第四章 奇跡、起きる時


 ついに完全体となってしまった《冥帝王》。ハヤトは歯を噛み締めた。
 助けなければいけなかった家族を助けられず、全てを滅ぼす神を蘇らせてしまった。
《冥帝王》が魔の力を集中させる。
『完全体となった今、残るはお前を消す事……滅べ、《太陽王》!』
 放たれる。ハヤトは神の盾を構えて防御した。
 剣を前に突き出し、光と闇の力を集中させる。
「クロス・エクステンションッ!」
 放つ。《冥帝王》は呆気なくそれを防御した。
『無駄だ。我は神そのもの……神の子であるお前では決して倒す事はできぬ』
「そんな事はない! お前を倒す為に神の力を授かった存在……それが俺だ!」
『だから無駄なのだ。私を倒すと言う事は即ち、神を超えると言う事なのだ!』
 魔の力を放つ。ハヤトが舌打ちしつつも、神の剣を振るった。
「この強さ……封印する前よりも強い……!」
『当然だ。我が部位以外に様々な生命を喰らったのだからな』
「何……!?」
『そして、今度は”永遠なる命”たる糧を喰らう』
「そうはさせるか! お前の思い通りにはさせない!」
 ファイナルヴァトラスが宙を舞い、神の剣に眩い光を集める。
 大切な人を守ると言う想い、大切な家族を助けると言う想いを込めて、ハヤトが《冥帝王》を睨んだ。
「レジェンド・ヴァァァァァァドッ!」
 光の波動を放つ。《冥帝王》は魔の力で盾を作り出した。
 魔の盾の前に散る光の波動。ハヤトが舌打ちする。
 その時、《冥帝王》にいくつもの攻撃が放たれた。
『テラフレイオ!』
『シャインバースト!』
「斬魔旋風!」
「アクアウィザーディストォォォッ!」
「ミーナちゃんに教わったグランドリーフゥゥゥゥゥゥッ!」
《神の竜》と《神の獅子》、そして三体の霊戦機だ。
「これが《冥帝王》……なんて大きさだ……!」
「だが、逆に的がデカくて良いぜ」
「絶対にぶっ倒すっ!」
 三体の霊戦機が挑む。ハヤトはそれを止めようとしたが遅かった。
 まだ彼らでは無理だ。まだ、本当の意味で”操者”になっていない彼らでは。
 そんなハヤトに《神の竜》と《神の獅子》が話し掛ける。
『心配無用かと、ハヤト様。彼らなら、真の操者になれるはずです』
「……ああ。俺もそう信じている。けどな、ドラグレイオ、まだ三人は……」
『信じましょう。彼らなら、きっと……!』
 レオーザの言葉に、ハヤトが頷く。そして、ファイナルヴァトラスが突撃した。
《冥帝王》が魔の力を見せる。
『我は神だと何度言えば分かる……貴様達の相手はこれで十分だ!』
 巨大な暗黒の球体から、いくつもの触手が伸び、その先端が姿を変えていく。
 漆黒の翼に深紅の瞳。それは、オルハリゼートと呼ばれた機体の姿をしていた。
「オルハリゼート!? まさか、作り出したのか……!?」
『お前には感謝しているのだ。オルハリゼートと呼ばれる力を我に与えてくれたのだからな』
「くっ……!」
『しかし、このオルハリゼートはオリジナルと違い、我が力によって強大な力を得ているぞ』
 いくつものオルハリゼートがヴァトラス以外に標的を定める。
『滅ぼすが良い、我が力よ!』
「ドラグレイオ、レオーザ!」
 ハヤトの言葉に、《神の竜》と《神の獅子》が反応する。
「神獣太陽破ァァァッ!」
 ヴァトラスから光の力が送られ、二体の口から蒼い光と赤い光の波動が放たれた。
 二つの波動に呑み込まれる数体のオルハリゼート。
 しかし、全てを倒せていない。まだ何体か残っている。
「残りも一気に――――!」
『そうはさせぬぞ、《太陽王》よ! お前には我が魔を思う存分見せてくれる!』
《冥帝王》が巨大な暗黒の波動を放つ。



