第五章 三将軍、出陣


 ゼルサンス国。自分の住んでいた国と敵対する国の牢で、アリサは床に叩きつけられた。
 両腕は後ろに回されて手枷をはめられている。また、左足にも足枷が着けられる。
 兵であろう男三人が、彼女に近づく。
「どーせ最終兵器に使われるんだ。その前にヤッちまおうぜ」
「そーだな。へへっ、こりゃぁ、結構なご馳走だぜ」
「処女だったら最高だなぁ、こりゃぁ……」
 男の一人がアリサの胸元を掴み、一気に服を破る。
「……!」
「おぉ〜、これまた良いなぁ……。さぁて……――――」
 刹那、男の首が飛ぶ。首を失った身体は血を花火のように噴き出しながら後ろへと倒れた。
 他の二人が後ろを振り向く。男物であると思われる漆黒の鎧を纏った女性がそこにいた。
 流れるような美しい金髪を結い上げている女性。その瞳は、深くそれでいて澄んだ赤い瞳。
「が、ガリュドス……将……軍……!」
「何をしている。お前達の役目は、この者の見張りだけであろう?」
 鋭く男の一人の首を掴む。そして持ち上げた。
 女性とは思えないほどの力で、いとも簡単に男を持ち上げる女性。
「お前達は見張りから降りてもらう。この死体を持ってすぐに私の前から消えろ。でなければ、その首を刎ねる」
「あ……ひ……ひぃぃぃっ……」
 女性から首を掴まれていた男は、解放されるとすぐに首を刎ねられた男の身体を引きずり出す。
 それを見て、もう一人の男が首を持ち、同じように身体を引きずり出した。
 そんな二人の兵が立ち去るのを確認し、女性がマントでアリサの身体を覆う。
「血で綺麗な肌が台無しですね……私の部屋ですぐに綺麗にいたします」
「……あなたは?」
「私はランハード=ガリュドス。大丈夫です。あなたは私がお守りしますから……」
 ランハードと名乗った女性がアリサの足枷を外す。そして、手枷も外した。
 しかし、アリサの両腕を前にしてから、再び手枷をはめる。
「こうしていないと、周りに怪しまれるので……申し訳ありません」
「……いいえ。でも、どうして……?」
「今は明かせません。しかし、いずれ明かします。それまではご辛抱ください」
 ランハードの瞳は、どこかハヤトに似ている。そうアリサは思うのだった。



 地球。ハヤトが通う学校の屋上で、彼――――《冥帝王》の”中枢”の葉山はつまらなそうだった。
「なんだ……もう向こうの世界に行っちゃったのか……」
 四度目の空間の歪みを感じて言う。その時、虚空からいつもの存在が語りかける。

 ――――。

「……仕方ない、僕も向こうに行くか。とりあえず、”器”がない状態でどこまで戦えるか見ておこうっと」

 ――――。

「君はいつも通りあれを探すんだ。見つかったら連絡してくれれば良いから」
 その場に立ち、瞳が漆黒の闇へと変わる。風が吹き荒れた。
 空間が歪み、目の前に大きな渦ができる。葉山は静かに笑みを溢した。
「さぁ、向こうで楽しいゲームをしてくるかな」
 無邪気な子供のように言いつつ、そのまま地球から姿を消す。



 異世界ネセリパーラ。超巨大戦艦イシュザルトの格納庫に、ハヤトは到着した。
 ユキノを抱きかかえたまま、格納庫に並ぶ機体を見る。
「……霊戦機? 封印から目覚めたのか?」
(久しい再会ですな、《霊王》。いや、《太陽王》)
 そう語りかけてきたのは、《斬魔》の霊戦機ヴィクトリアス。
「ヴィクトリアス……。じゃあ、操者は……」
「俺だ」
 後ろから声をかける。ハヤトは目を見開いた。
 その直後に握手を交わす。
「ロバートじゃないか! まさか、またヴィクトリアスに選ばれて!?」
「いや、今回はゼロが地球に迎えに来てな。しかし、ヴィクトリアスは俺を操者として、再び選んでくれた」
「そうか。ギガティリスやグレートリクオーも封印から目覚めているし……また力を貸してくれるか?」
「当然だ。それよりも、その子は?」
 ハヤトが抱きかかえているユキノを見て、ロバートが首を傾げる。ユキノはハヤトを強く抱きしめた。
 ユキノの頭を優しく撫で、ハヤトが微笑む。
「大丈夫。この人はパパのお友達だから。だから、怖い人じゃない」
「……本当?」
「うん。だから、挨拶しようね?」
 おずおずと、ユキノがロバートの方を見る。
「……こんにちは」
「こんにちは。ハヤト、この子は?」
「ユキノ。ちょっと事情があるけど、俺の娘だ」
「娘? どう言う事だ?」
「その話は後だ。今はネセリパーラの現状と、ゼルサンス国について知りたい。アランは?」
「ブリッジだ。他の操者もそこにいるはずだ」
 そう訊くと、ハヤトが歩き出す。
「……あの、私の存在薄いんだけど、もしもし?」
 彼を連れて来た彼女は、苦笑しつつ溜め息をつく。



