闇のみが広がる空間。そこで、《邪神王》雷魔と《冥帝王》の”中枢”が激突する。
「ダァァァクディスグレイザァァァアアアアアアッ!」
ダークネス・ジハードが闇の波動を放つ。”中枢”のオルハリゼートは、左腕の盾で防御した。
瞬間、雷魔が神々の魔剣に力を込める。
「ダーク・エクスプロォォォドッ!」
『無駄だ。ヴァレシオス・ブレード』
オルハリゼートが剣を出し、攻撃を阻止する。その強さは圧倒的だった。
《冥帝王》の中でも優れた力を持つ”中枢”を相手に、《邪神王》では全く歯が立たない。
『すぐに消してあげるよ。君じゃ、時間潰しにすらならない』
「時間潰しだと? ふざけるな、《冥帝王》ッ!」
胸部から深紅の波動を無数に放つ。オルハリゼートは防御もせずに呑み込まれた。
神々の魔剣に闇の力を全て込め、ダークネス・ジハードが構える。
「テメェの負けだ! ダァァァクネス・エンド・ジェノサイドォォォオオオオオオッ!」
剣から放たれる闇の衝撃波。刹那、オルハリゼートが剣で薙ぎ払った。
「何ッ……!?」
『なるほど、強いと言えば強いのか。その剣の力がほとんどみたいだけどね』
反撃。オルハリゼートの放った波動が、ダークネス・ジハードの手から神々の魔剣を離す。
『これで終わりだ』
オルハリゼートが手を振りかざす。ダークネス・ジハードの動きが止まった。
『ナイトメア・スペリオル』
放たれる巨大な暗黒の波動。ダークネス・ジハードは成す術もないまま、呑み込まれた。
イシュザルトの格納庫。ハヤトは神の剣を手に、光の力を解放した。
霊戦機の残骸に光が宿り、再びその姿を取り戻していく。
復活する三体の霊戦機。操者であるロバート、アルス、ゼロがそれぞれの愛機に語りかける。
「戦えるか、ヴィクトリアス?」
「今度こそ、奴らをぶっ倒すぞ、ギガティリス!」
「俺らも負けらんねぇよな、リクオー!」
《冥帝王》の”中枢”に負けた悔しさを晴らす。その想いを霊戦機にぶつける。
しかし、返答がない。ハヤトが首を横に振った。
「復活したばかりの霊戦機に意思はない。いや、今はまだ仮死状態と言って良い」
「仮死状態……? なぜ完全に復活させないんだ?」
「”霊戦機としては”復活している。あとは、操者なんだ」
ハヤトが三人を見る。
「ロバート、アルス、ゼロ。お前達は何で《斬魔》、《獣神》、《双龍》なんだ?」
「何でって、こいつらが選んだからだろ」
「違う。その答えじゃ、真の霊戦機操者とは言えない」
「何が言いてぇんだ?」
アルスがハヤトを睨む。ハヤトは答えた。
「霊戦機は、初代の操者が初めてその力を目覚めさせ、今の操者であるお前らが進化させた存在だ。
それがどう言う事なのか、考えろ。真の霊戦機操者になる為に」
「《冥帝王》と言う敵と戦う為に、か……」
「ああ」
頷く。《冥帝王》との戦いは、怨霊機との戦いとは全く違う。
生を受ける存在全ての怨念によって誕生する存在よりも強大で、恐ろしい存在。それが《冥帝王》。
そんな強敵を相手に霊戦機が戦うには、操者が”真の操者”となるしかない。
「次はイシュザルトだ。ヴァルキュリア、グーングニル」
右手に神の剣、左手に神の槍を構える。
光の力を神の槍で増幅させ、神の剣に収集させる。
光がそのまま床へと放たれ、イシュザルト全体が光に包まれた。
人工知能イシュザルトが言う。
『イシュザルト、全回復。出力安定』
「主砲も大丈夫だな?」
『肯定』
「これで準備完了だな。あとは――――」
『警告! 警告! 前方に巨大なるエネルギー反応。敵データ該当、《冥帝王》』
イシュザルトが告げる。早速か、とハヤトはヴァトラスに話し掛けた。
「いけるか、ヴァトラス?」
その言葉に、ヴァトラスが低い唸りを上げる。それを聞いてハヤトは頷いた。
ヴァトラスが手を差し伸べ、ハヤトがそれに乗る。すぐにコクピットへ乗り込もうとした。
が、ヴァトラスは動かない。
「ヴァトラス?」
「――――ハヤトさん!」
途端、後ろから声が聞こえる。ハヤトは振り向いた。
アリサがすぐ近くまで走ってきていた。
「アリサ? 一体、どうして……?」
「ハヤトさん、私も一緒に戦います!」
「一緒にって……危険だ! 下手すれば死ぬかもしれない!」
「ですけど、ユキノちゃんを助けないと……!」
