第三章 蘇る滅びの神


 闇のみが広がる空間。そこで、《邪神王》雷魔と《冥帝王》の”中枢”が激突する。
「ダァァァクディスグレイザァァァアアアアアアッ!」
 ダークネス・ジハードが闇の波動を放つ。”中枢”のオルハリゼートは、左腕の盾で防御した。
 瞬間、雷魔が神々の魔剣に力を込める。
「ダーク・エクスプロォォォドッ!」
『無駄だ。ヴァレシオス・ブレード』
 オルハリゼートが剣を出し、攻撃を阻止する。その強さは圧倒的だった。
《冥帝王》の中でも優れた力を持つ”中枢”を相手に、《邪神王》では全く歯が立たない。
『すぐに消してあげるよ。君じゃ、時間潰しにすらならない』
「時間潰しだと? ふざけるな、《冥帝王》ッ!」
 胸部から深紅の波動を無数に放つ。オルハリゼートは防御もせずに呑み込まれた。
 神々の魔剣に闇の力を全て込め、ダークネス・ジハードが構える。
「テメェの負けだ! ダァァァクネス・エンド・ジェノサイドォォォオオオオオオッ!」
 剣から放たれる闇の衝撃波。刹那、オルハリゼートが剣で薙ぎ払った。
「何ッ……!?」
『なるほど、強いと言えば強いのか。その剣の力がほとんどみたいだけどね』
 反撃。オルハリゼートの放った波動が、ダークネス・ジハードの手から神々の魔剣を離す。
『これで終わりだ』
 オルハリゼートが手を振りかざす。ダークネス・ジハードの動きが止まった。
『ナイトメア・スペリオル』
 放たれる巨大な暗黒の波動。ダークネス・ジハードは成す術もないまま、呑み込まれた。



 イシュザルトの格納庫。ハヤトは神の剣を手に、光の力を解放した。
 霊戦機の残骸に光が宿り、再びその姿を取り戻していく。
 復活する三体の霊戦機。操者であるロバート、アルス、ゼロがそれぞれの愛機に語りかける。
「戦えるか、ヴィクトリアス?」
「今度こそ、奴らをぶっ倒すぞ、ギガティリス!」
「俺らも負けらんねぇよな、リクオー!」
《冥帝王》の”中枢”に負けた悔しさを晴らす。その想いを霊戦機にぶつける。
 しかし、返答がない。ハヤトが首を横に振った。
「復活したばかりの霊戦機に意思はない。いや、今はまだ仮死状態と言って良い」
「仮死状態……? なぜ完全に復活させないんだ?」
「”霊戦機としては”復活している。あとは、操者なんだ」
 ハヤトが三人を見る。
「ロバート、アルス、ゼロ。お前達は何で《斬魔》、《獣神》、《双龍》なんだ?」
「何でって、こいつらが選んだからだろ」
「違う。その答えじゃ、真の霊戦機操者とは言えない」
「何が言いてぇんだ?」
 アルスがハヤトを睨む。ハヤトは答えた。
「霊戦機は、初代の操者が初めてその力を目覚めさせ、今の操者であるお前らが進化させた存在だ。
 それがどう言う事なのか、考えろ。真の霊戦機操者になる為に」
「《冥帝王》と言う敵と戦う為に、か……」
「ああ」
 頷く。《冥帝王》との戦いは、怨霊機との戦いとは全く違う。
 生を受ける存在全ての怨念によって誕生する存在よりも強大で、恐ろしい存在。それが《冥帝王》。
 そんな強敵を相手に霊戦機が戦うには、操者が”真の操者”となるしかない。
「次はイシュザルトだ。ヴァルキュリア、グーングニル」
 右手に神の剣、左手に神の槍を構える。
 光の力を神の槍で増幅させ、神の剣に収集させる。
 光がそのまま床へと放たれ、イシュザルト全体が光に包まれた。
 人工知能イシュザルトが言う。
『イシュザルト、全回復。出力安定』
「主砲も大丈夫だな?」
『肯定』
「これで準備完了だな。あとは――――」
『警告! 警告! 前方に巨大なるエネルギー反応。敵データ該当、《冥帝王》』
 イシュザルトが告げる。早速か、とハヤトはヴァトラスに話し掛けた。
「いけるか、ヴァトラス?」
 その言葉に、ヴァトラスが低い唸りを上げる。それを聞いてハヤトは頷いた。
 ヴァトラスが手を差し伸べ、ハヤトがそれに乗る。すぐにコクピットへ乗り込もうとした。
 が、ヴァトラスは動かない。
「ヴァトラス?」
「――――ハヤトさん!」
 途端、後ろから声が聞こえる。ハヤトは振り向いた。
 アリサがすぐ近くまで走ってきていた。
「アリサ? 一体、どうして……?」
「ハヤトさん、私も一緒に戦います!」
「一緒にって……危険だ! 下手すれば死ぬかもしれない!」
「ですけど、ユキノちゃんを助けないと……!」
 アリサの瞳に涙が浮かぶ。それを見たハヤトはアリサを優しく抱きしめた。
「ユキノちゃん、今頃泣いているはずです……怖くて泣いて……きっとパパ、ママって……」
「ああ。だから、必ず助ける。その為にもアリサには待っていて欲しいんだ」
「ハヤトさん……」
「三人で帰るんだ。必ず家族三人で帰ろう。約束だ」
「……はい」
 静かに唇を重ねる。そして、ハヤトはヴァトラスに乗り込んだ。