 ゼルサンス国・王宮。一人の男が王宮に仕えるメイドの腕を掴み、その唇を奪う。
 暗い青の鎧に包まれ、漆黒の瞳でメイドを見る。そして、首筋をペロリと舐めた。
「や……」
「良いじゃねぇかよ。このメルサス様に気に入られたんだ。光栄に思わなきゃなぁ」
「そこまでにしておけ、リオルド。それ以上はこの私、ジェイル=レイオニスが許さん」
 暗い青の鎧を纏う男に、白銀の鎧を纏う男が言葉を発する。
 リオルドと呼ばれた彼は、軽い舌打ちをし、その手を放す。
「良いところで止めるんじゃねぇよ、レイオニス。俺にとっての癒しをよぉ」
「貴様の癒しなど私には関係ないが、最近、貴様の事で国中の婦女子から苦情が来ているのでな」
「お〜、俺様も人気者だね」
「ふざけるな。今回は私が動いたから良かったものの、下手すれば、貴様は将軍から一兵に成り下がっていた」
 その言葉に、リオルドは「へっ」と鼻で笑う。
「将軍から落ちる事はねぇよ。なにせ、俺様より強いどころか、互角に渡り合える奴はいねぇからなぁ」
「私とガリュドスがいる。いや、国王陛下も貴様以上に強いだろうな」
「メルサス如きが、私に勝てるわけがなかろう」
 そんな二人の前に、漆黒の鎧を纏ったランハード=ガリュドスが姿を見せる。
 ランハードはリオルドを睨み、静かに言葉を放つ。
「お前の管轄になっていたアリサ=エルナイドの拘束は、私の管轄に置かせてもらった」
「おいおい、俺様に黙ってやるなよ、ガリュドス将軍さんよぉ」
「黙れ。お前の管轄に置かれていたら、彼女はお前の玩具にしかならないからな。それだけは阻止する」
「やはり、それが賢明な判断だな。リオルドに任せるくらいならば、ガリュドスに任せておいた方が良い」
「チッ、せっかくの楽しみを取りやがって……!」
 リオルドが不機嫌そうに歯を噛み締める。ランハードは二人から力を感じ取っていた。
 相変わらず、リオルドは霊力が高く、ジェイルは霊力はないが強い力に溢れている。
 しかし、この国を覆っている闇の力の根源はまだ分からない。
 将軍であるリオルド、ジェイルは間違いなく違う。ありえるとすれば、国王だ。
 そんな事をランハードが思っていると、白髪の開発者が「くっくっく」と笑みを浮かべつつ歩み寄る。
「三将軍がお揃いですね。これまた都合が良い」
「オルトム殿か。何用だ?」
「ようやく、三将軍様がお乗りになられる霊兵機の最終調整が整いましたので、そのご報告を」
「そうか。国王陛下への報告は?」
「すでに」
 オルトムと呼ばれた開発者の言葉に、ジェイルが「分かった」と背を向ける。
「リオルド、ガリュドス、今より我々三将軍も出撃する。戦艦グランレイディアと共にな」
「グランレイディアだと? レイオニス、あの巨大戦艦をどうにかする気か?」
「イシュザルトは後回しだ。今は、再び現れた霊戦機を倒し、アルフォリーゼを制圧する」



