第三章 斬・獣・龍


 この日、彼――――ロバート=ウィルニースは空を見上げていた。
 学校の帰りに、虚空から変な声が聞こえ、つい立ち止まってしまったのだ。
「……気のせい、か?」
「どうかしたんですか、先輩?」
 隣から、顔立ちが良く、美少年を思わせる後輩のレファードが訊く。
「……どこからか声が聞こえたんだが、気のせいか」
「声、ですか? 僕には聞こえないですけど……」
「気のせいだな」

 ――――ロバートォォォッ!

 気のせいだと思ったのだが、やはり聞こえた。
 どこか久々に聞く声。しかし、その声の主はこの世界にはいないはず。
 そんな時、目の前の空間が歪んだ。
「――――!?」
「く、空間が……!?」
 空間が歪み、強風が巻き起こる。その周りにいた人間達が強風で少しだけ吹き飛ばされる。
 ロバートは強風で少し後退しつつ、どうにか耐える。
 強風が収まり、空間の歪みが消える。そこに一人の男が立っていた。
 赤髪で、見覚えのある男。ロバートが目を見開く。
 赤髪の男は、ロバートの方を見つけて、ガッツポーズを取った。
「よっしゃぁぁぁ、ロバート発見んんんんんん! 名前忘れたけどもう一人もぉぉぉっ!」
「……やはりお前か」
「いよっ! 《双龍》に選ばれた男の登場だぜ!?」
「…………」
 白い目で見る。そして、すぐに訊いた。
「どうやって地球に来たんだ?」
「そりゃ、アランの奴が作った時空移動装置っつーもんで」
「……それで、何しに来たんだ?」
 ネセリパーラの技術は凄いが、あまり興味はない。ロバートは率直に訊くだけだ。
 ゼロがロバートの両肩に手を置く。
「すぐにネセリパーラ行くぞ!」
「……何だと?」
「だ〜か〜ら〜! 今すぐネセリパーラへレッツゴーだ、バヤカロー!」
「待て。なぜネセリパーラへ行く必要があるんだ?」
「敵国――――つっても、分からないよな。俺らが戦っている相手に、霊戦機が存在してるんだよ!」
「何だと……!?」



 舞台は変わって日本。夜の学校の屋上で、彼――――葉山慎は月を眺めていた。
「嫌な光だ。ま、そのうち消えるけどね」
 光は、あの《太陽王》を脳裏に思い浮かばせる。それが気に入らなかった。
 虚空から何者かが話し掛ける。

 ――――。

「こっちの世界に逃げたはずなのに、反応がないだって? 他の反応はあるのに?」
 今求めているものは見つかっていない。しかし、間違いなく地球にいるはずだ。
 あれさえ手に入れば、いつでも”完全体”へ戻る事が出来る。
 葉山は虚空に話し掛けた。
「仕方ない。”核”以外で逃げた奴らを探せ。”核”はそれからだ」

 ――――。

「《太陽王》はどうするかって? しばらく好き勝手させて良いよ。どうせ”器”がないんだし」

 ――――。

「良いんだよ。《太陽王》にも、たっぷり楽しんでもらわないと」
 そう、全ての滅びを。葉山は静かに笑みを浮かべた。



 神崎家の庭で、ハヤトは夜空を見上げていた。
 星が光り輝く空。いつ見ても、心が落ち着くと思う。
「…………」
 最大なる敵はまだ滅んでいなかった。聖戦はまだ終わりを告げていなかった。
「……ヴァトラス、俺はどうすれば良い? どうすれば、《太陽王》になれるんだ……?」
「ハヤトさん」
 後ろから声をかけられる。アリサだった。
 アリサが隣まで寄り、ハヤトの方に身を任せる。
「アリサ……。ユキノは?」
「今、ぐっすりと眠ってます」
「そうか……」
「星が綺麗ですね……」
「……ああ。それに不思議と落ち着ける」
「はい」
 ハヤトは右手を前に出した。手の平に光が集まり、二人を照らす。
 一度霊力が使えなくなった時に、先代《炎獣》である人が教えてくれた光だ。
「……アリサ、また聖戦が始まろうとしている」
「え……?」
「今まで黙っててごめん。確信は持てなかったんだけど、今日、奴の存在を知った」
「……生きているんですか?」
「俺にも良く分からないんだ。奴はあの時倒したはずなのに……」
 ハヤトがアリサの肩を抱く。
「今の俺には《太陽王》になれない。ヴァトラスがいない……」
「……ハヤトさん、王は関係ないです。要は、ハヤトさんの想いですよ」
「……そうだな。アリサはやっぱり一枚上手だな」
「ふふっ。そんな事ないですよ」
 そして、二人は星空の下で長いキスを交わした。