アリサの瞳に涙が浮かぶ。それを見たハヤトはアリサを優しく抱きしめた。
「ユキノちゃん、今頃泣いているはずです……怖くて泣いて……きっとパパ、ママって……」
「ああ。だから、必ず助ける。その為にもアリサには待っていて欲しいんだ」
「ハヤトさん……」
「三人で帰るんだ。必ず家族三人で帰ろう。約束だ」
「……はい」
静かに唇を重ねる。そして、ハヤトはヴァトラスに乗り込んだ。
戦艦イシュザルトの前方の空間が引き裂かれる。そこから、二体の魔が姿を現した。
《冥帝王》の”右腕”と”目玉”。手始めに”右腕”が攻撃を仕掛ける。
『ダーク・ノヴァ』
放たれる闇の波動。イシュザルトへ襲い掛かるが、即座に阻止された。
イシュザルトの目の前に立ちはだかる、巨大な竜と獅子。
巨大な竜の口から、黄金の炎が吐かれる。
『テラフレイオ!』
『――――』
”目玉”がその瞳を鋭くし、黄金の炎を遮る。
「シャイニング・メテオッ!」
瞬間、無数の光の波動による追撃が繰り出された。”右腕”が翼を盾へと変化させて防ぐ。
二体の目の前に立つハヤトのファイナルヴァトラス。神々しい光が周辺を照らす。
それは、まさしく神の姿だった。巨大な竜――――《神の竜》ドラグレイオが言う。
『調子はよろしいでしょうか、《太陽王》?』
「ああ。”右腕”は俺が直接相手をする。ドラグレイオは”目玉”を。レオーザは……」
『”中枢”の居場所を探します』
「頼む」
巨大な獅子――――《神の獅子》レオーザの言葉に頷く。ハヤトは”中枢”の姿がない事を気にしていた。
姿がないと言う事は、間違いなく”核”であるユキノを取り込む為に何かをやっているはずだ。
それを阻止する為にも、居場所を掴む必要がある。奴を”完全体”にさせない為にも。
ファイナルヴァトラスを前に、”右腕”が言う。
『《太陽王》、あなたは我々を倒すどころか封印もできない』
「それはどうだろうな? 確かに俺一人じゃ無理だが、光と闇が力を合わせれば……」
『それが不可能だと言っている』
”右腕”が剣を出す。人の血を吸い尽くしたかのような、禍々しい真紅の刀身を持つ剣。
それを見て、ハヤトが目を見開く。
「神々の魔剣ルシフェル!? なぜ、お前が……!?」
『《邪神王》を始末したからです』
「何……!?」
『《邪神王》は”中枢”によって滅びました。あとは、あなたを消すのみです、《太陽王》よ』
神々の魔剣が振るわれる。巨大な衝撃波が放たれた。
光り輝く神の剣で薙ぎ払う。が、すでに次の衝撃波が迫っていた。
「アリアス!」
神の盾で防御する。ハヤトは舌打ちした。”右腕”の攻撃速度や強さは、神々の魔剣によってさらに増した。
《邪神王》が倒されたのも誤算だった。これでは、完全な究極結界も作れない。
歯を噛み締め、どうするか考える。その時、神の剣が話し掛けてきた。
――――主よ、神々の魔剣を手にせよ。
「魔剣を……? しかし、俺に魔剣を持つ事は……」
――――可能だ。ルシフェルが素直に言う事を聞けば。
「……なるほど、そう言う事か」
すぐに納得する。神々の魔剣は、元々《太陽王》に力を託した創生の神が作り出した剣だ。
光と闇は表裏一体の力。光を司る神の剣を作った際、創生の神は対となる闇を司る剣を作ったのだ。
それが神々の魔剣ルシフェルであり、ルシフェルは己の意思で《邪神王》を主とした。
つまり、神々の魔剣を創生の神の子である《太陽王》が持てないと言うのは変なのだ。
「魔剣の新たな主になるとして……問題は、どうやって奪い返すか、だな……」
”右腕”から奪い返す。それは至難に近いだろう。しかし、やらなければならない。
神の剣に霊力を集中させ、光を集める。羽ばたく翼が赤熱と黄金の光を放つ。
それを見た”右腕”が、急接近して神々の魔剣を振るう。
「太陽凰光翼斬ッ!」
しかし、ハヤトはそれを読んでいた。赤熱と黄金の光が”右腕”を包み込み、その動きを止める。
そして振り落とされる神の剣が見事、”右腕”と神々の魔剣を切り離した。
『――――!?』
「今だ!」
宙へと舞った神々の魔剣を素早く手に取る。その時、身体中に激痛が走った。
ドラグレイオが《冥帝王》の”目玉”と戦う。
『ブラスト・ハウル!』