 戦艦イシュザルトのブリッジ。アランにアリサがさらわれた事が告げられた。
「姉ちゃんがゼルサンスの連中に? 何で!?」
「俺が分かるわけないだろう。とにかく、奴らの目的が知りたい。俺の攻撃を防いだ奴の事も」
「そいつはおそらく、バリアマンだ」
 話を聞いていたロフが口を開く。ハヤトはその言葉に反応した。
「バリアマン? ネセリパーラには、バリアを張れる人間がいるのか?」
「いや、強化人間だ。バリアマンは、霊力者に対抗する為にゼルサンスの技術で生まれた人間だ。
 霊力による攻撃――――霊力で動く霊力機の攻撃を”無力化”できる能力を持っている」
「霊力者の攻撃を無力化……だから、俺の攻撃を防ぐ事ができたのか……」
 バリアマン。ハヤトはすぐに納得した。
 確かに、あの時放った剣術には全て霊力が込められていた。焦りによって。
 その霊力の込められた技を防ぐ敵がいる。しかし、そんな事は言ってられないとすぐに思った。
「ロフ、バリアマンを倒せる方法はないのか?」
「方法は簡単だ。霊力を使う事のない攻撃で倒せば良いだけの事だからな」
「……霊力以外の方法で、か……」
「しかし、霊戦機および霊力機は、操者である霊力を動力源とする。それではバリアマンには通用できない。
 なにせ、霊力によって動く機体だからな。自然に霊力が機体に込められてしまう。
 倒すとすれば、昔のようにイシュザルトの攻撃で倒すしかないだろう」
「イシュザルトだけか……。できるだけ、交戦しないようにしたいな」
 ハヤトが考え込む。そんな顔を見て、ユキノはハヤトに強く抱きついた。
 ユキノの頭を撫でる。アランが聞いた。
「そう言えば、その子供は?」
「俺の娘」
「そっか、兄貴の娘か。……娘? 娘って……姉ちゃん、いつ産んだんだよ?」
「そんな簡単に産まれる訳ないだろう。ユキノは、ネセリパーラから何らかの方法で地球に来たんだよ」
 その言葉にロフが目を見開く。
「装置なしで異世界の移動は無理なはず……!?」
「だと思う。けど、この子は間違いなくネセリパーラ人だ。証拠に、この世界で罪人を意味する服を着ていた」
「リュレイク!? ……何がどうなったら、子供が罪人になるんだよ!?」
「分からない。これも、ゼルサンス国が関係しているらしいからな」
 ここまで話が絡むと、やはりゼルサンス国は何か巨大な野望で動き出している。
 ゼルサンス国と《冥帝王》。敵は意外と厄介だった。
「ヴァトラスがいれば……俺も戦えるんだけどな……」
「あー……新型霊力機があるけど、あれじゃ代用は無理だよな、やっぱ……?」
「……いや、今は戦う力が欲しい。アラン、あとでその霊力機を見せてくれ」
 それに試しておく必要がある。ヴァトラスがなくても《太陽王》になれるかどうかを。
 間違いなく、《冥帝王》は完全な状態で戦いに姿を現すはず。その前に、最強の力を目覚めさせる。
 そんな時、イシュザルトの警報が鳴り響いた。ユキノが強く握る。
「パパぁ……」
「大丈夫。パパがいるから」
「こんな時に敵かよ……イシュザルト、霊戦機操者に出撃命令伝達! 兄貴も頼めるか!?」
「先に格納庫に行っててくれ。ユキノが落ち着かないと、出撃は無理だから」
 その言葉に、アランは大きく頷いた。



 戦艦イシュザルトよりは小さいが、強力な主砲を誇るゼルサンス国の戦艦グランレイディア。
 その戦艦の格納庫で、ジェイル=レイオニス将軍は、早くも待機していた。
「現状報告を頼む」
『前方にイシュザルトを確認しました。霊兵機操者は出撃準備完了です』
「よし、全機出撃。リオルド、ガリュドス、行くぞ」
 ジェイルの乗る霊兵機――――純白に包まれた霊兵機が、一歩足を出す。
「『凱王』ジェイル=レイオニス。アーティファクト、参る!」
「へっ、面白くなりそうだなぁ。『惨牙』リオルド=メルサス、クロノアイズだ!」
 霊兵機アーティファクトの後ろから、背中の長剣が目立つ深紅の霊兵機クロノアイズが出る。
 ランハードは二人が出撃した後で、自国の方向を見た。
「……アリサ様は自室で監視すると言う形にしているが、オルトムがどう動くか気になるところか……」
 オルトムの事だ。三将軍が苦戦すれば、間違いなく最終兵器に手を出すと思われる。
 その時、危険なのは彼女だ。どこからか手に入れた彼女の情報で、オルトムは不気味な笑みを浮かべた。
 オルトムの好きにはさせない。あの最終兵器だけは、絶対に発動させてはならない。
「あのお方は必ず守り通す。彼の為にも……!」
 ランハードの乗る漆黒の霊兵機が動き出す。
「……『昂麗』ランハード=ガリュドス。霊兵機スティンレーテ、出るぞ」

 ゼルサンス国の三将軍が、霊戦機との戦いの場に赴く。



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