 異世界ネセリパーラに存在する王都アルフォリーゼ。
 そこに滞在している巨大戦艦イシュザルトでは、一機の霊戦機を回収した。
「うへぇ……よーやく、回収っと……」
「意外と厄介な場所に封印されてたんだな、こいつ……」
 大きく肩で深呼吸をする二人。特に、アランの方はすでに限界なのか、その場に座り込んでいる。
 両肩に大きな円盤型のカッターを持つ《双龍》の霊戦機グレートリクオー。
 大地の守護たる存在なのか、地中深くに封印されていた。
「あとは、ゼロをまだ操者として乗せるか、だな」
「パートナーもな……。ったくよぉ、ヴィクトリアスは封印の場所に眠ったまま操者待ってるし……」
「ゼルサンス国の連中と戦う為とは言え、霊戦機の回収だけはしたくないんだけどな」
 グレートリクオーを見つつ、アルスが言う。
 前の戦いで、霊戦機達は本来の役目を終え、封印についた。
 しかし、人同士の戦いの為に、人の手によって再び封印が解かれようとしている。
 いや、一機だけ解かれてしまったのだ。敵国に。
「けどよ、アラン。《霊王》の方は呼ばなくて良いのか?」
「ん〜……ヴァトラスはいないからなぁ。戦うって言っても、あれに乗せるしかないし……」
 そう言いつつ、新型の霊力機の方を見る。
「あとは、スピリットの問題なんだけどなぁ……」
「よくよく、霊力機の調整に難儀してるじゃねぇか。それで、性能的にはどうなんだ?」
「性能は高いんだよな、これが。今まで作った中でも一番の出来〜」
「だろうな。ここ最近徹夜ばっかしてるからな」
 敵国との戦いに勝利する為に開発された新型の霊力機。アランは「う〜ん」と唸った。
 徹夜で作った甲斐があって、その性能は今までの霊力機の中でダントツの強さを誇る。
 しかし、厄介なのが搭載しているスピリットだった。こればかりは、調整がいつものように難しい。
「さーて……次はギガティリスの回収だな。アラン、早くイシュザルトを飛ばしてくれ」
「おー……」
『敵反応確認。ゼルサンス国の霊力機部隊』
 途端、戦艦イシュザルトのAIが警報を告げる。
「……チッ、こんな時にか」
「ちょっちヤバイなぁ……アルフォリーゼ軍の霊力機は役立たないし、アルスのウォーティスだけでもな……」
 今、《双龍》の霊戦機の操者だったゼロは、地球にいる元霊戦機操者を探しているはず。
 指をパチンと鳴らし、アランがイシュザルトに命令する。
「イシュザルト、俺は今からブリッジに行くけど、副長には出撃の許可出して〜」
『了解、艦長』
「……お前が艦長と言うのは、やはり違和感があるな」
 アルスの言葉に、アランは苦笑した。



