第六章 解き放たれる魔剣


 神崎家本家の道場。寒さだけが残る朝、ハヤトは道場で剣を構えていた。
 手にするのは神の剣ヴァルキュリア。霊力を研ぎ澄ませ、光の力を解放する。
 瞳が黄金に輝き、ハヤトの周囲に風が巻き起こる。
「はぁっ!」
 神の剣に力を込める。八つの球体がハヤトの周囲に姿を見せた。
 それぞれ赤、青、橙、緑、黄、紫、白、黒の異なる色をした光の球体。
 ハヤトがさらに力を込めると、八つの球体は静かに周囲を回転する。
 そして、目の前に存在する人形へと放つ。人形の周りを八つの球体が囲む。
 瞬間、八つの球体が消え、ハヤトが片膝を地面についた。
「くっ……」
 神の剣も消え、黄金に輝いた瞳が元に戻る。ただ、とてつもない疲労感だけが残った。
 失敗した。舌打ちし、ハヤトが一回だけ深く息を吐く。
「……これが出来れば、シャイン・フォースを超える事ができるはずだけど……!」
 神の槍にて全ての力を解放し、さらには神の剣の力をも解放して敵に叩き込むシャイン・フォース。
 その威力は相手の強さを無力化し、一撃必殺を誇るが、霊力の消費や身体への負担が半端ではない。
 しかし、《冥帝王》を倒すにはシャイン・フォースほどの技が必要になる。
「なるほど、火、水、地、風、雷、光、闇、無の力を全て操った技か」
「……ああ。完成すれば強いんだけど、まだ無理みたいだ」
 道場に入って来た祖父に答える。確かに、今のままでは未完成だ。
「もう少し鍛えた方が良いかな……それより、サキの修行は?」
「さっき終わったところじゃ。ひと月もすれば、朱雀爆輪剣まで使えるはずじゃ」
「……長くないか?」
「お前は素質が高過ぎたから一日で使えたが、それは全く例外じゃ」
 そう聞くと、つくづく、自分の素質の高さが恐ろしいように思える。
「あまり無茶はするな。右腕の治りも遅くなるだけじゃぞ」
「分かってる」
 右腕のギプスを見つつ、ハヤトは頷いた。



 異世界ネセリパーラのゼルサンス国謁見の間。
 将軍ジェイル=レイオニスは苦痛の表情を浮かべていた。
 霊戦機との戦闘を境に、突然聞こえてきた声。

 ――――力を解放せよ。封印を解き放て。

「くっ、黙れ……!」
 頭の中に響く声を振り払い、いつもと変わらないジェイル=レイオニスを作る。
 ランハードの裏切りによって、一度は阻止されてしまった最終兵器。
 しかし、その最終兵器を開発したオルトムは、他にも最終兵器を動かす為の方法があると言う。
「それで、どうやってあの代物を動かす気だ、オルトム」
「簡単でございます。『惨牙』でありますリオルド=メルサス様の霊力を使えば良いのです」
 国王の問いにオルトムが答える。リオルドが嫌そうな顔をした。
「俺様だと? テメェ、俺に死ねって言ってんのかぁ?」
「いえいえ。メルサス様の霊力は高い。死ぬ事はまずありません」
「さらに、普通の霊力者でも起動できるように改良してあります」と付け加える。
 ジェイルは疑問を抱いた。短期間で改良などできるはずない。
 ただでさえ、最終兵器の完成に二十年は掛かったと言われているのだ。
「……では、今回の出撃では『惨牙』を外せと?」
「そうなります。よろしいでしょうか?」
「……構わない」
 霊戦機と戦う場合、リオルドは貴重な戦力だ。
 しかし、最終兵器さえ動けば問題ない。あれさえ動けば、霊戦機など敵ではない。
 国王が王座から立ち上がる。
「オルトムよ、最終兵器を起動させ、アルフォリーゼを滅ぼせ! レイオニス、メルサス、貴様達も良いな!」
「……かしこまりました、陛下」
「お好きなように、国王様」



 地球。《冥帝王》の”中枢”である葉山は、学校の屋上でハヤトの光の力を思い出していた。
 自分を封印した《太陽王》である光の鳥とは違った力。
「……そう言えば、”心臓”は彼に倒されたんだっけ」
 封印が解けた時、”心臓”はすぐに《太陽王》と《邪神王》の二人を始末しようとした。
 しかし、《太陽王》より強いはずの”心臓”は、その力の前に敗れ、滅んだ。
 間違いない、《太陽王》は強くなっている。ハヤト=カンザキと言う人間に”生まれ変わった”事で。
「それで、”核”はまだ見つからないの? いい加減、うんざりしてるんだけど?」
 虚空の存在を睨む。