 戦艦イシュザルトの前方の空間が引き裂かれる。そこから、二体の魔が姿を現した。
《冥帝王》の”右腕”と”目玉”。手始めに”右腕”が攻撃を仕掛ける。
『ダーク・ノヴァ』
 放たれる闇の波動。イシュザルトへ襲い掛かるが、即座に阻止された。
 イシュザルトの目の前に立ちはだかる、巨大な竜と獅子。
 巨大な竜の口から、黄金の炎が吐かれる。
『テラフレイオ!』
『――――』
”目玉”がその瞳を鋭くし、黄金の炎を遮る。
「シャイニング・メテオッ!」
 瞬間、無数の光の波動による追撃が繰り出された。”右腕”が翼を盾へと変化させて防ぐ。
 二体の目の前に立つハヤトのファイナルヴァトラス。神々しい光が周辺を照らす。
 それは、まさしく神の姿だった。巨大な竜――――《神の竜》ドラグレイオが言う。
『調子はよろしいでしょうか、《太陽王》?』
「ああ。”右腕”は俺が直接相手をする。ドラグレイオは”目玉”を。レオーザは……」
『”中枢”の居場所を探します』
「頼む」
 巨大な獅子――――《神の獅子》レオーザの言葉に頷く。ハヤトは”中枢”の姿がない事を気にしていた。
 姿がないと言う事は、間違いなく”核”であるユキノを取り込む為に何かをやっているはずだ。
 それを阻止する為にも、居場所を掴む必要がある。奴を”完全体”にさせない為にも。
 ファイナルヴァトラスを前に、”右腕”が言う。
『《太陽王》、あなたは我々を倒すどころか封印もできない』
「それはどうだろうな? 確かに俺一人じゃ無理だが、光と闇が力を合わせれば……」
『それが不可能だと言っている』
”右腕”が剣を出す。人の血を吸い尽くしたかのような、禍々しい真紅の刀身を持つ剣。
 それを見て、ハヤトが目を見開く。
「神々の魔剣ルシフェル!? なぜ、お前が……!?」
『《邪神王》を始末したからです』
「何……!?」
『《邪神王》は”中枢”によって滅びました。あとは、あなたを消すのみです、《太陽王》よ』
 神々の魔剣が振るわれる。巨大な衝撃波が放たれた。
 光り輝く神の剣で薙ぎ払う。が、すでに次の衝撃波が迫っていた。
「アリアス!」
 神の盾で防御する。ハヤトは舌打ちした。”右腕”の攻撃速度や強さは、神々の魔剣によってさらに増した。
《邪神王》が倒されたのも誤算だった。これでは、完全な究極結界も作れない。
 歯を噛み締め、どうするか考える。その時、神の剣が話し掛けてきた。

 ――――主よ、神々の魔剣を手にせよ。

「魔剣を……? しかし、俺に魔剣を持つ事は……」

 ――――可能だ。ルシフェルが素直に言う事を聞けば。

「……なるほど、そう言う事か」
 すぐに納得する。神々の魔剣は、元々《太陽王》に力を託した創生の神が作り出した剣だ。
 光と闇は表裏一体の力。光を司る神の剣を作った際、創生の神は対となる闇を司る剣を作ったのだ。
 それが神々の魔剣ルシフェルであり、ルシフェルは己の意思で《邪神王》を主とした。
 つまり、神々の魔剣を創生の神の子である《太陽王》が持てないと言うのは変なのだ。
「魔剣の新たな主になるとして……問題は、どうやって奪い返すか、だな……」
”右腕”から奪い返す。それは至難に近いだろう。しかし、やらなければならない。
 神の剣に霊力を集中させ、光を集める。羽ばたく翼が赤熱と黄金の光を放つ。
 それを見た”右腕”が、急接近して神々の魔剣を振るう。
「太陽凰光翼斬ッ!」
 しかし、ハヤトはそれを読んでいた。赤熱と黄金の光が”右腕”を包み込み、その動きを止める。
 そして振り落とされる神の剣が見事、”右腕”と神々の魔剣を切り離した。
『――――!?』
「今だ!」
 宙へと舞った神々の魔剣を素早く手に取る。その時、身体中に激痛が走った。



