序章 光と闇、二人の王が力を合わせる時


 イシュザルトの格納庫に戻ってきたハヤト。ヴァトラスから降り、軽く息を吐いた。
 霊力機が並んでいる前で落ち込んでいるアランに気づく。
「……アラン、どうした?」
「あぁぁぁ……俺の、俺の最高傑作がぁぁぁ……カイザーがぁぁぁ……」
「……ああ。悪い、壊して」
「……いや、別に良いんだけどね……兄貴にはやっぱりヴァトラスだし……」
 そう言うアランに、ハヤトはポンと肩を置く。本当にすまん、と言わんばかりに。
 ヴァトラスが唸りを上げる。それを見て、ハヤトが声を上げる。
「久々のイシュザルトだから、嬉しいのか?」
 目が光を見せる。ハヤトは目を細めた。
 これで、霊戦機は四機。あとは、《太陽王》の力を再び得られるかどうか。
 ミーナが格納庫に姿を見せる。瞬間、ゼロがミーナに抱きついた。
「おぉ〜、ミーナちゅわん! 無事だったんだぁぁぁ!」
「当たり前でしょ! って、ちょっと、離れなさい!」
「嫌だ! このままミーナちゅわんとベ――――」
「ウォータァァァッ、バティカルッ!」
「――――あんぎゃぁぁぁっ」
 アルスの拳が炸裂し、ゼロが地面に叩きつけられる。そして、首根っこを掴まれた。
「……たく、んな体力が残ってんなら、トレーニングに付き合え。猛特訓だっ!」
「な、何言ってんだよ、アルス!? 俺はこれからミーナちゅわんとベ――――」
「安心しろ、死なない程度には加減してやる」
「いやぁぁぁっ……」
 連れて行かれる。それを見て、ミーナは「やれやれ」と肩を落とした。
 そんなアルス達の後をロバートがついて行く。
「俺もついて行くか。ゼロよりは、マシな相手ができるはずだ」
「タフだな、お前ら……さっきまで霊力使って、戦っていたって言うのに」
「光牙・獅王裂鳴斬は四回まで使えるように鍛えてあるからな。まだ余力はある」
「ハヤト、体力つけてないとアリサに嫌われるわよ?」
 ミーナの言葉に、「余計なお世話だ」と返す。
「ユキノは?」
「今寝てるわよ。さっきまで泣いてて、泣き疲れちゃったのよ」
「そうか……今から皆とこれからについて話し合おうと思ったんだけど、先にユキノの所に行くよ」
「そうしてあげて。その方が良いと思うし」



 ゼルサンス国。城の謁見の間にて、国王は三将軍に怒りをぶつけた。
「アルフォリーゼ国に味方する霊戦機を一機も倒せぬとは……どう言う事か説明せよ、レイオニス!」
「……霊戦機――――いえ、その操者の実力は、我らの予想を上回っておりました」
 白銀の鎧を纏う将軍ジェイル=レイオニスが答える。
 そして、漆黒の鎧を纏う将軍ランハード=ガリュドスが続けた。
「また、先刻の戦闘において、第三者の存在を確認しました」
「第三者、だと?」
「はい。第三者の正体は不明。しかし、その戦闘数値は計測不能……そこで、撤退の行動を取りました」
「全滅の恐れがあったと?」
「はい。おそらく、我ら三将軍が束になろうと、勝てる相手ではなかったかと」
 ランハードの鋭い言葉に、青い鎧の将軍リオルド=メルサスが舌打ちする。
「俺様なら倒せる相手だ」
「リオルド、曖昧な発言は止せ。現に、私一人でも霊戦機一機が限界だ」
「陛下、やはりアルフォリーゼと和平条約を結ばれた方……」
「それはならぬ!」
 ランハードの発言に、国王が声を上げる。
「このゼルサンス国が怨霊機に襲われた時の事を忘れたか! あの太刀打ちできなかった悲劇を!
 アルフォリーゼ国は、霊戦機を手に入れたところで何も動かなかった。これが現実だ!」
「しかし、謎の敵が現れた今、アルフォリーゼ国と争う事は――――」
「ならば、霊戦機操者を殺し、霊戦機を手中に収めろ! ゼルサンス国を守る力として!」
 その威圧に、ランハードは失言した。