 地球。ハヤトはアリサと登校しながら、《冥帝王》である葉山を警戒していた。
 前日に「まだ戦う気はないと」言っていたが、いつ奴が牙を向けてくるのかも分からない。
「おはよ、神崎君、アリサさん」
「はい。おはようございます、美香さん」
「…………」
「ん? 神崎君? もしもーし?」
 挨拶がなかったハヤトに対し、片桐美香が彼の前で手を振ってみせる。
「神崎く〜ん?」
「……おはよう」
「おはよっ。何か悩み事? 私で良ければ、いつだって相談に乗るよ。学級委員だし」
「いや、そんなんじゃないんだ」
 自分の席に座り、ハヤトが一安心したかのように息を吐く。
 どうやら、まだ葉山は動く気はないらしい。
『大丈夫ですよ。私が側にいますから』
『え……?』
 アリサが耳打ちし、優しく微笑んで席に座る。ハヤトは少しだけ微笑んだ。
 そんな矢先、丸坊主頭の亀田豊がハヤトの前で土下座をする。
 そんな彼の横には、親友である館林慎吾が「ゆ、豊……」となぜか焦っていた。
「神崎、頼みがある!」
「……お前が引退した野球部の試合の助っ人か?」
「違う! 今日の放課後にセッティングしてある合コンに参加してくれ!」
「断る。今日こそ、真っ直ぐ家に帰りたいんだ」
 敵の存在を知ったせいか、自分の強さに自信が持てていない。
《太陽王》になれない今、とにかく力が必要だった。守りたい物の為にも。
 そんなハヤトに、亀田は引き下がらない。
「頼む! 俺の未来の為にも! それに、お前が来るって事で集まった女の子が過半数!」
「……俺の名前を使うなよ。俺はそれどころじゃないんだから」
 今は、とにかくネセリパーラへ行く必要がある。
 前もって、義弟であるアランに連絡したかったが、もうそんな事は言ってられない。
 そんな事を考えていた時、担任が教室に入り、ハヤトの前で土下座している亀田の頭を出席簿で叩く。
「何やってるんだ、亀田? ほれ、とっとと席に着け」
「神崎〜、合コン〜!」
「だから断るって」
 ハヤトは断固、亀田の頼みには乗らなかった。



 異世界ネセリパーラ。イシュザルトのブリッジにある副長席で、副長のロフ=シリーズは溜め息をついていた。
 巨大戦艦イシュザルトの副長になって十二年目。艦長にはなれないままだ。
「グラナ艦長が亡くなって、次の艦長がまさかアランだとは……」
 心底、ショックを受けている。そんな彼を見て、乗組員は「また言ってるよ……」と内心呆れていた。
 確かに、ロフの指揮力は凄い。しかし、やはり先代の艦長の孫には敵わなかった。
 イシュザルトを知り尽くしている艦長であるアランは、イシュザルトを手玉に取るほどの才能を見せた。
 そのせいか、今のイシュザルトはアラン以外の人間を艦長と認めてくれない状態である。
「何言ってるのよ、パパ。まだ四十五なんだから、まだ艦長になれる時はあるわよ、多分」
「多分って、お前な……。それより、まだゼロの奴は戻って来ないのか、ミーナ?」
「そうじゃない? ほら、ゼロってこう言う時は馬鹿だから」
 ゼロの事だ。おそらく、地球にいる元霊戦機操者がまだ見つかっていないと思われる。
 娘のミーナにそう言われると、ロフは頭を抱えた。
 そんな時、格納庫と繋ぎっ放しになっていた通信機から声が聞こえた。
『ってー!? 位置操作ミスったー!?』
『いきなり地球からこっちに来るな! って、お前、肝心の操者は一人しか連れて来てないのか!?』
『いやぁ、無理だった!』
『威張るな!』
『んな事はとにかく、戻って来たんなら出撃しろ! つーか、アルス、早く出撃しやがれ!』
「…………」
「……帰って来てるみたい、ね」
「……やはり、いざと言う時はブレーダーで出撃するか」
 頭を抱えるロフだった。



 イシュザルトの格納庫。地球からこっちへ戻ってきたゼロを蹴飛ばし、アルスが霊力機に乗り込む。
 全身を青に統一され、両腕にナックルを装備した霊力機ウォーティスの瞳に光が宿った。
『ウォーティス、出るぞ! ハッチを開け!』
「はいはい。ったく、人がブリッジに行こうとしてる時に……イシュザルト」
『了解。ハッチ展開、霊力機出撃』
 アランが指をパチンと鳴らすと、イシュザルトが格納庫のハッチを開く。
 蹴飛ばされたゼロが跳ね起き、拳を高々と上げた。
「よっしゃ、俺も! リクオー!」
(…………)
「……あり?」
 反応なし。ゼロが「おーい!」と呼びかける。
「リクオー、早く俺を乗せて出撃しろー!」
(…………)
「返事しやがれ、このデカブツ!」
(……今の私は封印の身だ。それ以前に、人間同士の戦いで目覚める事はしない)
 霊戦機は怨霊機と戦う為――――全世界が危機の時に目覚める。
 いくら元操者であっても、霊戦機の封印は解く事はできない。つまり、霊戦機を手中にしても意味がない。
 ゼロがグレートリクオーの巨大な脚を蹴る。
「戦うぞ! ほれ、リクオー!」
(断る。これは、私だけの意思ではなく、他の霊戦機も同じ意思なのだ)
「何言ってんだよ! つうか、他の奴が敵にいるんだってんだよ、バッキャロー!」
 しかし、それでもグレートリクオーは動く事はしない。



