異世界に来ていた《冥帝王》の”中枢”である葉山は、地球に戻って来ていた。
学校の屋上で、虚空の存在に話し掛ける。
「それで、”核”は?」
――――。
「見つからない?」
――――。
「でも、他のは見つけたんだね? じゃあ、他の奴から回収していくか」
”核”さえ手に入れば、”完全体”に戻れるが、見つからないのならば仕方ない。
先に他を当たるとしよう。”核”を手に入れるのはそれからだ。
「それで、他のはどこにあるの?」
――――。
「ネセリパーラ? ……仕方ない。また行かなきゃいけないけど」
そして、再び葉山が闇の中へと消える。
イシュザルト格納庫。《邪王》である雷魔を前に、アルス達が立ちはだかる。
その光景を見つつ、ハヤトは悪い事をしてしまった感じだった。
無理もない。敵だった人間が、目の前にいるのだから。
(……やっぱり、俺の独断で決めたのは不味かったかな……)
心の中で思う。その時、ロバートが雷魔に手を差し出した。
「ロバート=ウィルニースだ。暫くの間は味方として、お前を認める」
「……ったく、《霊王》の判断に対して俺らは逆らえねぇ。今回はな」
「って、二人ともオールオッケーなのかよ!?」
ロバートとアルスの意外な言葉に、ゼロが驚く。
こればかりはハヤトも驚いた。意外にあっさりと二人の霊戦機操者は彼を味方として受け入れた。
ゼロの言葉にロバートが答える。
「俺達だけじゃ、あの《冥帝王》には勝てない。それはお前も分かってるだろ?」
「そうだけどよぉ! こいつは俺らの敵だぜ!?」
「《冥帝王》を倒すには、こいつの力も必要なんだとハヤトが判断したんだ」
その言葉にゼロが黙る。まだ受け入れるわけにはいかないようだ。
ハヤトがゼロに頭を下げる。
「すまない。今は光と闇、二つの王の力を協力しないと奴には勝てないんだ」
「……うーあーうー」
「はいはい、もう抵抗できないから了承しなさい」
「ぉぉぅ、ミーナちゅわん。分かったよ……」
ゼロが折れる。
「それで、早速で悪いんだけど、すぐに出撃しようと思っている」
「何だと?」
「ゼルサンス国にいる俺の大切な人を救う。力を貸せ」
ゼルサンス国。ついに、国王が最終兵器の使用を下した。
開発した白髪の男オルトムが兵を率いて、ランハードの部屋に入る。
「……!」
アリサが扉の方を見る。
「申し訳ありませんが、私達の言う事に従ってもらいますよ」
オルトムの率いていた兵が彼女に近づく。しかし、兵達はその場に動きを止められた。
オルトムの後ろから、ランハードが姿を見せる。
「アリサ様の周囲に結界を張らせてもらった。アリサ様を守るのが、今の私の役目だからな」
「……何をおっしゃいますか? 彼女は最終兵器を動かす為に必要な存在なのです」
「関係ない。アリサ様には一人たりとも触れさせはせぬ」
そして、アリサの前に立ちはだかる。兵達が銃を構えた。
「これは、国に対する裏切りと見てよろしいですね?」
「好きにしろ。私は役目を果たすのみ」
彼女の赤い瞳が、少しだけ黄金の輝きを発していた。
イシュザルト格納庫。ヴァトラスに乗った瞬間、ハヤトは鼓動を感じた。
光の力が何かに反応している。その時、脳裏に何かが聞こえた。
――――獣が蘇る。
「獣……?」
――――光の力を持つ獣。魔を倒す力を教えてくれる存在。
「光の力を持つ獣……それって、一体……?」
「どうした、おい?」
「……いや、何でもない。出撃しよう」
ヴァトラスが唸りを上げる。
「気になっているのは分かる。けど、今はアリサを助ける事だけに集中してくれ」
ハヤトの言葉に、ヴァトラスが強い唸りを上げて応えた。
格納庫のハッチが開く。
「ミーナ、ユキノの事、また頼む!」
「はいはい。ちゃんと助けなさいね?」
「ああ。行くぞ、ヴァトラス!」
「……サタンデザイア、行け」
霊戦機と怨霊機。二体の機体が出撃する。
ハヤトの瞳が黄金へと変わっていく。強い力に反応して。
ゼルサンス国。ランハードの強さは、伊達に三将軍と呼ばれる実力を見せた。
騒ぎに気づいて、同じ三将軍であるジェイルが姿を見せる。
「何事だ?」
「これはレイオニス将軍。ガリュドス将軍が国を裏切ったのです」
「何だと?」
ランハードの前にジェイルが立ちはだかる。
「……レイオニス……!」
「どう言う事だ、ガリュドス。三将軍のお前が国を裏切るなど……」
「……私の役目はこの国を戦争に勝たす事ではない。私の役目は、この方をお守りする事なのだ」
「何を言っている? その者は我が国の人間ではない」
「そうだ。しかし、この方がいなければ、あのお方は負ける」
ランハードの言葉にジェイルが剣を向ける。
「ガリュドス、裏切りの罪は深いぞ」
「……レイオニス、私はまだ、死ぬわけにはいかないのだ」
ランハードがレイオニスを睨みつけ、アリサに微笑む。
アリサを守る結界がより強まり、アリサは何かを察した。
「ガリュドスさん、まさか……!?」
「ご安心を。私は死にません。ただ、”本来の姿に戻るだけ”です」
「え……!?」
「伏せていてください。大丈夫です、必ずあなた様をハヤト=カンザキ様のところへ……!」
ランハードが目を閉じる。そして、秘めていた霊力を解き放った。
灼熱の闘気が彼女を包み込む。
「ゼルサンス国よ、見せてくれよう。これが……私の真の姿だ!」
ランハードの全身が光り輝く。この時、彼女の瞳は黄金の瞳へと変貌していた。
そう、ハヤトと同じ『太陽の如く燃え盛る光の瞳』に。
ヴァトラスとサタンデザイアが空を飛ぶ。その時、強い反応を示した。
二体が突然剣を構え、互いに周囲を見渡す。
「どうした、サタンデザイア?」
「ヴァトラス? ――――!?」
光の力が強大な力に反応した。自然に力が溢れ出る。
間違いない、《冥帝王》だ。奴が――――葉山が近くにいる。
刹那、地中から二体の巨大な何かが襲い掛かってきた。
「くっ……神の盾アリアスッ!」
ヴァトラス、サタンデザイアの二体を神の盾が守り、巨大な二体の攻撃を防ぐ。
漆黒の龍が二体。その大きさは、ヴァトラスの全長の十倍を軽く超えている。
「龍……!? この反応は、《冥帝王》……どう言う事だ!?」
「チッ、敵か……面白ぇ!」
サタンデザイアが攻撃する。漆黒の龍の一匹は、その攻撃を軽く受け止めた。
暗黒に染まる漆黒の瞳が、サタンデザイアを睨む。
「雷魔! 朱雀明神剣ッ!」
無数の竜巻が漆黒の龍を襲う。しかし、相手は無傷だ。
攻撃が全く効いていない。やはり、この二匹の龍は《冥帝王》のようだ。
しかし、変だ。《冥帝王》の存在が一つだけじゃないなんて。
「どうなっているんだ……? 《冥帝王》は葉山なんじゃ……!?」
「厄介な奴らじゃねぇか……!」
ヴァトラスとサタンデザイアを襲う二匹の漆黒の龍。
手の打ちようがない今、ヴァトラスがやや怯えていた。
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