第二章 究極の敵との対峙


 神崎家の玄関。ハヤトは霊剣を影王に預け、家の中に入った。
「ただいま……」
「おかえりなさ――――ハヤトさん、ずぶ濡れですよ! 傘はどうしたんですか!?」
「それが、壊れちゃってさ……」
「す、すぐにタオルを持ってきますからっ」
 アリサが廊下を走っていく。ユキノが悲しそうな顔で見つめる。
「パパ、だいじょーぶ?」
「うん。大丈夫だよ」
 笑顔で答える。ハヤトは右手に力を込めた。
 光の球体が生まれ、穏やかな光が溢れ出す。
「パパ、それなーに?」
「……これは光の球。ほら」
 ユキノの前に差し出す。おどおどしながら、ユキノは光の球体に触れた。
「わぁ……」
 光がユキノの手に触れられて、少し純白の光に変わる。
 ユキノが光の球で楽しんでいる時に、ちょうどアリサがタオルを持ってきた。
 ハヤトの右手から光の球体が消える。ハヤトはタオルを受け取って、まずは頭を拭き始めた。
「ありがとう、アリサ」
「いいえ。今日はご飯の前にお風呂ですね」
「ああ」
 ユキノがハヤトの制服の裾を引っ張る。
「パパ、ユキノも一緒にいーい?」
「うん。良いよ」
「あ、でしたら、私も一緒に入ります」
「いや、一緒に入るってアリサ……」
 そうハヤトが言うと、アリサがくすりと笑う。
「だって、私達はもう『夫婦』ですよ? 家族三人でお風呂も良いじゃないですか」
「……いや、そうなんだけどね」
 しかし、ハヤトが先に折れたのは言うまでもなかった。



 夜、アリサがユキノを寝かしつけた頃、ハヤトはシュウハに連絡を取っていた。
「それで、向こうとは連絡取れたのか?」
『いや、無理だ。やはり、向こうとの技術の発達が違いすぎるからな』
「そうか……。連絡は向こうの方からしてくる以外ないって事だよな?」
『そう言う事になる』
 ネセリパーラの技術は、地球の電話にかける事もできる。その技術は凄かった。
 シュウハが話を続ける。
『とりあえず、私の方で調査はする。お前はいつでも戦えるようにしておけ』
「……ああ。分かってる」
 電話を切る。ハヤトは軽く息を吐いた。
 天井裏にいるだろうと思われる影王に話し掛ける。
「……影」
『何か?』
「……じじいはどうしたんだ?」
『そう言えば、ご当主より書き置きがあります』
 天井裏から一枚の紙を渡される。ハヤトはそれを手にした。
 間違いない、祖父の字だ。


 我が孫へ

 修行中にうっかり霊剣を持ってきておったから、お前に返す。
 ここ最近、妙な雲行きじゃが、ハヤトよ、今は動こうとするな。

 いずれ時は来る。今は、鈍っておる剣の腕を磨いておけ。


「……いや、誰も鈍っていないんだけど」
 これでも、全力の影王に修行の相手をしてもらっているから、そこまで鈍ってはいない。
 しかし、祖父の言う通りだ。ネセリパーラと連絡が取れない今は、迂闊に動かない方が良いだろう。
「影、お前はいつもと同じように俺の側にいてくれ。あと、アリサとユキノには、他の人間を」
『かしこまりました』



