ついに、《冥帝王》に一矢報いたハヤトが、突撃する。
「太陽凰光翼斬!」
黄金の炎が翼から放出され、極彩色の光を放つ剣が《冥帝王》を斬る。
その一撃は、《冥帝王》を多少なりに怯ませた。
「シャイニング・メテオッ!」
続けて、無数の光の波動を放つ。その攻撃は凄まじかった。
《冥帝王》がハヤトを睨む。
『おのれ、《太陽王》……! ナイトメア・スペリオル!』
暗黒の波動が放たれる。
「羽ばたけ、光の翼ぁぁぁっ!」
ファイナルヴァトラスの翼が大きく羽ばたき、舞い散った羽根が暗黒の波動を防ぐ。
「無駄だ、俺とアリサの想いの力がある限り、もうお前じゃ俺には勝てない!」
『勝てない? 愚かな。我の体内には、貴様が助けたいと思っている人間が吸収されているのだぞ』
「…………」
そう、ユキノは《冥帝王》の中に取り込まれている。
ユキノを助け出さない事には、奴を倒す事はできない。
しかし、ハヤトは鼻で笑った。
「ユキノは助ける。俺達家族なら、きっと助けられる」
『無駄だ』
「できる。俺はアリサを、家族を、ヴァトラスを、ガイアスペリアルを信じる!」
イシュザルトのブリッジ。そこで、アランとロフは自分達の活躍のタイミングを逃したように感じた。
「……兄貴、パワーアップし過ぎだろ」
「神と言うのは、常に進化する存在だと言う事か?」
「知るか! つーか、それよりも移行するぞ!」
そう言いながら、アランがロフを艦長席に座らせる。
「ちょっと待て。ここはお前が座る場所だろうが」
「主砲形態はロフに任せる! イシュザルト、主砲形態!」
『了解。イシュザルト、主砲形態へ移行開始』
イシュザルト艦内に警報が鳴り響く。主砲形態移行の警報が。
そして、ゴゴゴゴと物凄い音を立てながら、甲板が左右に開いた。
ブリッジから後方も同じように左右に開き、90度に折れて、両足を形成する。
左右に開いた甲板がブリッジまで移動し、それに連動して、内部から巨大な両腕が姿を見せた。
背中となった箇所から、ブリッジを覆うように頭部が被される。
『主砲形態、移行完了』
まるで、巨大な重武装のロボットを思わせる姿。これが、イシュザルトの主砲形態。
ロフが顔を歪ませる。
「何と言う力だ……霊力機とは比べ物にならん……!」
「イシュザルト、主砲の準備! 出力は……最大だ!」
『了解。エネルシスリアクト、充填開始』
イシュザルトの胸部が開き、エネルギーを充填する。
《冥帝王》と戦うハヤト達。それでも、イシュザルトの主砲形態が目に入った。
ゼロが目を見開く。
「変形!? イシュザルトって、変形できたの!?」
「そう習ったわよ! しっかりしなさいよ、ゼロ!」
そう、一緒に乗るミーナに怒られる。ロバートとアルスが思わず息を呑んだ。
「かなり久々に見たが、やはり凄いな……」
「あれが、八機目の霊戦機と呼ばれるイシュザルトだからな」
そして、ハヤトがイシュザルトの胸部が開く姿を見る。
「主砲を撃つのか、まさか?」
「主砲って……まだ、ユキノちゃんを……」
「アラン、主砲はまだ撃つな!」
そう、通信でアランに命令する。
ユキノを助けていない状態で主砲を撃つのは、流石にさせたくない。
アランが文句を言う。
『とっとと攻撃しないと、この巨体は倒せねぇぞ、兄貴!』
「分かってる。だが、主砲は俺の合図で撃て! 今は、ユキノを助けるんだ!」
『わ、分かった。兄貴に従う』
と、聞き分けが早かった。ハヤトがガイアスペリアルに霊力を集中させる。
「……ユキノがいる場所を探して、そこを突撃するしかない。頼む、ガイアスペリアル」
ハヤトの想いに、ガイアスペリアルが応え、光り輝く。
《冥帝王》の巨大な肉体の中心。そこに、ユキノがいる。そう、ガイアスペリアルが教えてくれる。