 ――――。

「……まだ見つからないだと? ”見つけられない”の間違いだろ?」
 葉山の口調が変わる。もはや、余裕などない。
 他の”部位”を取り込んで強さを得ても、”完全体”でなければ《太陽王》は脅威の対象だ。
「……ネセリパーラに行く。君は”核”を見つけろ」

 ――――。

「君は素直に言う事を聞いていれば良いんだ。逆らうと、君も取り込むよ?」
 葉山の言葉は、虚空の存在にとって残酷なものでしかない。



 再びネセリパーラ。巨大戦艦イシュザルトは、ゼルサンス国の霊兵機の襲撃を受けていた。
「雷光斬裂閃!」
 ゼルサンス国の霊兵機を相手に、霊戦機ヴィクトリアスが剣を振るう。
「ツゥゥゥインドラグニアァァァ、キャノォォォンッ!」
 背中の長い砲身二つを肩に装備した霊戦機グレートリクオーも攻撃する。
 そして、霊戦機ギガティリスはイシュザルトの前に立ち、結界を張りつつ応戦していた。
「くそがっ! ギガティリスの結界で攻撃を防いでも、数が多過ぎてキリがねぇ!」
「やはり、霊戦機三体だけでは辛いな……!」
「うぉぉぉっ! 他の霊戦機は何してんだよぉぉぉっ!?」
 いくら霊戦機とは言え、相手の数が多いのは問題だ。
 ギガティリスの結界が破られる。操者のアルスは、結界を破った機体に目を見開いた。
 四枚の機械的な翼、胸に輝く青い宝玉。その姿は霊戦機ヴァトラスを思わせる。
「あれは……ヴァトラスを真似て作った奴か!」
『霊戦機ギガティリスを確認。操者を排除し、機体を強奪する』
 霊戦機ヴァトラスを真似て作られた霊兵機ヴィトラスが、背中の砲身を腰付近まで移動させる。
 そして、砲身が伸び、長いキャノン砲が装備された。
 エネルギーが充填され、勢い良くビームが発射される。ギガティリスはそれを防げなかった。
 分厚い装甲に命中するビーム。その反動でギガティリスが少し後ろへ下がる。
「な……ギガティリスの結界で防げねぇだと……!?」
『第二射、発射……』
『そうはさせない!』
 ヴィトラスの二発目の攻撃を巨大な獅子が防ぐ。《神の獅子》レオーザだ。
 レオーザが高々と咆哮を上げる。
『退け、ゼルサンス国の兵達よ! 今は人間同士の争いをやっている場合ではないのだ!』
『巨大な獅子……なるほど、あれが裏切ったガリュドス将軍と言う事か』
 ヴィトラスが構える。その時、ヴィトラスの前に一体の霊兵機が立った。
 純白に包まれた霊兵機。レオーザが身構える。
『霊兵機アーティファクト……レイオニス……!』
『裏切り者であるランハード=ガリュドスよ、お前だけは、私自らがお前に裁きを下す!』
『…………』



 イシュザルトの格納庫。外で争いが起きているせいか、ヴァトラスが唸り続ける。
 そんなヴァトラスに対し、アランはついに怒りを堪え切れなかった。
「だーっ! 分かったから黙ってろ! 兄貴を連れて来れば良いんだろ、連れて来れば!」
 まるで子供のようで仕方ない。アランが肩を落とす。
 その様子を、ヴァトラスの向かい側に立つ怨霊機サタンデザイアに乗った雷魔は見ているだけだった。
「って、あんたも戦えよ!」
『ザコと戦う気はない。強い奴が出てくるのを待っているだけだ』
「ふざけんな! とっとと出撃しやがれ!」
『貴様の命令なんざ聞く気はない』
 サタンデザイアで睨まれる。アランは余計に肩を落とした。
「何でイシュザルトに乗ってる操者は、俺を艦長として認めてないんだよ……」
 威厳がないだからだろうが、ここまで艦長としての存在が薄いのはショックである。
 とりあえず、ハヤトの所へ向かおうと思ったアランだった。



 地球。神崎家本家のリビングで、ハヤトはソファに横たわって寝ていた。
 特に疲れているわけでもない。ただ、眠たかったから寝ているのだ。
 そんなハヤトの寝顔を見つつ、アリサがハヤトの髪に触れる。
「どんな夢を見てるんでしょうね……」
「パパー!」
 ユキノが走って来る。アリサが口元に指を当てて「しーっ」と注意する。
「今、パパ寝てるから静かにね?」
「パパ、おねんね?」
「うん。だから、起こさないようにね。どうかしたの?」
「あのね、ワンちゃんが……」

 ギャァァァァァァッ!