 ランハード=ガリュドスの個室。そこにアリサはいた。
 やや落ち着きのある部屋。窓の向こうに見える空を眺める。
「……ユキノちゃん、泣いてないと良いけど……」
 あんな事が起きて、怖い目に遭っている。不安だけが残っている。
「ただ今戻りました。ご無事でしたか?」
 ランハードが部屋に入ってくる。アリサは黙って頷いた。
 出撃していた間に、最終兵器の発動が命令されていたらと思ったが、それはなかったようだ。
「念の為、結界を用意しておく必要があるか……」
「あの……ガリュドス、さん……」
 アリサが訊く。
「なぜ、私を守ってくれるのですか? 私はアルフォリーゼ国の人間なのに……」
「あなた様が、ハヤト様にとって大切な方だからです」
「――――!? ハヤトさんの事を知って……!?」
「先ほどの出撃で、彼と剣を交えました。ハヤト様はネセリパーラに来ています。アリサ様を助ける為に」
「ハヤトさんが……!?」
 ランハードが頷く。アリサは胸の鼓動が熱くなるのを感じた。
 ハヤトがネセリパーラに来ている。自分を助ける為に。ランハードがそんな姿を見て微笑む。
「信じていらっしゃるのですね、ハヤト様を」
「……はい。ハヤトさんは、私が愛する大切な人ですから……」
「そうですか……」



 イシュザルトのブリッジ。ユキノの様子を見てから、ハヤトはすぐに次の行動に出た。
「このまま、ゼルサンス国を止める」
「止める……それは難しい事だぞ。それに、今すぐでなくとも……」
「今動く必要がある。《冥帝王》が本格的に活動を始める前に、ゼルサンス国の動きを止めるしかないんだ」
 その言葉に、ロフが唖然とする。ハヤトは《冥帝王》の動きが一番気になっていた。
《冥帝王》の言っていた”完全体”。その力は、間違いなく全てを滅ぼす力だ。
「《冥帝王》の言う”完全体”にさせるわけにはいかない。けれど、奴の動きが分からない今は、手が打てない」
「なるほど。だから、先にゼルサンス国をどうにかしようってわけか」
 アルスの言葉に頷く。
「ゼルサンス国にはアリサがいる。アリサを助け出して、ゼルサンスを止める。もちろん、誰も殺さないで」
「どうやって止める気だ?」
「俺が直接、向こうに呼び掛ける。戦いによる終わりだけは、迎えたくない」
 決意した瞳。それは、聖戦の時と変わらない強い瞳。
 その胸に秘めた強い想いと決意があったからこそ、《冥帝王》を倒す力が生まれた。
 ハヤトの瞳を見て、ロバートが頷く。
「俺はハヤトの意見に賛成する」
「そう言うと思ったぜ、お前は。奴らには恨みがあるが、お前の意見に従ってやる」
「おぉ!? お、俺も同じだぞ!?」
「ありがとう、ロバート、アルス、ゼロ」
 四人の霊戦機操者が手を合わせる。ロフはそこにいる意味がなかった。
「まずはアリサを助けたい。だから、一度俺だけで出撃しようと思う」
「いや、それは危険だ。向こうにはかなりの実力を持った操者がいる」
「あと、バリアマンって言う厄介な奴がいるからな。こればかりは、お前でも無理だぞ」
「いや、バリアマンはどうにかなる。それには、俺達操者の連携が必要だけどな」
 バリアマン対策について説明する。ロバート達はそれを聞いて目を見開いた。
 確かに、ありえない話ではない。これなら、霊戦機で倒す事ができる。
「そうと決まれば、今から特訓だな。ゼロ、行くぞ」
「んぁ!? ちょ……俺はこれからミーナちゅわんとベ――――」
「んな体力があるなら、特訓が優先だ!」
 ゼロ、連行される。ハヤトとロバートは苦笑した。
「アルスって、特訓ばかりやってるみたいだな」
「ああ。敵と互角以上に戦えるように、と本人は言っていた」
「そうか。あまり無茶はしない方が良い――――」
 途端、イシュザルトのサイレンが鳴り響く。
「敵……!? ロフ!」
「分かっている。イシュザルト」
『霊力反応。《邪王》の怨霊機と判断』
「《邪王》!?」
 ハヤトの背筋が凍る。瞬間、光の力が強い反応を示した。
 イシュザルトがモニターに映す。悪魔の翼を持った漆黒の機体。間違いなかった。
 ロバート共に頷く。
「あれが本当に《邪王》なら、協力できるように説得できるかもしれない」
「説得……何を考えているんだ、ハヤト?」
「《冥帝王》を倒すには、《邪神王》の力が必要になるはず。少しでも、可能性を信じたい」
「……無理だったら?」
「その時は……ここで決着をつける。前の戦いの時についていない決着を」