 次の日の午前授業。体育館で行われるバスケットボール中に、ハヤトは闇を感じた。
(こんな時に……!?)
 光の力の反応を必死に抑える。その時、ボールが回って来た。
 ボールを受け取り、そのままシュート。当然、ゴールへ綺麗に入った。
 そんなハヤトの凄さに、同級生の女子達が騒ぐ。
『キャー、神崎君カッコイイー!』
「……いつ見ても凄いわね、ハヤトって。真ん中あたりから余裕でスリーポイントだなんて」
「はいっ。私もとんでもない人を愛してしまいました」
 騒ぐ女子達の中、えんなとアリサが話をしている。ハヤトは立て続けにゴールを決めた。
 そんな彼の姿を見て、嘆いているのが丸坊主頭の亀田である。
「ぬぁぁぁ、また神崎に点を取られたじゃねぇか! 陽平、葉山ぁ! しっかりマークしろよ!」
「ならば、お前がやれ」
「そうそう。彼の動きには追いつけないよ」
 二人に言い返される。そんな亀田の姿を見つつ、ハヤトは違う奴と交代した。
 闇の力を感じるせいで、授業に集中できない。
 ハヤトの姿を見つつ、彼は不敵な笑みを浮かべた。
(なるほど……”器”はなくなっても、あの力は残っているわけだ)



 同時刻、異世界ネセリパーラの空を飛ぶ巨大戦艦の格納庫。彼――――アラン=エルナイドは徹夜だった。
 開発中の新型霊力機は、とてもじゃないが、今までの機体とは桁違いに制御が難しかった。
「えーと、二本の剣にカイザーバスター……あとは、何だっけ……?」
 武装を再確認しつつ、出力バランスを調整していく。
「あーるすー、動かしてー」
『かなり壊れてきたな、アラン……。流石に、4日連続の徹夜は応えているだろ?』
「まーだまーだー……zzz」
『寝るな!』
 新型霊力機に乗っている彼――――アルス=ガスタルは怒鳴った。
 一年前、《獣神》として戦った彼は、昔乗っていた霊力機を駆って、敵国と戦っている。
『……ったく、こいつを完成させねぇと、奴らには勝てないんだぞ』
「わーってるけどなー……こんな時こそ、兄貴がいてくれればなー」
 やる気をなくしていたアランだった。



 放課後。下校の準備をしている時に、太陽の鼓動が強く反応した。
 光の力の解放を抑える。その時、一人の男子生徒がハヤトに近づいた。
「神崎君、ちょっと話があるんだ、良いかな?」
「……別に良いけど、話って何だよ、葉山?」
 同級生の葉山慎。それが彼の名前だった。
「屋上に行かないか? ここだと、他の人もいるし」
「……ああ。とりあえず、俺はそっちの気はないからな」
「僕も同じだよ、それは」
 互いに苦笑する。ハヤトは「先に帰ってて」とアリサに告げて、鞄を持ったまま教室を出る。
 アリサはまた一緒に帰れないのが残念なのか、ため息をついた。
「何ため息ついてんのよ、アリサ。これから美香と喫茶店行こうって話してんだけど、アリサも来ない?」
「いえ、遠慮しておきます。私の帰りを待っている子がいるので」
 話し掛けてきたえんなに笑顔で答える。えんなは帰ろうとするアリサを捕まえた。
「え、えんなさん……?」
「少しくらい付き合いなさいよ? それに、お土産にケーキも買えるしさ」
「い、いえ……そんな……」
「遠慮しない。それに、あ、アドバイスして欲しいのよ……。どうやったら、そんな風に仲良くなれるか……」
「……加賀見さんと今より仲良くなる方法ですか?」
 どうアリサが訊くと、えんなは耳まで真っ赤にさせた。
「そ、そんな訳ないじゃない!? だ、誰があんなのと……」
「分かりました。アドバイスします」
 えんなの気持ちを知っているアリサは、一緒に行く事にした。