「見つけた。行くぞ、アリサ!」
「はい。二人で……いいえ、家族でユキノちゃんを助けましょう、ハヤトさん!」
「ああ!」
ヴァトラスが唸りを上げる。すると、ヴァトラスの前に三体の霊戦機が立った。
「突撃するなら、援護する」
「敵の攻撃は気にせず突っ込め。全部ギガティリスで受け止めてやる」
「俺もドライバル・グラウンドで決めてやるぜぇぇぇっ!」
「と言う事だから、任せといて!」
その言葉に、二人が頷く。
「はい。ありがとうございます、皆さん」
「頼む。ドラグレイオ、レオーザも力を貸してくれ」
『承知。援護攻撃ならば、お任せを』
『防御は私に。お気をつけください、ハヤト様、アリサ様』
「ああ。行くぞ、ヴァトラス!」
ハヤトの言葉に、ヴァトラスが瞳を輝かせる。そして、突撃を開始した。
《冥帝王》が複数のオルハリゼートを生み出し、それを阻止しようとする。
「させるかぁぁぁっ! ド・ラ・イ・バ・ル・グラウンドォォォオオオオオオッ!」
『龍牙王、出陣!』
巨大な龍の波動と、炎を纏ったドラグレイオがオルハリゼートを蹴散らす。
「斬魔一閃! 破邪烈光破ァァァッ!」
「ジェノサイド・ウィザーディストォォォォォォッ!」
続いて、ヴィクトリアスが巨大な刃、ギガティリスが巨大な波動で《冥帝王》の動きを封じる。
ヴァトラスが極彩色の光を纏い、ガイアスペリアルを《冥帝王》に突き刺した。
「おぉぉぉっ!」
『貴様、《太陽王》ッ……!』
『邪魔はさせません。シャインバースト!』
《冥帝王》に光を纏ったレオーザが突撃する。そして、ヴァトラスが《冥帝王》の内部に侵入した。
瞬く間もないほどの速さで、極彩色の光と共に、《冥帝王》の巨体を貫く。
『ぐぉぉぉっ……!?』
「ユキノは返してもらったぞ、《冥帝王》!」
ヴァトラスの左手に光る球体。その中に、ユキノの姿。
あの一瞬でユキノを助け、コクピットを開く。アリサがすぐにユキノを抱きしめた。
「ユキノちゃん……!」
意識はないが、息はしている。気を失っているだけ。
すぐにそう判断したハヤトが、光の力を集中させた。
「レジェンド・ヴァァァァァァドッ!」
放たれる光の鳥。《冥帝王》に強大な一撃を与える。そんなハヤトに《冥帝王》が言う。
『愚かな……! その人間を助けたところで、我の力は弱まらぬ!』
「だろうな」
『何!?』
「しかし、ユキノの中にあった”核”の力は消えた。それで十分だ」
そう、”核”としての力を《冥帝王》が取り込んだ今、ユキノは普通の人間だ。
魔の力を持っていない、普通の状態。ハヤトが剣を構える。
「ロバート、アルス、ゼロ、ドラグレイオ、レオーザ! 奴の動きを封じる!」
「分かった」
「トドメはイシュザルトに任せるって事か」
「なぁ!? 俺がトドメを刺してやる!」
「無茶言わない! 最強の必殺技もあと一回が限界よ!」
『御意。しかし、イシュザルトと言えども《冥帝王》は……』
ドラグレイオが躊躇う。ハヤトは首を横に振った。
「大丈夫だ。今の俺なら、《冥帝王》を倒せる」
『分かりました。やるぞ、ドラグレイオ』
『ハヤト様を信じます。行くぞ、《冥帝王》よ!』
六体の霊戦機、神獣が《冥帝王》に攻撃を開始する。
『龍牙王、出陣!』
『シャインバースト!』
「斬魔一閃! 破邪! 烈・光・波ッ!」
「ジェノサイド・ウィザーディストォォォォォォッ!」
「これが最後の一撃ぃぃぃっ! ド・ラ・イ・バ・ル・グラウンドォォォオオオオオオッ!」
全ての攻撃が放たれる。《冥帝王》は力を使って全て受け止めた。
しかし、それはハヤトには読まれていた。
ヴァトラスの周囲に八つの光の球体が姿を見せ、《冥帝王》を取り囲む。
