第七章 闇と魔の翼


 神々の魔剣が目覚めた。宙をただ舞うだけで、静かに主を待っている。
 アーティファクトが大地に倒れる。《神の獅子》レオーザが、アーティファクトの元へ駆け寄った。
 ランハード=ガリュドスへと姿を変え、アーティファクトのコクピットを開ける。
 意識を失っているジェイル=レイオニス。ランハードが優しく抱きかかえる。
「レイオニス……しっかり、レイオニス!」
「……ガ……ガリュ……ドス……」
「しっかりしろ、レイオニス!」
 身体が冷い。どうやら、魔剣に精気を吸われてしまったようだ。
 このままではジェイルが危ない。
「……ガリュドス……、オルトム殿を……止めてくれ……」
「オルトムを?」
「オルトム殿は……最終兵器を使おうと……して……」
「何……最終兵器を!?」
「……しかし……何か嫌な予感がするのだ……。頼む……国を……ゼルサンス国を守って……くれ……」
 ジェイルが目を閉じる。ランハードは彼の手を握った。
 死なせてはいけない。ジェイルには生きて、ゼルサンス国を支えてもらわねばならない。
「……レイオニス……私は、あなたを決して死なせはしない……!」
 ランハードがジェイルの唇に自分の唇を重ねた。



 イシュザルトの格納庫。ヴァトラスの前にハヤト達が姿を現した。
 ハヤトを見て、ヴァトラスが唸りを上げる。
「分かってる。もう少し待ってくれ、ヴァトラス」
 戦うには、この右腕を治すのが先だ。
 サタンデザイアが唸りを上げる。ハヤトはサタンデザイアの方を見た。
『ついに魔剣が見つかった。先に、力を取り戻させてもらうぞ』
「……忘れるな。今の俺達は、敵同士じゃない」
『ふん、分かってる』
 そう言って、サタンデザイアがイシュザルトから飛び立つ。



 ゼルサンス国の誇る戦艦グランレイディア。最終兵器はその中に格納されていた。
 否、格納と言うよりは、グランレイディアそのものが最終兵器として作られている。
「おい、いつまで俺様をこのままにする気だ?」
 最終兵器のコクピットに座る三将軍の一人、リオルドがオルトムを睨む。
「そろそろ時間ですか」と言いつつ、オルトムがリオルドに近づく。
「”神々の魔剣”と言う、好都合なものは手に入れておきますか。グランレイディアを使って」
「あぁ、魔剣だぁ?」
「ええ。絶大なる闇の力を秘めた剣……それを手に入れるには、この身体を使わなければ……」
 そう言って、内部を見渡す。リオルドが「はぁ?」と首を傾げた。
 瞬間、リオルドの胸をオルトムが貫く。
「ぐっ……な……!? オルトム……テ……メ……」
「この最終兵器は、私がいれば動くのです。あなたの命は、私の糧として頂きますよ」
 リオルドがうな垂れる。オルトムは「くっくっく……」と笑いを堪えてた。
 これで良い。これで、全ては自分の物になる。
 リオルドの心臓を飲み込み、オルトムがその”本来の姿”を見せる。
『《太陽王》、《邪神王》を倒し、”中枢”を始末すれば、全ては私の物……』
 全ての破滅などより、全てを手に入れる。それが意思を持った自分の目的。
 それには、邪魔者を排除しなければならない。



 イシュザルトの医務室。ハヤトの右腕のギプスが取り外される。
 そして、フィルツレント(=医者)が、ハヤトの右腕に注射した。
「ネセリパーラじゃ、骨折したら、その箇所の治癒能力を促進させる注射で治すんだ。
 大体、三十分もあれば綺麗に治るぜ」
「なるほど、地球じゃ考えられない治療法だな」
 ネセリパーラの文明は、地球など遥かに越えている。
 腕の調子を窺いつつ、ハヤトの瞳が黄金へと変化した。
「……!?」
 力が溢れ出そうとしている。ハヤトは必死に力を抑えた。
「光の力が反応している……まさか、葉山が……!?」
「パパ……」
 ユキノが抱きついてくる。ハヤトは力を抑えつつ、ユキノの頭を撫でた。
 震えている。何かに怯えているのが分かる。
「大丈夫だよ、ユキノ。パパが」
 イシュザルトが警報を鳴らす。
『ゼルサンス側より、強大なエネルギーを感知。データ該当不明』
「該当なし!? あいつら、新型でも作ったってのか!?」
「……いや、違うな」
 アリサにユキノを預け、右拳を軽く握る。
 まだ痛みはあるが、骨が折れている感覚がない。
「アリサ、ユキノの事頼む。影、お前も分かってるな?」
「はい」
「御意」
「アラン、ヴァトラスの出撃許可を出してくれ。奴を相手にするには、ヴァトラスしかいない!」



