第六章 窮地に追い込まれる光


 戦艦イシュザルトのブリッジ。自分をしっかりと抱きしめて離れないユキノに、ハヤトは優しく抱きしめた。
「大丈夫。だから、怖くない」
「パパぁ……」
「……ママは必ずパパが助けるから、大人しく待ってられるよね?」
 そう言うが、ユキノは首を横に振る。ハヤトは困り果てたような顔をした。
 こう言う時、アリサならどう言うのだろう、と思ってしまう。
 母とは、まさに偉大な存在だなとハヤトは考えた。
「……ユキノ、パパと約束しよう」
 小指を出し、ユキノの小指と絡ませる。
「パパはちゃんとママを助ける。お家に帰ったら、パパとママとユキノの三人で遊園地に行こう」
「ゆう……えんち……?」
「うん。パパと約束できる、よね?」
「……うん……」
 そう答えてくれたユキノに、「ありがとう」と言って、優しくおでこにキスをする。
 立ち上がり、近くにいたミーナにユキノを頼む。
「アリサの為だからって、無茶したら駄目よ。この子の為にも」
「……ああ。ユキノの事、頼むな」
「オッケー。気をつけて」



 イシュザルト前方。深紅の装甲が目立つ霊兵機クロノアイズが、背中の長剣を手にする。
『楽しませろよぉ、霊戦機共ぉぉぉっ!』
 長剣を振り落とす。霊力によって放たれた力が巨大な刃となって、イシュザルトを襲った。
 しかし、イシュザルトはそれでは怯まず、巨大な刃を防ぐ。
『リオルド、イシュザルトには手を出さなくて良い。霊戦機を手中に収めるのが目的だ』
『へっ、つまらねぇ! 一気に叩けばいんだよ!』
『リオルド!』
 クロノアイズが単体で突撃する。それに続いて、他の霊兵機が動いた。
 純白の霊兵機アーティファクトに乗るレイオニスが「全く……!」とぼやく。
『ガリュドス、我々も行くぞ』
『……分かった――――!?』
 ゼルサンス国軍兵達の乗る霊兵機が吹き飛ばされる。その中に、クロノアイズの姿もあった。
 レイオニスがそれを見て目を見開く。ランハードが「現れたか」と呟いた。
 イシュザルトの前方に立つ三体の存在を確認する。
『……霊戦機か。リオルドが吹き飛ばされたのも頷ける。グランレイディアへ通達、あれを出せ』
『あれだと……!? レイオニス!』
『霊戦機に対抗できるのは、我ら三将軍の霊兵機とあれだけだ』
 その言葉に、ランハードは渋々頷いた。
(……霊戦機の中に《霊王》はいない。あれを使うまでもないと思うのだが)



 イシュザルト格納庫。アランは新型霊力機の最終確認を終わらせた。
 正式にカラーリングも施され、両肩の大砲、両腕から少しだけ見えている刃が目立っている。
「アラン!」
 と、タイミング良くハヤトが近寄る。アランは親指をぐっと立てた。
「調整良し、性能良し! これが兄貴の乗る機体だぜ!」
「この霊力機か……? なんだか、色々と手の凝った機体だな」
「霊戦機を元に一から設計して、さらに改良を加えた新型だぜ。名前はカイザーってとこかな」
「……単純に付けたな」
「う゛……と、とにかく性能は良いぜ! 両肩のカイザーバスターに、両腕のカイザーブレード!
 そして、一度も説明がなかったけど、とびきりのスピリットを――――って、兄貴!?」
「悪いけど、説明を聞いてる暇ないんだ。動かし方は霊戦機と同じで良いんだよな?」
 コクピットに乗りつつ、ハヤトがアランに訊く。
「あー、腕はグリップで動く仕組みになってるぜ、兄貴! それ以外は霊戦機と同じだ!」
「よし、サンキュ」
 コクピット内のシートに座る。そして、両手付近にあるグリップに気づいた。
 アランの言っていたグリップだ。それを握ると、コクピットが自動的に閉じ、霊力機の瞳に光が宿る。
 グリップに動作を念じると、霊力機――――カイザーは一歩踏み出した。
「なるほど、グリップって事を除けば、あとはヴァトラスと同じ感覚で動けるみたいだな」
 カイザーが歩く。
「……行くぞ!」
 そして、イシュザルトの格納庫から一機の霊力機が出撃した。