「――――!?」
 ハヤトが目を覚まし、すぐに起き上がる。そして辺りをキョロキョロと見渡した。
「……な、何だ、今の悲鳴は……!?」
「庭の方から聞こえてきましたけど……?」

 助けてくれぇぇぇぇぇぇっ!

「…………」
「……この声は、アランみたいですね」
「なるほど、また噛まれたわけだ……」
 アランの悲鳴のお陰で目が覚めた。少し体にダルさが残っているが。
 庭の方まで行き、口笛を使ってペットのケモノを呼び寄せる。
 ケモノに噛まれたアランは、噛まれた左腕を擦りながら涙を流していた。
「何で……何で噛まれるんだよ……」
「つくづく、お前って可哀想な奴に思えるな、俺としては」
「それは酷いぜ、兄貴……」
「それで、向こうで何かあったのか?」
 アランがこっちに来たと言う事は、ネセリパーラで何か起きたに違いない。
「まさか、《冥帝王》か……?」
「いや、そっちじゃなくてゼルサンスの方だよ。奴ら、最終兵器を動かそうとしてるらしい」
「何だと!?」
 ハヤトが目を見開く。最終兵器は確か、霊力者の命を使って動かす代物だと聞いていたからだ。
 アランがポケットから、地球とネセリパーラを行き来できる移動装置を取り出す。
「奴ら、最終兵器を阻止されないように、イシュザルトを襲撃して来た。
 そのせいでヴァトラスがうるさくて、兄貴の所に来たんだよ」
「そうか、ヴァトラスが……。しかし、この腕じゃ……」
 自分の右腕を見る。アリサがハヤトの右腕のギプスに触れつつ、首を横に振った。
「今行くのはダメです。ちゃんと右腕を治さないといけません」
「分かってる。けれど、今行かないと、ゼルサンス国の最終兵器を止められない……」
「ですけど……」
「……あのー、姉ちゃん? 骨折とかなら、すぐに治せるの忘れてる?」
 アランの一言に、ハヤトとアリサの二人が顔を合わせる。
「骨折程度なら、ネセリパーラの医療技術ですぐに治せるぜ」
「……いや、それは無理だろう」
「無理じゃないんだな、これが。ま、来れば分かるって」
「……そうみたいだな。アリサ、ユキノとサキの事は――――」
「私も行きます」
 アリサの言葉に、ハヤトが目を見開く。
「アリサ!?」
「こちらに残った方が安全だとは思います。けれど、想いの力が必要になりますよね?」
「そうだけど、サキはともかくユキノはどうする? 連れて行くのは帰って危険だ」
『私が護衛につきます』
 ハヤトの目の前に、影王が姿を見せる。
「今回は私もネセリパーラと言う世界に行かせて頂きます。ご許可を」
「影王まで……」
「素直に連れてったらどうだ? イシュザルトの中だったら大丈夫なんだしよ」
「……仕方ない。アリサ、コト姉にこの事を伝えて。影、お前は全力でアリサとユキノを守れ」
 向こうへ行くのは自分だけで良いのだが、なぜか周りは一緒に行こうとする。
 しかし、それを強く断っても断り切れないハヤトだった。



 ネセリパーラ。《神の獅子》レオーザとジェイルの霊兵機アーティファクトによる激闘が繰り出される。
 しかし、レオーザは防戦一方だった。
『レイオニス、私はお前と戦いたくはない!』
『ならば、なぜ裏切った? 三将軍であるお前が裏切らなければ、私はお前を斬らずに済むのだ!』
 アーティファクトの凄まじい斬撃。レオーザはバリアで攻撃を防ぐだけだ。
 レオーザであるランハードは、ジェイルと戦いたくはなかった。
 ジェイルは今のゼルサンス国を変える事ができる人間だからだ。だからこそ、戦いたくない。

 ――――主が近くにいる。封印を解き放て。

『くっ、こんな時にかっ……!』
 ジェイルの顔が歪む。戦闘中に頭の中に声が響いてきた。
 否、全身を激痛が襲い、光が漏れ出す。
『うぉぉぉおおおおおおっ!?』
『レイオニス!?』
 アーティファクトから溢れ出す光を見て、レオーザが目を見開く。
《太陽王》や霊戦機達の放つ光とは全く異なる闇の光。
『この闇の光は……まさか、レイオニスにあの剣が!?』
 以前から、レイオニスから強い力を感じてはいたが、それが闇の力だとは思わなかった。
 アーティファクトの上空に闇の光が集まり、一つの姿へと形成されていく。
 まるで、人間の血を吸い尽くしたかのような禍々しい真紅の刀身。漆黒の柄に輝くダークブルーの宝玉。
 闇の力を放つ剣だ。
『あれは、”神々の魔剣ルシフェル”……!』

 神々の魔剣と呼ばれる闇の王の剣が、ついに解き放たれた――――



 第五章 守る為に

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