 ギガティリスが霊兵機ヴィトラスと戦う。しかし、不利な立場にいた。
 どれだけ攻撃しても、バリアでダメージを与えられない。
 しかも、ヴィトラスの攻撃は防げないと言う状況。操者のアルスが歯を噛み締める。
「くそっ……、こいつを倒すにはどうすればっ……!」
『霊戦機の相手は後回し。今は、イシュザルトを破壊する』
 ヴィトラスがキャノン砲を構える。アルスが再び攻撃する。
 しかし、やはり攻撃はバリアで阻止された。ヴィトラスの構えるキャノン砲にエネルギーが充填されていく。
 瞬間、ヴィトラスの背後から一閃が降り注ぎ、貫く。
『……!?』
『バリアマンの弱点。それは、背後からの攻撃を防げない事』
 ヴィトラスの操者であるバリアマンが攻撃してきた相手を見る。グランレイディアだった。
 上空に浮かぶ神々の魔剣を吸収する。グランレイディアに10枚の悪魔の翼、化け物のような腕が生えた。
 グランレイディアが見た事もない化け物へ変わる姿を見て、ゼルサンス国の霊兵機達の動きが止まる。
『これが魔剣の力か。実に良い……素晴らしい力だ……』
「だろうな。そいつは俺様の力そのものだからな!」
 グランレイディアを――――その本性を見せたオルトムを闇の波動が襲う。が、無力化された。
 オルトムの前に立つのはサタンデザイア。雷魔が睨みつける。
「そいつは俺様の剣だ。返しやがれ」
『《邪神王》……ふふふ、もはや無駄ですよ』
 オルトムが不敵に笑う。
『魔剣は私の一部となりました。そう、《冥帝王》の”翼”たる私のね』
「ふざけてんじゃねぇぞ、テメェ……!」
 剣を構え、サタンデザイアが突撃する。オルトムは何もしなかった。
 オルトムの前に結界が発生し、サタンデザイアの剣を防ぐ。
『無駄ですよ』
「何だと!?」
『あなたは闇の力を持つ者。闇の力の結晶である魔剣を取り込んだ私には、一切通用しない』
 化け物の腕がサタンデザイアを掴む。
『次は、あなたの中に眠る《邪神王》の力を頂きましょうか……』



 イシュザルトの格納庫。ヴァトラスは待っていたのか、手の平を地面について待機していた。
 ハヤトがヴァトラスの手の平に乗り、そしてコクピットへ乗り移る。
「ヴァトラス、少しだけ力を抜いてくれ。まだ、右腕が痛むからな」
 このまま戦えば治ろうとしているものも治らないだろう。
 ヴァトラスが低く唸り、神の槍グーングニルを手にする。
 神の槍から赤熱の光が発せられ、ハヤトの右腕に集まっていく。ハヤトは驚いた。
 右腕の痛みが完全に消えた。骨折が完治している。
「……まさか、治癒の力を引き上げたのか?」
 ヴァトラスが唸る。どうやら、ヴァトラスには分かっていたらしい。
 苦笑し、手元の球体に力を加える。
「敵は《冥帝王》の部位。ビビるなよ、ヴァトラス」
 その言葉に、ヴァトラスが応える。



 オルトムに捕まったサタンデザイアが、必死になって脱出しようと足掻く。
 しかし、化け物の腕の力は強く、弱まる気配を見せない。
 悲鳴に近い唸りを上げるサタンデザイア。
『我が命が危険だと分かっているようですね』
「チッ……テメェなんざ、《邪神王》にさえ戻れればッ!」
『ならば戻ったらどうですか? ああ、そのような力を持っていないのでしたね』
 ワザとらしく言う。雷魔は歯を噛み締めた。
 このままだと、力を全て吸われてしまう。
『《邪神王》の力、頂きますよ。全ては、私の思うがままに』
「させると思うな、《冥帝王》!」
 サタンデザイアを掴む腕をヴァトラスが断つ。そして、光の波動を放った。
 オルトムが光の波動を闇の力で防ぐ。
 切断された化け物の腕を振り払い、サタンデザイアが怒りに満ちた唸りを上げる。
「チッ、余計な事しやがって……」
「良く言うぜ。あのままだと、また《冥帝王》に倒されていたぜ」
「フン」
 二人がオルトムを睨む。
『《太陽王》まで出て来ましたか……』
「《冥帝王》の部位だな?」
『ええ。私は《冥帝王》の”翼”。しかし、私に勝てると思わない方が良いですよ、《太陽王》』
「…………」
 グランレイディアのブリッジ辺りから、ヴァトラスと同等サイズの上半身が姿を見せる。
 その手には、真紅の刀身を持った闇の剣が握られていた。
『”神々の魔剣ルシフェル”……名は存じてるかと』
「ああ。《邪神王》の本来の力を封印してある剣だったな」
『そう。しかし、この剣は私の物です。いえ、全ては私の物となる……』
 切断された化け物の腕が再生する。
『全てを手に入れるには、お前達二人を殺し、あの”中枢”を葬る必要がある……!
 覚悟してもらうぞ、《太陽王》に《邪神王》!』
「フン、ザコが……!」
「お前如きに負けはしない……全世界を平和を取り戻す。それが、《太陽王》の力を持つ俺の役目だ!」
 ヴァトラスとサタンデザイアが剣を構えて咆哮を上げる。

 神々の魔剣を手に入れた敵を相手に、二人の王が挑む――――



 第六章 解き放たれる魔剣

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