、伝えておきます」 「……ありがとう。アリサに……思い出の女の子に出会えて、嬉しかった」 「はい。私も、ハヤトさんに会えて嬉しかったです……」 その言葉に、ハヤトが笑顔になる。そして、そのままヴァトラスに乗り込んだ。 格納庫が開き、ヴァトラスが飛び立つ。元いた場所へ向かいに。 アリサは最後まで、その姿を見送っていた。 遠くからハヤトとアリサの様子を見ていた複数の人間は、なぜかつまらなそうな顔をしていた。 「キスくらいすれば良いのに……アリサって、やっぱり奥手ね」 「それは流石に早いんじゃない? お互いに好きって感情はあるかもだけど」 リューナの言葉に、ミーナが言う。その横でアルスが鼻で笑った。 「ふん……最後まで上から目線だったな」 「そんな事言ってますけど、本当は嬉しかったでしょう? なにせ、ちゃんと評価されていましたからね」 「誰が嬉しいって言った、ロル!?」 「口元が緩んでますよ、アルス」 「……っ!?」 アルスの驚く表情に、三人が笑う。そして一人、アリサをまだ見ていたアランが呟いた。 「一緒に地球って世界に行けば良かったのに、姉ちゃん……」 「あれ? アランは《霊王》の事、嫌ってなかった? アリサを怪我させたからって」 ミーナの言葉に、アランが頬を掻きながら答える。 「あー……最初はそうだったんだけどなぁ……。婆ちゃんから話聞いてよぉ……」 「話?」 「おう。実はさ……」 アランがミーナに耳打ちする。それを聞いたミーナがニヤリと笑った。 「なるほど、そう言う事ね」 気づけば、自室のベッドに横たわっていた。 ヴァトラスに乗って、初めてネセリパーラへ来た場所に戻ったところまでは記憶がある。 「…………」 「戻ってきたな」 「……じじい……!」 ドアの近くに、剣を持った祖父・獣蔵がそこにいた。 ベッドから起き上がり、獣蔵の胸元を掴む。 「……じじい、全て知ってるんだな!?」 「当然じゃ。向こうで凌駕と戦った事、あの娘が死んだ事もな」 「あいつは巻き込まれただけだった!」 「そうじゃ。それについては、わしにも責任はある」 「だったら……!」 「じゃが、わしを殴ってあの娘は蘇るのか?」 「……ッ!」 手を離し、歯を噛み締める。獣蔵が話を続ける。 「一先ず、聖戦は終わりを告げた。新たなる《覇王》が現れぬ限り、戦いは起こらん」 「……させるか」 「何?」 「二度とさせるか……! あんな戦い、もう二度と起こさせてたまるか……!」 「そうは言っても、無駄な事じゃ。《覇王》の器になる人間が存在する限り、聖戦は繰り返される」 「だったら……!」 ハヤトが霊力を解放する。それを見た獣蔵は目を見開いた。 ハヤトの額に《霊王》、そして右手には《覇王》の称号が浮かび上がっていた。 「なぜ、《覇王》の称号を持っておる?」 「簡単だ。親父との戦いの時、俺の方に宿った。その前にあった称号を掻き消してな」 「何じゃと? そんな事が……」 「俺がこの二つを持っている限り、戦いは二度と起こらない。だったら、その間にこの力を消して見せる!」 「……!?」 ハヤトの言葉に、獣蔵が驚く。まさか、二つの王の力を宿していた事、戦いを終わらせると言った事。 「俺が必ず終わらせて見せる。聖戦なんてものは、二度と起こさせない……!」 それが、ハヤトが決意した事だった。
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