 戦場。霊戦機ヴィクトリアスが二刀の剣を振り落とす。レイオニスの乗るアーティファクトは受け止めた。
 そして反撃の剣。ヴィクトリアスが苦戦を強いられる。
「くっ……!?」
『これが霊戦機の実力か。私の剣を防ぐだけで苦戦するとはな』
「……《破邪》以上の強さか。しかし、ここで負けるわけには!」
 二刀の剣に雷が走る。ロバートは霊力を集中した。
「雷光斬裂閃!」
『甘い!』
 振り落とされる雷の走る剣を、アーティファクトの剣が容易に受け止める。
 剣を跳ね除け、アーティファクトが剣を横に構えた。
『ガーベラ・フォンディル!』
 一閃。剣がヴィクトリアスの腹部を捉え、斬撃が繰り出される。
 霊兵機の武器では霊戦機の装甲に傷一つすらつけられないのだが、アーティファクトの剣は違った。
 斬撃の繰り出される場所を風が走り、ヴィクトリアスの装甲に傷をつけていく。
 その強さは、前に全力を持って戦った《破邪》の怨霊機以上だとロバートは痛感した。
「……斬魔風連刀!」
 瞬時の判断で敵の攻撃を見切り、ヴィクトリアスが剣の持ち手同士を一つにする。
 そして竜巻を繰り出し、斬撃を生んだ。



