「えー……では、ここの問題を神崎聖(かんざき ひじり)」
 授業中、彼は教師から呼ばれたが返事をしなかった。
 適度に整えている黒髪に、淡い緑色の瞳。その外見は父親譲りだ。
 ただ空を見上げ、物思いに耽っている。
「神崎聖、聞こえているだろ?」
 教師がそう訊いても返事はない。
「神崎聖、聞こえているのか!」
 早くも怒鳴りを上げる。しかし、それでも彼は返事をしなかった。
 隣にいる女子が彼を小声で呼ぶ。
『神崎君、先生が呼んでるよ』
「神崎聖をだろ」
「神崎聖、返事をせんか!」
「神崎聖、神崎聖ってうるせぇんだよ」
 教師を睨みつけ、彼が席を立つ。





「俺は神崎聖じゃねぇ。俺はロード。ロード=エルナイス=カンザキだ!」
 それが彼の名前だった。





宿命の聖戦
〜THE FINAL LEGEND〜



第一部 希望と優しき心

ロード編
序章 出会いから始まる運命


 昼休み、屋上でいつものように昼食を取る。
 そんな中で、彼女はロードに対し、頬を膨らませた。
「もう、ロードったら、また先生に反発して……」
「うるさい。あの先公が聖って呼ぶからだ」
 そう答えると、ロードの双子の姉である神崎美紗(かんざき みさ)は苦笑する。
 肩までしかない長い黒髪と黒い瞳。母親に似て笑顔がとても眩しい。
「いい加減、聖でも良いじゃない。別にこだわらなくても……」
「聖は、あのくそじじいが付けた名だ。それに、ロードは唯一、父さんが残してくれた名前だからな」
「ロード……」
 父が他界して十六年。ロードは自分の名前にこだわりを持っていた。
 生まれた当時、父がある意味を込めてロードと名付け、母もその名に賛成した。
 しかし、曽祖父が勝手に名前を「聖」として役所に提出。当然、父が怒ったのは言うまでもないらしい。
「しっかし、学校も暇だな。早く帰って修行したいぜ」
「今日こそ、おじいちゃんに当てるんだよね?」
「当然。俺は父さんみたいに強くなりたい。だから、あのじじいにも勝つんだ!」
 こう言う時のロードは輝いていた。



 所変わって神崎家。彼女――――神崎アリサはいつものように掃除を終わらせた。
 腰まではあるだろうと思われる長い黒髪に淡い緑色の瞳。その姿はまだ、二十代でも十分に通用するほど。
 気持ちの良い風を受けつつ、棚の上を拭き、掃除を終える。
 広い家なので、これだけでもかなりの労働である。
「お姉さん、こっちのお掃除は終わったよ」
「ありがとう、サキちゃん。こっちも終わったから、一休みしましょうか?」
「うん、そうだね。アルマ〜、おやつにするよ〜」
「わんっ」
 短くした黒髪で長身の彼女が飼い犬を呼ぶ。
 その姿を見て、アリサはあれから十六年経ったのだろ改めて思った。
「あれから十六年……ロードと美紗は、良い子に育っていますよ、ハヤトさん」
 そう、棚の上に置いてある一枚の写真に向かって話す。
 星を守る剣を構えている、一人の青年の写真。
 神崎勇人(かんざき はやと)。アリサにとって、最愛なる人。
「そう言えば、おじい様はどこか分かる?」
「おじいちゃんなら道場。多分、いつもみたいに空を眺めていると思うけど」
「そう」



 放課後、ロードは美紗と一緒に下校する。たまに、ロードにとってはうるさいのが一緒だが。
 美紗が少し不思議に思って訊いてみる。
「ロード、今日は優子ちゃんいないね」
「……美紗、お前、今のぜってーワザとだろ……俺があいつ苦手なの知ってんだろが」
「うん。幼なじみだもんね、優子ちゃん」