光の衝撃波を放つ。”目玉”はその巨大な瞳で衝撃波を睨んだ。
”目玉”の全身から音波が放たれ、光の衝撃波を打ち消す。
『無力化か……だが、その程度の無力化では……!』
『――――』
途端、”目玉”の瞳が光り、目の前に数体の化け物が現れる。
魔の力で生み出された、漆黒の色しか持たない悪魔のような化け物。
ドラグレイオが口内に光を集める。
『テラフレイオ!』
放たれる黄金の炎。漆黒の化け物達は軽々と避けた。
身体中に取り付かれる。振り切ろうとするが、離れない。
『くっ、ならば……!』
「雷光斬裂閃ッ!」
「ウォォォタァァァ、バティカルッ!」
「おらおらおらぁっ!」
漆黒の化け物を襲う攻撃。ドラグレイオは全身を使って化け物達を振り払った。
そして攻撃して来た方向を見る。三体の霊戦機が出撃していた。
『霊戦機操者……なぜ……!?』
その問いに、ロバートが答える。
「俺がなぜ《斬魔》なのか、その答えは見つかっていない。しかし、このまま出撃しないのも気が引ける」
「そう言う事だ。真の操者になるまで大人しくするわけにはいかねぇだろ?」
「とにかく敵を倒せば良いんだろぉ!?」
アルス、ゼロも続く。ドラグレイオはふっと笑った。
『ならば、援護を頼みます。どうも、この身体では分が悪いようで』
「任せろ。あの程度の化け物くらい、ヴィクトリアスの意思がなくても倒せる!」
「ギガティリスに頼る気はねぇ! 俺の拳さえあれば、あんな奴らぶん殴れるからな!」
「おっしゃ! 俺は燃えてきたぜぇぇぇっ!」
身体中に激痛が走る。ハヤトは歯を噛み締めた。
神々の魔剣が話し掛けてくる。
――――無駄だ。光の力を持つお前が、闇の力を持つ我を従える事はできぬ。
光と闇は表裏一体。決して、合わせる事ができない力。
――――それに、我を手にしてどうするのだ、太陽の王よ? 我が主がいなければ、奴らは倒せぬ。
「……倒せる」
――――倒せぬ。
「倒せる! 俺は絶対に《冥帝王》には負けない! 必ず、この戦いを終わらせてみせる!」
――――正気か?
「ああ。だからこそ、力を貸せ! 《邪神王》が滅んだ今、俺を主として、その力を解き放て!」
――――良かろう。今、この時を持って、我の主をお前とする。この力、主に託す!
神々の魔剣が光り輝く。ついに、《太陽王》を主とした。
光と闇の力が溢れ、ヴァトラスが唸りを上げる。
「行くぞ、ヴァルキュリア、ルシフェル!」
二本の剣が応える。ハヤトは力を集中させた。
剣を両方とも前に突き出す。光と闇の力が収集され、光の球体が作られた。
「クロス・エクステンションッ!」
放たれる球体。”右腕”は翼を使って防御した――――が、簡単に破られた。
光の球体が翼を焼き尽くし、”右腕”に直撃する。
声にならない悲痛の叫びを上げる。ハヤトが追撃を逃さず、神の剣に光の力を集中させる。
「シャイニング・メテオッ!」
『スパイラル・ザ・サタンッ!』
無数の光の波動が無力化される。ハヤトは目を見開いた。
”右腕”の目の前から姿を現す一体の機体――――《太陽王》の本来の肉体だったオルハリゼート。
そして、その右手には闇の球体の中で眠る娘の姿。
「”中枢”……! それに、ユキノ!」
『待たせたね、《太陽王》……。ようやく、全ての準備が整ったよ』
「何だと……!?」
『さあ、僕の元へ戻れ、”右腕”に”目玉”!』
オルハリゼートの左手から魔が伸び、二体を覆う。そして一気に取り込んだ。
『見せてあげるよ、これが僕の――――いや、我の本来の姿だ』
ユキノが入っている闇の球体がオルハリゼートの胸部へと呑み込まれていく。ハヤトは思わず叫んだ。
しかし遅い。オルハリゼートは、すでに”核”を取り込み、その全身を暗黒へと覆われた。
暗黒が空へと立ち昇り、空を覆って光を隠す。暗黒に覆われたオルハリゼートが巨大化する。
巨大な暗黒の球体へ変化する。その頂上から《神の獅子》と同じ位の大きさを持つ上半身が姿を見せた。
異形。そう呼ぶに相応しい、イシュザルトを余裕で上回る巨大な存在が、暗黒の空と共に出現した。
『これが完全なる我が姿……我は《冥帝王》。全てを滅ぼす神……我に抗わず、滅びの道を受け入れるが良い!』
ついに、全ての魔の根源であり、全てを破滅へと導く神が蘇った……。
|