《冥帝王》が作り出した複数のオルハリゼートが霊戦機に襲い掛かる。
「雷光斬裂閃ッ!」
 ヴィクトリアスが二刀の剣に雷を走らせて斬る。オルハリゼートは簡単に防御した。
 ロバートが舌打ちしつつも、攻撃を続ける。
「炎狼閃裂斬ッ!」
 今度は剣に炎を走らせて斬る――――が、またしても防御された。
 オルハリゼートが暗黒の剣を生成し、振り下ろす。ヴィクトリアスが剣で受け止める。
 その時、剣に亀裂が入り、砕け散った。
「剣が……!?」
 目を見開くロバート。その瞬間、オルハリゼートが暗黒の波動を放ち、それにヴィクトリアスが呑み込まれる。



「ウォォォタァァァ、バティカルッ!」
 ギガティリスがオルハリゼートを殴ろうとする。オルハリゼートは回避した。
「避けられたか……だが、まだだ!」
 拳に水の球体を生み出す。
「アクアウィザーディストォォォッ!」
 再び殴る。オルハリゼートが防御したが、水の球体が破裂し、オルハリゼートを凍らせた。
 動きを封じる事に成功したアルス。一気に勝負に出ようと霊力を込める。
 しかし、凍りついたオルハリゼートは一瞬で氷を破壊した。
「何!?」
 オルハリゼートが剣で攻撃する。ギガティリスが直撃を受けた。
「チッ、反応が遅れたか……!?」
 そう思った時には遅かった。オルハリゼートが剣を振るい、ギガティリスを吹き飛ばす。



 迫り来るオルハリゼートにグレーとリクオーが――――ゼロが応戦する。
 背中の長い砲身を持つキャノン砲を肩まで移動させる。
「ツゥゥゥイィィィンドラグニアァァァァァァッ! キャノォォォォォォンッ!」
 放つ。オルハリゼートが左腕の巨大な盾で防ぎ、剣を振り下ろす。
「甘いぜぇ! ツインスマッシャァァァッ!」
 両肩に装備している円盤状のカッターを投げるが、すぐに叩き落された。
 しかし、負けじとゼロも攻撃を続ける。
 霊力を両拳に集中させ、オルハリゼートへと狙いを定めた。
「最強の必殺技ぁぁぁっ! ド・ラ・イ・バ・ル・グラウンドォォォオオオオオオッ!」
 放たれる龍の波動――――と思われたが、何も出なかった。
 目を大きく開け、ゼロが呆然とする。
「……まさか、やっぱ《双龍》の力出せねぇと無理とか?」
 オルハリゼートが接近してグレートリクオーを攻撃し、大地へと叩きつける。



《冥帝王》の作り出したオルハリゼートに、三体の霊戦機が倒れる。ハヤトは叫んだ。
「ロバート! アルス! ゼロ!」
 返事がない。ハヤトが《冥帝王》を睨み、力を集中させる。
「シャイニング・メテオ!」
『無駄だ』
 ヴァトラスが放つ攻撃を無効化する。
『我は神だ。我にお前の力は通用せぬ』
「そんな事……!」
『通用せぬ。神の子であるお前に、神である我を攻撃する事などできぬ!』
《冥帝王》が背中の翼を大きく広げる。魔の力が《冥帝王》に集まった。
 それを見たハヤトが神の槍と神の剣を同時に構える。
『滅べ、サタン・オブジェクト!』
「頼むぞ、グーングニル、ヴァルキュリア!」
 翼から無数の魔の球体が生成され、ビームを放つ。ヴァトラスがまずは神の槍を突き向けた。
 赤熱の光を放ち、神の槍グーングニルに神の剣ヴァルキュリアを重ねる。
 向かってくる魔のビームが無力化される。
「ヴァトラス!」
 ハヤトの言葉に、ヴァトラスが神の剣を構える。
「炎、水、風、雷、地、光、闇、無ッ!」
 ファイナルヴァトラスの周囲に八つの異なる色をした光の球体が現れ、それぞれが光を放つ。
 ハヤトが力を込め、八つの球体が周囲を回転する。
「守護を司る八つの力よ、今こそ解き放て!」
 八つの球体が《冥帝王》を囲み、光の線をそれぞれ繋いでオブジェのような形を形成した。
「《太陽王》、究極結界ッ! ヴァァァド・エンド・ファイナァァァァァァルッ!」
 八つの球体から無数の波動がそれぞれオブジェ内に放たれる。