「ひーちゃ〜ん、待ってよ〜!」

 後ろから聞こえてくる声。ロードは肩を落とす。
 長い髪をおさげにし、眼鏡をかけた女子生徒が追いかけてくる。
 野村優子(のむら ゆうこ)。ロードと美紗の幼なじみであり、ロードに恋する少女。
「わ、わ、わ〜」
 ドタッ。ロードと美紗が彼女の方へ振り向いた瞬間、こける。
 その相変わらずな幼なじみにロードは仕方なく手を差し出す。どんな時でも放っておけない性格だからだ。
「ったく、何もねぇとこでこけるなよ……ほら、早く立ちやがれ」
「痛いよぉ〜、擦り剥いちゃったよ〜……」
「あのな……ったく、じっとしてろ」
 擦り剥いた膝に、ロードがそっと手をかざす。
 霊力を集中させて手から発する小さな光で、傷をゆっくりと治していく。
「これで良い。もう痛くねぇだろ?」
「うん! ひーちゃん、魔法使いだね」
「あのな……何度も言ってるけど、違うって」
 溜め息をつく。幼なじみなのに、まだ理解していない。
 神崎家は、先祖代々から有能な霊力者の家系だ。ロードは当然、美紗も霊力を持っている。
 それは、何度も優子に説明しているのだが、なぜか理解しない。
 美紗が苦笑した。
「それにしても、優子ちゃんはいつも走ってるよね。この時間」
「こけるんだったら、走るなよ」
「だってぇ……ひーちゃんと一緒に帰りたいもん……」
 じっとロードを見つめる潤んだ瞳。ロードは一瞬だけドキリとした。
 やはり彼も人の子。こう言う時は弱い。
「ロード、照れてる?」
「だ、誰が!?」
「照れてる〜。優子ちゃん、大丈夫だよ。ロードは優子ちゃんにゾッコンみたいだし☆」
「んなわけねぇだろ!」
「違うの〜?」
 やはり潤んだ瞳でロードを見つめる優子。
「あ、当たり前だ!」
「え〜ん、ロードちゃん酷いよ〜……私の全てをあげたのに〜……」
「え!? もう二人ってそんなところまで……!?」
「嘘に決まってるだろが! ってか、いつの間に、んな嘘がつけるようになった!?」
 この時のロードの顔は赤面していた。



 神崎家。ようやくロードは自宅に帰り着いた。
 あれから優子と美紗にからかわれ、帰り道では十人くらいの女子生徒に告白を受けた。
 まれに男子生徒の姿も見たような気がするが、全部忘れる事にした。
「……何で毎日毎日、帰る時に告白されんだよ。しかも、男まで。俺はそんな気ないっての」
「お母さんから聞いた話だと、お父さんも人気者だったらしいよ。
 それに、お父さんの写真見ても、ロードってお父さんに似ているし」
「はぁ……。俺は彼女なんて作る気ねぇっての……」
「優子ちゃんがいるから?」
「違う!」
 あくまで否定する。
「んな事言うなら、美紗だって人気あるだろ。彼氏の一人くらいいるんじゃねぇのか?」
「わ、私はそんなのいないよっ!」
「本当か? 正直に言えって」
「言うわけないでしょ、聖!」
「あ、てめ、聖って呼ぶな!」
 そんな話をしながら家の中へ入っていく。ロードはふと思った。
 自分の持っている霊力が何の役に立つのか、今さらながら疑問に抱く。
 母が言うには、世界を救う力らしい。
「何か、こう燃えるような事ってねぇかな……?」
 どんな時でもそう思うロードだった。



 次の日の放課後、いつものように帰らず、屋上に行ってみる。
 たまにはのんびりと一人で空を見ると、とても良い気分になれるからだ。
「今日の授業は眠かったから、ついでに寝るか……」
 などと言いつつ屋上のドアを開ける。風がとても気持ち良かった。
 しかし、先約がいる。空を見上げている女子生徒が視界に入る。
 ロードはその女子に見覚えがあった。セミロングで風になびく綺麗な黒髪が目立つ。
「あいつは、確か御厨渚(みくりや なぎさ)……」
 授業中、まれに寝ている女子だ。ロードは普通に彼女に近寄る。
 彼女はどこか悲しげな瞳で空を見上げていた。
「……何か嫌か事があったのか?」
「……!」
 小さな声を出して、彼女は一瞬だけ驚いた。
 しかし、ロードだと分かってなぜか落ち着いている。
 空を見上げながら、小さく呟き出した。
「……星が……泣いてる……」
「は?」
「……星が……助けを求めてる……。あなたに……助けて欲しいって……言ってる……」
「何だよ、それ? つか、頭でも打ったのか?」
「……打ってない」
 御厨渚が首を横に振る。
「星は、あなたを待ってる……」
「何で俺だよ?」
「あなたが……星の希望だから……」
「何だ、それ……」
 肩を落とす。この時、ロードにはまだ分からなかった。彼女の言っている意味が。
 そして、自分の周りで動き出す何かに。自分の運命がここではじまりを告げた事に。

 ロードにとって、この出会いがこれからを変える分岐点になる――――



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