 ドラグレイオが《冥帝王》の”目玉”と戦う。
『ブラスト・ハウル!』
 光の衝撃波を放つ。”目玉”はその巨大な瞳で衝撃波を睨んだ。
”目玉”の全身から音波が放たれ、光の衝撃波を打ち消す。
『無力化か……だが、その程度の無力化では……!』
『――――』
 途端、”目玉”の瞳が光り、目の前に数体の化け物が現れる。
 魔の力で生み出された、漆黒の色しか持たない悪魔のような化け物。
 ドラグレイオが口内に光を集める。
『テラフレイオ!』
 放たれる黄金の炎。漆黒の化け物達は軽々と避けた。
 身体中に取り付かれる。振り切ろうとするが、離れない。
『くっ、ならば……!』
「雷光斬裂閃ッ!」
「ウォォォタァァァ、バティカルッ!」
「おらおらおらぁっ!」
 漆黒の化け物を襲う攻撃。ドラグレイオは全身を使って化け物達を振り払った。
 そして攻撃して来た方向を見る。三体の霊戦機が出撃していた。
『霊戦機操者……なぜ……!?』
 その問いに、ロバートが答える。
「俺がなぜ《斬魔》なのか、その答えは見つかっていない。しかし、このまま出撃しないのも気が引ける」
「そう言う事だ。真の操者になるまで大人しくするわけにはいかねぇだろ?」
「とにかく敵を倒せば良いんだろぉ!?」
 アルス、ゼロも続く。ドラグレイオはふっと笑った。
『ならば、援護を頼みます。どうも、この身体では分が悪いようで』
「任せろ。あの程度の化け物くらい、ヴィクトリアスの意思がなくても倒せる!」
「ギガティリスに頼る気はねぇ! 俺の拳さえあれば、あんな奴らぶん殴れるからな!」
「おっしゃ! 俺は燃えてきたぜぇぇぇっ!」



 身体中に激痛が走る。ハヤトは歯を噛み締めた。
 神々の魔剣が話し掛けてくる。

 ――――無駄だ。光の力を持つお前が、闇の力を持つ我を従える事はできぬ。

 光と闇は表裏一体。決して、合わせる事ができない力。

 ――――それに、我を手にしてどうするのだ、太陽の王よ? 我が主がいなければ、奴らは倒せぬ。

「……倒せる」

 ――――倒せぬ。

「倒せる! 俺は絶対に《冥帝王》には負けない! 必ず、この戦いを終わらせてみせる!」

 ――――正気か?

「ああ。だからこそ、力を貸せ! 《邪神王》が滅んだ今、俺を主として、その力を解き放て!」

 ――――良かろう。今、この時を持って、我の主をお前とする。この力、主に託す!

 神々の魔剣が光り輝く。ついに、《太陽王》を主とした。
 光と闇の力が溢れ、ヴァトラスが唸りを上げる。
「行くぞ、ヴァルキュリア、ルシフェル!」
 二本の剣が応える。ハヤトは力を集中させた。
 剣を両方とも前に突き出す。光と闇の力が収集され、光の球体が作られた。
「クロス・エクステンションッ!」
 放たれる球体。”右腕”は翼を使って防御した――――が、簡単に破られた。
 光の球体が翼を焼き尽くし、”右腕”に直撃する。
 声にならない悲痛の叫びを上げる。ハヤトが追撃を逃さず、神の剣に光の力を集中させる。
「シャイニング・メテオッ!」
『スパイラル・ザ・サタンッ!』
 無数の光の波動が無力化される。ハヤトは目を見開いた。
”右腕”の目の前から姿を現す一体の機体――――《太陽王》の本来の肉体だったオルハリゼート。
 そして、その右手には闇の球体の中で眠る娘の姿。
「”中枢”……! それに、ユキノ!」
『待たせたね、《太陽王》……。ようやく、全ての準備が整ったよ』
「何だと……!?」
『さあ、僕の元へ戻れ、”右腕”に”目玉”!』
 オルハリゼートの左手から魔が伸び、二体を覆う。そして一気に取り込んだ。
『見せてあげるよ、これが僕の――――いや、我の本来の姿だ』
 ユキノが入っている闇の球体がオルハリゼートの胸部へと呑み込まれていく。ハヤトは思わず叫んだ。
 しかし遅い。オルハリゼートは、すでに”核”を取り込み、その全身を暗黒へと覆われた。
 暗黒が空へと立ち昇り、空を覆って光を隠す。暗黒に覆われたオルハリゼートが巨大化する。
 巨大な暗黒の球体へ変化する。その頂上から《神の獅子》と同じ位の大きさを持つ上半身が姿を見せた。
 異形。そう呼ぶに相応しい、イシュザルトを余裕で上回る巨大な存在が、暗黒の空と共に出現した。
『これが完全なる我が姿……我は《冥帝王》。全てを滅ぼす神……我に抗わず、滅びの道を受け入れるが良い!』

 ついに、全ての魔の根源であり、全てを破滅へと導く神が蘇った……。



 第二章 全ての真実

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