 暗い闇の中、そこにゼロはいた。
 なぜ、こんな所にいるか分からない。自分は戦っていたはずだと頭を捻る。
「確か敵と戦って……どうなったっけ?」
『負けたんだよ、お前は』
「うぉぅ!?」
 驚く。気づけば、目の前に一人の男が立っていた。
 ゼロと同じ赤い髪で、どこか風格のある鋭い瞳を持った男。
 見覚えがある。が、ゼロは全く分からなかった。
「……あんた、誰?」
 訊く。ゼロの言葉に、男が鉄拳を繰り出す。ゼロが見事に吹っ飛んだ。
「ぐはぁっ!?」
『テメェの祖父すら分からないのか、お前は?』
「だからって殴る事ねぇだろ!? ……って、祖父? じ、じいちゃん!?」
 驚く。そして、記憶の中にある祖父の姿を必死で思い出した。
 若い頃の写真しか存在しない祖父・グラドローク=エンド=バリティス。
 祖父がゼロの元に近づく。
『もう一発』
 殴られる。再びゼロが吹っ飛んだ。
「ぐほぉっ!?」
『気づくのが遅い。ったく、それでも俺と同じ霊戦機操者か? 簡単に敵に負けやがって』
「んな事言っても、リクオーの意思はねぇし……もう俺は《双龍》でもねぇし……」
 顔を俯かせる。ゼロの姿を見ていた祖父は三度鉄拳を繰り出した。
 三度吹き飛ばされるゼロ。祖父が鋭い瞳で睨みつける。
『この馬鹿孫が! お前は何も分かってねぇな、それでも俺の孫か!』
 ゼロの胸倉を掴み、立ち上がらせる。
『お前、一度も考えた事ないだろ? 何でお前が《双龍》と呼ばれる称号を手に出来たのか。
 俺の孫だからじゃねぇ……お前が《双龍》だからって何で分からねぇ!』
「俺が……《双龍》……?」
『お前は俺みたいになりたいから、必死に努力して操者になった。そうだろ?
 何でそうまでして、俺みたいになりたい? テメェの命も考えずに死んだ俺みたいに』
「……カッコイイって思ったからだよ」
 ゼロが答える。
「婆ちゃんからじいちゃんの事聞いて、俺はじいちゃんみたいに大切な物を守れる操者になりたいって思った。
 怨霊機から皆を守れる操者に……だから、俺はじいちゃんみたいになりたかったんだよ……!」
『…………』
「大切な物を守る為なら、自分の命も捨てる覚悟で戦ったじいちゃんに憧れたから!
 じいちゃんは最高のじいちゃんだ! だからこそ、俺もじいちゃんのような操者になる!」
『それで良いんだ』
「じいちゃん?」
 祖父がゼロの頭に手を置き、ワシャワシャと髪を掻き乱す。そして笑った。
 これが自分の孫。馬鹿だが、誰よりも誇れる孫。
『大切な物を守る。例えそのせいで死ぬ事になってもな。その覚悟こそが、俺の《地龍》の称号だ』
「じいちゃんの《地龍》……」
『そして、お前も俺と同じ覚悟を持っている。それこそが、お前の《双龍》と言う称号……お前の強さだ』
「俺の強さ……」
『お前がそれに気づけば、リクオーも応える』
 祖父が霊力を集中させ、光の球体を作り出す。それをゼロに渡した。
『使え。俺が持てる力を使って、大切な物を守れゼロラード! 俺の自慢の孫息子!』