 ゼルサンス国にて開発された霊兵機。それは、霊力を持たない人間でも扱える巨大兵器だ。
 そんな大量の敵を前に、アルスの乗る霊力機ウォーティスが一機だけで突撃した。
「おぉぉぉっ!」
 敵の一機を殴り、霊力を集中する。
「ウォォォタァァァ、バティカルッ!」
 両拳に水を集めて殴りつける。その強さは相手にとって圧巻するほどだった。
 霊戦機と比べて性能は格段に下がる霊力機だが、やはり霊戦機に選ばれた操者の実力の賜物である。
 そんな相手を前に、ゼルサンス国の霊兵機が後ろへと下がりかけていた。指揮官が怒鳴る。
『何を逃げるか、お前達! ここであの機体を落とせば――――なんとぉ!?』
「せいやっ!」
 指揮官が乗っていると思われる霊兵機を殴りつける。
「今回は霊戦機を使わないみたいだな、テメェら!」
 指揮官の乗る霊兵機を足蹴に、アルスが吼えた。
『くっ……霊戦機を出せ! ゼルサンス国の強さを見せつけるのだ!』
『言われなくとも、こっちが仕留める』
 瞬間、ウォーティスに雷撃の走るビームが襲い掛かる。アルスは舌打ちして素早く避けた。
 肩に二連装の巨大な大砲。両腕にはそれぞれ、ガトリングと多連装ミサイルが装備されている機体。
 獅子の如き頭部は、まるで燃え盛る炎のようだった。
 制裁の炎を闇へ下す《蒼炎》の霊戦機ディレクダート。ディレクダートに乗るゼルサンス国兵が言う。
『降伏しろ、アルフォリーゼ国の――――いや、元霊戦機操者よ』
「降伏しろだと!? ふざけるな!」
『降伏しろ。そうすれば、アルフォリーゼ国までは滅ぼす事をしない』
「ふざけるなっつってんだろがぁ!」
 ウォーティスから霊力の光が溢れ出す。アルスは歯を噛み締めた。
「……テメェらは、俺から何もかも奪っていったんだ! 親父とお袋を! ソフィアを……俺の家族を!」
『戦いに犠牲はつき物だ』
「この野郎ぉぉぉ!」
 右拳に水の球体を生み出す。アルスは霊力をさらに解放した。
 ウォーティスが突撃する。ディレクダートは剣を手にして構えた。
「アクアウィザァァァディストォォォッ!」
『羅刹の剣、地漸』
 ウォーティスの攻撃を避け、剣を下段から切り上げる。ウォーティスの右腕が奪われた。
 そのまま大地に倒れる。アルスは目を見開いて驚いた。
「……今のは、あの副長の技じゃねぇか……!?」
『次で終わりだ』
 ディレクダートが再び構える。



 イシュザルトのブリッジ。ロフはディレクダートの放った技を見て驚かないわけがなかった。
 ミーナが「何で!?」と副長席のデスクを叩く。
「あの技はパパだけのオリジナルじゃない! 何でゼルサンス国の人間が使えるのよ!?」
「……コピーマンだ」
 スモーパク(=煙草)を咥えつつ答える。ミーナが首を傾げた。
「コピーマン?」
「その名の通り、相手の動きを自分の物にする人間の事だ。ゼルサンス国の技術力が生んだ強化人間をそう言う」
「強化人間って……じゃあ、そんな奴らがゼルサンス国には沢山いるって事なの!?」
「いや、それはないだろう。あれを作る為のデータは昔、俺が無理やり破壊して失われている」
 まだグラナ艦長が生きていた頃――――イシュザルトに所属する前に。
 ロフが言葉を続ける。
「奴に勝つには、ゼロでなければ無理だ。ゼロのように臨機応変ができる戦いでなければな」
「……あれはただ暴走してるだけのような。それに、その肝心のゼロはまだ出撃できてないし……」
 ミーナの言葉にロフが肩を落としたが、すぐに格納庫へ通信を入れる。
『敵にはディレクダートがいるんだぞ、バッキャロー! だから断るんじゃねぇ!』
「……やはり、ブレーダーで出るしかないか」
 再び頭を抱えるロフだった。