「《太陽王》、究極結界ッ! ヴァード・エンド・ファイナルッ!」
八つの球体から無数の波動が放たれる。ハヤトがアランに合図を出した。
「今だ、アラン!」
『おう! ロフ、頼むぜ!』
『イシュザルト、主砲発射ッ!』
それと同時に、ハヤト達が主砲の軌道上から回避する。そして、イシュザルトの胸部から巨大な波動が放たれた。
イシュザルトの5倍はある波動。《冥帝王》の巨体を軽々と呑み込んだ。
『ぐぉぉぉぉぉぉっ!?』
流石の《冥帝王》も、こればかりは防げなかった。
イシュザルトの主砲が発射し終える。《冥帝王》の姿は跡形もなかった。
アリサが笑顔でハヤトの方を見る。
「ハヤトさん!」
「いや、まだだ!」
「え……?」
驚く。ハヤトの言うとおりだった。
《冥帝王》の存在していた場所に、まだ暗黒のオーラを纏った塊のようなものが残っている。
『おの……れ……! だが……一部分残っていれば、我は復活できる……!』
「いいや、それはない。お前の負けだ、《冥帝王》」
ハヤトが呟く。《冥帝王》の周囲には、いつの間にか八つの球体が存在していた。
《太陽王》の究極結界によって動きを封じられた《冥帝王》。
『な……貴様、いつの間に……!?』
ヴァトラスが剣を構え、唸りを上げる。
「炎、水、風、雷、地、光、闇、無ッ! 八つの守護を司る力よ、今こそ剣に宿れ!」
《冥帝王》を取り囲む八つの球体が、ガイアスペリアルに集結していく。
極彩色の光が剣から放たれ、ヴァトラスが剣を振り上げた。
「これが、お前を倒す唯一の力だ! 神光八系! 閃・王・斬ッ!」
振り下ろす。八つの異なる色をした光の鳥が放たれた。
七羽の光の鳥が《冥帝王》を攻撃し、最後の一羽が貫く。
攻撃を受け、光の粒子が溢れる《冥帝王》。
『ぬぉぉぉ……馬鹿な……!? この……我……が……馬鹿……なぁぁぁっ……!?』
「これで……本当に終わりだ、《冥帝王》」
『……お……おの……れ……! 太……陽……王ぉぉぉぉぉぉっ……』
光となって消滅する。《冥帝王》は完全に倒した。
これで、全ての滅びは阻止できた。戦いの元凶とも言える存在は、確実に消滅したのだ。
「ようやく……戦いは終わったんだ。果てしないほど長く続いた戦いは……」
「ハヤトさん……」
「帰ろう、アリサ。俺とアリサ、ユキノに新しい家族と一緒に」
「はい」
そう言って、軽いキスを交わす。ヴァトラスが小さい唸りを上げた。
イシュザルトの格納庫。そこに、三体の霊戦機は収納された。
ロバートがヴィクトリアスの腰に納められた剣を見て呟く。
「ありがとう、《破邪》……あなたのお陰で、俺達は勝てた」
そして、自分がなぜ霊戦機操者になったのかを知る事ができた。
そう、物思いに耽っていると、アルスが後ろから肩を叩いてくる。
「何をやっているんだ? 戦いは終わったってのに」
「少し、な。……しかし、本当に終わったんだな」
「ああ。これで、ギガティリス達もようやく安心して眠れるんだ」
長きに亘る戦いの末、ようやく眠りにつける。もう二度と、こんな戦いがない事を願って。
「で、どうするんだ? ヴィクトリアスの封印を見届けて、帰るのか?」
「ああ。地球で、俺ができる事をやる。二度と、戦いが起きない為にも」
「ミィィィナちゅわわわぁぁぁぁぁぁんっ!」
「鬱陶しい!」
途端、鈍い音が格納庫に響く。ミーナに抱きつこうと飛び掛ったゼロが、地面に伏した。
しかし、すぐに立ち上がる。
「ミーナちゅわん! 何すんの!?」
「いきなり飛び掛って来る奴を殴っただけよ。
と言うより、さっきまで霊力使い果たしてヘロヘロだったのに、何で復活してるのよ?」
「そりゃもちろん! これからミーナちゅわんとベ――――」