「――――ロ……ゼロ……ゼロ! 起きなさい、ゼロ!」
 薄っすらと目を開く。眩しい光が視界一面に広がり、呼び掛ける声の主の姿が見えない。
 なかなか見ない不安を浮かべた表情。ゼロはようやく誰なのか理解できた。
「ミー……ナ……ちゅわん……?」
「ゼロ……良かった、目を覚ました……」
 安堵の息をつく。その目には涙が浮かんでいた。
「……ったく、心配させないでよ。今度やったら殴るわよ?」
「つか、何でミーナちゅわん、リクオーのコクピットに……?」
「何でって、素っ飛んで来たからに決まってるでしょ。あれで」
 そう言って目線を横へ向ける。その先には、霊力機カイザーの姿があった。
 ミーナが空いているコクピットに座り、手元の球体に手を置いた。
 グレートリクオーがゆっくりと立ち上がり、上空にいるオルハリゼートを睨む。
「やるわよ、ゼロ!」
「……って、戦う気かよ、ミーナちゅわん!?」
「私がいなきゃ、ゼロは弱いって言うのが本音。でも、何かあっても必ず守ってくれるでしょ?」
「……お、おう! 当たり前じゃねぇか、ミーナちゅわん! なんたって、俺は《双龍》だからな!」
 ゼロが手元の球体を握り、霊力を込める。グレートリクオーの瞳が輝いた。
 唸りを上げる。ゼロが語り掛ける。
「ようやく起きたかよ、リクオー!」
(すまぬ、主よ。しかし、主の《双龍》である心は確かに届いたぞ)
「おう! 最初っから全力で行くぜぇぇぇっ!」
 グレートリクオーの前に光が集まり、一つのライフルが誕生する。それを見たミーナが驚いた。
「新しい武器?」
「これが、じいちゃんが俺にくれた力……ドラグオン・バースト!」
「……その名前はゼロが付けたでしょ」
「当然! ミーナちゅわん、行くぜぇぇぇぇぇぇ!」
「はいはい。思う存分やりなさい、ゼロ!」
 グレートリクオーが空へと舞い上がる。オルハリゼートが剣を構えた。
 暗黒の波動を放ち、そのまま突撃してくる。
「ミーナちゅわん、あの攻撃頼む!」
「その後は任せるわよ。グランドリーフ!」
 霊力を集中させて波動を放ち、暗黒の波動を相殺。そして素早く剣を構えて応戦した。
「ドラグオン・バーストォォォッ!」
 直後、ライフルをオルハリゼートに向けて撃つ。オルハリゼートはすぐに回避した。
 距離を取り、オルハリゼートが深紅の波動を無数に放つ。
 それを見たミーナが目を見開く――――が、ゼロは迷わずライフルを構えた。
 二本の長い砲身を持つキャノン砲を両肩に移動させ、霊力を集中する。
「これが、じいちゃんの最強の必殺技だ! ド・ラ・イ・バ・ル・グラウンドォォォオオオオオオッ!」
 放つ。三つの巨大な波動が一つとなり、龍の姿となった。
 オルハリゼートの放った無数の深紅の波動を喰らい、オルハリゼートへと襲い掛かった。
 回避できず、龍の波動に喰われる。
「嘘、かなり強いし……」
「おっしゃぁぁぁ! じいちゃん、ドライバル・グラウンド完成だぜ!」
 ゼロがガッツポーズを取る。同時に、グレートリクオーも高い唸りを上げた。