 イシュザルトの格納庫で、ロバートはその霊力機を見上げていた。
 両肩に搭載されるビーム砲、両腕に一本ずつ装備されている剣を持つ霊力機。アランがそれに気づく。
「もしかして、こいつに乗るとか言わないよな?」
「動けるのか?」
「あー、無理無理。全然調整中だから、動かそうとしてもピクリと動かない」
「他に乗れる機体は?」
「他の霊力機は、もう乗り手が決まってんだわ、これが」
「そうか……」
 拳を握り締める。ロバートは好んでネセリパーラへ来たわけではない。
 しかし、このまま帰るわけにもいかない。
 聖戦の時の親友――――ハヤトが平和を願って戦った。その想いの為にも。
「ヴィクトリアスが目覚めれば、俺も戦えるのだが……」
「ぬぉぉぉ、いい加減に戦ってくれよぉぉぉ!」
 ロバートとは別に、ゼロも同じ状況だった。
 再びグレートリクオーの巨大な脚を蹴飛ばす。
「俺ら人間同士の戦いだからこそ、目覚めやがれ! つーか、平和の為にも戦え!」
「うわ、霊戦機相手に無茶苦茶な事言ってるぜ、ゼロ……」
「俺がここへ来たのは、人間同士の戦いの為じゃない」
 ロバートがグレートリクオーの前に立つ。
「霊戦機が平和の為なら、人間同士による戦いで世界が滅ぼうとしたらどうする?
 俺達は、平和の為に戦う。それが、俺達が前にハヤトと誓った事だ」
「……ぉぉ、そうだぜ、リクオー! つー事で、戦え!」



 ディレクダートを前に、アルスは自分の中にこみ上げて来る怒りを抑えられなかった。
 自分に対しての怒り、そして、平和の為に戦うはずのディレクダートへの怒り。
「……ディレクダートッ! テメェは……テメェら霊戦機は平和の為に戦うんだろが!?」
 ウォーティスを奮い立たせる。
「前に俺達を操者として選んだのは、俺達が平和の為に戦える意志を持っていたからだろ!?
 だったら……んなふざけた奴の言いなりになってんじゃねぇぞ!」
『それはエゴと言うものだよ、アルフォリーゼ国の操者よ』
 ディレクダートが右拳に水の球体を生成する。アルスの持つ技を放つ気だ。
 アルスも左拳に霊力を集中させ、水の球体を生み出す。
「ギガティリスがいなくても……俺は《獣神》の操者だ! アクアウィザァァァディストォォォッ!」
 両者の技がぶつかり合う。それに勝利したのはディレクダートだった。
 コピーマンと呼ばれる男の強さは、オリジナルを凌駕していた。
「……う……そだろ……!?」
『仕留められなかったか。しかし、今度こそ終わりにする。そして、イシュザルトと言う戦艦もな』
 ディレクダートを中心に霊兵機がイシュザルトへの攻撃を始める。瞬間、大気が震えた。
 ウォーティスの前に姿を見せた巨大なボディ。その雄々しさはまるで獣如く。
(《蒼炎》を偽る存在よ、お前如きに我が操者を殺させはせぬ)
「ギガ……ティリス……!?」
 ウォーティスのコクピットからアルスを取り出し、自分のコクピットに入れる。
「……偽者って、どう言う事だ、おい!」
(我々には、それぞれの意思がある。ディレクダートであれば、必ず我の言葉に答える)
「つまり、あれはお前に返事がなかったって事か?」
(そうだ。あの者は偽りの存在。操者よ、偽りの存在に真の霊戦機の強さを見せてやるぞ)
「……おう! 見せてやるぜ、《獣神》の強さって奴をな!」
 ギガティリスが構える。偽ディレクダートは剣を構えた。
 剣を下段から切り上げる。
「無駄だ、コピー男ぉ!」
 剣を腕で受け止める。その装甲はとても硬く、剣の方が逆に砕かれた。
 アルスが霊力を集中させ、ギガティリスの拳に水の球体が二つ生み出された。
「これが新技! 水神獣王牙ぁぁぁっ!」
 右拳に集まった水の球体を偽ディレクダートに当て、瞬時に凍らせる。
 そして、そのまま連続で繰り出されるジャブ。
 凍った氷が砕かれている間に、左の水の球体で凍らせ、いつの間にか霊力の込められた右で殴りつけた。
 相手の動きを封じ、完膚なきまでに殴り続けるアクアウィザーディストの進化した技。
 コピーマンと呼ばれる男がまるで壊れたかのように笑い出す。
『見せてもらった……その技は、もう私には通用しない。キャハハハハハハァァァーーーッ!』
「テメェが使う事は絶対にねぇよ。なぜなら、テメェはもう負けたんだからな!」
 ギガティリスが親指を下に向ける。
「地獄でくたばってろ、コピー男!」
 アルスが言葉を吐き散らす。