 漆黒の悪魔と呼べる姿をした機体が唸りを上げる。目の前にイシュザルトが見えて。
 それに乗っている彼は、「落ち着け」と静かになだめた。
『……ハヤト=カンザキ……《太陽王》……!』
 機体が漆黒の剣を手にする。そして、そのまま振り落とした。
 深紅の波動が放たれ、イシュザルトへと襲い掛かる。刹那、すぐに掻き消された。
 漆黒の機体の前に姿を見せる、白銀、赤熱、母なる海の装甲を持った霊戦機。
『来たか……』
「……《邪神王》、なんだよな? 間違いなく」
『ああ。今は”覚醒(=スペリオール)”していねぇから《邪王》だがな』
「……良く生きていたな。あの時の《冥帝王》に殺されたはずだったのに」
 ヴァトラスが静かに唸りを上げる。
「何で生きているのか、何で俺の前に姿を見せたのか、説明してもらうぞ!」
『そう粋がるな、《太陽王》。お前と戦う気はまだない』
「何……!?」
『戦おうにも、サタンデザイアが言う事を聞かないんでな。それに、お前と同じように《邪神王》になれない』
「《邪神王》になれない……!?」
《邪王》が頷く。ハヤトは光の力の強い反応を確かめていた。
 今の状態で《太陽王》にはなれない。肝心の神の剣と神の槍は封印している。
 それに、《太陽王》になったとしても、《冥帝王》を倒せる自信はない。
「……じゃあ、何で俺の前に現れた?」
『《冥帝王》に殺される時、俺の力が犠牲となって俺は助かった。それは、紛れもねぇ事実だ』
「…………」
『テメェの前に現れたのは、サタンデザイアの意思だ。《邪神王》の力を取り戻し、奴を倒すと言う意思のな』
「……まさか、《冥帝王》を倒すまで、俺とは戦わないって言いたいのか?」
『その通りだ』
 漆黒の機体――――怨霊機サタンデザイアが剣をヴァトラスの前に突き向ける。
『テメェとの決着は、奴を倒した時だ。それまで、俺は――――この黒鋼雷魔は、お前らに協力してやる』
「……さっきの攻撃は一体何なんだ?」
『ふん、テメェが弱くなっていないか確かめただけだ』
「……良いだろう。けど、イシュザルト内じゃ動きは制限されると思うぞ」
『構わん。しかし、指図は受けん』
「それは好きにしろ。けれど、誰かを殺すのは許さない。これが、お前と協力する条件だ」
 両者の鋭い目線。ヴァトラスとサタンデザイアが互いに唸りを上げる。

 聖戦より一年。全ての破滅させる完全なる魔を前に、二人の王が立ち上がる。
 光の救世主たる《太陽王》、純粋なる闇の《邪神王》が力を合わせる時、一つの希望が生まれる。

 その希望こそ、《冥帝王》を倒す唯一の力であると、ハヤトは信じていた。



 第一部終章 真に受け継がれる鼓動

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