ヴァトラスを封印していた神殿。そこで、ハヤトはヴァトラスの封印を行った。
「……もう二度と戦いが行い事を願う。ゆっくり眠れ、ヴァトラス」
ヴァトラスが静かな唸りを上げ、巨大な玉座に腰掛ける。
そして、その瞳の輝きが消え、光の柱が立ち昇った。
光の柱の中で、ゆっくりと石へと姿を変えていくヴァトラス。これで、封印は完了した。
「最後までありがとう、ヴァトラス。お前と一緒に戦えた事、誇りに思う」
かつて、『光の鳥』だった頃の自分が作り出した霊戦機。
しかし、今は共に戦ってくれた、自分にとっての愛機。
「……イシュザルトに戻って、アリサと一緒に帰るか、あの場所へ」
家族で過ごす、あの場所へ。
イシュザルトの格納庫。アリサは身支度を済ませて待っていた。
ミーナが心配そうな顔で訊く。
「大丈夫? 無理してない?」
「はい。いつまでも悲しんでいたら……ユキノちゃんが天国に行けませんから」
そう言いながら、自分のお腹を優しく撫でる。
「それに、この子がいますから。しっかりしないと、ユキノちゃんに怒られます」
「それにしても、驚いたわよ。まさか、お腹の中に赤ちゃんがいるなんて」
「本当はもっと早く言いたかったんですけど、状況が状況でしたから」
そして、ハヤトが戻ってくる。
「ヴァトラスの封印は終わった。アリサは?」
「私も大丈夫です。帰る準備はできています」
「本当に帰るのね。こっちに住むとか考えなかったの?」
そう、ミーナが訊く。ハヤトは首を横に振った。
「俺にはやるべき事があるからな。もう二度と、戦いが起きないようにする為に」
もう二度と、大切な人を失わない為に。
《神の竜》だった影王、《神の獅子》だったガリュドスが二人に話しかける。
「二人で話し合い、私も共に地球へ戻る事にしました。これからも、よろしくお願いいたします」
「ああ。ガリュドス、お前は?」
「私はゼルサンス国へ戻ります。裏切りの身とは言え、あの国へ戻り、あの国を変える為に」
「そうか。頼むぞ、ガリュドス」
「はい」
そして、アランが大慌てで、ハヤトに一つの機械を渡す。
「これで、向こうの世界に帰れるぜ」
「ああ。ありがとう、アラン」
「おう。姉ちゃんの事、頼むぜ」
「お前もしっかりな」
「アラン、たまには遊びに来なさいね。あと、早く彼女見つけて紹介してね」
と、アリサの言葉がアランの胸に刺さる。意外と強烈だった。
その様子を見て苦笑しながらも、ハヤトが機械を操作する。
「じゃあな。今度会う時は、平和な世界になっている時だ」
そして、《冥帝王》との戦いから約半年後。
この日、ハヤトは慌しく病院内を走っていた。
「はぁ……はぁ……!」
目指すは、この廊下の突き当たりの病室。そこで、アリサが――――大切な家族が待っている。
目的地の前に、シュウハの姿がある。ハヤトは肩で息をしながら訊いた。
「シュウ兄……はぁ……はぁ……あ、アリサは……? こ……子供は……!?」
「呼吸を整えろ。安心しなさい、母子共にご健康だ」
その言葉を聞き、ハヤトが安堵の息をついた。
「そうか……良かった……」
「アリサさんと子供に会う前に伝えておくぞ。帰ったら、サキに礼を言っておけ。
サキがすぐに連絡してくれたお陰で、素早く動けたからな」
「ああ。ありがとう、シュウ兄」
そして、軽くノックして病室内に入る。
病室は、さっきまで聞こえていた微かな音さえ消えるほど、静かだった。
てっきり、ドアを開けた時に泣き声が聞こえるのではないかと思ってしまった。
真っ白のベッドの上にアリサがいる。そして、その隣にはベビーベッドが見える。
「あ、ハヤトさん……」
アリサがハヤトに気づく。ハヤトはゆっくりと歩いて、ベッドに眠る赤ん坊の姿を見た。
ベッドで安らかな寝息を立てる二人の赤ん坊。ハヤトはやや驚いた。
「双子だったのか……」
「はい。元気な男の子と女の子です」
「男の子と女の子……そっか、両方なんだ」
そして、アリサを優しく抱きしめ、キスをする。「ありがとう」とアリサに告げた。
「ありがとう、アリサ。二人の子供を産んでくれて、ありがとう」
「はい。ちょっとやつれてしまいましたけど……」
「そんな事ない。綺麗だよ、アリサ」
「もう、ハヤトさんったら……」
ハヤトがアリサの隣で寝ている二人の子供を見る。
安らかに寝息を立てている男の子と女の子。
アリサが「抱いてあげてください」と言った。
「男の子の方は、結構時間が掛かりましたから」
「そうなのか?」
「はい。きっと、ハヤトさんが来るのを待っていたはずですから」
「そうか」
ゆっくりを手を出し、気をつけながら男の子を優しく抱き上げる。
思っていた以上に軽く、少しでも強い力を加えたら壊れてしまいそうな感覚。
初めての感覚に、ハヤトは思わず笑みを浮かべた。
「赤ん坊って、こんな感じなんだ……なんだか、凄いな」
「はい」
二人にとって、大切な家族。安らかな寝顔を見ながら、ハヤトが言葉を漏らした。
「……親父と母さんも、俺が産まれた時はこうだったのかな……?」
「はい。我が子を産んで、嬉しくない親はいません」
「そうだよな……そう、だよな……」
自分が産まれた時も、父と母はこうやって喜んでくれた。
そう思うと、思わず涙が出そうになる。
そんな時、アリサが「名前はどうしましょうか?」とハヤトに訊いた。
ハヤトがすぐに答える。
「……男の子はロードって名前にしたい」
「ロード……ですか?」
「ああ。ロード=エルナイス=カンザキ。それが、この子の名前。
ロードは、ネセリパーラの言葉で『希望』。そして、エルナイスはエルナイドの姓を捻ったもの。
昔のネセリパーラ文明だと、子供には母方の姓をミドルネームにするって知ったから」
「それで、エルナイドの姓を?」
ハヤトが頷く。アリサは男の子をハヤトから受け取り、そして微笑んだ。
「……良い名前です。ハヤトさんらしいと思います」
「そうかな?」
「はい。お父さんに素敵な名前を貰ったわね、ロード」
男の子に優しく呼び掛ける。その姿は、早くも母親の姿だ。
ふと、ハヤトが窓の外を見る。雲が一つもない、どこまでも青い空。
――――えへへ。
「――――!?」
突然、ハヤトが窓から顔を出し、キョロキョロと見渡す。アリサが首を傾げた。
「ハヤトさん?」
「……今、ユキノの笑う声が聞こえた」
「ユキノちゃんの……?」
「ああ。気のせいかもしれない……いや、気のせいなんかじゃない」
空を見上げて、ハヤトが言う。
「ユキノも喜んでいるんだ。だから、ユキノの声が聞こえたんだ」
「……はい。ユキノちゃんも、大切な家族ですから」
そう、血の繋がりはなくても、誰よりも大切な家族。
同じ時間を過ごした、掛け替えのない家族。
「ユキノ、約束するからな。この平和を続けていく。だから、ずっと見守っててくれ、ユキノ……」
これからもずっと、大切な家族だから。
これからもずっと、この平和は変わらない。変えさせない。
それが、大切な家族との約束――――
宿命の聖戦
〜FOREVER AND EVER DREAM〜
fin
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