 イシュザルトを中心に竜巻が起こり、霊兵機の攻撃を一気に吹き消していく。
 竜巻の中から姿を見せるイシュザルトの甲板に、一機の機影が見えた。
 黒曜石の如く輝く全身の装甲。両肩にシールドを装備し、背中の赤いマントが目立つ。
 その機体のコクピットで、彼――――ロバートは静かに霊力を集中した。
「俺にまた力を貸してくれるのか、ヴィクトリアス?」
(当然だ。全世界の平和の為、我は再び剣を振るおう)
 黒曜石の装甲に、赤いマントが目立つ霊戦機ヴィクトリアスが唸りを上げる。刹那、敵陣へ駆け出した。
 二本の剣に雷が走る。
「雷光斬裂閃!」
 剣を振り落とし、数体の霊兵機を切り倒して行く。その強さは相変わらずだ。
(やれやれ。目覚める気などなかったのだがな……)
 イシュザルトからグレートリクオーが姿を見せる。
(今一度、この《双龍》の力を操者に預けよう)
「ぉぉ!? よーやく動く気になったな、リクオー!」
(……仕方なく、だ)
 両肩に装備している円盤状のカッターを取り出す。
「ツインスマッシャー! で、ぶっ続けで双龍連撃衝!」
 カッターを投げ、両腕を大地に突き刺す。
 一直線に伸びる二本の線が大地を砕き、龍の姿をした二本の巨大な岩が霊兵機に襲い掛かる。
 霊戦機二体が次々と霊兵機を倒していく。



「ようやく霊戦機が三体目覚めたか。長かったな……」
「だな。でもよ、イシュザルトが反応してる相手じゃないな、やっぱり」
 イシュザルトのブリッジで、アランとロフが戦闘を見つつ話す。
 ゼルサンス国付近で反応しているイシュザルトのAI。それは、どうやら霊戦機ではなかった。
 しかし、霊戦機に酷似した機体を敵国は作れるようになっている。
「この反応が一体何なのかは、やっぱ兄貴じゃないと分からないかもなぁ……」
「戦力は良しとして、問題はそこになるのか。やはり、またゼロを地球に送り込むか……」
「本当は俺が行きたいんだけど、艦長だもんなぁ……アルスは主戦力だし、ゼロしかいないか」
「二人とも、誰か忘れてない?」
 ミーナが話に割り込んで来る。
「戦力はなるべく、イシュザルトにいた方が良いんでしょ?」
「当然っしょ。戦力だし」
「だったら、私が地球に行った方が早くない?」
「えー、でもなぁ……」
「大丈夫。ハヤトとは面識あるし、アリサに久々に会いたいし」
 そんなミーナに対して判断しないアランの肩を、ロフが軽く叩く。
 その顔は、もはや諦めがついている顔だった。
「許可でも何でもしてくれ、艦長」
「……うわ、父親の言葉じゃねぇでしょ、ロフ。仕方ない、あとで移動装置渡すから、兄貴によろしく」
「オッケ」
 ミーナはVサインを見せるのだった。



 第二章 究極の敵との対峙

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