 ヴィクトリアスのコクピットで、ロバートは少しずつ意識を取り戻した。
 どうやら無事だ。直撃を受けたが、まだ負けてはいない。
「……いや、負けたんだ。俺だけの力では、勝てなかった……」
 奥歯を噛み締める。自分の弱さ、無力さに悔しくて。
 自分は霊戦機の力に頼っていただけだった。自分だけじゃ、どうにもならない。
 そう思った矢先、腰元で何かが光り出した。
「……?」
 ロバートが気づく。光はロバートの目の前まで移動し、その姿を見せた。
 小さな剣。どこかで見た事がある剣。
「……これは、確か《破邪》の……」
 剣がロバートの右手に光を当てる。そこには、《斬魔》の称号があった。目を見開く。
「《斬魔》……なぜ……!?」
 霊戦機ヴィクトリアスは一度死に、蘇ったがその力を失ったはず。
 それなのに、自分の右手にはその称号が存在している。
 ロバートは考える。そして、ハヤトに言われた言葉を思い出した。
「……そうか、《斬魔》はヴィクトリアスの事じゃない。《斬魔》は俺の中にある強さそのもの……」
 ヴィクトリアス――――霊戦機は、ただその強さに応えて力を貸してくれる存在。
「《斬魔》は死んでいない……《斬魔》は俺自身だ。だから、《斬魔》はここにある……!」
 《斬魔》の称号はロバートの中にある”力”であり”心”。
 自分が《斬魔》の”心”を持っているからこそ、ヴィクトリアスは《斬魔》の称号を持つ霊戦機となる。
「俺が《斬魔》なら、ヴィクトリアスは再びその鼓動を取り戻す……!」
 ヴィクトリアスが剣を失った鞘へと手を動かし、抜刀の構えをする。ロバートは静かに瞳を閉じた。
 今の自分が敵に勝つには、ヴィクトリアスと言う霊戦機を完全に目覚めさせる事。
「……あなたの力を借りるぞ、《破邪》! 《斬魔》に応えろ、ヴィクトリアス!」
 光が溢れ出す。白銀の光がヴィクトリアスの右手に、赤熱の光が左手から放たれた。
 抜刀する。その両手には、異なる二本の剣がある。
 白銀に輝く刀身に、《斬魔》の称号が刻まれた白銀に輝く柄を持つ剣。
 そして、刀身に赤い光が走る、《破邪》の称号が刻まれた赤熱の柄を持つ剣。
 ヴィクトリアスの瞳が輝く。それは、霊戦機ヴィクトリアスの復活を意味する輝き。
(《斬魔》の”心”、確かに感じたぞ我が操者よ)
「いけるか、ヴィクトリアス?」
(無論だ。新たに得た二本の剣、その力を引き出して見せよう)
 二本の剣を構える。ロバートの霊力が集中し、白銀と赤熱の光が剣に走った。
「光牙・獅王裂鳴斬!」
 白銀の光がオルハリゼートを捉え、赤熱の光が走る剣で斬りかかる。オルハリゼートが回避した。
 しかし、ロバートは逃さない。
「流水練武刹!」
《破邪》の剣に霊力を集中させ、水の刀身を作る。そして鞭のように振るった。
 水の刀身がオルハリゼートの腕を掴む。
「これで決める! これが……俺の《斬魔》と《破邪》を合わせた力だ!」
 二つの剣を重ね合わせ、霊力を込める。白銀の光が巨大な刃へと姿を変える。
「斬魔一閃! 破邪烈光破ァァァッ!」
 振り下ろす。巨大な刃がオルハリゼートを捉え、両断した。