 屋上で、ハヤトは葉山と話をしていた。
 いや、二人とも黙ったまま屋上から見える校庭を眺めている。
 ハヤトは感じていた。葉山から溢れ出ている闇の力を。
「……良いよね、この景色。他の人達がアリみたいに小さくてさ」
「…………」
「そう身構えないでよ。僕も力を解放してしまうじゃないか」
「……やはり、そうなのか」
 葉山と距離を置く。ハヤトは霊力を集中した。
 しかし、霊力を集中している感覚がない。まだ、昨日の結界の効果はあるようだ。
 後ろから影王が姿を現し、ハヤトに霊剣を渡す。
 葉山を睨みつけたまま、ハヤトは訊いた。
「なぜ生きている? お前はあの時倒れたはずだ!」
「生きているって言うのは違うかな。あれは”心臓”で、僕は”中枢”なんだ」
「……どう言う事だ?」
「つまり、君が戦った《冥帝王》は完全体じゃないって事さ、《太陽王》!」
 葉山から闇が溢れ出す。ハヤトの瞳が光り輝く瞳に変わった。
 影王がハヤトの前に出る。しかし、ハヤトはそれを止めさせた。
「下がっていろ、影。お前じゃ、こいつは無理だ」
「しかし、それではハヤト様が……」
『安心しろ、お前と戦う気はない』
 葉山――――《冥帝王》がその漆黒の瞳で睨みつける。
『”器”を失っているお前など、簡単に始末できるからな』
「”器”、だと……?」
『そうだ。霊戦機ヴァトラスと言う”器”がなければ、お前は《太陽王》にはなれない』
 葉山から闇の力が消える。ハヤトも剣を影王に戻した。
 葉山がやや微笑んだまま言葉を続ける。
「君とは、”完全体”になってから相手をするよ。それまでに、君も新しい”器”を見つけるんだね」
「……そう言っているのも今のうちだ。俺は、お前なんかに負けはしない!」
「勝てないよ、君じゃ。そう、僕には絶対に勝てない。覚えておく事だね、神崎勇人君」
 そう言って姿を消す。ハヤトは拳を強く握った。
 敵は生きていた。《冥帝王》と言う最大の敵は、あれで滅んでいなかった。
 いや、本当の聖戦はここからだと思った。
「……ヴァトラスがいない今、どう戦う……? 俺は……もう一度《太陽王》になれるのか……?」
 光り輝く瞳のまま、嫌な暗雲が覆う空を見上げた。



 コトネの後ろに隠れたまま、ユキノは目の前にまで近づいてきている”それ”に怯えていた。
 結構な大きさのゴールデン・レトリーバー。ハヤトの妹のサキが飼っているペットのケモノだ。
「安心しな。こいつは噛まないよ」
「わんっ」
「ひぅ……」
 ケモノが吼えると、さらにコトネのズボンを握る手を強めるユキノ。
 コトネはため息をつきつつ、尻尾を振っているケモノを見る。
「おすわり」
「わんっ」
 すっとその場でおすわりを始めるケモノ。こう言うしつけは、ハヤトが良く仕込んでいると思う。
 しかし、ユキノは相変わらずだった。
 おすわりをしていたケモノがすぐに立ち上がる。そして、入り口の方を見た。
 庭の方へ入ってくる人影の元へ走り、吼える。人影はケモノの頭を撫でた。
「ただいま帰りました」
「おかえり。今日もハヤトと一緒じゃないのかい?」
「はい。ここのところ、用事があるらしくて……」
 ケモノの頭を撫でつつ答える。ケモノはアリサが持っている小さな箱の中身の匂いを嗅いでいる。
「何か買ってきたのかい?」
「はい。ケーキを買ってきました。あとで、ケモノにもあげるからね」
「わんっ」
 大喜びのケモノの頭を撫でつつ、ユキノに気づく。アリサは微笑んだ。
 ユキノの側に寄り、身体を低くして、ユキノを優しく抱きしめる。
「大丈夫よ、ユキノちゃん。この子は大人しいから」
「ひぅ……ママぁ……」
「大丈夫。ほら」
 ユキノの手を取って、ケモノの頭を撫でさせる。
 尻尾を大きく振っているケモノは、静かに身を低くした。
 頭を撫でられると、ユキノの顔に近づき、その頬をペロッと舐める。
「えへ……えへへ……」
 ユキノの顔が笑顔になる。アリサは、それを見て微笑んでいた。

 この日、《太陽王》と《冥帝王》の宿命は、再び蘇った――――



 第一章 動き出している闇

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