序章 平和への一歩を踏む為に


 イシュザルトの医務室。そこで、彼は目を覚ました。
 ゼルサンス国の将軍ジェイル=レイオニス。
「ここは……医務室か?」
「そうだ。ここは、イシュザルトの医務室だ」
「――――!?」
 半身を起き上がらせる。激痛が身体を襲った。
 ジェイルを看病していた彼女がゆっくりと彼をベッドに横たわらせる。
 それは、ジェイルにとって見た事のない彼女の姿だった。
「……ガリュドス……なぜ……?」
「私は、お前を死なせたくないと思った。だから、あの時助けたのだ」
「そうか……」
 ジェイルが彼女――――ランハードに訊く。
「……訊かせてくれ、ガリュドス。なぜ、国を裏切ったのだ?」
「私は裏切っていない」
「何……?」
「私は《太陽王》に仕える《神の獅子》。元々、ランハード=ガリュドスなどと言う人間は存在しない」
「だから、裏切っていないと言うのか……?」
「そうだ」



 イシュザルトの格納庫で、ヴァトラスが悲しみの唸りを上げる。
「……まさか、霊戦機達が……!」
 ハヤトが拳を強く握る。目の前には、霊戦機の胸部と思われる残骸が三つあった。
《冥帝王》の”中枢”によって、コクピット部以外を破壊された霊戦機。
 アルスが拳を近くの資材に叩きつける。
「くそっ! これじゃ、俺らは戦えねぇじゃないか!」
「……アラン、修理はできないだろうか?」
 ロバートが訊く。アランが容赦なく首を横に振った。
「無理。霊戦機はブラックボックスの塊で、ネセリパーラの文明でも全く解析できない機体だからな。
 仮に修理できたとしても、性能は霊力機並みになっちまう。それに、意思だっけ? それも無くなる」
「つまり、修理できても二度と《斬魔》の力は……」
「使えねぇ」
「マジかよ、それぇ……」
 流石のゼロも意気消沈していた。ハヤトが霊戦機の残骸に触れる。
 少しだけだが、まだ意思を感じる。霊戦機は、まだ生きている。
「微かだけど、霊戦機はまだ生きている……! もしかすれば、俺の力で……!」
「それはなりません。今のハヤト様では、まだ無理です」
 止められる。ランハードが後ろから近づいて来た。
 そして、彼女の肩を借りながらジェイルも一緒だった。
 ジェイルの姿を見て、ハヤトが訊く。
「ゼルサンス国の将軍、だな? 俺はハヤト。知っての通り、《霊王》だ」
「……そうだ。私はゼルサンス国三将軍が一人、『凱王』ジェイル=レイオニス。
 話は、ガリュドスから全て聞いている」
「そうか。あなたとの話は後だ。その前に、ガリュドス、さっき言っていた事は本当か?」
「はい。もうお知りになっていると思いますが、霊戦機は神が作り出した存在です。
 その神は、《太陽王》だった光の鳥。つまり、ハヤト様です」
「《太陽王》が霊戦機を作ったのは分かる。だが、なぜ今は無理なんだ?」
「それは、まだハヤト様が完全なる《太陽王》ではないからです」
《太陽王》には、二つの封印が存在する。《神の竜》と《神の獅子》の持つ封印が。
 その二つの封印を解かない限り、《太陽王》は本来の力を引き出せない。
「私は《太陽王》の持つ神の剣の封印を。《神の竜》は無限に輝く光の封印を。
 霊戦機を蘇らせるには、無限に輝く光がなければ不可能なのです」
「つまり、《神の竜》の封印がなければ、霊戦機を蘇らせる力を得られない?」
「そう言う事です」
 無限に輝く光。それが、本当の《太陽王》の力。
 つまり、今の光の力は、まだ小さな力だと言う事だ。
「早く《神の竜》を見つける必要があるな……。霊戦機の為にも」
 それに、戦力的な事もある。ハヤトにとって、霊戦機は操者共に信頼できる存在だ。
「……アラン、残り三体の霊戦機が封印されている場所は全て分かるか?」
「お、おう。ばーちゃんが前に言ってた場所に封印されてるはずだぜ」
「そうか。イシュザルト」
 ハヤトがイシュザルトに命令する。
「三体の霊戦機の封印の場所で、一番近いのはどこだ?」
『《空凰》の霊戦機ブレイガストの眠る地と確認』
「そこに向かってくれ。以後、お前への命令は艦長並びに俺、そしてガリュドス、副長が行う。良いな?」
『了解』
 イシュザルトが答える。それを聞いていたアランは、目を点にしていた。
「……何で兄貴の命令を聞いてんだよ……? イシュザルトは艦長と時々、副長の命令しか聞かないはず」
「イシュザルトは霊戦機の母艦だからな。当然、《霊王》の血を継ぐ俺の命令だって聞くさ」
「……さいですか。色んな意味で兄貴は凄ぇよ、やっぱ……」
「凄いのは、俺の中に流れる《霊王》の血だ。とにかく、目的は決まっている。あとは……」
 ハヤトがジェイルへと目を向ける。
「ジェイル=レイオニス。あなたに頼みたい事がある」
「頼み……だと?」
「そうだ。アルフォリーゼ国、ゼルサンス国の為の、な」
 ハヤトの強い意志に溢れる瞳がジェイルを見ていた。