「この雰囲気を壊すな、馬鹿ゼロ!」
再び殴られ、今度は吹き飛ばされる。それを見ていたロバート、アルスは互いに肩を落とした。
そんなロバートにミーナが何かを渡す。円盤型のディスクだ。
「これは?」
「ムーディオ。地球で言うところの手紙。記録されてる音声と映像を再生できるのよ」
「なぜ、それを俺に?」
「結構前から、リューナに渡されてたのよ。覚えてる、リューナ=シュレント=フェルナイル?」
「……ああ、彼女か」
思い出す。前の戦いで、自分の強さを教えてくれた彼女の事を。ミーナが続ける。
「本当は何枚もあったんだけど、一枚にまとめてあるから。あとで、一人で見て」
「ああ。ありがとう」
「とりあえず、返事出さないと怒るだろうから、その時は言って。教えるから」
「ん……ううん……?」
「あ、ユキノちゃん……」
イシュザルトの甲板。肩膝をついたヴァトラスのコクピットで、ユキノは目を覚ました。
アリサが優しく抱きしめる。
「ユキノちゃん、無事で良かった……」
「ママ……?」
ハヤトがユキノの頭を撫でる。
「もう大丈夫だ。もう、怖い事は起きないから」
「パパ……」
「帰ろう、ユキノ。また、一緒の時間を過ごそう」
「…………」
ユキノが顔を俯かせる。二人は首を傾げた。
「ユキノちゃん?」
「ユキノ?」
「……ごめんなさい……パパ、ママ……」
ユキノの全身から光が少しずつ発せられる。二人は目を見開いた。
ユキノが目に涙を浮かべながら言う。
「ユキノ……本当は分かってた……。ユキノが……悪いモノを持ってたの……」
「ユキノ、それは……」
「……ユキノ……悪い子……パパを……」
涙を流し、小さく泣く。アリサがゆっくりと抱きしめた。
「ユキノちゃんは悪くない。ユキノちゃんは、何も悪くない」
「でも……でも……」
「悪くない。ハヤトさんも……パパも悪くないって思ってるわ」
「ああ。ユキノは悪くない。それに、もう、悪いモノは全部なくなったんだ。だから……」
「それは……無理なの……」
全身から発せられる光が、さらに強くなる。
「”かく”ってのが教えてくれたの……ユキノは……ユキノじゃないの……。
ユキノは……ユキノは……もういないの。”かく”ってのが消えたから、ユキノも……」
「何を言ってるんだ! 帰るんだ、一緒に。ユキノも一緒に……!」
「パパ……」
「帰ろう、ユキノちゃん。ユキノちゃんは、パパとママにとって、大切な娘なんだから……」
「ママ……」
光はさらに強くなる。そんな中、ユキノは笑顔を作った。
これが、自分にできる最後。自分の事を大切にしてくれた人にできる、最後の笑顔。
「……ありがとう、パパ、ママ……。ユキノ……パパとママ……大好きだよ……」
そして、光がユキノと共にゆっくりと消える。アリサがユキノの名を叫びながら、強く抱きしめる。
が、もうそこにユキノはいない。ハヤトとアリサの目から、涙が流れた。
拳を強く握りながら、ハヤトがコクピットを殴りつける。
「何でだ……!? 何で……何でなんだ!?」
殴り続ける。拳から、血が滲み出てきた。
「何で……何でユキノが消えなきゃいけない……!? もう……もう、戦いは終わったのに……!」
歯を噛み締める。許せなかった、自分自身が。何もしてやれなかった自分が。
助けを求めていたのに、それに気づいてやれなかった。
その悔しさが、涙を流させる。
全てを滅ぼそうとする神は、ついに《太陽王》の手によって倒された。
戦いは、真の終わりを迎えた。
しかし、一人の大切な家族を助けられずに……。
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