 ゼロの乗るグレートリクオーは、長剣の目立つ霊兵機クロノアイズと戦っていた。
 クロノアイズに乗る将軍リオルドは、先ほどの攻撃で、かなり頭にきているようだ。
『このこのこのぉぉぉっ!』
 長剣による連続の斬撃。グレートリクオーはそれを防御しつつ、ゆっくりと前進する。
 そして、思い切り敵を殴りつけた。
「おらおらおらぁぁぁっ!」
 持っている武装など使わず、殴り続ける。クロノアイズもそれに応対した。
 長剣を背中に戻し、互いに拳で殴り合う。それは、どう見てもケンカのようなものだった。
 そんな二体の戦い方を見つつ、イシュザルトの前で結界を張るギガティリスに乗るアルスが呆れる。
「……何がしてぇんだ、ゼロの馬鹿は」
『牙!』
 ギガティリスに霊兵機スティンレーテが攻撃を仕掛ける。しかし、ギガティリスは無傷だった。
 ランハードが「流石は守護の力を持つ霊戦機か」と呟く。
『その強さは、過去の伝説に語られてきた強さとは違うようだな』
「ったり前だ! こいつらは、俺達の想いに応えて『進化』した。テメェらなんざに負けねぇほどにな!」
『進化、か。なるほど、《霊王》の新たなる剣達は、奴に抵抗する力をつけたか』
 瞬間、スティンレーテを一筋の波動が襲う。ランハードはそれを上手く避けた。
 研ぎ澄まされた青の装甲。その姿は、ランハードに強い威圧感を与えていた。アルスが目を見開く。
「あれはカイザー!? 俺でも操作が難しいのに誰が乗ってんだ!?」
「アルス、こいつの相手は任せろ!」
 霊力機カイザーから聞こえるハヤトの声に、アルスが頷く。
 両腕に装備された剣が伸び、装備される。ランハードもそれに応じた。
『あなたが《霊王》ですね?』
「”元”な。アリサは返してもらう!」
 カイザーが突撃する。斬撃が繰り出され、無数の竜巻が放たれた。
 スティンレーテはそれを軽やかに避ける。刹那、カイザーの動きが見えなかった。
 至近距離まで迫り、剣を振りかざす霊力機。スティンレーテは寸前で受け止めた。
『……なるほど、流石は《霊王》です』
「アリサをどうする気だ! お前らゼルサンスは何を企んでいるんだ!?」
『安心してください。あの方には指一本触れさせはしません』
「何……!?」
『アリサ=エルナイド様は、あなた様の為にも私が必ず守り通します』
 ランハードの言葉に、ハヤトは目を見開いた。
 向こうはこちらの事を知っている。ランハードが剣を収める。
『私はランハード=ガリュドス。アリサ様は私が守り通します』
「……なぜだ?」
『アリサ様をさらえと命じた男は、とても危険な男です。アリサ様の命が失われるかもしれません。
 しかし、それはあなた様の想いの力を失わせてしまう。それだけは絶対にあってはいけない。
 今、滅びの闇に対抗できるのは、想いの力であるあなた様の持つ光の力しかないのですから』
「光の力って……俺やアリサ、あの戦いを知っている奴しか知らない事をなぜ知っているんだ!?」
『今は教えられません。今、私の正体を明かしてしまうと、ゼルサンス国を止められなくなります』
「……分かった。あんたの言葉を信じる。けれど、もしアリサに何かあったら……!」
『その時は、私自ら命を絶ちます』
 霊兵機スティンレーテを通して、彼女の真剣さが伝わってくる。ハヤトは剣を下げた。
 彼女が何者なのかは分からない。しかし、間違いなく彼女は自分の事を知っている。
 ランハードは「信じてくれましたか」と呟く。刹那、上空で爆発が起きた。
「――――!?」
「何……!?」
 ハヤトとアルス、二人が同時に目を見開く。イシュザルトが攻撃を受けた。
 特殊フィールドを持つイシュザルトには、霊兵機の攻撃は通用しないはず。
 しかし、それが破られた。一機の霊兵機によって。
 四枚の機械的な翼、胸に輝く青い宝玉。その姿は、霊戦機ヴァトラスに似ていた。
「ヴァトラス……!? なぜ!?」
『違います、あれはヴィトラス。霊戦機ヴァトラスを真似てゼルサンス国が作り上げた最強の霊兵機です』
「ヴィトラス……ヴァトラスを真似た最強の霊兵機!?」
 ヴァトラスを偽る――――霊兵機ヴィトラスがギガティリスに襲い掛かる。アルスは霊力を集中した。
 ギガティリスの拳に水の球体が生成され、巨大化していく。
「アクアウィザーディストォォォッ!」
 殴る。瞬間、ヴィトラスをバリアが覆い、ギガティリスの攻撃を無力化した。
 アルスが目を見開く。ハヤトはそれを見て気づいた。
「まさか、あの霊兵機には”バリアマン”が乗っているのか……!?」
「バリアマンだぁ!? 前に戦ったコピーマンみたいな奴か!」
「アルス、そいつの相手は俺がする! アルスはイシュザルトの守りを――――!?」
 カイザーの上空から闇の波動が降り注がれる。ハヤトは目を見開いた。
 回避は間に合わない。舌打ちし、左手を空へ掲げる。
「――――神の盾アリアァァァスッ!」
 左手に黄金の光が溢れ出し、具現化していく。黄金に輝く最強の盾が姿を見せた。
 カイザーをバリアで覆い、闇の波動を防ぐ。ハヤトはついに封印した力の一つを解放した。
 上空から高々と笑い声が聞こえる。生身の人間が宙に浮いていた。
「あれは……葉山!?」
『なるほど、《太陽王》にはなれないものの、その力は引き出せるのか』
 予想外だった。まさか、こうも早くこいつが異世界に来るとは思ってもなかった。
 葉山が闇の力を放出する。
『さて、君が”器”なしでどれほど戦えるか、じっくり確かめないとね』
 大気が震え、闇の力が具現化していく。
 大きく広げられた漆黒の翼、深紅の瞳。左腕にある巨大な盾の様なものが目立っていた。
 葉山が高々と笑う。ハヤトはその姿に驚かされた。
『ははははははっ。簡単に作ったにしちゃぁ、良い出来になったよ、《太陽王》』
「……オルハリゼート……!?」
『正解。君が知る光の鳥の記憶に眠る――――いや、光の鳥の真の姿だった機体だ』
 葉山――――《冥帝王》が生み出した機体オルハリゼートが剣を生み出し、振り落とす。
 剣から無数の波動が放たれ、ハヤトを襲う。ハヤトは神の盾で全て防いだ。
 カイザーの右腕から剣が伸び、振るわれる。
「青龍破靭斬ッ!」
 放たれる龍の姿をした波動。しかし、オルハリゼートには通用しなかった。
 いや、左腕に装備されている巨大な盾がそれを吸収した。
『無駄だ。オルハリゼートは最強の力を持っているだからな』
《冥帝王》がその剣をハヤトへと向ける。
『光の力を見せてみろ、《太陽王》。”器”なしでどこまで戦えるか、見せてみろ!』

《太陽王》と《冥帝王》。二人の王の激突が今繰り出される――――



 第五章 三将軍、出陣

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