 荒れ果てた大地を見渡せる場。そこに、《冥帝王》の”中枢”は姿を見せた。
「少し待たせたね。”右腕”」
 話し掛ける。彼の目の前には、一人の女性が立っていた。
 血塗られたかのような赤い髪の女性。冷たさを思わせる瞳が”中枢”を見る。
《冥帝王》の”右腕”。最も頼りになる存在。
「成果は?」
「”脳”のみ。”爪”と”牙”は倒されているようで」
「”爪”と”牙”はこっちも確認している。そう、”脳”は取り込んだわけだ、君が?」
 そう訊くと”右腕”が頷く。
「じゃあ、残っているのは”核”か」
「すぐに見つける」
「しなくて良いよ。頼りないけど、目玉の方が確実性があるから。君には、他にやって欲しい事もあるしね」
「何を?」
「”脳”を取り込んだ君にしかできない事だよ。そう、あの忌々しい《太陽王》を倒す為の、ね」



 イシュザルトのミーティングルーム。そこで、ジェイルはハヤトからの頼みを聞いて驚いた。
「休戦だと?」
「そうだ。今、アルフォリーゼ国とゼルサンス国が戦っている場合じゃない」
《冥帝王》と言う存在を前に、人間同士で戦っている場合ではない。
 全ての滅びを企む強大な敵。その敵を倒すには、平和を願い人々の想いが必要になる。
 ハヤトはそう考え、和平は難しいとしても、休戦の言葉を掛けた。
 ジェイルが渋い顔をする。
「……それは難しいだろう。我が国の王は、アルフォリーゼ国を憎んでいる。休戦など無意味に近い」
「だからと言って、このまま戦わせるわけにはいかない。平和は、犠牲の上に成り立ってはいけない」
「理想に過ぎないな。平和とは、勝者が起こして成り立つもの。犠牲は付き物だ」
「本当にそんな事を言っているのか?」
「――――!」
 ジェイルが目を見開く。自分の放った言葉が本心ではないと気づかれていた為に。
「……俺は、戦いで大切な人を失った。俺の手で殺してしまった。
 そんな犠牲があったからこそ、俺は知った。人を失う辛さ、人を殺める辛さを。
 だからこそ、俺は誰も死なせたくない。平和の為にも、もう二度と何も失いたくない」
「《霊王》……」
「あなたはどうなんだ、ジェイル=レイオニス? 俺が願う平和は、さっき言った通りだ」
「……私も……同じだ」
 ジェイルがハヤトを見る。強い意志に溢れ、その信念を貫き通そうとしている瞳を。
 過去、伝説として語られてきた王達も、彼のような人間だったのだろうか。
 不思議と引き寄せられる。そんな瞳をしている。
「……もし叶うのならば、犠牲など生み出したくは無い」
 その一言に、ランハードがジェイルを見る。
「レイオニス……」
「良いだろう。及ばぬかも知れないが、国王陛下に進言をしてみる」
「ありがとう、ジェイル=レイオニス――――」
 ハヤトとジェイルが握手を交えようとした瞬間、イシュザルトの警報が鳴り始める。
『敵反応確認。該当データ無し』
「何!? こんな時に、《冥帝王》が現れたのか……!」
「ハヤト様、《冥帝王》の動きが早いです。何か策があるものと思われます」
「そうだろうな。しかし、戦うしかない。ガリュドス、イシュザルトは任せる」
「了解しました」
 そしてハヤトが駆け出す。ジェイルがランハードに訊いた。
「《冥帝王》と言うのが敵なのか、ガリュドス?」
「そうだ。古の頃、我が主が封印した存在。それこそが、全世界にとって最大の敵だ」

 倒さなければならない存在。この時、ハヤトはまだ知る由などなかった。

 自分の真実を。そして――――



 第二部終章 勝利と敗北

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