「……ま、兄様」
「う……うぅ……」
 アルスが目を覚ます。目の前に広がるのは、懐かしい光景だった。
 父と母がいて、妹がいるリビング。もう二度と見る事などできない光景。
 目を疑う。そんなアルスの顔を覗きながら、妹が訊いてくる。
「どうかしました、兄様?」
「あ、ああ……なんでもない」
「寝惚けているのか、アルス? お前らしくもないな」
「きっと良い夢でも見ていたのでしょう。そうですよね、アルス?」
 懐かしい声。アルスの瞳から自然に涙が流れた。
 それを見た妹が驚く。
「兄様、どうして泣いてるんですか? もしかして、悲しい夢でも……?」
「……なんでもない。なぜか、この光景が懐かしいように思えて……いや、懐かしい光景なんだ」
「懐かしい?」
「ああ。霊力機の操者になって、そして《獣神》の霊戦機に選ばれて、俺は戦っていた。
 戦争で親父やお袋……ソフィアまで失ってから、俺は戦士として戦う事を決めた」
 あの日の事は鮮明に覚えている。そして、今のこの光景が幻である事も分かっている。
 ソフィア――――妹に笑顔を見せ、アルスは言った。
「俺は大切なものを守る、ただそれだけの為に戦う戦士だ。だからこそ、俺は《獣神》に選ばれた」
 そう自分で言って、ハヤトが言っていた意味がようやく分かった。
 自分がなぜ《獣神》なのか。それは霊戦機が選んだからじゃない。自分が《獣神》なのだ。
 だからこそ、霊戦機はそれに応えた。アルスが自分の拳を見る。
「俺はここで止まっている場合じゃねぇ……すぐに戻らねぇと……!」
「大丈夫です。兄様はすぐに気づきましたから」
 妹の言葉に反応する。全てが薄っすらと消え始めた。
「――――!?」
「兄様はもう大丈夫です。自分でちゃんと気づきましたから」
「ソフィア……そうか、お前がこの幻を……」
「いいえ、これは兄様の霊戦機が見せているんです。本当の私は……」
「分かってる。ありがとな、ソフィア……いや、ギガティリス」
 一度目を閉じ、心を落ち着かせる。

「……やれるな、ギガティリス?」
 目を閉じたまま訊く。ギガティリスの瞳に光が宿り、唸りを上げた。
(よくその心を思い出した……それでこそ、我が主だ)
「当たり前だ」
 目を開き、目の前の敵――――オルハリゼートを睨む。そして、静かに霊力を集中させた。
 ギガティリスの拳が光り輝き、水の球体を生み出す。
「……行くぜ、ギガティリス!」
 突撃する。オルハリゼートが剣を振り下ろした。
 振り下ろされた剣を腕で受け止める。空いている方の腕を引いた。
「アクアウィザーディストォォォッ!」
 殴り、凍りつかせる。オルハリゼートがその氷を破壊しようとするが、その直後に再び拳が振るわれた。
「獣神爆撃乱打ぁぁぁっ!」
 そして繰り出される連打。オルハリゼートが後ろへと退いた。
 無数の深紅の波動を繰り出してくる。ギガティリスが両腕を前に出して防御する。
「そんな攻撃が通用するか!」
 霊力を集中して結界を作る。見事、オルハリゼートの攻撃を無力化した。
「今度は俺の番だ……覚悟しろ!」
《獣神》の称号が光り輝く。ギガティリスが背中に装備する巨大な剣を構えた。
「ジェノサイド・ウィザーディストォォォォォォッ!」
 振り下ろす。巨大な波動が放たれ、オルハリゼートを呑み込んだ。
 剣を背中に戻すギガティリス。そこへ、二体の霊戦機が近づいた。
「ようやくアルスも復活か!?」とゼロが訊く。
「霊戦機三体、完全復活のようだな」とロバートが言う。
「何でお前らの霊戦機だけ新しい武器が手に入ってんだ?」とアルスが不機嫌そうに言う。
「へへ、良いだろ? じいちゃんが俺にくれた新しい力だぜ!」
「前の聖戦で《破邪》が託していた剣を使わせてもらうだけだ」
「ふん、まぁ良いか。これで、奴に一泡吹かせられるんだからな!」
 そう言って《冥帝王》を睨む。苦戦を強いられるファイナルヴァトラスの姿が見えていた。
 ヴィクトリアス、ギガティリス、グレートリクオーの三体が唸りを上げる。

 真の操者となったロバート、アルス、ゼロ。
 今、復活を遂げた霊戦機が《冥帝王》へと挑む――――



 第三章 蘇る滅びの神

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